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商都ハーレン

7-10 アクセサリーショップ(後編)

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 スポンサーはどうやら見つかったようだ。王子の叔父にあたる公爵だそうだが、白王狼とサーベルタイガーを買い取ってくれた公爵夫人に対抗意識メラメラで、『向こうが5億なら、こっちは10億までなら用意する』と言っているそうだ。叔父と叔母という事は兄妹なのだろうに……仲悪いのかな?

「でもお姉さん、そうなったらここの領主の納品はどうするのです? まさか耐毒の付いた劣化品を渡すとかじゃないよね?」

「そんな事をしたら領主様に恥をかかせ、御顔を潰す事になってしまいます。今回うちの商会は領主様の方は辞退させてもらう事にいたします」

 知らん顔で領主の顔を潰し、店側だけ利益を得ることもできるのに、このお姉さんは辞退するのか。
 誠実な商いをするのなら、知ってる情報でアドバイスしてあげようかな。

「誕生祝で叔母の公爵は王子に白狼王の牙をエンチャント素材にしたオリハルコンの剣を、姫にはサーベルタイガーの牙を素材にしたミスリルの剣を作っているそうです。それにちなんだ狼と虎をモチーフにしたデザインの帯剣用のアクセサリーとかならお姉さんの面目も立つんじゃない?」

「なぜそのような情報をお持ちなのですか?」
「まだこの情報は秘密にしておいてくれるかな? 現在その剣はガラ商会で作製中なんだけど、秘密にして王子たちを驚かせてあげたいそうなんだ。その魔獣を狩ったのが俺たちなので情報は確かだよ」

「そうだったのですか。勿論秘密はお約束します。狼と虎をモチーフにしたオリハルコンとミスリル製の帯剣用アクセサリーをさっそく作らせるようにします。良い情報をありがとうございます」

「じゃあ、さっさと付与しますので、王子と姫用の物を持ってきてください。勿論付与無し品ですよ」
「ああ! そういう事でしたのね! 付与は自分で付けるので、これまで付与無し品ばかりお選びに……納得です! すっきりしました。ずっと不思議に思っていたのです。中途半端な物なら買わない方が良いのにと思いながらも、あまり突っ込んで聞いちゃ失礼だと思って言えなかったのです」


 奥から持ってきたものはオリハルコン製のネックレスだった。
 どちらも空きが3つある。

「何を付けましょうか? 付与はどちらも3つ付けられるけど、魔石の価値って1個どれくらいなの?」
「火竜の魔石が1個3億程です。土竜だと需要が少ないので1億程に下がってしまいます。白鯨は1個5億もします。雷鳥は4億程ですね」

「【毒無効】の付与は幾らの価値がある? 【無病息災】【エアーコンディショナー】【疲労回復】の価値も知りたい」
「付与魔法の価値は欲しいと思う人にとっては無限の価値があるのです。特に決まった額はありませんが、最低基準として私の過去の知識と照らし合わせて独自の基準で算定しますね。【毒無効】は10億程の価値があると思われます。【無病息災】は20億でも出す方はいるでしょう。死ぬまで病気にかからないとかありえない付与です。【エアーコンディショナー】も欲しい人からすれば10億はするかと。【疲労回復】も凄い付与ですが5千万程ですかね。回復剤を飲めば済むことですから代用が効くという事でこのくらいかと思われます」

「公爵の10億じゃ【毒無効】しかつけられないって事じゃないか」
「……そうなってしまいますね」

「うーん、じゃあ王子と姫のは【毒無効】【エアーコンディショナー】【疲労回復】この3つを付けて、ここの店の物には【エアーコンディショナー】【疲労回復】の2つを付けたものを3つ提供するという事でどうだろう?」

「【毒無効】と【無病息災】はダメなのでしょうか?」
「あまり規格外のモノを付与すると、後々その品が災いの元になる可能性があります。俺が作ったものを巡って、遺産後継で揉めたり、国で戦争とか起こっても嫌ですしね」

