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タリス湿原
6-2 サーシャさんのレンジャー講座
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スライムを一撃で倒し、魔石を取って少し冷静になった。
「いやー、ちょっとテンション上げ過ぎてました。やはり普通に行きましょう。途中でばてそうです」
「ん、問題ない。まずは、以前レイドで参加して牛を狩った付近に向かう」
「近くまで行って足跡が見つかればそこから追跡ができるわ。追跡は私に任せて」
「じゃあ、案内はサリエさんに、追跡はサーシャさんにお任せします。今回は技術習得が目的でもあるので、2人の後ろで見学させてもらいますね」
それから20分ほど歩いた辺りで2人が立ち止った。
「どうしましたか?」
「この足跡、何か分かる?」
「いえ、判りません」
「ゴブリンの足跡なんだけど、足跡の数から3頭居るのが分かるわ。それから足跡の乾燥具合や草木の踏まれた後の具合からおおよその時間が分かるの。さっき踏まれたばかりの後だから、すぐ近くに居るはずよ。弱いゴブリンだけど、不意打ちには注意しましょ」
「さっき踏まれたばかりってのはどう判断したのですか?」
「このゴブリンの足の形に窪んだ跡だけど、まだしっかりと湿っているでしょ? 空気に触れると時間とともに乾燥するから、土の部分の乾燥具合から判断しているの。未だ湿った状態なので、ついさっきって事ね。それと窪んだ深さなどから重さも大体分かるわね。自分の足跡の深さと比べるといいわ。正確には無理だけど、大体の判断基準にはなるでしょ? それとそこの草の踏まれた後に、草の汁が出るのだけど、それからも時間経過の判断ができるわ。時間経過とともに折れた茎が黄色く変色したりするのでよく観察することね。草の場合は草原や森なんかでも使えるから、覚えておくといいわね」
「へー、足跡1つでいろいろ分かるのですね」
「ここは特に湿地帯なので、足跡が顕著に残るでしょ? 気を付けないと、相手の情報も分かるけど、こちらも痕跡を残すのでそこは注意が必要よ」
「確かにそうですね。しかし、ゴブリンってホントどこにでも居ますね」
「今回は相手をしないで避けて通るわね。大してお金にもならないし、時間の無駄だから」
さらに20分ほど歩いた辺りで、サリエさんが立ち止って手招きをしてきた。
「ん、カエルがいる。どうする?」
「デスケロッグですか? それなら絶対狩ります」
「ん、でもオスはヤバい。動きも遅く弱いけど、舌攻撃の毒は掠っただけで即死級」
「補足しておくわね。デスケロッグは名前の通りオスは即死級の毒を舌に持っているわ。舌は10mほど伸ばしてくるので、どちらかというと中距離攻撃型ね。水面からこっそり顔だけ出して、舌でべちゃってやってくるからかなり厄介よ。只、水面から上がったら強さはオーク並みなので弱いわ。ヤバいのは舌攻撃ね。メスの方はほぼ無害よ。同じく舌攻撃をしてくるけど毒もないし、当たってもちょっと痛いぐらいかな。でも見た目も大きさも同じなのでどっちがオスなのか判断が付かないので舌攻撃は全部躱すしかないわ」
「サーシャさん、補足説明ありがとうです。全員に【プロテス】【シェル】【マジックシールド】を掛けておきますので、舌が当たる事はないので心配はないです。前回王狼の噛みつきで、ちょっとヒヤッとしたので俺のマジックシールドもレベル10まで上げています。余程じゃなければダメージは通らないので安心してください」
「リョウマ君のマジックシールドって、どれくらい守ってくれるのか聞いていい?」
「物理・魔法のダメージを10000まで吸収してくれます。【プロテス】で物理防御も強化されますので、パエルさんなんかゴブリンに10分ほど無抵抗で殴られ続けてもシールドは壊れないんじゃないですかね」
「10000って何それ? 嘘だよね?」
「ソシアさん、今更嘘ついてどうするのです? それにこれがあるから皆を誘ったんですよ。危険があるのだったら少数で来ようとか誘いませんって、俺の強気な自信もこのシールドがあるからなんですけどね」
