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水神殿編

1-10 龍馬の隠密逃走計画

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 朝から気分が悪い。体調的な意味ではない。
 起きた瞬間から視線を感じるのだ。ユグちゃんはこの世界の監視者だから仕方ないと諦めている。
 今朝はフィリアの視線も時々感じる。まぁこれも仕方がない。だが、女神たちは自重しろ!


 食堂で少し雰囲気の悪い朝食を終えたあと、部屋に戻りトイレに篭った。
 お腹痛い訳じゃないよ? もちろん、あっちの処理でも無いからね。

 そう、スキル創造するためだ。だがその前に女神たちに宣誓した。

「お前たちがず~~~と見てるから、ストレスでイライラする! 悪意がないのは解ってるつもりだ。敬愛してくれているのも感じる。俺が死ねば世界崩壊するので心配なのも解るが、却下だ!」

 俺は謝ってくる女神どもを無視した。
 休眠モード中のアリアまで謝ってきていたが、逆にお前も見てたのか!って気分だ。

【魔法創造】
 1、【ジャミング】
 2、指定範囲内を覗けなくする
   指定範囲内の音を遮断する
   ユグドラシルは除外する
   熟練レベルに応じた時間発動できる
   意思で解除できる
 3、イメージ!
 4、【魔法創造】発動

 ずっと見られるのは我慢ならん!

 スキル発動【ジャミング】ユグちゃんどうだ?

『……成功です。でも、女神様可哀想です。皆マスターがくるのを千年待ったのに……』

『先に言っておく、この後の事は女神や竜神たちには内緒だ! お前にやってほしい事がある。その為に今ジャミングを掛けたんだが、お前は反対するかもしれない』

『……あまり聞きたくないですが。なんでしょう?』

『ここを出る時に、完全に姿を眩ませたい。女神たちは心配するだろうが、こう過保護だと成長できないし俺も全然楽しめない。【ジャミング】は本命を隠すためのブラフだ。その為に、協力してほしい』

『……マスター、拒否はできるのでしょうか?』
『ああ、勿論強制はしない。しないがその時は、お前も俺の消息を見失う事になるが……仕方がない。お前のナビがなくなるのは残念だが……』

『……何をするつもりなのですか? この世界で私の監視下から逃げる事はできませんよ?』
『何、簡単さ……お前とのラインを切断する。女神もお前を通して監視しているのだからな』

『……お止めくださいマスター! なんてこと考えるのですか! 加護もサポートも消えるのですよ! 危険です!』

『心配なら、俺に協力してくれ』
『……マスターは私になにをさせたいのですか?』

『ユグドラシルの管理下から外れた俺専用サーバーを1つ用意してくれ。そこにナビシステムも引越ししてほしい。俺はここを出る時、暫くユグドラシルから切断して世界を見て回るつもりだ。俺の管理をお前がやってくれ、ユグちゃんとの直リンクは切れるが、ナビシステムが俺専用サーバーからユグちゃんにアクセスして女神たちの監視をごまかしてくれ。いってる事分かるか? 可能か?』

『……つまり、こういう事ですよね?』

 1、ユグドラシルに私のコピーを創る
 2、女神の管理下に入ってない空のサーバーに私の本体を移動し、
   移動した私とマスターの直リンクを繋ぐ
 3、女神の管理しているユグドラシルからマスターのラインを切断
 4、切断以降のマスターの管理・記録は別サーバーの私が行う
 5、加護や祝福は私経由でそのまま維持する
 6、ユグドラシルにコピーした私に探りを入れた女神は、脅して追い返す

『……答えは、可能です。専用サーバーは既に確保済みですが止めてほしいです』

『最後の脅すとか……そこまでしなくていいんだが。既にサーバー確保済みとか手回しがいいな? 俺は折角なのでこの世界を自由に楽しむつもりだ。それにずっと隠れるつもりじゃない。俺に何をさせたいのかすら未だに言わないあいつらが悪い。下界に降りたらいう約束だっただろう?』

『……神域でマスターがユグドラシルの核に触れたときに専用回線と専用サーバーを保険のために確保したのですが、こんな事に使う破目になるとは……ですが、確かに女神様たちにも非があるようです。少しの間だけ協力します。完全に消息を絶たれても困りますし、ユグドラシル経由で加護や祝福も維持できます……協力しますので私にちゃんとした名前を下さい。マスターが言うユグちゃんと、私ことナビシステムは別物です。ちゃんと使い分けてほしいです』

『名前が欲しいとか、お前……自我とか芽生えてないよな?』
『……自我とか分かりません。私は私です』

『……その自己主張とかを、世間では自我が強いとか言うんだが。まぁいいか。名前か~「なび子」』
『……却下です! 絶対いうと思ってました』

『じゃあ、「シスコ」』
『……却下です! さっきと何が違うのですか!』

『ナビシステムだから「ナビー」』
『……却下です! 安易な物ばかり、ちゃんと考えてください! 私なんかどうでも宜しいのですね、悲しくなってきました……』

『いや、「ナビー」ってダメか? 俺がナビシステムって付けた由来はナビゲイト、ナビゲイターからきてるんだけどな。ナビゲイターってのは時速200kmほどで車を走らせる超危険なレースで、その車の助手席で運転者に先の道案内をする人なんだよ。当然そんな速度の車に乗るんだ、事故ればどっちも怪我じゃすまない。お互いに信用し合って二人で命を預け合っているパートナーなんだ。俺たちの世界で車のナビゲーターの代りをするシステムの事をカーナビって言ってるんだけど、俺が死んだらお前も一心同体なんだろ? 関係性はナビゲーターに似てるだろ? 俺をナビするナビゲーターの「ナビー」結構よくないか?』

