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三 雷鳴の猫
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着替えが終わると、梓は僕に財布と携帯を手渡してくれた。それをホワイトデニムのポケットに入れて、出かける準備が整った。
「それじゃ梓、行こうか」
「うん」
アパートの扉を開けて外に出る。外の空気に触れた瞬間、久しぶりに世界と繋がった、という感覚があった。自然と、自分と繋がりのある場所のことを考えてしまう。
(大学は……結構休んだけど、まぁ、なんとかなるだろう、きっと。ビべリダエは……猛さんにも雪子さんにも店のことなんてどうでもいいからゆっくり休みなさい! って怒られたしな)
ふと、佐治さんは僕のことを心配してくれているだろうか、という考えが脳裏をよぎった。どうしてか恥ずかしくなってしまい、その考えを振り払う。
(……さてと、どこに行こうかな)
気分転換をしたいといってもただぶらぶら歩くだけ、というのは気が進まなかった。梓につきあってもらうのだからどうせならもう少しお互いに楽しめることをしたい。
「梓、行きたいところはある?」
「……どうして? 楓が気分転換をしたいんでしょ?」
当然の答えが返ってくる。
(どうしよう。このままだと本当にただ歩くだけになってしまう)
僕がそう悩んでいると、声が聞こえた――いや、聞こえたというのは正確ではない。何故ならそれは僕の頭の中に直接響いたからだ。
『これ、そこの人間よ』
「それじゃ梓、行こうか」
「うん」
アパートの扉を開けて外に出る。外の空気に触れた瞬間、久しぶりに世界と繋がった、という感覚があった。自然と、自分と繋がりのある場所のことを考えてしまう。
(大学は……結構休んだけど、まぁ、なんとかなるだろう、きっと。ビべリダエは……猛さんにも雪子さんにも店のことなんてどうでもいいからゆっくり休みなさい! って怒られたしな)
ふと、佐治さんは僕のことを心配してくれているだろうか、という考えが脳裏をよぎった。どうしてか恥ずかしくなってしまい、その考えを振り払う。
(……さてと、どこに行こうかな)
気分転換をしたいといってもただぶらぶら歩くだけ、というのは気が進まなかった。梓につきあってもらうのだからどうせならもう少しお互いに楽しめることをしたい。
「梓、行きたいところはある?」
「……どうして? 楓が気分転換をしたいんでしょ?」
当然の答えが返ってくる。
(どうしよう。このままだと本当にただ歩くだけになってしまう)
僕がそう悩んでいると、声が聞こえた――いや、聞こえたというのは正確ではない。何故ならそれは僕の頭の中に直接響いたからだ。
『これ、そこの人間よ』
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