「それならもっと早くいってよね! 実は私、ちょっとビビってたんだから! 昨日だって、夜不安でなかなか寝つけなかったのよ! いくらリョウマ君が強いと言っても、ここは20人以上の高ランクパーティーで来るような場所なんだから、きついの一発もらっちゃったら私なんかすぐ逝ける自信があるわ! 皆はゴールドランクだけど、私はシルバーランクなんだからね」
「すぐ逝けるって、自慢にもなってないじゃないですか。説明不足だったのは謝ります。そんなにムキにならないでください」
「実は私も超ビビってました!」
「え? コリンさんもですか?」
「「「私もよ!」」」
「あの、ごめんなさい。次からはちゃんと説明しますね」
あれま……皆不安だったようだ。
それなのに皆、付いてきたのは、参加すると言ったサリエさんとパエルさんが心配だったのだろう。
仲間想いの良いメンバーが揃っている。
「どうやらこの辺ね」
「どうやって狩るのですか?」
「行動範囲も広くないし、あまり賢くないので、こうやって水面をバシャバシャやってたら獲物が水辺に来たと思って出てくるわ……ほらやって来た」
「サーシャさん、そいつはメスのようです。さっそくお肉ゲットですね!」
「オス・メスの判別ができるのはありがたいわね。池の外に誘い出すね」
「あ! なんか一杯来ましたよ! メス4・オス1、オスが1匹混じってます!」
「了解です! 大丈夫、6匹くらいなら問題ないわ」
『灼熱の戦姫』の戦闘は安定している。見ていて危なげがない。舌攻撃は全てパエルさんが盾で弾いて防いでいる。革や食肉が採れる獲物はスピア系の魔法でちゃんと頭を狙っているので価値も下がらないだろう。流石としか言いようがない。
「どうやらこの池ではオスが1匹でメスが5匹のハーレムだったようね。でもオス・メスの判別ができるのっていいわね。安心感が違ってくる」
「さっそく目標のお肉が手に入りましたね。カエルの革も手に入ったので、俺の新しい革パンもできます。この調子でどんどん行きましょう」
それから10分ぐらい進んだ辺りで、また2人が立ち止った。
そこには幅3mの何かが体を引きずりながら通った後のような形跡がずっと続いていた。
「見た事ない後だけど、大きいわね。ワニかしら? サリエ分かる?」
「ん、多分カメ。前に見た……ワニはこんなに体を引き摺って歩かない」
「へー、サリエさんは野良パーティーに混ざってる分、物知りですね」
「経験で言えば、このクラン内ではサリエが一番なんだよね。クランがオフの時でも、野良パーティーに混ぜてもらって出かけているから、レベルもそうだけどお金もしこたま溜め込んでいるのよね」
「ん、欲しい物があるから、頑張ってる!」
「サリエさんは何が欲しくて頑張っているんですか?」
「ん、総ミスリルの剣。パエルがミスリルの盾を買ってから私も欲しくなった」
サリエさんはメイン武器がショートソードを使っていて、腰に30cmほどのナイフを刺している。
いつもショートソードしか使っていないが、本格的に戦闘する時はナイフを抜いて二刀流なんだと言っていた。
「ミスリル製は高いからね。パエルの盾だって2千万ほどしたよね」
「クランの借金を返す前に、またクランから500万も借りてしまったけどね。借金返済で必死だよ……」
「それは皆で決めた事でしょ。言いっこなしよ」
「そうですよ。前衛の盾役が崩れたらパーティーも危険なのですから。盾とヒーラーの装備の強化はクランなら最優先に行うのは当たり前ですよね。リョウマ君もそう思うでしょ?」
「人によっては火力重視の人もいますけどね。『攻撃は最大の防御だ』とか言ってね。でも、俺は防御重視派ですね」
「どうしてそう思うの? 理由が聞きたいわ」
「防御が鉄壁なら、守りよりアクションの大きい攻めの方が圧倒的に疲労が先に出るのですよ。疲れて動けなくなったところをゆっくり冷静に仕留めればいいのです」
「成程ね、ダメージが通らなければ、負ける事はないものね」
「あ! カメ居た!……どうする? 予想以上に大きいわね」
鑑識魔法で見てみた。
どれどれ……バイトタートルって言うのか。ステータスは大したことないけど、防御力がやたらと高いな。
血はお酒に垂らして飲むと臭みも無く、滋養強壮や精力増強になる。肝臓や心臓は新鮮なら刺身も美味しい。肉はコラーゲンたっぷりでぷるぷるしていて鍋にすると美味である……まんますっぽんじゃないか!
