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タリス湿原
6-1 川漁師のアルバイト
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ナシル家を出て宿屋に戻る。
『灼熱の戦姫』の泊まっている大部屋に行き、とりあえずソシアさんに謝罪した。
「もう、怒ってるんだからね! ご飯だけ奢らせといて、サリエさんまで私を置いてどっか行っちゃうし」
「ん! ごめん! 反省してる!」
「ホントごめんなさい、お詫びに良い物あげますから」
俺は今日買ったイヤリングを取出し、プレゼントする事にした。
まずはフェイからだな。フェイのイヤリングの付与できるエンチャントの空きスロットルは右1左2の計3カ所。フェイの場合各種耐性も魔法防御、物理防御も俺同様あまり必要としない。元々俺や女神の祝福で最上位の物が付与されているからだ。
フェイの強みの敏捷にするか……後はスタミナや持久力がいいかな。
最近はだいぶ持久力も上がってきてるが、以前はすぐに疲れて俺の肩にとまってたからね。
「フェイのはルビー、紅い目とお揃いになって良く映える。右側は敏捷Up、左側は敏捷と持久力Upの付与が掛かっている。明日の狩りの前に俺からのプレゼントだ。付けてやるから髪を上げて耳を出せ」
フェイはとても嬉しそうに、髪を掻き上げ少し桜色に色付いた耳を差し出してきた。
可愛いではないか……照れてるのか? 役得だな!
「「???」」
アクセサリーショップに同行してた2人がなんで?ってな顔で見てる。
「兄様! ありがとうございます! 似合ってますか?」
「ああ、とても似合ってるぞ。ほら、自分で見てみろ」
姿見を出してあげたら、鏡を見ながら顔を振ったりしてイヤリングが揺れたりするのを楽しんでいるようだ。
「次はサリエさん。右は火耐性、左は水耐性です。元が水晶ですので、せいぜい初級魔法の【ファイアシールド】と【アクアシールド】程度の防御効果しか無いですが、中級魔法を食らっても、火傷程度には軽減してくれるでしょう」
「ちょっと待ちなさいよ! 買った時は付与無し品だったでしょ! どういう事よ!」
「ソシアさんは付与無し品でいいのですね……解りました」
「私も付与が付いてる方がいいに決まってるでしょ! それよりどういう事か説明しなさいよ!」
「うるさいし、面倒くさい女ですね。フェイやサリエさんは素直に喜んでくれているというのに」
あっ、軽い冗談のつもりだったのに涙目になってる。面倒くさい女発言はダメだったようだ。
「俺は付与魔法が使えるんですよ。付与の無い物を選んで買ったのは、付与が最初から付いてる物には空きがない物がほとんどだし、付いてる付与も俺が付けるものより格段に悪い物ですからね。それに付けたい付与が選べません。なので空きのある付与無しばかりを選んで買ったのです」
「ん、私の耳にもリョウマが付けて!」
話してる最中だったのに、ホントこの人はブレないな……凄くマイペースだ。
「じゃあ、次はソシアさん。魔法職の人は元々魔法耐性が高いので、両方物理防御力にしました」
「ありがとう! ちょっと……私にも付けてよ……ふふふっ似合う?」
「俺が選んだ物じゃないですか……似合っていますよ」
「次はマチルダさん。右が火耐性、左が毒耐性です。イヤリングは赤い水晶です」
「パエルさんは黄色いトパーズです。右が火耐性、左が雷耐性です。盾職は氷や石つぶてなどの物理系魔法は耐性は高いですが、火や雷は流石に無視できないですからね。パエルさんの綺麗な顔に火傷ができるのも嫌ですしね」
「コリンさんも色は黄色ですが素材は水晶です。ソシアさん同様、両方物理防御が上がります」
