黎明の邪龍建国記 ~魔法を使えない私と最強邪龍、なぜか結託しましたが、最後は殺そうと思います~

PolaritY

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フォルシア国編

第20話 洞窟の奥へ

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 朝。
 洞窟の入り口から、うっすらと陽の光が差し込む。

 私たちはゆっくりと身を起こし、朝食を手早く済ませる。
 そして昨日の計画通り、洞窟の先へと向かう準備を始めた。

 私は荷台から水瓶と非常食をいくつか手に取り、鞄に詰める。
 ローゼスさんは装備を確認し、緩んだベルトを締め直していた。

 一方、昨晩は元気そうだったライルは……なぜかとても静かだ。
 彼女は黙々とベッドを片付けると、その後は両膝を抱えて地面に座り込み、無表情のままじっと私たちを待っている。

 そんな彼女の様子を、私は手を動かしながらちらちらと見ていた。
 しかしその態度が何を意味しているのか、読み取ることはできない。

(どうしたんだろう急に……?)

 私は首を傾げ、直接尋ねてみる。

「ねえ、どうしたの? そんなに静かにして」

 少し間を空けて、彼女はこちらを見上げる。
 表情は相も変わらず、淡々と返す。

「いや、何も……」

 明らかな違和感に、私は聞き直す。

「本当に? どこか調子が悪いとかじゃなくて?」

「大丈夫だ、問題ない……」

 絶対に何かあるのだろうが、下手に探っては、ローゼスさんに聞かせられない話が飛び出すかもしれない。もしくは、ライルもそのために隠しているのかもしれない。
 私は詮索を諦め、代わりに荷物への重量軽減魔法を頼んだ。

 ほどなくして全員の準備が終わると、ローゼスさんを先頭に、次に私、最後にライルと並んで、未踏の暗闇へと足を踏み入れていく。
 ……とはいえ、ライルが前方へ光の球をいくつも出しているので、数十メートルくらい先までは昼間のように明るいのだが。

 私は魔物がいないかと先を見ながら、慎重に歩みを進める。

「……よし、何もいないよね?」

 そんな私の肩の力を抜くように、ローゼスさんは歩きながら振り返り、微笑んで私に語りかけてきた。

「大丈夫ですよ。この辺りは全くいないようですし……それに万が一の時は、ライルさんが力になっていただけるでしょう?」

 彼は彼女の方に目線をやる。
 私はその信頼に少しドキッとしながら、柔らかに、少し明るい口調で返す。

「ええ……確かにそうですね」

 実際のところ、彼女が少し力を出せば、私たちが死ぬことは恐らくないだろう。
 問題は、それを下手に出すわけにはいかないという点なのだが……。

 さらに彼は、私の荷物を見て心配そうに言った。

「それと……荷物、大丈夫ですか? いくらか私が持ちましょうか?」

 揺れる鞄の中で、瓶同士がぶつかり合う音を立てる。
 しかし私は毅然として、肩紐を掛け直しながら彼の目を見て話す。

「いえ、これが私の仕事……というより、このくらいしか私にはできませんから!」

 そして「えへへ」と自虐的に笑いながら、肩紐を掛け直す。
 これにローゼスさんは少し口角を上げ、

「分かりました。もし大変でしたら、いつでも言ってくださいね?」

 と、進行方向へ向き直った。



 そしてそこからは、しばらく沈黙が続いた。
 一本道であるがゆえに、少しの音でも遠くまで響く。こちらが静かにしていれば、魔物の足音を察知できるのだ。

 しかし恐ろしいほどに、魔物は全く出て来なかった。
 岩や曲がり角があると、裏に何かいないかとローゼスさんが剣を構えたりしたが、特に意味もなく……。
 それどころか死骸などの痕跡すら見当たらず、これにはローゼスさんも困惑と疑念の表情を浮かべる。

「流石にこれは……骨くらいは見つかっても……」

 私は恐怖でも不安でもない、気持ちの悪さを感じて口を挟む。

「あ、あの……一体何が……」

「正直、私にも分かりません。一つあるとすれば、全て土の下に埋まっている、という可能性は……」

 私と彼は足元を見る。
 が、そこは土ではなく、硬い岩肌だけの地面になっていた。
 いつのまにか、結構深いところにまで降りてきていたらしい。

 なんだか気味が悪くなりながらも、私たちはもう少しだけ歩みを進めることにした。
 そもそも、まだ肝心の魔晶石が微塵も見つかっていない。

 この不気味さとライルの挙動が重なって不安を感じた私は、時折振り返って彼女の様子を確かめた。
 だがずっと大人しいままで、直接調子を聞いても、真顔で「ああ」とか「大丈夫だ」としか返ってこない。

 私はなるべく早く戻りたいと思いながらも、彼女の不思議な様子に一つのことを思いつく。

(もしかして、今もあのコピー体を動かしてて、先回りして魔物を倒してる……ってことだったり……?)

 が、そんなに気が回るようなヤツではないよな、と頭を横に振る。



 そんなこんなであれよあれよと進んでいくと、坑道らしい場所に出た。
 両脇には一人だけが通れそうな幅の穴がいくつも掘られ、その入り口周りには木の支えが、付近には砂利が満載の木桶がたくさん放置されている。

 私は「教科書が言っていたのは……」と、ローゼスさんに聞いてみる。

「これがあの、魔晶石の採掘現場だったところですか?」

「恐らくはそうです。ただ……ここまで堂々と放棄されていると、魔晶石が見つかる可能性は低そうですね……」

 私たちは少しげんなりとすると、一旦休憩することにした。
 今どれほど時間が経ったのかは分からないが、空腹なのは確かだ。

 持ってきた水や非常食をそれぞれに配り、脇道から少し離れて腰を下ろす。
 歩いて温まった体に、ひんやりとした岩肌が心地いい。

(こんなに歩いたのはいつぶりかな。水が美味しい……)

 ふと見上げると、相変わらず高い天井に気づく。

(入口からずっと、この大きさのまま続いてるのか……魔王軍の脅威の技術、ってこと?)

 こんなに大きくある必要があるのか?などと考えながら、乾いたパンを噛みしめる。



 その時、遠くから、地面に重く響く音が聞こえたような気がした。

 いや、気のせいではなかった。
 その音は少しずつ大きくなり、明らかに何かが近づいてきていると分かった。

 同じくして気づいたローゼスさんが、急いで立ち上がって私たちに呼びかける。

「そこへ隠れて! それと光を消して!」

 私は急いで鞄を持って立ち上がり、彼が指差す脇道へ入る。
 そこは奥行きこそあるが幅は狭く、鞄を抱えるともう横歩きしかできない。

 私はなるべく速く体を滑り込ませると、次にライルが飛び込んでくる。
 最後にローゼスさんが剣を構えながら入り、ライルが光の球を全て消した。



 暗闇。

 先ほどから続く鈍い音がさらに大きくなってくる。

 ズン……ズン……と、ゆっくりとだが、確実に。
 その響きからして、重く、大きな動きの生物だろうか?

 私は息をひそめながら、入り口の方をじっと見る。

(一体、何が──ほぼ確実に、魔物だろうけど……)

 やがて音だけではなく、あたりの地面が揺れるのを感じられてきた。
 頭上からは少し砂が落ち、すぐ近くにまでそれが迫ってきているような揺れだ。

 私は緊張と恐怖で、鞄を力いっぱい抱きしめる。

 そして、運命の時──入り口から、紅い光が差し込んできた。
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