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31.カメラを欲した理由②

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 思い当たる節に頬をひきつらせたわたしを見て、アルは苦笑した。

「最初はローラン様の光魔法だと思いました。エリミーヌ嬢がいなくなった後、報告に向かおうとしたところ、別の場所からローラン様がやってきて……混乱しましたよ。ではあの光は一体なんだったのか、と」

 すみません、それわたしです。

 そう白状するまでもなく、アルは分かっています、とばかりにうなずいた。

「あとで光ったあたりからミレディ様が出てきたので怪しいと思い、しばらくあなたを観察していました。キャメィラにたどり着いたのもその結果です。……告白の丘ここで声をかける前にはもう、おおよその調べはついていました。キャメィラの大体の機能についても、あなたがフィーレ家のご令嬢で、婚約者がいないことも」
「え?」

 なんですと。
 ということはカメラ目的に声をかけたというのは本当なのか。それはそれでちょっとだけ寂しい。

 あれ? 寂しい? なんで?

 意味もわからず困惑するわたしに、アルは続けた。

「僕はローラン様に指示を仰ぎました。その結果、偽名を使いミレディ嬢に近づき証拠写真を手に入れろ、というお達しが出たわけです。その頃のエリミーヌ嬢はローラン様を警戒されて、ハノン嬢への接触を極力されていませんでしたし。婚約者がいない貴族令嬢は御しやすい、とローラン様は考えられたのだと思います」

 なるほど、性別逆転ハニートラップ。美人局作戦だったのか。ローラン的には、わたしがアルに恋心を抱いてくれればやりやすいと思ったのだろう。

 にしても、聞いた限りではハノンを守る、というよりエリミーヌの本性を見破るのがアルの目的だったってことだよね。
 アルはハノンよりローラン一筋って感じだし。

 もしかして、アルバム見せた時もハノンじゃなくてローランを見てた……?

 いやいや、想い人を主君と取り合うなんてよくある展開じゃないの。想い人を守る利害の一致でライバル同士手を組むなんてあるあるだし。

 難しい顔をしたわたしに対し、アルは苦い顔をした。

「だが実際、そんなことはなかった。ミレディ様は写真写真で僕に見向きもしない。それどころか次はあっちにいく、こっちにいく、と引っ張り回される……正直、大変でした」
「すみません……まさか嫌がっていたとは……」

 わたしは頭を下げた。

 それに関してはホント、申し訳ない。
 ニコニコついてきてくれるから、てっきり趣味を共有できる初めての同志かと思って浮かれてしまっていた。

 うつむくわたしに、アルは慌てた様子で首を振る。

「嫌? とんでもない。僕は……楽しかったんです。本当に。目の前のなんてことはない風景を嬉しそうに眺め、同じ場所でも季節の移ろいを感じ、納得がいくまで写真を撮り続け、それをまた慈しむようにアルバムとして抱くあなたが……眩しくて、心底楽しかった」

 え、ええと……褒められてる、よね?
 同じところ何枚も撮りやがって、って言ってないよね?

 アルはほんの少し視線を落とした。こげ茶色の瞳に影が差す。

「当初はある程度信頼を得られたのち、正体を明かし協力をしてもらう予定でした……が、気が変わった。はじめて、ローラン様にそむきました」
「あ、アル……様……?」

 今までにない、妙にスッキリした笑顔を向けられ、わたしはたじろいだ。

 あの時、カメラを向けたいと思った笑顔に似てる。でもそれ以上にどこか色っぽく見えるのは、夕陽が彼の顔に差してきたからだろうか。

 アルの語気に熱がこもる。

「僕は惜しくなったのです。正体を明かすことでこの関係が崩れてしまうことを。あなたがそんな人ではないと、思っていても……僕が王子に協力しろ、と言った時点で、あなたの一番大事にしているキャメィラを、あなたを侮辱することにならないかと」
「そ、そんなことは……」

 ないとは言い切れない。現にさっきまで、ちょっとギクシャクしていた。
 だから彼の予想は当たっている、と思う。
 宰相の息子で、王子の命令と知っていたら、さすがのわたしも連日連れ回すなんてことしなかっただろうし。

 くちごもるわたしに、アルは首を小さく振った。

「……そんなのは言い訳ですね。自分のためだ。あなたのことを思ってではない。本当はミレディ様と利害で結ばれるのが嫌だったんです。あなたとはずっと、対等でいたかった。宰相の息子アレンドルではなく、あなたの……近しい、アルとして。だからずっと言い出せなくて……すみません」

 申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。

 先ほどの突き放すような物言いは、ローランの命令を隠す意図もあったのかもしれない。
 もちろん最初はアルも、わたしを利用するつもりで近づいてきたのだろう。信頼を得るために付き合っていた部分もなくはないと思う。

 実際信頼していたし、偽名だとは思いもしなかった。騙された、という思いよりも、やはり事情があったのだと納得できるほどに、彼のことを信じている自分がいる。

 そして今、わたしと見つめ合う彼が嘘をついているようには見えない。

「どうして……わたしなんかと対等になんて……わたし、ただ写真を撮ってただけですよ?」

 そう、自然と口から滑り落ちた。
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