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商都ハーレン

7-1 親子の行く末

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 さて、例の親子の事が気になるので向かうとする。

「兄様、あの親子の所に行くのですね?」

「ああそうだ……サリエさんも来たいなら最初から言えばいいでしょ。後を付けないでください」
「ん! また見つかった! 今度はかなり本気だったのに。フェイちゃんも気付いてた?」

「はい。兄様と同じ探索魔法を持っていますからね」
「俺たちを尾行とか無理ですよ……探索魔法もそうですが、【気配察知】とか【魔力察知】なんかも有るので、視線は敏感に感じ取れるのです」

「ん、そこまで詳細にわかるの?」

「俺の探索魔法は人や魔獣の生物はカテゴリーごとに色で表示されますからね。仲間を表す色をした人がずっと付いてきたらすぐ分かるでしょ?」

「ん、納得。私も付いて行っていい? あの親子の事、気になってるの……」

「そうですね、いいですよ」



 ギルドから歩く事15分、ナシルさん親子が暮らす長屋に到着した。


「あ! リョウマのお兄ちゃん! 本当に来てくれた!」
「なんだよ、来ないかもとか思ってたのか?」

「そんな事ないけど、フレンド登録とかしていなかったし、昨日は来てくれなかったから……ひょっとしたらもう来てくれない事もあるかもとか……ちょっと思っちゃったの」

「ああ、そうだった。悪かった……フレンド登録してなかったな。それでちょっと不安だったのか」
「うん……だって冒険者はお父さんみたいにいつ死んでもおかしくないからね」

「確かに違いない。お母さんはちゃんと大人しくしていたか?」
「うん、『早く仕事を探さないと……』って、不安そうにしてたけど、私がしっかり監視してたから大丈夫だよ」

 やはり女手一つになってしまったのだ、今後の生活の不安はあるのだろう。

「ナシルさん今晩は。顔色も良くなってますね? 体調はどんな感じですか?」
「リョウマ君、ありがとうございます。もうすっかり良くなりました。明日からでも仕事しても大丈夫ですよ」

「それは良かったです。念のためもう1回診ますので、また服を脱いでください」

 服を脱げと言われて顔を真っ赤にしているが、あのマッサージを受けられるのかと期待しているのが目に見てわかるほどだ。前回と違って自分から服を脱いでベッドに横になった。

 うん、やっぱ11歳の子持ちの28歳の体には見えん。けしからんほど良い体をしている。

「う~ん……完全には治ってなかったですね。内臓がまだ完治してなかったようですが、今回ので治るでしょう【アクアガヒール】それとマッサージもしておきますね。フェイも手伝え」
「はい、兄様。前回よりずっと良くなってますね。もう心配ないぐらいです」

「そうだな、放置しても自己治癒しそうだけど、完治しておくぞ」

 前回同様ナシルさんは人前でしてはいけない顔になっている。

「お母さん……そんなに気持ちいいの? 顔がなんか変だよ」
「エッ! だって、本当に気持ちが良いのよ……」

 メリルは母親をちょっと可哀想な者を見るような目で見ている。

「メリルはあまり必要ないと思うけど、神殿巫女候補の大事な体だからな念のためにお前も診てやろうか?」
「お兄ちゃんいいの? 私も見て欲しい!」

「じゃあ、脱げ!」

 なんだこの子……真っ黒じゃないか!? どういう事だ? これ、メリルの奴、かなり辛いのじゃないか?

「おいメリル! お前いつも怠いの我慢してるだろ?」
「え? いつもどおりこんなだよ? 特に疲れてないよ?」

『ナビー、どういう事だ? なんでか解るか?』
『……おそらくですが、強い魔力を持っているのに魔力循環が全くできていないための弊害ではないでしょうか? 本人は幼少の頃より怠いのが普通なので、ただ気付いてないのでしょう』

『ユグちゃんの意見はどうだ? 聞いてみてくれ』
『はい、私もナビーと同意見です。創主様、お手数おかけして申し訳ないです』

『お前が謝る事でもないだろう。解った、魔力制御の方も何とかするので任せておけ』

「メリル、お前は魔力が一般人よりかなり高いようだ。そのくせ魔力制御が全くできていない為に魔力が体でうまく循環できずに弊害になっている。本当は上手く扱えば、歳を取ってもいつまでも若々しく健康な体を維持できるんだぞ。今から変に溜まって滞っている魔力を散らしてやるからな」



「ひゃ~! お兄ちゃん、なにこれー! 気持ちいい!」

 正直母親のナシルさんより厄介だった。20分程掛けてフェイと2人がかりで余剰分の魔力を散らしてやったのだが、この処置は一時凌ぎにしかならない。数日でまた余剰魔力が停滞するのは目に見えている。

