それは呪いか睦言か

文字の大きさ
上 下
1 / 7

1

しおりを挟む
 大きなアーモンド型の瞳がこちらを見つめて微笑んでいる。ぱっちりした二重にはテラコッタ色のラメがよく似合う。長いまつ毛は自然にカールしていて華やかだし、唇はぽってりと厚く、グロスがよく映える。
 女子と間違えるほど可愛らしい顔立ちが、女性向けファッション誌「amam」の表紙を飾っていた。彼の名は、マリ。メイク男子として最近SNSでバズっているモデルだ。
 コンビニの雑誌コーナーでマリの表紙に見入っていたら、すぐ橫から手が伸ばされ、amamが一冊引き抜かれた。
「まじでマリくん超かわいい! うちらとレベチすぎない?」
「これで男とか噓っしょ。女だけど勝てる気しないわ」
 ナチュラルメイクの女子高生たちが、楽しそうにおしゃべりしながら雑誌をレジまで持っていく。もちろん、僕には視線なんてよこさない。そばに立っていたことすら気づいてないかも。
 雑誌コーナーには、他にも女性誌が何冊も置かれている。今人気の女優さんたちが笑顔で並ぶなか、ひときわ輝くのは、男性アイドルグループの「満開ロマンティック」でセンターを務める柳 美月。中性的でクールな美貌は、男でもうっとりするほどの美しさだ。
(……ホンモノは違うな……)
 amamの特集で一緒になった彼は、特別愛想がいいわけではなかったけれど、その見た目だけでなく、動作の一つ一つが洗練されていて目を奪われた。撮影後にメイクを落とした姿も見たが、撮影中とほとんど変わらない美しさで視線が釘づけになったものだ。
(僕とはぜんぜん違う……)
 ふう、とため息を吐いて視線を上げる。ガラスに映るのは、はれぼったい一重まぶたで、全体的にのっぺり顔の醜い自分。
 これが、雑誌の表紙でキラキラと笑っているマリだなんて、誰が気づくだろう。
 僕――東 真理央は、自分の姿をなるべく見ないようにしながら、ファッション誌を数冊レジへと持って行った。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...