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白兎編
6-1.白兎は腰が重い
しおりを挟む…身体がだるい。
猫--もとい、雪が例によって私の頰を踏み付け、それでも私が身を起こさないから瞼に爪を立てたところで、私は漸く観念して上半身を持ち上げた。
今日も晴れらしい。
障子の紙を通り抜けて、清々しいほどの太陽光が格子の影を映し出している。
「…腰…」
誰に言うともなく口からこぼれ出てしまって、私は頭を布団に埋めた。
昨日は夜が長かったな。
最初のことはあんまりよく覚えていないのだけれども、昨日のことはよく覚えてる…。
長い長いため息を吐きながら私は布団からのそのそと這い出した。
今は何刻くらいだろう。
眠たい。明るいし、女中さんも来ていないからそうは遅くないはずだけれども。
喉の違和感に軽く咳払いをした。
身体も重ければ腰も痛いし声も上手く出そうにない。
女中さんが咎めたら何と言い訳をしよう。
女中さんの代わりに椿が来てくれたら良いのに。そんなことってないだろうか?
いつも腰掛けているところに寄りかかって、ぼんやり風を感じていると緩やかに襖が開いた。
「おはようございます、白様」
若い女中さんがにっこりと微笑んでいた。
「どうされました?何処か具合でも悪うございますか」
「や、大丈夫だよ」
良かった、声は出る。
「最近早起きでいらっしゃいますね。猫のせいですかしら」
「雪が起こすんだ。今日なんか瞼を引っ掻かれそうになって」
「雪って、猫にお名前をお付けになりましたんですか。良い名でございますね」
「そうかい…」
「あら、でも白様、雪なんてご存知でした?お話したことがありましたかしら」
--ああ、しまった。どうしよう。
椿が訪ねて来ることを言ったら他のことも話すことになるだろうか?
少し考えて面倒になり、私は適当にはぐらかすことにした。
「違う女中さんが教えてくれたんだ。冬に降るものなのだろう?」
「そうでございます。また、降りましたらお教えしますわね」
口を動かしながらも朝餉の膳を用意する手はしっかりしている。
きっと優秀な女中さんに違いない。
「ふふっ…」
やおら、女中さんが笑みをこぼした。
何事かと女中さんを見やると、女中さんは慌てて口元を押さえて頭を下げた。
「ああ、申し訳ございません。今日は楽しいことがあるものでして。ふふふ」
謝りながらも笑みがこぼれるのを止められないみたいだった。
女中さんがあまりにも楽しそうに動くものだから、私は腰の重みも何となく気にならなくなって、準備してくれた座布団に大人しく正座した。
「女中さん、きっと今の女中さんはかわいらしい、のだろうね」
「えっ?突然、何を仰るのです」
「私はよくわからないけれど、多分そうなんだろう」
「あ、ああ…その、申し訳ありません。はしたないことを」
「ううん、すごく良いと思う。私も楽しい心地になったしね」
「あっ、いえ、楽しいことと申しますのは、白様のことなのでございますよ」
--私のこと?
思いもかけない言葉に、私は箸を止めて女中さんを見た。
「お食事が終わられましたら、直ぐでございます。直ぐにご準備させて頂きますから」
「なんだい?」
「白様の、お召替えでございます」
揺れるように微笑む女中さんの向こう側から、手を擦り合わせて入ってくる禿げ頭が見えた。
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