「どうだ、楽になっただろう?」
「ホントだ! 凄い体が軽い! 気分も凄くいい!」

「本当なら、調子がいい時はそれが普通の状態なんだぞ。高すぎる魔力のせいでいつも怠いんだ。それを何とかしない事には、また、怠い状態に戻ってしまう」

「お兄ちゃん……私どうしたらいいの?」
「お母さんと、自分の身の振り方をどうするか話はしたか?」

「リョウマ君、この2日間にメリルと話しました。もし可能であるなら神殿の巫女様になってほしいです」
「私、巫女様になれるのならなりたいです」

「解った。ナシルさんは仕事はどんな仕事がしたいとかの希望はありますか?」
「今は選んでいられませんので、どんな事でもやるつもりです」

「そうですか……何でもいいならそのとても素敵な体を生かして、娼館とか―――

 しゃべってる最中に、サリエさんに無言で後頭部を引っ叩かれて言葉を止められた。

「あの……それはちょっと……ごめんなさい」

「兄様、子供の前で良くそんな事が言えますね! 冗談でもお止め下さい!」
「メリル悪かったよ。本当に冗談なのに、サリエさんも引っ叩く事ないだろ……」
「ん! 冗談でも子供の前で今のはダメ!」

「ナシルさんにお聞きします。メリルが神殿に上がったら、その間は最低でも3年間ナシルさんは1人になります。その間メリルには国から高額な給金が出ますし、神殿を出た後も準男爵として爵位が与えられ、毎月国から給金が生きている間は支払われるそうなのでお金の心配は要らなくなります。でも3年間は余程の事が無い限り辞める事は許されません。一度神殿入りしておいて途中で辞めるのは神を冒涜する行為だそうで、各国何処の国の法律でも実刑にあたるそうです。1人になる事は大丈夫ですか? 寂しくなってメリルに縋ってしまうとメリルが刑に処されてしまいます。ちゃんと我慢できますか?」

「確かに主人も無くなって、親子2人だけになってしまいました。結婚時、家族の反対を押し切って家を出てしまっているので頼れる親族もいません。でも娘の負担になるような事はしないつもりです。神殿を出られた巫女様は、ほとんどの方が幸せになられていると聞いています。素敵な縁談も選り取り見取りだそうですね。私はできるだけメリルの好きなようにさせてあげようと思っています」

「メリルもその辺の覚悟はできているのか?」
「うん、お兄ちゃん! メリル本当になれるなら巫女様になりたい! お母さんを1人にするのは凄く心配だけど、お金の心配が無くなるのならそれだけでも行く価値はあるよね?」

「まぁ、そうだな。特に水神殿は巫女の最高峰だしな。爵位と名誉とお金が同時に手に入る。その分人に注目されるからどんなに困ってもこないだのような事はしてはいけないよ。これまで巫女様たちが積み重ねた名誉や信頼を台無しにする行為だからね」

「うん、ごめんなさい。2度としないよ」

 思い出したのかちょっと涙目になっている。

「でもどうしようかな……本当はガラ商会にでも仕事を斡旋させようかと考えていたんだけど。メリルの魔力循環の事は急務だしな。うーん……仕方ないな、やっぱこれしかないかな。ナシルさんとメリルは、神殿入りするまでの間、冒険者になってもらいます。街の周りでの簡単な薬草採取や雑用などをやって、日銭を稼いでもらう程度ですがどうですか?」

「私が冒険者ですか!? 剣に触れた事すらないのですよ? とても無理だと思うのですが?」
「私、冒険者なりたい! ちょっと怖いけど、頑張れば稼げるってお父さんいつも言ってたもん」

「まったく危険が無いとは言いませんが、日銭を稼ぐぐらいなら危険は少ないのですよ。オークぐらいは余裕で倒せる程度までは俺が面倒を見ますので安心してください。その間にメリルの魔力制御とヒール魔法の習得、薬草から回復剤の作り方を教えますので、それを売れるようなレベルまでにできれば、もうお金の心配はないでしょう」

「回復剤の作り方なんて教えて頂けるのですか?」

「薬草を一生懸命採取すれば1日3万ほど稼げますが、毎日出かけると徐々に採取場所が森や林の奥になってしまうのですよ。そうなると危険な魔獣が出るのでダメです。それより薬草を採って、それを回復剤にしてから売ると良いお金になりますし、期間を開ける事により、決まった何カ所かの採取場をローテンションする事で、安全かつ効率よく稼げるようになります。まぁ、あまりにもあなたたちがどんくさく、冒険者が無理そうだったら次の手を打ちますけどね。どうしますか? 俺に任せてみませんか?」

「お母さんお願いしようよ! また変なとこ行って、安いお給金で過労で倒れる程働かされるよりお兄ちゃんの方が安心できるよ!」

「それもそうね……未経験でご迷惑かけるかもですが、よろしくお願いします」

「了解しました。メリル、お前に投資してやる。初心者用の装備と剣をお前たち親子にあげるから、神殿に上がったら、給金の中から返済するように。それと現金90万だ、前回の10万と合わせて100万だ。これも貸しておいてやる」

「お兄ちゃん……そんな大金借りても返せないよ~」
「メリル、神殿巫女の給金のたった3か月分ほどだ。あっという間に返せるよ」

「神殿の巫女様って、そんなにもらえるの!?」

 親子で驚いている。一般の稼ぎの倍以上あるからね……驚くのも無理はない。

「それほどの名誉職なんだ。なりたくてなれる職じゃないからな。どうする? 10万だけじゃ、あっという間に家賃だけで消えてしまうぞ? 巫女になる覚悟を決めたんじゃなかったのか?」