ハイハイ、カミツキガメ……まんまですね。
「皆さん、こいつめちゃくちゃ美味しいそうですよ。美容にもいいそうです。なんでもお肌が潤うとか」
「「「狩るわよ、リョウマ君!」」」
体高2m、横幅3m、体長5mのデカいカメだ。
動きはのろいが甲羅は堅く、ダメージが通らない。
手足を引っ込めて動かなくなった時には『灼熱の戦姫』のメンバーは諦めかけていた。
「皆さん、俺がどうやって、王狼を倒したか思い出しましょうね」
「あ! サーシャお願い!」
マチルダさんが甲羅の隙間から剣を首筋に少しだけ刺し込むことに成功し、サーシャさんがその刃に雷を落とした。中から雷で焼かれたため、流石に硬いカメも息絶えたようだ。
「上手く倒せたようですね。皆さん、これで美味しい鍋料理ができますよ!」
「お鍋楽しみだね! でも、これ剥ぎ取りどうする?」
「解体作業は俺が後でやりますので、大丈夫ですよ」
「そうなの? 任せていいの?」
それからも奥地の牛を目指して分け入ったのだが、なんかオークやゴブリンが増えてきた。
「これで、連続3回オークのパーティーに遭遇ですね。オークは美味しいからいいですけど、ちょっと多くない?」
「探索魔法掛けてみますね……あっ、コロニーがありますね。80頭ぐらいの集落ですけど、ジェネラルもいないし無視しませんか? 村や町の近くなら狩りますけど、時間の無駄です。オークは何頭か狩っているので、肉も十分ですしね」
「そうね、倒しても剥ぎ取りで時間が潰えちゃうもんね」
「あ! ワニが居た! 1㎞ほどの距離です。結構近くですね」
さっそく向かったのだが、ワニは食事中だった。
ゴブリンと戦闘中なのだが、一方的にワニが食ってるだけなのだ。なぜゴブリンは逃げないで最後の1匹になっても襲ってくるのかいつも不思議でたまらない。アホの一言で片づけてしまえばそれまでなのだが、上位種でも混ざってない限りはフォゴフォゴ言ってジャンプして威嚇しながら襲ってくるのだ。めちゃくちゃ弱いのに。
「ん! このワニは少し小ぶりだけど、リョウマいける?」
「ええ、問題ないですよ」
サリエさんと会話中だというのもあったが、剣も抜いてないところにワニが反転したかと思ったら、尻尾を俺に叩きつけてきた。
アッ!と思った時には俺とワニの尻尾の間にパエルさんが盾を構えて割って入っていた。
『ズドンッ!』という凄まじい打撃音とともに、パエルさんが15mほど吹っ飛ばされた。
咄嗟に割り込んだので足の踏ん張りも効いていなかったのだ。
シールドが解けて無いので大丈夫だと思うが、これは俺の油断だ。
ゴブリンを襲っている最中だから、こっちは襲わないだろうと決めつけて思っていたのだ。
「「「パエル!!」」」
「フェイ、パエルさんにリバフを! もし怪我をしてるようなら回復も頼む!」
「ハイです兄様!」
パエルさんはむくりと起き上って片手を上げ、こっちに大丈夫だというように安否を知らせてきた。
ふぅ、良かった……あの衝撃音を聞いたらシールドが有ってもやはり心配なものだ。
『灼熱の戦姫』の皆が頑張っているが、流石にワニは荷が重そうだ。
本来このワニは20人以上で狩る獲物らしいからね。
「皆、下がってください……俺がやります」
【ウィンダガカッター】5連で首チョンパだ……あっけなく3秒で終わった。
「パエルさん、大丈夫ですか?」
近くまで行くと、パエルさんは鼻をすすって泣いていた。
怖かったのかなと思ったのだが、盾がひしゃげて亀裂が入っていた。
皆が慰めているが一向に泣き止む気配がない。
借金も終わってないうちにダメになってしまったのだ……気持ちは解かる。
「パエルさん、俺の為にありがとうございます」
俺の声にハッとして、涙を拭って気丈にも笑って見せた。
「大丈夫です。余計な事をしたみたいですね。お互い怪我が無くて良かったです」
俺の為に割って入って、俺が変に気を使わないように無理して笑っているのだろう。
「兄様、あの……パエルさんの盾を―――
「皆まで言わなくても分かってるよ。パエルさんちょっとその盾見せてください。あーこりゃ修理はダメですね……ここまで亀裂が入ったら打ち直ししないと駄目っぽいかな」