「サーシャさんは緑の水晶です。本当はエメラルドが有れば似合いそうだったのですが……右が火耐性、左が物理防御です」
皆、幸せそうな顔をしている……美人の笑顔は男にとってはご褒美だな。
「付与は勝手に俺がその人に有った方が良いと思うものを付けました。耐性の具体的な数値はその人の持っているステータスも関係するのではっきりとは言えませんが、火耐性のイヤリング装備中に初級の火魔法を食らったと仮定したら『あちっ』っと感じるぐらいにまで抑えてくれます。中級を食らっても軽い火傷程度にまで抑えられますので、ソシアさんの回復魔法があれば火傷痕になるような事は無くなるでしょう。物理防御の方が大体1つで15%Upぐらいと思ってください。ステータスの数値に反映されるので本来パエルさんが付けると上昇値が高いのですが、その辺は向かうダンジョンや状況でPT内でイヤリングの交換等で調整してもいいかもです」
「リョウマ君、こんな凄い品……本当に貰っても良いのかい?」
「ええ、パエルさんのそのイヤリングでも7万ジェニーぐらいですので、先輩冒険者として指導とかで返してもらえれば有難いです」
「原価はそうなのかもしれないけど、もはやこの火耐性の効力だけでも500万ジェニーはするよ? 両方だと1千万ジェニーは軽く超える。付与品は元々そういう物なんだ。誰でも着けるだけで効果が上がるからね。しかもこれほどの付与となると……」
「特にソシアの物理耐性の品とか人気が高いので、オークションに掛けたら、凄い値が付きそうだよね」
「ん! 素直に喜んでもらっとけばいい! その方がリョウマも喜ぶ!」
なんか、サリエさんが俺の事を理解してきてるのが嬉しいが、距離感は大事にしようね。どうして俺の膝に乗ろうとするの? いくら小柄のちみっこでも、子供じゃないので無理があるでしょ……ナナじゃあるまいし。
ほら、フェイもなんか睨んでるでしょ……空気読もうよ。
「サリエさん、暑苦しいのでどいてください……」
「んむぅー! リョウマのあほ!」
あなたどこの子供ですか。なんか可愛いけど……恐るべし23歳。
「あの……どこの国宝?ってぐらい、この鏡凄いんですけど?」
あっ、フェイの奴、インベントリに隠しやがった。
「フェイちゃん、なんで隠すのよ?」
「これはフェイのです! 兄様は直ぐ調子に乗って皆にあげちゃうので。それに隠したんじゃなく、片付けたのです」
何とも的を得ているし、追求するのは墓穴を掘りそうなのでやめておこう。
「いろいろ規格外すぎて質問するのも躊躇われるわ。とにかくこのイヤリングは個人としてもクランリーダーとしてもお礼を言うわね、本当にありがとう」
「男性からのプレゼント自体嬉しい物なのに、このイヤリングはセンスも含めて別格ね」
「喜んでもらえて何よりです。紛失しにくいピアスにしようかと思ったのですが、耳に穴を空けるのが嫌な人もいるかと思い、挟むタイプのイヤリングにしました。【亜空間倉庫】から出しておけば、所持しているだけでも効果はあるようなので、紛失が気になる人はポケットにでも入れておけば良いでしょう」
「ところでリョウマ君、明日の出発は何時くらいの予定なの?」
「朝食後7時ぐらいでどうでしょうか? 日帰りか一泊予定なので、出発も早い方がいいでしょう」
「それでいいわ。じゃあ8時頃の予約を入れておくわね。サーシャお願いね」
声を掛けられたサーシャさんは頷いて部屋を出て行った。
「あの? 予約ってなんですか?」
「向かう湿原は川を渡った北側なの。王都に行く為の西の橋を渡って、回り込んで北に行くルートも有るけど、すごく遠回りでしょ? 川漁師にお金を握らせて渡してもらった方が2時間ほど時間が節約できるのよ。ここの宿屋は川漁師の方から、『もしそんな冒険者が居たら紹介してくれ』と言われてるそうなの。だから、ここの宿屋に声を掛ければ、川漁師に予約ができるのよ」
