黎明の邪龍建国記 ~魔法を使えない私と最強邪龍、なぜか結託しましたが、最後は殺そうと思います~

PolaritY

文字の大きさ
15 / 22
フォルシア国編

第15話 出発準備

しおりを挟む
「その洞窟ってまさか──旧魔王軍、前哨基地跡のことじゃ、ないですよね……?」

 そこはかつて、「魔王」と人類が戦争をした時に作られたものである。
 しかし200年近く経った今もなお、あまりの巨大さ故に埋められていないのだ。
 また各国の交易路を妨げるようにいくつもあるので、学校に行けば必ず知ることになる。

 私の疑念に、一息ついて話すローゼスさん。

「……流石にご存じでしたか。ですが、それが最善の選択肢なのですよ」

 だがこれだけを聞いて、当然納得はできない私。

「まだ強い魔物がいるって聞いたことあるんですけど⁉ そんなとこに行って大丈夫なんですか⁉」

 魔物とは──生物や物体に大量の魔素が流れ込んでできる、人を襲うバケモノのことである。
 そして「魔王」は、そんな魔物を率いていた存在だ。
 知性がないはずの魔物でも十二分に怖いのに、それが統率されていたというのだから、とんでもない話である。

「ええ、ですがその魔物は最深部に閉じ込められているのです。浅い所であれば、危険性は国外の平野と大差ありません。むしろ身を隠しやすい分、魔物から襲われる確率は下がります」

 まだ納得できない私は、当然考えられる選択肢について問いただす。

「そもそも、他の国に行くのはダメなんですか?」

「ええ。フォルシアの連絡網が整備されていますから、入国時に即逮捕されるかと。さらに入ることができても、それは自ら網にかかる魚と同じです」

「な、なるほど……」

 つまりは出られなくなる、ということだろう。
 さらに彼は、私の目をまっすぐ見る。

「そして、単に隠れるだけが目的ではありません。私たちの最終目標は……巻き込んでしまい申し訳ありませんが、フォルシアの計画を阻止することです」

 そして目線を落とすと、その先には鎧の破片が積み上がっていた。

「洞窟にある鉱石で、これの修復と強化ができればと」

「そんなことできるんですか?」

「ええ。職人級ではありませんがね」

「う、う~ん……」

 彼の論理的な理由に、理性では納得していた。しかし、感性がそれを飲み込み切れない。

(ライルがいるとはいえ……魔物かぁ……)

 頭をひねる私に、彼は察してくれた。

「やはり、魔物が問題ですか」

「はい……魔法が使えない上に、この通りですし」

 私はワンピースの長い袖や裾を捲る。
 その下には、細く、濁りのない白い腕と足──引きこもりの証があった。
 彼はこれに苦しそうな顔をする。

「そうですね……ライルさんがいるとはいえ、時間稼ぎも厳しそうでは……」

 そこに、ライルが割って入ってくる。

「要は魔物から身を守る術があれば良い、ということだろう? ならこれがあるではないか」

 私の胸に押し当てられたそれは、ピストルだった。
 さらに彼女は子馬鹿にして言う。

「そのほっそ~い腕でも使えただろう?」

(アンタも私の真似してんだから腕ほっそいでしょうが)

 ツッコミはさておき……確かに自衛手段になるかもしれないが、弾は?
 そして私の考えと同じことを、ローゼスさんが口に出す。

「なるほど……悪くはないですね。ただ、弾はどうするつもりです?」

「弾は……持っていたやつの死体にはこれしかなかった」

 ひしゃげた2発の弾丸。当然これでは、たとえ形を戻せても足りない。
 これにライルは、彼女なりの発想で返した。

「だが、その辺の岩石から作ればいいだろう。耐衝撃強化をかければ、発射時に掛かる力にもある程度は耐えられるはずだ。原理自体も、そこまで複雑ではなさそうだしな」

 流石は邪龍、と言っていいのだろうか。ただ、できるからと言って、あまり無茶なことを言って怪しまれてほしくはないのだが。
 私が心配した一方で、ローゼスさんは納得の表情を見せる。

