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5章.妹君と辺境伯は時を刻む
206.王子は暗躍する①
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「……聖殿にも牢があるのですね……兵長はご存知でしたか?」
近衛兵の一人に声をかけられた近衛兵長は、煩わしそうに眉を顰めた。
実のところ、王族の守護を担う彼も、聖殿のことはよく知らなかった。
それが今回、聖女を捕縛する任務を特例として与えられ、「何故聖殿内に精通する女性兵ではなく近衛が?」と思ったほどだ。
兵がそう言いたくなる気持ちはよく分かる。
気持ちは分かるがここは未だ聖殿の中だ。
王太子の特命とはいえ、あまり和気藹々とした雰囲気は出したくない。
「……私語は慎め」
「し、失礼いたしました……」
背筋を伸ばした兵は口を噤んだ。
(……しかし、殿下は内通者だとおっしゃられたが……)
回廊を進みながら、近衛兵長は先程捕らえたばかりの聖女を思う。
犯罪者の第一声は大体は「自分はやってない」と言う。
例に漏れず聖女も否定していた。
しかし、言い逃れを最後まで続けるわけでもなく、最後には腹を括って落ち着いた様子でフリッツに従っていた。
まるで言いがかりをつけているフリッツに呆れたような──。
(……いや、やめよう。不敬だ)
近衛兵長はよくない考えだと首を振ると、早く聖殿から出ようと歩みを早めた。
回廊の角を曲がろうとしたその時だった。
「おや、こんなところに近衛兵がいるなんて、どうしたんだい? もしかして、道にでも迷ったのかな?」
目の前に、ちょうど角を曲がったテオが姿を現した。
のんびりとした口調だが、的確に図星を突いてくる彼に、時々しか関わりのない近衛兵長ですら緊張が増す。
(よりにもよって……)
近衛兵長は焦っていた。
国王代理であるフリッツに付くことの多い彼は、フリッツがテオを快く思っていないことを知っている。
そして彼が今しがた捕らえたのはテオの庇護下にある聖女、リーゼロッテだ。
彼女が極秘裏に捕らえられたと知ったらどうなるか。
そのあたりの理由をよく知らない兵士たちにも緊張が伝わったのか、視線を泳がせ狼狽えだした。
「テ…….テオドール様……い、いえ私どもは……」
しどろもどろの近衛兵長に、テオは素知らぬ顔で微笑みかけた。
「ああ、でも困ったなぁ。ここ、男子禁制なんだよ…………ねぇ?」
彼は背後にいる人物に向かって同意を求める。
ちょうど角の陰になって見えなかったが、影の長さからして女性──いや、子供か。
(誰か他にいるのか……? 連れてきたという医者か、メイドか……いずれにせよこのまま追及を受けるのは避けたい)
近衛兵長は「早急に退殿致します」と、テオの横をすり抜けようとした──が。
「な、……な……!? なぜ……?!」
角に隠れた人物を見た近衛兵長は、驚き口をぱくぱくとさせた。
彼の驚嘆を聞いた兵たちに至っては声すら出ず、まるで幽霊でも見たかのように腰を抜かした者もいる。
(どうして……どうしてこの方がここに……?!)
近衛兵長が説明を求めようとテオに目を向ける。
そこには、彼らの反応を楽しむかのように満面の笑みを浮かべるテオがいた。
「ねぇ君たち、少し協力してくれないかな?」
底知れぬ笑みを浮かべる彼の要請──いや、命令に、近衛兵長たちは水飲み鳥のようにただ無言で頷くしかなかった。
近衛兵の一人に声をかけられた近衛兵長は、煩わしそうに眉を顰めた。
実のところ、王族の守護を担う彼も、聖殿のことはよく知らなかった。
それが今回、聖女を捕縛する任務を特例として与えられ、「何故聖殿内に精通する女性兵ではなく近衛が?」と思ったほどだ。
兵がそう言いたくなる気持ちはよく分かる。
気持ちは分かるがここは未だ聖殿の中だ。
王太子の特命とはいえ、あまり和気藹々とした雰囲気は出したくない。
「……私語は慎め」
「し、失礼いたしました……」
背筋を伸ばした兵は口を噤んだ。
(……しかし、殿下は内通者だとおっしゃられたが……)
回廊を進みながら、近衛兵長は先程捕らえたばかりの聖女を思う。
犯罪者の第一声は大体は「自分はやってない」と言う。
例に漏れず聖女も否定していた。
しかし、言い逃れを最後まで続けるわけでもなく、最後には腹を括って落ち着いた様子でフリッツに従っていた。
まるで言いがかりをつけているフリッツに呆れたような──。
(……いや、やめよう。不敬だ)
近衛兵長はよくない考えだと首を振ると、早く聖殿から出ようと歩みを早めた。
回廊の角を曲がろうとしたその時だった。
「おや、こんなところに近衛兵がいるなんて、どうしたんだい? もしかして、道にでも迷ったのかな?」
目の前に、ちょうど角を曲がったテオが姿を現した。
のんびりとした口調だが、的確に図星を突いてくる彼に、時々しか関わりのない近衛兵長ですら緊張が増す。
(よりにもよって……)
近衛兵長は焦っていた。
国王代理であるフリッツに付くことの多い彼は、フリッツがテオを快く思っていないことを知っている。
そして彼が今しがた捕らえたのはテオの庇護下にある聖女、リーゼロッテだ。
彼女が極秘裏に捕らえられたと知ったらどうなるか。
そのあたりの理由をよく知らない兵士たちにも緊張が伝わったのか、視線を泳がせ狼狽えだした。
「テ…….テオドール様……い、いえ私どもは……」
しどろもどろの近衛兵長に、テオは素知らぬ顔で微笑みかけた。
「ああ、でも困ったなぁ。ここ、男子禁制なんだよ…………ねぇ?」
彼は背後にいる人物に向かって同意を求める。
ちょうど角の陰になって見えなかったが、影の長さからして女性──いや、子供か。
(誰か他にいるのか……? 連れてきたという医者か、メイドか……いずれにせよこのまま追及を受けるのは避けたい)
近衛兵長は「早急に退殿致します」と、テオの横をすり抜けようとした──が。
「な、……な……!? なぜ……?!」
角に隠れた人物を見た近衛兵長は、驚き口をぱくぱくとさせた。
彼の驚嘆を聞いた兵たちに至っては声すら出ず、まるで幽霊でも見たかのように腰を抜かした者もいる。
(どうして……どうしてこの方がここに……?!)
近衛兵長が説明を求めようとテオに目を向ける。
そこには、彼らの反応を楽しむかのように満面の笑みを浮かべるテオがいた。
「ねぇ君たち、少し協力してくれないかな?」
底知れぬ笑みを浮かべる彼の要請──いや、命令に、近衛兵長たちは水飲み鳥のようにただ無言で頷くしかなかった。
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