【リペア】でも直せそうだが、今回はこっちかな【リストア】発動。
盾が黒い球体に包まれ一瞬青白く輝き、治まった時には綺麗に復元された盾が俺の手の中にあった。
「はいどうぞ。修理完了です」
「あのリョウマ君? 訳が分からないのだけど?」
「俺のオリジナル魔法です。時間を巻き戻す修理魔法かな」
パエルさんは盾を抱きしめてまた涙ぐんでいる。
うーん、ちょっと気に入らない。
「パエルさん、ちょっと盾を構えてみてください。今からファイアボールを撃ち込みますのでいつも耐えているようにしてみてください」
「エッ!?」
なぜ? みたいな顔で慌てていたが問答無用で撃ち込んだ。
「パエルさん、ちょっと体に触りますよ?」
俺はパエルさんの手の平や腕の長さ、つま先から頭のてっぺんまでペタペタ触って計測した。
男性恐怖症気味のパエルさんだったが、びくつきながらも我慢していた。
盾を取りあげ、インベントリに放り込み勝手に改造する。
そして完成したものがコレだ。
「どうぞパエルさん、パエルさん仕様に改造しました。慣れるまで違和感があるかも知れませんが、これがパエルさんにとって最適サイズなのですからこっちで馴染んでください」
「私の盾を勝手に改造したのですか? でも、どうやって? 少しの間預けただけなのに……」
「そうですね、気にいらなかったので勝手に改造しました」
「気にいらないとはどういう事です?」
「ちゃんと主人を守ったまではいいのですが、すぐ壊れるようでは三流品です。なので少々きついのをもらっても壊れないようにしました。まず火を受けた時、かなり縮こまって受けましたよね? あれじゃダメですのでサイズを少し大きくしました。持ち手の位置も少し下げたので、少し屈めば頭も完全に収まるはずです。材料を追加した際にミスリルにウーツ鋼を混ぜ強度を2倍にしてあります。その際、錬成時にスロットルに空きが3つできたので、【強度強化】【自己修復】【質量軽減】のエンチャント付与を付けています。持った感触はどうですか?」
「あの……これだと、もはやレジェンド級の盾なのですが?」
「気に入らないなら元に戻します……」
「いえ! リョウマ君ありがとう! 返せって言っても、もう返しませんからね!」
「パエルさんだけズルい! 私にも何か頂戴!」
「ソシアさんにも昨日イヤリングあげたじゃないですか」
「そうだけど……私も伝説級の武器か防具が欲しい!」
「ソシアさんにはまだ早いですね。身の丈に合った物を装備しなきゃ、武器や防具に頼った二流冒険者になってしましますよ」
「その言い方だと、パエルさんは、リョウマ君も認める一流って事?」
「そうですね……パエルさんサリエさんサーシャさんは一流の粋じゃないですかね。マチルダさんとコリンさんももうすぐってとこでしょうか。コリンさんは魔力操作と発動速度を上げる練習が要りますね。できれば【無詠唱】を覚えた方がいいですけどね……マチルダさんは、まぁ、こんなものでしょう」
「私、クランリーダーなのに……グスン」
「なにも強さが全てじゃないですよ。人望と信頼があるからリーダーとしてやっていけるのですから、それも1つの才能じゃないですか? 他の者がリーダーなら、これほど良いパーティーにはなってないのじゃないですかね?」
俺のうかつな発言でちょっと落ち込んだ人もいたが、ブレない人もいる。
「ん、パエル……その盾どう?」
「少し軽くなって、持ち手も握りやすくなってる。それに無理なく盾に隠れられるようになっているわね」
またサリエさんがなにか考え込んでるみたいだな。
ナビーに聞けば何考えているのか教えてくれるだろうけど、勝手に覗くのは流石に俺もダメだと思ってる。
「皆さんそろそろお昼ご飯にしましょうか?」
「「「お昼ご飯!!」」」
「牛でも狩れたらバーベキューにする予定だったのですが、どうしましょうかね?」
「「「バーベキューがイイ!」」」
「じゃあ、牛の代わりにオークとカエルとワニを少し出しますかね」
ワニをインベントリに放り込み、ナビー工房で速攻で解体してもらった。
熟成はまだだが、つまみ食いする分ぐらい別にイイだろう。