「岩石ですか……物理強度と魔素容量の均衡を上手く調整できるなら、確かにアリかもしれませんね」

 一人置いて行かれそうだった私は、質問を挟んだ。

「物理強度と魔素容量の均衡……ってどういうことですか?」

 これにローゼスさんが答える。

「物理強度はそのまま、どれだけの力に耐えられるかということです。一方魔素容量というのは、一つの物体にかけられる魔法の限界です。ここまでは一般初等学校でも習うかと思います」

「はい、分かります」

「そしてこれらの均衡ということですが、ざっくり言うと──魔法をしっかりかけないと弾が飛ばないが、魔法をかけすぎると飛ばす前に岩石が壊れる、という話です」

「ははあ」

「より詳しく言いますと、まず物理的強度を高める魔法と、飛ばすためのベクトル付与、これらを岩石にかける必要があるわけです。この際、強度不足では発射時のベクトル付与の力に耐えられず、ベクトル不足ではまともに飛びません。一方、それらを高めようとして岩石内の魔素が一定量を超えると、飛ばす前に自壊してしまう、ということです」

 私は頭を捻った。

「え? えーと……?」

「例えるなら、ボールを投げるために握る必要があるが、握りしめすぎるとダメ、という感じですね」

 私の顔はパッと明るくなる。

「ああ~!よく分かりました」

「伝わったようで何よりです。……問題はその難易度ですが、彼女ほどの実力ならば、できる可能性は十分あるでしょう」

 説明が終わると、ライルが話をまとめた。

「よし、じゃあ決まりだな! ローゼスは鎧を直す、私が弾を作る。……あと守る」

 彼女がニッコニコで話す一方、まだ不安な私。

「ちょ、ちょっと! ピストルがあるからって言ったって……」

 しかし彼女はきっぱりと言う。

「はあ? まさかまだ『怖いですぅ~』と言いたいのか? そんなこと言ってたら何も進まんだろうが。お前自身がどうにかしろ! それで魔物を倒せるようにな!」

 頭では分かっていた。
 だがそれを容易に拭えるほど、私は強くなかったのだ。

 そして彼女は、私にビシっと指を差す。

「お前の目標は、ピストルを使いこなせるようになること! いいな!」



 方針は固まってしまった。
 とはいえ、ずっとここにいても仕方がない。
 これからなんとかするしかない、そう思って、出発準備を整える。

 荷台には、これでもかというほどの水と保存食。
 崩れないか心配だが、ライルが抑えてくれているのだろう。
 私とライルは、荷台の後方に一緒になって座る。

 頭上では、例の半壊ベッドが屋根のようになっていた。

(確かにあった方が良いけど、これ……)

 ライルが無理矢理乗せたため、全体的にどう見ても不安定。
 馬も自身の力だけではこれを引けず、彼女が魔法を使ってやっと動き出した。
 しかし出発方向は洞窟方面ではなく、私は一瞬疑問に思う。

「あれ、こっち東じゃなくないですか? ──あ、フォルシアの目を欺くためですか」

 手綱を握るローゼスさんは、その詳細を語った。

「正解です。まず南西の森林地帯に行く姿をあえて晒し、そちらへ行ったと思わせます。その後、観測範囲外の南側へ大回りし、アミリア東の森林を通って、洞窟まで向かいます」


 そんなこんなで無事出発し、順調に馬車は進んでいく。
 途中、小動物の魔物に遭遇したりもしたが、馬車の速さに心配はなかった。



 そして、南西の森にまで到着した私たち。
 太陽はまだ沈むには早かったが、今日はここまでということになった。

 馬車を止め、木々に紛れるように枝や木の葉を馬車に乗せる。
 そして缶詰を開け、夕食を取ろうとしたその時だった。

 ガサガサと低木の揺れる音。
 ライルは素早く立ち上がり、その先を睨みつける。

「ローゼス、戦闘態勢を取れ。レイルは……私の後ろに来い!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...