黎明の邪龍建国記 ~魔法を使えない私と最強邪龍、なぜか結託しましたが、最後は殺そうと思います~

PolaritY

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フォルシア国編

第1話 逃亡

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 月明かりの下、私たちを乗せた馬車が、とてつもない速度で駆け抜けていく。
 私の長い髪は風で持ち上げられ、ワンピースの裾と共にバサバサと音を立てる。

 荷台に座っているのは、私──レイルと、もう一人。
 短髪の少女──私の『双子』、ライルが、手綱を引く鎧の男に問いかける。

「おい! これはどこに向かってる!? あとお前の名前を教えろ!」

「行き先はアミリア国です!──私はローゼス!フォルシア国軍騎士隊『元』少尉、ローゼス・ブライトです!!」

「アミリアだと!?」

 ライルの驚く声に私も呼応する。

「なんでアミリア!?」

(もう瓦礫しか残ってないのに……なんで?)

「知らん!」

 祖国であり亡国となったアミリアから、復興のために一度離れ、隣国──フォルシアに着いた晩のことだった。

(あの黒い恰好のやつも……なんだったんだろう)

 難民として迎え入れてもらった私たち。しかしまどろみの中を何者かに襲われ、このローゼスさんに救われたのだった。



 そして、彼もまた敵に追われている中、共にアミリアへと馬車を走らせていた。

「それと『元』少尉って何!?」

「だから私に聞くな!!」

 混乱の中、馬車は月光を正面に捉え、ただ真っすぐに駆けていく。
 すると突然、何かに気づいたようにライルが馬車の後方に注目し立ち上がる。

「──レイル、奥の方に行け」

 向けられたその言葉に私はうろたえる。

「えっ?急にどうしたんですか?」

「いいから早く!!」

 その大きな声に、とにかく切羽詰まった状況であるということは察せられた。
 ライルは鋭い眼差しを遠くへ向けると、今度はローゼスに向かって叫ぶ。

「ローゼス!対衝撃用意!!」

 この姿に私は何事かと思うと、ライルの眼差しの先──フォルシア国の方に、何かが光って見えた。

「……来るぞ!!」

 ライルが両腕を前に突き出すと、青白い半透明の壁が彼女の目の前に展開される。



 次の瞬間──



 大地を裂くような轟音が鼓膜を貫き、視界が白に塗りつぶされる。
 馬車の端が弾け飛び、風圧が頬を震わせる。

「──ッ!ぐッ……!」

 眩い光を受け止め、歯を食いしばるライル。

「クソッ……こいつ……!!」

 彼女が一歩引くと後輪が吹っ飛び、馬車全体が激しい振動に襲われる。

 皆と違って魔法が使えない私は、必死に荷台の縁に指を食い込ませることしかできなかった。
 指先は擦れ、振動が全身を鞭打ち、いつ飛ばされてもおかしくはない。

(ここで落ちたら死ぬ! 耐えろ! 私!!)



 やがて光が収まると、馬車は次第に速度を落とし停止した。
 振動も収まり、私はやっと全身の力を抜く。

 そして瞼をゆっくりと開けると、目の前でライルが尻もちをついていた。
 私は彼女の無事に安心し声を掛けようとしたが、その光景から声を失ってしまう。

 ──ライルは右腕の肘から先を無くし、そこから黒いモヤが立ち上っていたのである。

 しかし彼女はニヤリと口角を上げ、どこか遠くを睨みつけていた。
 動揺して声を出せずにいると、彼女の方が先に私へ呼びかける。

「──レイル、大丈夫か」

 私がその腕に釘付けになっていることに気づくと、ライルはスウッとそれを『直して』しまった。


 そして……その様子を見ていたのは私だけではなかった。


「君は一体──」

 ローゼスは荷台の横に立ち尽くし、驚愕の表情を見せる。
 ライルはそれを無視して荷台から立ち上がると、固まるローゼスに言い放つ。

「……急げ。第二射が来るぞ」

 ハッとしたローゼスは、急いで馬の下へ向かうと腰の鞘から剣を抜く。
 その剣で馬車を繋ぐ器具を断ち切ると、ライルに呼びかけた。

「君、馬に乗った経験は?」

「やったことはない」

「分かりました。ではもう一人を連れてきてください」

 ライルはまだ茫然としている私の腕を引っ張り、ローゼスが乗った馬の横に立たせた。

「準備はいいですか?」

 ローゼスがそう言うと、私とライルは浮き上がり、ローゼスの脇に抱えられた。

 馬が走り始めると、ライルは怒号を飛ばす。

「遅い!間に合わんぞ!」

 その言葉の通り、後方では再びあの光が輝き始めていた。
 私はローゼスの脇からそれを覗くと、細い腕で必死に馬にしがみつく。

「ライル! もう来る!!」

 これにライルは大声を上げる。

「──仕方がねぇなァ!!」

 その言葉と共に馬は急加速し、光を辛うじて回避する。
 閃光は後ろの地面を蹴り上げ、飛ばされた土が雨のごとく私たちに降りかかった。
 土塊があちこちに当たる中、ライルが再び怒号を飛ばす。

「ローゼス!もっと速くできんのか!!」

「これが限界です!空気抵抗低減、衝撃緩和──全部やってます!!」

「はあ!? この程度でか!────お前はレイルを抱えるのに集中しろ!こっちは私がやる!!」

 私の知らぬところで、彼らは連携しているらしかった。

 すると全身の揺れは途端に収まり、体が浮いた感覚さえした。
 さらにローゼスは再び驚きの声を上げる。

「君、今──」

 それをライルが遮る。

「この丘さえ越えれば……!あと1km!そこまで耐えろ!」

 そして馬はさらに加速し、月に向かって真っすぐ駆け抜けていった。



 ────しばらくして。

 私たちは無事に丘の裏まで辿り着くことができた。

「はぁ……はぁ……」

 私はしがみつくだけでも精いっぱいで、馬から降ろされるとそのまま地面に横たわった。
 ライルはローゼスの目をジトりと見つめて言った。

「──さて、窮地は抜けられたか。……ローゼス、説明してもらうぞ。なぜ私たちを巻き込んだ?なぜお前は追われている?」

 ローゼスは一呼吸おいて説明を始めた。

「──そうですね。突然のことで申し訳なく思います。ですがあなた方を連れてきたのは……命の危険があったからです」

 私は脱出時のことを思い返す。

 (確か寝ていたら突然、黒い服の男に起こされて……『大人しくしていれば命は──』とか言っていたような……)

「そして私が追われていた理由ですが……これは、あなた方とも関係があります。それは──フォルシア国軍のある計画を、私が知ったためです」

 私はつい口を挟む。

「け……計画?」
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