さて、この2匹のゲテモノはどんな味がするのやら。
「いやー、ちょっとテンション上げ過ぎてました。やはり普通に行きましょう。途中でばてそうです」
「ん、問題ない。まずは、以前レイドで参加して牛を狩った付近に向かう」
「近くまで行って足跡が見つかればそこから追跡ができるわ。追跡は私に任せて」
「じゃあ、案内はサリエさんに、追跡はサーシャさんにお任せします。今回は技術習得が目的でもあるので、2人の後ろで見学させてもらいますね」
それから20分ほど歩いた辺りで2人が立ち止った。
「どうしましたか?」
「この足跡、何か分かる?」
「いえ、判りません」
「ゴブリンの足跡なんだけど、足跡の数から3頭居るのが分かるわ。それから足跡の乾燥具合や草木の踏まれた後の具合からおおよその時間が分かるの。さっき踏まれたばかりの後だから、すぐ近くに居るはずよ。弱いゴブリンだけど、不意打ちには注意しましょ」
「さっき踏まれたばかりってのはどう判断したのですか?」
「このゴブリンの足の形に窪んだ跡だけど、まだしっかりと湿っているでしょ? 空気に触れると時間とともに乾燥するから、土の部分の乾燥具合から判断しているの。未だ湿った状態なので、ついさっきって事ね。それと窪んだ深さなどから重さも大体分かるわね。自分の足跡の深さと比べるといいわ。正確には無理だけど、大体の判断基準にはなるでしょ? それとそこの草の踏まれた後に、草の汁が出るのだけど、それからも時間経過の判断ができるわ。時間経過とともに折れた茎が黄色く変色したりするのでよく観察することね。草の場合は草原や森なんかでも使えるから、覚えておくといいわね」
「へー、足跡1つでいろいろ分かるのですね」
「ここは特に湿地帯なので、足跡が顕著に残るでしょ? 気を付けないと、相手の情報も分かるけど、こちらも痕跡を残すのでそこは注意が必要よ」
「確かにそうですね。しかし、ゴブリンってホントどこにでも居ますね」
「今回は相手をしないで避けて通るわね。大してお金にもならないし、時間の無駄だから」
さらに20分ほど歩いた辺りで、サリエさんが立ち止って手招きをしてきた。
「ん、カエルがいる。どうする?」
「デスケロッグですか? それなら絶対狩ります」
「ん、でもオスはヤバい。動きも遅く弱いけど、舌攻撃の毒は掠っただけで即死級」
「補足しておくわね。デスケロッグは名前の通りオスは即死級の毒を舌に持っているわ。舌は10mほど伸ばしてくるので、どちらかというと中距離攻撃型ね。水面からこっそり顔だけ出して、舌でべちゃってやってくるからかなり厄介よ。只、水面から上がったら強さはオーク並みなので弱いわ。ヤバいのは舌攻撃ね。メスの方はほぼ無害よ。同じく舌攻撃をしてくるけど毒もないし、当たってもちょっと痛いぐらいかな。でも見た目も大きさも同じなのでどっちがオスなのか判断が付かないので舌攻撃は全部躱すしかないわ」
「サーシャさん、補足説明ありがとうです。全員に【プロテス】【シェル】【マジックシールド】を掛けておきますので、舌が当たる事はないので心配はないです。前回王狼の噛みつきで、ちょっとヒヤッとしたので俺のマジックシールドもレベル10まで上げています。余程じゃなければダメージは通らないので安心してください」
「リョウマ君のマジックシールドって、どれくらい守ってくれるのか聞いていい?」
「物理・魔法のダメージを10000まで吸収してくれます。【プロテス】で物理防御も強化されますので、パエルさんなんかゴブリンに10分ほど無抵抗で殴られ続けてもシールドは壊れないんじゃないですかね」
「10000って何それ? 嘘だよね?」
「ソシアさん、今更嘘ついてどうするのです? それにこれがあるから皆を誘ったんですよ。危険があるのだったら少数で来ようとか誘いませんって、俺の強気な自信もこのシールドがあるからなんですけどね」
「それならもっと早くいってよね! 実は私、ちょっとビビってたんだから! 昨日だって、夜不安でなかなか寝つけなかったのよ! いくらリョウマ君が強いと言っても、ここは20人以上の高ランクパーティーで来るような場所なんだから、きついの一発もらっちゃったら私なんかすぐ逝ける自信があるわ! 皆はゴールドランクだけど、私はシルバーランクなんだからね」