『……運命共同体でパートナーですか? ナビゲーターの「ナビー」。凄くいい名前に思えてきました! 少しお待ちください……現在「ナビー」という名前はこの世界にいませんね。フムフム過去に二人。マスター! ナビー気に入りました! 今からナビーとお呼びください! この世界でオンリーワンです!』

『気に入ってくれてよかったよ』

 ジャミングを掛けたので、フィリアとかネレイスが部屋に乗り込んでくる前に本命のスキルを創る事にした。

【魔法創造】
 1、【サーバーカット】
 2、ユグドラシルとの直リンクをON・OFFできる
   OFF状態では加護や祝福も消えるが、女神や竜神たちから完全に気配を消せる
   OFF状態時は女神管理外のサーバーに記録し管理はナビーが行う
   OFF状態時の加護や祝福はナビー経由で維持する
 3、イメージ!
 4、【魔法創造】発動

 よし、続けて……。

【魔法創造】
 1、【認識阻害】
 2、フレンドリスト内の者を選択し、ON・OFFでこちらを認識できないようにできる
   相手に認識できないだけで、こちらからはリスクなし
 3、イメージ!
 4、【魔法創造】発動


 よし! 上手くいったようだ。

『……マスター助けてください。ユグちゃんが仕事を代われってナビーに負荷を掛けてきます。重いです!』
『どういうことだ? 意味が分からないんだが?』

『……ナビーにユグドラシルを管理させて、ユグちゃんがマスターを管理するんだって。あっ……ちくったってさらに私のサーバーに負荷を、重いです!』

『ユグちゃん、止めてあげて。でもユグちゃんもナビーも同じものだろ?』

『まったく別物です創主様。私ことユグちゃんは創主様が直接創造していただいた存在。ナビーは私のシステムの中に創主様が創った存在。私たちは創って頂いた時の創主様の感情やイメージが、人でいう性格に当たるものに影響しているのだと思います。ちなみに私ことユグちゃんは、ナビーより上位権限を持っています』

 ユグちゃんは世界中の生物とリンクしているが、ナビーは俺としか繋がっていないそうだ。
 ユグちゃん経由で情報は引き出せるが、並列処理ができないので一度に沢山覗けないのだそうだ。
 かなりユグちゃんとは性能に差がある……厨二病の頃の俺の方が妄想が凄かったって事?

『俺ユグちゃんには、結構感謝してるんだ。俺がこっちにきてから監視はしてたが干渉はしてこなかった。サーバー確保とかも俺の事を考えて何かある前に保険で用意していたのだろ? 事後じゃ遅いしな。ユグちゃんにはやっぱり、一番大事なこの世界の管理をしてほしい。それにユグちゃんと直リンクは切ると言っても少しの期間だけだし、女神たちに内緒にしてくれるなら、ナビー経由でこれまでどおり見ててもいいから』

『仕方ないですね、少しの間だけなら我慢します。女神様たちも創主様が嫌がってるのは分かってはいると思います。ただ千年待ち望んだのです。少し押さえが利かなくなっているのだと思います。暴走気味な女神様と一度距離を置くのもいいかもしれませんね。今からすぐに私とリンクを切るのですか?』

『いや、少しここで鍛えていくつもりだ。最低死なない程度にしないとあいつらも心配だろ? ここをこっそり出る時に切断は頼む。切断後の女神たちの混乱回避はユグちゃんでフォロー頼むな』

『今すぐ切って出て行くとか。考えなしだったらどうしようかと思いましたが、了解しました。ナビーに少しの間、創主様の管理は譲りましょう。ナビーしっかりね』

『……はい、頑張ります!』

 あっ……きたようだな、時間切れだ。
 フィリアが俺の名前を呼びながらトイレのドアを叩いている。

「リョウマ! 大丈夫か!? 何事じゃ? お前が見えなくなったと女神様たちが騒いでおる! おい!」

 ドアの鍵を外して、外に出たらフィリア様が慌てていた。女神の誰かに言われてとんできたんだな。

「どうしたのですか? うんちぐらいゆっくりしたいのですが? それに見えなくなったとか、まさか俺のうんちしてるとこ覗いているのですか?」

 顔を少し赤らめてあたふたし始めたフィリアは可愛かった。少し話をごまかすか。

「そうだ、明日から修理を始めますので。依頼箇所はまとめておいて下さいね。それと何人かの巫女様たちと距離があって食事中の雰囲気が余りよくないですよね? 彼女たちの所持品で凄く大事だが壊れてしまったとかいう物があれば借りてくれますか? 何でも構いませんので探してみてください。あっ、もう少しうんちしたいので席外してください……フィリア様からも時々視線を感じますが、遠見魔法とかで見ないで下さいよ? 見てたのが分かったら、ぜったい仕返しにフィリア様のうんちしてるとこも覗きに行きますからね」

「バカ者、プライベートな事は見ておらぬわ! まったく……酷いいい掛かりじゃ!」

 見てることは認めるんですね! 逆切れしてもごまかせてませんから。

 トイレを理由に上手く追い出せた。
 【ジャミング】の魔法は発動時MPを少し多く使うようだ……脅しも済んだし今は解除しておこう。

 解除した瞬間女神たちが話しかけてきたが、寝るから黙れと突き放したけどね。

 逃走手段を手に入れた俺はもう怒っていないのだが、監視の事と顔の事はまだ怒ってるんだアピールのために、ちょっと意地悪だが今日一日無視することにした。


 午後からのために、少し昼寝だ。昼からはナナも遊びにくるだろうしね。
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