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25.カメラがひとつ、カメラがふたつ……①

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「アレンドル」

 ローランの促しに、アルはこくりとうなずいた。

「……エリミーヌ嬢、ならびに皆様。こちらをご覧いただけますか?」

 アルは手にした数冊のうちの一冊を広げ、皆に見えるよう高々と挙げた。

「…………!?」
「まさか……エリミーヌ嬢?」
「何……あ、あれ……」
「まるで生きているよう……」
「…………なんと精巧な絵なんだ……」

 会場がざわめく中、遠くてよく見えないわたしは慌ててファインダーをのぞき込む。

 それはまさしく、わたしのアルバム──入学式から1ヶ月後にフラッシュを焚いて連写した、あの嫌がらせシーンが何枚も写されていた。

「やっぱり、あの人はアル……でもなんで……?!」
「な、なんで?!」

 理由は違えど、混乱するわたしと動揺するエリミーヌの声が重なる。悲鳴にも似たエリミーヌの声に、ハノンがびくり、と反応する。

 彼女の盾になるよう一歩前へ出たローランは、重々しい声色で答えた。

「エリミーヌ、君をアレンドルに調査させていた。君はこれだけでなく、ハノン嬢に水をかけようとしたり、階下へ突き落とそうとした。その悪事の数々はすべて、この歴史の一部を切り取るという写真に収められている」

 歴史の一部を切り取る、なんてローラン分かってるわね。そうそう、エリミーヌが関わるイベントも全部写真に撮ってるのよね。

 ……ってなんでそれをローランが知ってるのかしら、などと考える必要もなかった。アルが全てローランに伝えていたのだから。

 でもアルってホント、何者なのかしら……?

 わたしが考え込んでいる間に、エリミーヌが甲高い声で反論した。

「で、デタラメを……!」
「いいえ、デタラメなどではありません。エリミーヌ嬢、現にあなたはこうおっしゃいましたね? 『入学式以来その方に近づいたことなどございません』と。しかしこれらの写真は全て、入学後のものです。このことはどう、申し開きされるおつもりで?」

 アルの冷静な言葉に、ざわざわと周囲の人たちが騒ぎ始める。

 エリミーヌは悔しそうに顔を歪めた。

「え、絵なら絵師がいるのでしょう? その者が嘘を描いているのです! 絵師を! こ、これを描いた絵師をお呼びください! ローラン様!」

 ハノンを責めた時よりもエリミーヌの声が震えている。あれでは写真が事実だと言っているようなものだ。
 実際、エリミーヌがやった、とまでは言わずとも彼女に同調する者はひとりも出てこない。あの腰巾着のようにくっついていたふたりの令嬢すら、青白くもそ知らぬ顔で騒動を見守っていた。

 ローランはため息混じりに首を振った。

「それはできない」
「なぜですの?」
「これは絵ではない。絵師などいない。いない者は呼べない」

 彼の言葉に、エリミーヌは気が抜けたように吹き出すと、ふたたび高笑いを上げ始めた。

「や、やはりこれは狂言でしたのね……! ローラン様、アレンドル様もその女にそそのかされているだけですわ! 目をお覚ましください!」

 あくまでも自分はやっていない、という態度を崩さないエリミーヌに、ローランとアルは顔を見合わせると深いため息をつく。

 うん、お疲れ。わかるわかる。話通じない人と話すとそうなるよね。

「……できれば罪を認めて欲しかったのだが……」
「罪? 私に罪などございませんわっ。ああ、今の地位もローラン様の婚約者という名誉も美貌も兼ねそろえたことを罪と呼ぶなら、それが私の罪かもしれませんわね!」

 エリミーヌの無駄に高飛車な振る舞いに、ローランはもう一度、こちらに聞こえるほど深いため息をつく。付き合ってられない、といった感じだ。

「……アレンドル。例のものの用意を」
「かしこまりました。ピア」

 またもわたしのいる真下から、今度はカラカラと音を立てながらピアが現れる。

 ……カラカラ?

 ピアといえば、無駄な足音も立てずアルに付き従っている印象しかない。その彼女が音を立てるなんて珍しい。ファインダー越しに追うと、その妙な音の正体がわかった。

 ワゴンだ。銀のワゴンに何かを乗せ、それを押している。よく見れば、彼女と同じようなワゴンを押すメイドたちが複数いた。

 食事を運んでいるのだろうか? こんな時に?

 疑問の答えは、ピアがアルの横に止まった時に理解できた。

「……あれは……」

 息を飲んだわたしの声は、近くのリアでさえ聞き取れなかっただろう。彼女もまた、階下の騒動、そしてワゴンの上のものに釘付けだったからだ。
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