「へー、漁師もあちこちで営業しているんですね……片道いくらぐらいなんです?」
「川の状態にもよるらしいけど、5千~1万ジェニーぐらいね。明日は8人だから1万ジェニーぐらいあげてもいいわね。漁師より冒険者の方が稼いでいるのだから、そこは冒険者の器量次第かな。まぁ、数千ジェニーケチるぐらいの冒険者なら、危険な湿地帯なんか行ってられないでしょうけどね」
「頼んできたわよ。帰りも頼みたいなら、乗った漁師に言ってくれですって。なんかフレンド登録して早めにメールすれば、降ろしたその場所に来てくれるそうよ」
「サーシャさんありがとうございます。でも随分速かったですね?」
「宿屋のおかみさんに言えば、丁稚に鉄貨1枚握らせてお使いを頼めるのよ。川渡しの依頼は時々あるそうで、頼める専属漁師も5人ほど居るそうだから、前日予約でも誰か捕まるので大丈夫だそうよ」
夕食を終え、明日の最終確認もマチルダさんと済ませ自分の部屋に戻った。
やるべき事が増えた為、気分的にお疲れ気味だ。順番に解決するしかないのだが面倒な事だ。
『ナビー、あの親子はどうしている? ちゃんと食べているか?』
『……はい、先程親子で泣きながら食べた後、体を清拭して今はベッドで2人で抱き合って泣いてます』
『泣いて食べて、また泣いてるのか? どういう状況なんだ……』
『……マスターが作ったお粥の残りと調理済みのモノを夕飯にしたのですが、ずっと質素な食事ばかりだったので、ご飯が美味しくて泣いたようです。今泣いているのは、亡き主人と父親の事を想って泣いているようですね』
そうだよな……大事な家族が亡くなったんだ。生活の不安もあるだろうが、悲しいのは当たり前だ。
「兄様、あの家族はどうなるのでしょうか?」
「まぁ、最善ではないが、何パターンかの救済法は考えているから、贅沢さえ言ってこなければ何とかなるだろう。旦那が亡くなって、ナシルさんも仕事を選んでいる余裕はないだろうしね。下手したら家賃も払えず娼館行きだ」
現在入浴も終え、フェイとまったりしているところだ。
「ねぇ兄様……サリエさん、皆にも私たちにも、今日の事、何も言ってきませんね?」
「そうだな、何か言いたそうにはしていたが、俺たちから言わない限りは聞きたい衝動を我慢してくれているのだろう」
「それって、凄くストレスが溜まるんじゃないですか?」
「そうかもしれないが、興味本位で俺たちの事情は無視して、後を付けて来たんだ。誓約で縛っているからと言ってどこまで教えてやる? 俺がこの世界を創った創造神的な者だと知ったら、今までのような付き合いは多分できなくなるぞ」
「それは嫌ですね。皆と楽しく冒険者をしていたいです」
「一般的な生活を望むなら、【無詠唱】や【多重詠唱】も見せないで、ひっそりやっていくのが良いのだけど、ログハウスも無し、食事も移動中は干し肉に乾パンだけとかフェイも嫌だよな?」
「ログハウスはともかく、お風呂とご飯は嫌です……」
「ん? 狭いテントでも良いのか?」
「兄様と一緒に寝られるからテントでもいいです。でも知らない間に兄様をかじっちゃうとまた怒られるし……」
「冬になったら、竜化状態でなら一緒に寝てやってもいいぞ。もふもふで温かそうだからな」
「本当ですか? 絶対ですよ! 約束しましたからね! えへへー」
「でもガジガジして起こされるようなら無しだからな。ナビーの話だと、ガジガジは幼竜に見られる一時的なものだそうだし、冬までに改善されてたらいいけどな」
翌朝、朝食を食べた後に、北の船着き場に向かった。船着き場にはガタイのイイ親父が待っていた。