「すぐ逝けるって、自慢にもなってないじゃないですか。説明不足だったのは謝ります。そんなにムキにならないでください」
「実は私も超ビビってました!」
「え? コリンさんもですか?」
「「「私もよ!」」」
「あの、ごめんなさい。次からはちゃんと説明しますね」
あれま……皆不安だったようだ。
それなのに皆、付いてきたのは、参加すると言ったサリエさんとパエルさんが心配だったのだろう。
仲間想いの良いメンバーが揃っている。
「どうやらこの辺ね」
「どうやって狩るのですか?」
「行動範囲も広くないし、あまり賢くないので、こうやって水面をバシャバシャやってたら獲物が水辺に来たと思って出てくるわ……ほらやって来た」
「サーシャさん、そいつはメスのようです。さっそくお肉ゲットですね!」
「オス・メスの判別ができるのはありがたいわね。池の外に誘い出すね」
「あ! なんか一杯来ましたよ! メス4・オス1、オスが1匹混じってます!」
「了解です! 大丈夫、6匹くらいなら問題ないわ」
『灼熱の戦姫』の戦闘は安定している。見ていて危なげがない。舌攻撃は全てパエルさんが盾で弾いて防いでいる。革や食肉が採れる獲物はスピア系の魔法でちゃんと頭を狙っているので価値も下がらないだろう。流石としか言いようがない。
「どうやらこの池ではオスが1匹でメスが5匹のハーレムだったようね。でもオス・メスの判別ができるのっていいわね。安心感が違ってくる」
「さっそく目標のお肉が手に入りましたね。カエルの革も手に入ったので、俺の新しい革パンもできます。この調子でどんどん行きましょう」
それから10分ぐらい進んだ辺りで、また2人が立ち止った。
そこには幅3mの何かが体を引きずりながら通った後のような形跡がずっと続いていた。
「見た事ない後だけど、大きいわね。ワニかしら? サリエ分かる?」
「ん、多分カメ。前に見た……ワニはこんなに体を引き摺って歩かない」
「へー、サリエさんは野良パーティーに混ざってる分、物知りですね」
「経験で言えば、このクラン内ではサリエが一番なんだよね。クランがオフの時でも、野良パーティーに混ぜてもらって出かけているから、レベルもそうだけどお金もしこたま溜め込んでいるのよね」
「ん、欲しい物があるから、頑張ってる!」
「サリエさんは何が欲しくて頑張っているんですか?」
「ん、総ミスリルの剣。パエルがミスリルの盾を買ってから私も欲しくなった」
サリエさんはメイン武器がショートソードを使っていて、腰に30cmほどのナイフを刺している。
いつもショートソードしか使っていないが、本格的に戦闘する時はナイフを抜いて二刀流なんだと言っていた。
「ミスリル製は高いからね。パエルの盾だって2千万ほどしたよね」
「クランの借金を返す前に、またクランから500万も借りてしまったけどね。借金返済で必死だよ……」
「それは皆で決めた事でしょ。言いっこなしよ」
「そうですよ。前衛の盾役が崩れたらパーティーも危険なのですから。盾とヒーラーの装備の強化はクランなら最優先に行うのは当たり前ですよね。リョウマ君もそう思うでしょ?」
「人によっては火力重視の人もいますけどね。『攻撃は最大の防御だ』とか言ってね。でも、俺は防御重視派ですね」
「どうしてそう思うの? 理由が聞きたいわ」
「防御が鉄壁なら、守りよりアクションの大きい攻めの方が圧倒的に疲労が先に出るのですよ。疲れて動けなくなったところをゆっくり冷静に仕留めればいいのです」
「成程ね、ダメージが通らなければ、負ける事はないものね」
「あ! カメ居た!……どうする? 予想以上に大きいわね」
鑑識魔法で見てみた。
どれどれ……バイトタートルって言うのか。ステータスは大したことないけど、防御力がやたらと高いな。
血はお酒に垂らして飲むと臭みも無く、滋養強壮や精力増強になる。肝臓や心臓は新鮮なら刺身も美味しい。肉はコラーゲンたっぷりでぷるぷるしていて鍋にすると美味である……まんますっぽんじゃないか!
