文明トカゲ

ペン牛

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三 雷鳴の猫

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「――梓」
 口の中のパンを飲み込んで、僕は言った。
「なに? 楓。あ、喉渇いたの? そうだよね、お水飲まないと。ちょっと待ってね」
 そう言ってミネラルウォーターをコップに注いでくれる梓を見ていると、胸の奥がじん、と熱くなった。
「梓。その、改めて言うけど――ありがとう。どんなお礼の言葉でも足りないけど、梓と友達になれて、僕は幸せだ」
 正直、面と向かって言うのは気恥ずかしかった。頬に熱さを感じる。梓の方を見ると、特に表情は変わっていなかった。そして、その変化のない表情のまま、梓は僕のことを抱きしめた。
「……ちょっと、梓。どういうことかな?」
「――楓のことを抱きしめたくなったの。それだけだよ」
 それだけ、と言われても困る。梓に抱きしめられるのは嫌ではないけれど、やはり落ち着かなかった。身をよじってみようかとも思ったが、体に力を入れるだけで鈍い痛みが走るので、やめた。
「楓って、思ってたより軟らかいんだね」
 耳元で梓の声がする。それは初めて聞く声音で、まるで楽しい旅が終わってしまうことを惜しんでいるようだった。
「やっぱり、僕って硬そうに見えるのかな」
「うん。背が高いしお肉ないし……でも、こうやって抱きしめると、結構ムニムニしてる」
 自分の体が軟らかいということを喜んでいいのかどうか、僕はまだわからなかった。佐治さんの言ったことが合っているなら、幼い頃からトカゲに食われ続けていた僕の中の女は、時間と共に少しずつ育っていくはずなのだ。だから、あるいはいつか、
(……もしその時が来たなら、きっと僕は梓に憧れるんだろうな)
 抱きしめられている箇所から伝わる梓の肉体の感触。それはどこまでも温かく、軟らかく、瑞々しかった。もし僕が男であったなら焦がれ、女になったなら憧れるだろう。そんな自分にとっての女の肉体の理想に今触れているのだ、という確信があった。
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