「よう、おはよう! 嬢ちゃんたちがクラン『灼熱の戦姫』の人たちかい?」
「ええ、おはようございます。クランリーダーのマチルダといいます。今日はよろしくね」
「さっそくで悪いんだが、まずはお金の話だ。8人という事で、8千ジェニーほど頂きたいのだが、イイだろうか?」
「ええ、1万ジェニー支払うわ。メールで呼べば帰りにも迎えに来てくれるのよね? 帰りもお願いするわ」
「おおっと、若いのに気前がいいな! ありがとう、遠慮なくもらっとくぜ! 帰りはどのくらいの予定だ?」
日帰りのつもりだが、一応伝えておこう。
「今日の夕方か、明日の夕方ぐらいに予定しています」
「おっ、野郎もいたのか。兄ちゃん、こんな美人さんばかりの中に一人とは羨ましいな!」
「確かに美人さんばかりなので、ドキドキしますけどね」
「1年以上、高位組のレイドPTが行ってないから、奥の方は結構魔獣が溢れているそうだ。時々入口付近にまで中位の魔獣が出てくるらしいから気を付けるんだぞ」
「そうなんですか? 情報ありがとうございます」
「入り口付近の魔獣でも結構いい金になるらしいな? なんでも素材が枯渇してて高騰気味なんだとか言ってたな。でも湿地帯の魔獣は強いから、皆、平原の方に行くんだろ? 嬢ちゃんたちは大丈夫か?」
「ヤバそうなら直ぐ帰ってきますので大丈夫ですよ。これでも私たち、一応ゴールドランクPTですからね」
「嬢ちゃんたちゴールドランクなのか! そりゃ凄いな、怪我しないように頑張って稼いできなよ」
15分ほどで対岸に着き、船頭と別れた。
気さくなイイ感じのオヤジだった。沢山獲れたら、10kgほど肉をプレゼントしてやろう。
「さぁ、皆さん、お楽しみの肉狩り祭りですよ! 目標は牛とワニ肉です! ではサリエさんお願いします!」
「ん! お願いされた! サーシャ、アシストお願い!」
「いいけど……ナニ? 2人のそのテンションの高さ! サリエまで珍しいわね……それに肉狩り祭りって?」
「サーシャさんダメですよ! 牛肉ですよ? 牛丼、すき焼き、しゃぶしゃぶです! 肉祭りです!」
「何か知らないけど、私もテンション上がってきた! 牛丼、すき焼き、しゃぶしゃぶ! リョウマ君の料理だよね? サリエ、絶対見つけるわよ!」
「ん! リョウマの料理、絶対食べる!」
パーティーのテンションもMAX状態になり、意気揚々と湿地帯に足を踏み入れた。
だが、初戦闘はブルースライムだった。
そうですよね。
入り口付近をうろついてるのは、水系の低級魔獣ですよね……皆、一気にテンションが下がるのだった。
『灼熱の戦姫』の泊まっている大部屋に行き、とりあえずソシアさんに謝罪した。
「もう、怒ってるんだからね! ご飯だけ奢らせといて、サリエさんまで私を置いてどっか行っちゃうし」
「ん! ごめん! 反省してる!」
「ホントごめんなさい、お詫びに良い物あげますから」
俺は今日買ったイヤリングを取出し、プレゼントする事にした。
まずはフェイからだな。フェイのイヤリングの付与できるエンチャントの空きスロットルは右1左2の計3カ所。フェイの場合各種耐性も魔法防御、物理防御も俺同様あまり必要としない。元々俺や女神の祝福で最上位の物が付与されているからだ。
フェイの強みの敏捷にするか……後はスタミナや持久力がいいかな。
最近はだいぶ持久力も上がってきてるが、以前はすぐに疲れて俺の肩にとまってたからね。
「フェイのはルビー、紅い目とお揃いになって良く映える。右側は敏捷Up、左側は敏捷と持久力Upの付与が掛かっている。明日の狩りの前に俺からのプレゼントだ。付けてやるから髪を上げて耳を出せ」
フェイはとても嬉しそうに、髪を掻き上げ少し桜色に色付いた耳を差し出してきた。
可愛いではないか……照れてるのか? 役得だな!