「貧乏で育ったので、100万とか言われたらビビっちゃうよ」
「それもそうか……で、どうする?」

「リョウマのお兄ちゃん、貸してください! きっと神殿巫女になって返します」
「よし、いい返事だ! じゃあ、合計100万の貸しだ。【亜空間倉庫】はあるな? 落とさないようにちゃんと入れておくんだぞ」


 話も纏まったし、ちょいフィリアに報告だな。

『フィリア、今いいかな?』
『リョウマか? 大丈夫じゃ、ハーレンの神殿からお礼のコールがあったぞ。寄付してくれたそうじゃな? ありがとうじゃ。子供たちもとても喜んでおるみたいじゃったぞ』

『そうか、フィリアにも連絡あったんだ。そっちの神殿にも明日送るからね。ワニ・牛・カエル・ナマズ・カニ・魚・エビ・カメ、どれも美味しいから楽しみにしてて。あーどうしようかな、一度神殿に帰って俺が料理した方がいいのかな? レシピだけじゃ、サクラも悩むだろうしな』

『本当か!? 帰ってくるのか! 約束じゃぞ! ナナにも言うからな!』
『今日はフィリアに紹介したい子がいるから連絡したんだ。メリルおいで、水神殿の巫女長のフィリア様だ。挨拶できるか?』

『うん。フィリア様! メリルと言います。よろしくお願いします!』
『よし、元気でいい挨拶だ!』

 言葉は足りていないが、元気な声が出ていた。

『ふむ、フィリアじゃ。なかなか可愛い子じゃのう。リョウマの知り合いか?』
『フィリア、この子は2年後に水神殿の巫女入りする予定の子なんだ。ちょっと神様の神託で、今、俺が面倒を見ている。俺の3番弟子になる予定なので、フィリアの妹弟子にあたるのかな。まだ信仰値が80を行ったり来たりしている状態なので、今年は神託が降りなかったが、俺が面倒を見るから、2年後の13歳になった時には確実にそっちに行くだろう。よろしく頼むね。この子の紹介もかねて近いうちに一度そっちに行くよ』

『なんとそうであったか! メリルとやら、歓迎するぞ! フム、賢そうな子じゃ、ナナと良い友だちになれそうじゃな』

『ああ、俺もそう思うよ。じゃあ、肉の事は帰ってからにするので、皆にはまだ内緒にしておいてもらえるかな?』

『了解じゃ! 其方が帰ってくると皆喜ぶぞ! 妾も楽しみじゃ! で、いつぐらいにこちらに来られそうじゃ?』

『そうだね……指名の護衛依頼が入ってるのでそれ以降になるから、早くても20日ほど後かな』
『たったそれだけで来られるのか?』

『ガストの村付近まで【テレポート】で行けるからね。残念ながら、神殿の登録地点が神殿の内部にしてあるんだよね。万が一メリルが結界で弾かれてしまうといけないから、ガストからは徒歩で行くよ。20日ってのはその歩きの分の日数が大きいんだけどね。メリルはまだ11歳だから無理はできないし。俺だけなら今すぐ3秒で帰れるんだけどね』

『なんじゃと! 3秒で帰って来られるじゃと!』
『あ! しまった……あはは!』

『妾たちに散々心配させておいて、直ぐ帰って来られるのに帰って来んのか……お前という奴は! ナナがどれ程お前に会いたがっておるのか知らぬはずが無かろうに!』

『違うんだ、フィリア! ちょっと落ち着いて聞いてくれ! 神殿は居心地が良すぎるのでダメなんだよ。ある程度心に余裕ができた今だからいいけど、あの当時は帰ったらいけなかったんだ』

『ムーッ、また上手い事言ってすぐはぐらかそうとする! まぁ、よい……ちゃんと帰ってくるのだぞ』

『ああ、約束する。メリルも顔見せに連れて行くからそっちで3日ほど世話になるね』

『3日と言わずとも、もっと居ればよいのじゃ』
『俺にも都合があるからね。皆にも3日と言っておいてほしい。転移魔法でふらっと帰れるぐらいの気軽い雰囲気だといいんだけどな』

『解った。皆にもそう伝えておく』

『今度ゆっくり連絡するね。その時この子の母親も紹介するよ』



 通話を終え、明日ギルド登録に行くので1時に迎えに来るとナシルさんたちと約束した。
 宿屋への帰り道でサリエさんが、話しかけてきた。

「ん、リョウマは最初から冒険者にする気だった?」
「いや……メリルが神殿入りするまでの間、ハーレンの神殿にお手伝いとして母親を就職させるか、イリスさんに何かいい職を斡旋してもらうか、ガラ商会に恩を返させてどっか2年しのげる程度雇ってもらう考えだった。冒険者は一応最終候補で考えてはいたけどね。魔力制御しないとメリルの倦怠感が取れないのを知ってしまったから、人任せに放置できない。それなら俺が連れ回して直接指導した方がいいからね」


 サリエさんはウンと頷き、その後は宿屋まで黙って付いてきた。
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