黎明の邪龍建国記 ~魔法を使えない私と最強邪龍、なぜか結託しましたが、最後は殺そうと思います~

PolaritY

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フォルシア国編

第14話 遺産

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 地下室の扉の文字には、どこか見覚えがあった。

「これ、お爺さんの字……?」

 まさか祖父がこれを作ったのかと、指で確かめるように扉に触れる。
 すると思いがけず、軽く押しただけで静かに開いた。

「本当に鍵かかってたのかなこれ……」

 一歩踏み込むと、天井の魔道具が起動し、部屋全体を明るく照らす。

 そして目に飛び込んできたのは、壁を埋め尽くす数々の本に、書斎机……
 あと、入ってすぐ横に積み上がった紙屑。

「まったくもう……」

 雑に投げ捨てられたであろうそれは、祖父がこの部屋を作った証拠だった。

 部屋の広さは──思ったより狭い。
 床で寝たら、足先から対面の壁まで手が届きそうなほどだ。

「でもなんで、あんな魔法を……?」

 私しか入れないというこの部屋。
 何かがあると確信して、順に見回すことにした。

 壁にはギチギチに詰まった専門書、戸棚の中は紙でぐちゃぐちゃ。
 そして机の引き出しに、1冊の手帳が仕舞われていることに気づいた。

 革装丁のそれには、表紙に「レイルへ」、裏表紙には「ガウス・グローリア」と焼き印があった。この部屋はやはり祖父のものらしい。
 開いてみると、いきなり調子のおかしい文章が目につく。

「『レイルへ……これを読んでいるということは、恐らくその時が来たのだろう。既に俺は死んでいると思うので、分からないことがあったら自力でこの部屋を調べてください。多分どこかに何か書いてあります。』……はぁ?」

 開幕から雑である。一体何を思ってこれを書いたのか……
 しかも、その後はどうでもいいようなことが長々と書かれており、本題がなんなのか全然分からない。
 私は鼻の横が引きつり、ついぼやきが口を突いて出る。

「あのさあ……」

 祖父は突然何かを忘れたり、思い出したりするような人であった。
 それがこの手記にも表れているのだろうが……

 しばらく読み進めると、やっとこの書斎と手記の意味が見えてきた。

「『ここにある研究は、今の世に出してはならない。まだ人間が扱って良いものではないからだ。世の中はもっと便利になるだろうが、それ以上の混沌が生じるのは必至である。』」

 なんだか意味深な文章に頭をひねっていると、次には頭を抱えた。

「『それは魔法とは異なる技術体系を持ち、俺たちの想像を超えるものである。俺にはまだ分からないことだらけだが、いつかお前が解明することを期待している。そして俺のここまでの成果として、お前にこの部屋と魔道具を授けたい。』……?」

(私、魔道具開発とか知らないし……困るんだけど……)

 魔道具は恐らく、地上で散らばっているあれらのことだろうか?
 そして最後のページには、こう書いてあった。

「『追伸。渡すはずだったやつを上の部屋で紛失したので、なんとか探してください。銀色の立方体っぽいやつ。あとそこの鞄使っていいよ』……はあ⁉」

 あまりのいい加減さに手帳を投げ捨てたくなったが、一応形見なので丁寧に机に置く。
 これでよくもまあ、研究機関と共同開発ができたものだ。

 そして机の椅子の奥を見ると、角ばった大きい肩掛け鞄が置いてあった。
 しかし中身は空っぽで、魔道具が何を指しているのかは分からないまま。

「銀色の立方体なんて、似たようなものばっかりだったじゃない……」

 ただひとつ、この部屋の仰々しさから考えて、明らかに異質なものに思い当たりはあった。

「もしかして、『魔力障壁』の、あれ……? 本当にお爺さんがあれを……?」

 邪龍が「先史の遺産」とも称する、明らかに現代技術と乖離している魔道具。
 それが祖父の言っているものだとしたら、この部屋を隠す理由と手記の内容も、少しだけ見える……ような気がする。

「にしても、ここまでする必要あったのかな……なんか爆発するとか書いてあったし」

 魔力障壁のことなら、むしろ広まった方がいいような気もするが──祖父が言いたいのはそれだけではないのだろう。
 『まだ人間が扱って良いものではない』……その言葉が引っかかる。

 私は他に何かないのかと、机の別の引き出しを見てみる。
 その中に、分厚く綴じられた紙の束が1つだけ見つかった。

「『魔法と似て非なる技術について』……これのこと⁉」

 内容は全て手書きの文字。これも祖父が書いたものだろう。
 しかし内容は計算式やら専門用語だらけで、さっぱりだった。
 魔法ですら研究できるほどではないのに、それ以上のことなど分かるはずもない。

「ライルなら分かるのかな……」

 一瞬そう思いもしたが、流石にこれを外へ出すのはやめた。
 祖父の言葉もそうだし、彼女が「もっと持ってこい!」と荒れかねない。

 結局、私は机の下の鞄だけを持って、その部屋を出た。
 振り返って部屋の中を眺めると、祖父が机で手記を書く様子が目に浮かんでくる。
 そして瞼を閉じて、祈る。

(滅茶苦茶な人だったけど、これは言っておかないとね……お爺さん、私を守ってくれて、ありがとう)

 そしてそっと戸を閉め、一人静かに決意する。

(今はまだ何も分からないけど……これを解き明かすことが、私の生きる意味……なのかな)

 暗い階段を一歩一歩踏みしめ、上がっていく。



 やがて地上へ出ると、息が上がっている私を急かすように、ライルが遠くで呼びかけた。

「おーい! 何があった?」

 私は棒になりかけの足で、彼女に駆け寄る。

「はぁ……はぁ……あの──なんていうか──倉庫? というか……」

「倉庫? 食べ物はなかったのか?」

 私はなんとか隠し通そうと、口を濁して言う。

「食べ物はなかったんだけど、うーん……私には読めない本がたくさんあって……」

 彼女は首をひねる。

「? まあいい、今はそれどころではないからな。ローゼスがさっき起きたところだ」

「えっ? 早くない?」

「物質反応加速をかけっぱなしだったみたいでな、回復もすぐだったぞ! 今はもう解除してあるが」

「そ、そういう使い方もできるんだ……」

 彼女が指す方向を見ると、ローゼスさんが起き上がって缶詰を食べていた。
 そこに彼女は付け加えた。

「それと、『すぐここを離れなければ』とも言っていたな。そこからどうするのかは知らないが」

 私たちは彼の元へ行って、詳しい話を聞いた。

「あの、ローゼスさん。行く当てはあるんですか?」

 彼は缶詰を口から離し、返事する。

「んむ、ああ……ここから東にある、洞窟で潜伏しようと考えています」

 私はその言葉に感づいて、彼に聞き返した。

「その洞窟ってまさか──旧魔王軍、前哨基地跡のことじゃ、ないですよね……?」
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