「「???」」
アクセサリーショップに同行してた2人がなんで?ってな顔で見てる。
「兄様! ありがとうございます! 似合ってますか?」
「ああ、とても似合ってるぞ。ほら、自分で見てみろ」
姿見を出してあげたら、鏡を見ながら顔を振ったりしてイヤリングが揺れたりするのを楽しんでいるようだ。
「次はサリエさん。右は火耐性、左は水耐性です。元が水晶ですので、せいぜい初級魔法の【ファイアシールド】と【アクアシールド】程度の防御効果しか無いですが、中級魔法を食らっても、火傷程度には軽減してくれるでしょう」
「ちょっと待ちなさいよ! 買った時は付与無し品だったでしょ! どういう事よ!」
「ソシアさんは付与無し品でいいのですね……解りました」
「私も付与が付いてる方がいいに決まってるでしょ! それよりどういう事か説明しなさいよ!」
「うるさいし、面倒くさい女ですね。フェイやサリエさんは素直に喜んでくれているというのに」
あっ、軽い冗談のつもりだったのに涙目になってる。面倒くさい女発言はダメだったようだ。
「俺は付与魔法が使えるんですよ。付与の無い物を選んで買ったのは、付与が最初から付いてる物には空きがない物がほとんどだし、付いてる付与も俺が付けるものより格段に悪い物ですからね。それに付けたい付与が選べません。なので空きのある付与無しばかりを選んで買ったのです」
「ん、私の耳にもリョウマが付けて!」
話してる最中だったのに、ホントこの人はブレないな……凄くマイペースだ。
「じゃあ、次はソシアさん。魔法職の人は元々魔法耐性が高いので、両方物理防御力にしました」
「ありがとう! ちょっと……私にも付けてよ……ふふふっ似合う?」
「俺が選んだ物じゃないですか……似合っていますよ」
「次はマチルダさん。右が火耐性、左が毒耐性です。イヤリングは赤い水晶です」
「パエルさんは黄色いトパーズです。右が火耐性、左が雷耐性です。盾職は氷や石つぶてなどの物理系魔法は耐性は高いですが、火や雷は流石に無視できないですからね。パエルさんの綺麗な顔に火傷ができるのも嫌ですしね」
「コリンさんも色は黄色ですが素材は水晶です。ソシアさん同様、両方物理防御が上がります」
「サーシャさんは緑の水晶です。本当はエメラルドが有れば似合いそうだったのですが……右が火耐性、左が物理防御です」
皆、幸せそうな顔をしている……美人の笑顔は男にとってはご褒美だな。
「付与は勝手に俺がその人に有った方が良いと思うものを付けました。耐性の具体的な数値はその人の持っているステータスも関係するのではっきりとは言えませんが、火耐性のイヤリング装備中に初級の火魔法を食らったと仮定したら『あちっ』っと感じるぐらいにまで抑えてくれます。中級を食らっても軽い火傷程度にまで抑えられますので、ソシアさんの回復魔法があれば火傷痕になるような事は無くなるでしょう。物理防御の方が大体1つで15%Upぐらいと思ってください。ステータスの数値に反映されるので本来パエルさんが付けると上昇値が高いのですが、その辺は向かうダンジョンや状況でPT内でイヤリングの交換等で調整してもいいかもです」
「リョウマ君、こんな凄い品……本当に貰っても良いのかい?」
「ええ、パエルさんのそのイヤリングでも7万ジェニーぐらいですので、先輩冒険者として指導とかで返してもらえれば有難いです」
「原価はそうなのかもしれないけど、もはやこの火耐性の効力だけでも500万ジェニーはするよ? 両方だと1千万ジェニーは軽く超える。付与品は元々そういう物なんだ。誰でも着けるだけで効果が上がるからね。しかもこれほどの付与となると……」
「特にソシアの物理耐性の品とか人気が高いので、オークションに掛けたら、凄い値が付きそうだよね」
「ん! 素直に喜んでもらっとけばいい! その方がリョウマも喜ぶ!」
なんか、サリエさんが俺の事を理解してきてるのが嬉しいが、距離感は大事にしようね。どうして俺の膝に乗ろうとするの? いくら小柄のちみっこでも、子供じゃないので無理があるでしょ……ナナじゃあるまいし。
ほら、フェイもなんか睨んでるでしょ……空気読もうよ。