ハイハイ、カミツキガメ……まんまですね。
「皆さん、こいつめちゃくちゃ美味しいそうですよ。美容にもいいそうです。なんでもお肌が潤うとか」
「「「狩るわよ、リョウマ君!」」」
体高2m、横幅3m、体長5mのデカいカメだ。
動きはのろいが甲羅は堅く、ダメージが通らない。
手足を引っ込めて動かなくなった時には『灼熱の戦姫』のメンバーは諦めかけていた。
「皆さん、俺がどうやって、王狼を倒したか思い出しましょうね」
「あ! サーシャお願い!」
マチルダさんが甲羅の隙間から剣を首筋に少しだけ刺し込むことに成功し、サーシャさんがその刃に雷を落とした。中から雷で焼かれたため、流石に硬いカメも息絶えたようだ。
「上手く倒せたようですね。皆さん、これで美味しい鍋料理ができますよ!」
「お鍋楽しみだね! でも、これ剥ぎ取りどうする?」
「解体作業は俺が後でやりますので、大丈夫ですよ」
「そうなの? 任せていいの?」
それからも奥地の牛を目指して分け入ったのだが、なんかオークやゴブリンが増えてきた。
「これで、連続3回オークのパーティーに遭遇ですね。オークは美味しいからいいですけど、ちょっと多くない?」
「探索魔法掛けてみますね……あっ、コロニーがありますね。80頭ぐらいの集落ですけど、ジェネラルもいないし無視しませんか? 村や町の近くなら狩りますけど、時間の無駄です。オークは何頭か狩っているので、肉も十分ですしね」
「そうね、倒しても剥ぎ取りで時間が潰えちゃうもんね」
「あ! ワニが居た! 1㎞ほどの距離です。結構近くですね」
さっそく向かったのだが、ワニは食事中だった。
ゴブリンと戦闘中なのだが、一方的にワニが食ってるだけなのだ。なぜゴブリンは逃げないで最後の1匹になっても襲ってくるのかいつも不思議でたまらない。アホの一言で片づけてしまえばそれまでなのだが、上位種でも混ざってない限りはフォゴフォゴ言ってジャンプして威嚇しながら襲ってくるのだ。めちゃくちゃ弱いのに。
「ん! このワニは少し小ぶりだけど、リョウマいける?」
「ええ、問題ないですよ」
サリエさんと会話中だというのもあったが、剣も抜いてないところにワニが反転したかと思ったら、尻尾を俺に叩きつけてきた。
アッ!と思った時には俺とワニの尻尾の間にパエルさんが盾を構えて割って入っていた。
『ズドンッ!』という凄まじい打撃音とともに、パエルさんが15mほど吹っ飛ばされた。
咄嗟に割り込んだので足の踏ん張りも効いていなかったのだ。
シールドが解けて無いので大丈夫だと思うが、これは俺の油断だ。
ゴブリンを襲っている最中だから、こっちは襲わないだろうと決めつけて思っていたのだ。
「「「パエル!!」」」
「フェイ、パエルさんにリバフを! もし怪我をしてるようなら回復も頼む!」
「ハイです兄様!」
パエルさんはむくりと起き上って片手を上げ、こっちに大丈夫だというように安否を知らせてきた。
ふぅ、良かった……あの衝撃音を聞いたらシールドが有ってもやはり心配なものだ。
『灼熱の戦姫』の皆が頑張っているが、流石にワニは荷が重そうだ。
本来このワニは20人以上で狩る獲物らしいからね。
「皆、下がってください……俺がやります」
【ウィンダガカッター】5連で首チョンパだ……あっけなく3秒で終わった。
「パエルさん、大丈夫ですか?」
近くまで行くと、パエルさんは鼻をすすって泣いていた。
怖かったのかなと思ったのだが、盾がひしゃげて亀裂が入っていた。
皆が慰めているが一向に泣き止む気配がない。
借金も終わってないうちにダメになってしまったのだ……気持ちは解かる。
「パエルさん、俺の為にありがとうございます」
俺の声にハッとして、涙を拭って気丈にも笑って見せた。
「大丈夫です。余計な事をしたみたいですね。お互い怪我が無くて良かったです」
俺の為に割って入って、俺が変に気を使わないように無理して笑っているのだろう。
「兄様、あの……パエルさんの盾を―――
「皆まで言わなくても分かってるよ。パエルさんちょっとその盾見せてください。あーこりゃ修理はダメですね……ここまで亀裂が入ったら打ち直ししないと駄目っぽいかな」
【リペア】でも直せそうだが、今回はこっちかな【リストア】発動。