「サリエさん、暑苦しいのでどいてください……」
「んむぅー! リョウマのあほ!」
あなたどこの子供ですか。なんか可愛いけど……恐るべし23歳。
「あの……どこの国宝?ってぐらい、この鏡凄いんですけど?」
あっ、フェイの奴、インベントリに隠しやがった。
「フェイちゃん、なんで隠すのよ?」
「これはフェイのです! 兄様は直ぐ調子に乗って皆にあげちゃうので。それに隠したんじゃなく、片付けたのです」
何とも的を得ているし、追求するのは墓穴を掘りそうなのでやめておこう。
「いろいろ規格外すぎて質問するのも躊躇われるわ。とにかくこのイヤリングは個人としてもクランリーダーとしてもお礼を言うわね、本当にありがとう」
「男性からのプレゼント自体嬉しい物なのに、このイヤリングはセンスも含めて別格ね」
「喜んでもらえて何よりです。紛失しにくいピアスにしようかと思ったのですが、耳に穴を空けるのが嫌な人もいるかと思い、挟むタイプのイヤリングにしました。【亜空間倉庫】から出しておけば、所持しているだけでも効果はあるようなので、紛失が気になる人はポケットにでも入れておけば良いでしょう」
「ところでリョウマ君、明日の出発は何時くらいの予定なの?」
「朝食後7時ぐらいでどうでしょうか? 日帰りか一泊予定なので、出発も早い方がいいでしょう」
「それでいいわ。じゃあ8時頃の予約を入れておくわね。サーシャお願いね」
声を掛けられたサーシャさんは頷いて部屋を出て行った。
「あの? 予約ってなんですか?」
「向かう湿原は川を渡った北側なの。王都に行く為の西の橋を渡って、回り込んで北に行くルートも有るけど、すごく遠回りでしょ? 川漁師にお金を握らせて渡してもらった方が2時間ほど時間が節約できるのよ。ここの宿屋は川漁師の方から、『もしそんな冒険者が居たら紹介してくれ』と言われてるそうなの。だから、ここの宿屋に声を掛ければ、川漁師に予約ができるのよ」
「へー、漁師もあちこちで営業しているんですね……片道いくらぐらいなんです?」
「川の状態にもよるらしいけど、5千~1万ジェニーぐらいね。明日は8人だから1万ジェニーぐらいあげてもいいわね。漁師より冒険者の方が稼いでいるのだから、そこは冒険者の器量次第かな。まぁ、数千ジェニーケチるぐらいの冒険者なら、危険な湿地帯なんか行ってられないでしょうけどね」
「頼んできたわよ。帰りも頼みたいなら、乗った漁師に言ってくれですって。なんかフレンド登録して早めにメールすれば、降ろしたその場所に来てくれるそうよ」
「サーシャさんありがとうございます。でも随分速かったですね?」
「宿屋のおかみさんに言えば、丁稚に鉄貨1枚握らせてお使いを頼めるのよ。川渡しの依頼は時々あるそうで、頼める専属漁師も5人ほど居るそうだから、前日予約でも誰か捕まるので大丈夫だそうよ」
夕食を終え、明日の最終確認もマチルダさんと済ませ自分の部屋に戻った。
やるべき事が増えた為、気分的にお疲れ気味だ。順番に解決するしかないのだが面倒な事だ。
『ナビー、あの親子はどうしている? ちゃんと食べているか?』
『……はい、先程親子で泣きながら食べた後、体を清拭して今はベッドで2人で抱き合って泣いてます』
『泣いて食べて、また泣いてるのか? どういう状況なんだ……』
『……マスターが作ったお粥の残りと調理済みのモノを夕飯にしたのですが、ずっと質素な食事ばかりだったので、ご飯が美味しくて泣いたようです。今泣いているのは、亡き主人と父親の事を想って泣いているようですね』
そうだよな……大事な家族が亡くなったんだ。生活の不安もあるだろうが、悲しいのは当たり前だ。
「兄様、あの家族はどうなるのでしょうか?」
「まぁ、最善ではないが、何パターンかの救済法は考えているから、贅沢さえ言ってこなければ何とかなるだろう。旦那が亡くなって、ナシルさんも仕事を選んでいる余裕はないだろうしね。下手したら家賃も払えず娼館行きだ」
現在入浴も終え、フェイとまったりしているところだ。
「ねぇ兄様……サリエさん、皆にも私たちにも、今日の事、何も言ってきませんね?」
「そうだな、何か言いたそうにはしていたが、俺たちから言わない限りは聞きたい衝動を我慢してくれているのだろう」
「それって、凄くストレスが溜まるんじゃないですか?」
「そうかもしれないが、興味本位で俺たちの事情は無視して、後を付けて来たんだ。誓約で縛っているからと言ってどこまで教えてやる? 俺がこの世界を創った創造神的な者だと知ったら、今までのような付き合いは多分できなくなるぞ」
「それは嫌ですね。皆と楽しく冒険者をしていたいです」
「一般的な生活を望むなら、【無詠唱】や【多重詠唱】も見せないで、ひっそりやっていくのが良いのだけど、ログハウスも無し、食事も移動中は干し肉に乾パンだけとかフェイも嫌だよな?」
「ログハウスはともかく、お風呂とご飯は嫌です……」
「ん? 狭いテントでも良いのか?」
「兄様と一緒に寝られるからテントでもいいです。でも知らない間に兄様をかじっちゃうとまた怒られるし……」
「冬になったら、竜化状態でなら一緒に寝てやってもいいぞ。もふもふで温かそうだからな」
「本当ですか? 絶対ですよ! 約束しましたからね! えへへー」
「でもガジガジして起こされるようなら無しだからな。ナビーの話だと、ガジガジは幼竜に見られる一時的なものだそうだし、冬までに改善されてたらいいけどな」
翌朝、朝食を食べた後に、北の船着き場に向かった。船着き場にはガタイのイイ親父が待っていた。
「よう、おはよう! 嬢ちゃんたちがクラン『灼熱の戦姫』の人たちかい?」
「ええ、おはようございます。クランリーダーのマチルダといいます。今日はよろしくね」
「さっそくで悪いんだが、まずはお金の話だ。8人という事で、8千ジェニーほど頂きたいのだが、イイだろうか?」
「ええ、1万ジェニー支払うわ。メールで呼べば帰りにも迎えに来てくれるのよね? 帰りもお願いするわ」
「おおっと、若いのに気前がいいな! ありがとう、遠慮なくもらっとくぜ! 帰りはどのくらいの予定だ?」
日帰りのつもりだが、一応伝えておこう。
「今日の夕方か、明日の夕方ぐらいに予定しています」
「おっ、野郎もいたのか。兄ちゃん、こんな美人さんばかりの中に一人とは羨ましいな!」
「確かに美人さんばかりなので、ドキドキしますけどね」
「1年以上、高位組のレイドPTが行ってないから、奥の方は結構魔獣が溢れているそうだ。時々入口付近にまで中位の魔獣が出てくるらしいから気を付けるんだぞ」
「そうなんですか? 情報ありがとうございます」
「入り口付近の魔獣でも結構いい金になるらしいな? なんでも素材が枯渇してて高騰気味なんだとか言ってたな。でも湿地帯の魔獣は強いから、皆、平原の方に行くんだろ? 嬢ちゃんたちは大丈夫か?」
「ヤバそうなら直ぐ帰ってきますので大丈夫ですよ。これでも私たち、一応ゴールドランクPTですからね」
「嬢ちゃんたちゴールドランクなのか! そりゃ凄いな、怪我しないように頑張って稼いできなよ」
15分ほどで対岸に着き、船頭と別れた。
気さくなイイ感じのオヤジだった。沢山獲れたら、10kgほど肉をプレゼントしてやろう。
「さぁ、皆さん、お楽しみの肉狩り祭りですよ! 目標は牛とワニ肉です! ではサリエさんお願いします!」
「ん! お願いされた! サーシャ、アシストお願い!」
「いいけど……ナニ? 2人のそのテンションの高さ! サリエまで珍しいわね……それに肉狩り祭りって?」
「サーシャさんダメですよ! 牛肉ですよ? 牛丼、すき焼き、しゃぶしゃぶです! 肉祭りです!」
「何か知らないけど、私もテンション上がってきた! 牛丼、すき焼き、しゃぶしゃぶ! リョウマ君の料理だよね? サリエ、絶対見つけるわよ!」
「ん! リョウマの料理、絶対食べる!」
パーティーのテンションもMAX状態になり、意気揚々と湿地帯に足を踏み入れた。
だが、初戦闘はブルースライムだった。
そうですよね。
入り口付近をうろついてるのは、水系の低級魔獣ですよね……皆、一気にテンションが下がるのだった。
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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