盾が黒い球体に包まれ一瞬青白く輝き、治まった時には綺麗に復元された盾が俺の手の中にあった。
「はいどうぞ。修理完了です」
「あのリョウマ君? 訳が分からないのだけど?」
「俺のオリジナル魔法です。時間を巻き戻す修理魔法かな」
パエルさんは盾を抱きしめてまた涙ぐんでいる。
うーん、ちょっと気に入らない。
「パエルさん、ちょっと盾を構えてみてください。今からファイアボールを撃ち込みますのでいつも耐えているようにしてみてください」
「エッ!?」
なぜ? みたいな顔で慌てていたが問答無用で撃ち込んだ。
「パエルさん、ちょっと体に触りますよ?」
俺はパエルさんの手の平や腕の長さ、つま先から頭のてっぺんまでペタペタ触って計測した。
男性恐怖症気味のパエルさんだったが、びくつきながらも我慢していた。
盾を取りあげ、インベントリに放り込み勝手に改造する。
そして完成したものがコレだ。
「どうぞパエルさん、パエルさん仕様に改造しました。慣れるまで違和感があるかも知れませんが、これがパエルさんにとって最適サイズなのですからこっちで馴染んでください」
「私の盾を勝手に改造したのですか? でも、どうやって? 少しの間預けただけなのに……」
「そうですね、気にいらなかったので勝手に改造しました」
「気にいらないとはどういう事です?」
「ちゃんと主人を守ったまではいいのですが、すぐ壊れるようでは三流品です。なので少々きついのをもらっても壊れないようにしました。まず火を受けた時、かなり縮こまって受けましたよね? あれじゃダメですのでサイズを少し大きくしました。持ち手の位置も少し下げたので、少し屈めば頭も完全に収まるはずです。材料を追加した際にミスリルにウーツ鋼を混ぜ強度を2倍にしてあります。その際、錬成時にスロットルに空きが3つできたので、【強度強化】【自己修復】【質量軽減】のエンチャント付与を付けています。持った感触はどうですか?」
「あの……これだと、もはやレジェンド級の盾なのですが?」
「気に入らないなら元に戻します……」
「いえ! リョウマ君ありがとう! 返せって言っても、もう返しませんからね!」
「パエルさんだけズルい! 私にも何か頂戴!」
「ソシアさんにも昨日イヤリングあげたじゃないですか」
「そうだけど……私も伝説級の武器か防具が欲しい!」
「ソシアさんにはまだ早いですね。身の丈に合った物を装備しなきゃ、武器や防具に頼った二流冒険者になってしましますよ」
「その言い方だと、パエルさんは、リョウマ君も認める一流って事?」
「そうですね……パエルさんサリエさんサーシャさんは一流の粋じゃないですかね。マチルダさんとコリンさんももうすぐってとこでしょうか。コリンさんは魔力操作と発動速度を上げる練習が要りますね。できれば【無詠唱】を覚えた方がいいですけどね……マチルダさんは、まぁ、こんなものでしょう」
「私、クランリーダーなのに……グスン」
「なにも強さが全てじゃないですよ。人望と信頼があるからリーダーとしてやっていけるのですから、それも1つの才能じゃないですか? 他の者がリーダーなら、これほど良いパーティーにはなってないのじゃないですかね?」
俺のうかつな発言でちょっと落ち込んだ人もいたが、ブレない人もいる。
「ん、パエル……その盾どう?」
「少し軽くなって、持ち手も握りやすくなってる。それに無理なく盾に隠れられるようになっているわね」
またサリエさんがなにか考え込んでるみたいだな。
ナビーに聞けば何考えているのか教えてくれるだろうけど、勝手に覗くのは流石に俺もダメだと思ってる。
「皆さんそろそろお昼ご飯にしましょうか?」
「「「お昼ご飯!!」」」
「牛でも狩れたらバーベキューにする予定だったのですが、どうしましょうかね?」
「「「バーベキューがイイ!」」」
「じゃあ、牛の代わりにオークとカエルとワニを少し出しますかね」
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熟成はまだだが、つまみ食いする分ぐらい別にイイだろう。
さて、この2匹のゲテモノはどんな味がするのやら。
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