「確かに絶対無いとは言い切れない付与です……病気にならない付与とか、王族同士で絶対争いが起こりそうですよね」

「はい。なので付与はその2つで。その付与も、単品に分けた方が売りやすいですか?」

「はい、付与の重複品は結構ありますが、優良な効果の重複は稀少価値がある為、金額がいっきに跳ね上がります。単品の効果プラス、レア重複の価値が上乗せですからね。指輪なら数個嵌めててもいいですが、ネックレスを何個も装着している人は居ませんからね。1つに纏まった良品は価値があります」

「だよね。前衛の剣持ちがダンジョンで【力強化】【物理耐性】【魔法攻撃力上昇】とか付いたの拾ったら最後の【魔法攻撃力上昇】のやつ、なんで【魔法耐性】じゃ無かったんだ!ってなるもんな。前衛に魔法攻撃力とか魔法剣士になら喜ばれるけど、残念で仕方がないって感じだよな」


「うーん、どっちにしようか迷います! 売り易さを考えるか、貴重なレア品を頂くか!」
「先に加工だけするから、王子たちのやつ預かるね」

 エアコン用に加工してダイヤルを施す。そしてチェーンには強化のエンチャントを掛けておく。

「決まった?」
「とりあえず王子たちの物はその3つの付与でお願いします。金額がかなりの予算オーバーですが、恩をかなり公爵に売れますので良しとします。それに公爵が装備するのではないですからね。姫の為ですからうちの儲けは二の次です。うち用のはもう少し考えさせてください」

 公爵は10億出すと言ってるが、もう予算オーバーって次元じゃないな。

 既に王子たちの物は完成させてある。後は彼女の決断次第だ。

「決めました! やはりレア度を重視する事にしました。即金で支払ってくれる貴族や王族に売る事にします」

「支払いを渋る貴族もいるのか?」
「渋るだけならいいですけど、権力を笠に強奪まがいの事も日常茶判事ですよ。うちは王族とも取引があるのでそうそう絡まれることはありませんが、小さなできたばかりの店などは貴族に搾取されて潰されたとかよく聞きます」

「ひどいな、俺も貴族には気を付けるようにしているんだけどね」
「そうですね、もしその付与魔法が知れ渡ったら誰に攫われてもおかしくないです。監禁されて付与魔法を毎日施すように酷使されるでしょう」

「あなたも秘密厳守でお願いしますね。もし破ったら他のショップに行って店のアクセサリー全部にこの付与魔法を付けちゃいますからね」

「秘密はお守りしますから止めてくださいね! レアだから価値があるのであって、100個も200個もあったら価値が無くなってしまいます。それだと私が魔石の取られ損じゃないですか」

「解っているならいいのですよ。今回偶々あなたにバレてしまってこういう事になりましたが、本来信頼できる仲間にしか付与品は与えるつもりはないのです。くれぐれも内密にね」

 貴族というのは傲慢で基本自己中な奴が多い。少し気になることもあるから聞いておく。

「この俺の作製したネックレスの効果を聞いて、その叔父さんに当たる人はこの品を自分の物にしたりしないか? ちゃんとその王子と姫の手に渡るならいいが、誰もが欲しがるレア価値な品だと思うんだが。その辺は大丈夫なのか?」

「あ! あの公爵様ならあり得ます。王子の分はともかく姫の分を自分の物にして、姫には違うものを与えるかもしれません。それじゃあ意味がありません……」

『……仕方がないですね。ユグちゃんにお願いして、王子と姫の魔素情報を送ってもらって【個人認証】機能を付与してあげましょう。どっちがどっちの物か分かるようにしておいてください』

『血液とかなくてもいけるのか?』
『……ユグちゃんですしね。でもこんな事に彼女を使っちゃダメですよ? 今回だけです』

『分かった。ユグちゃんありがとうな。よろしく頼む』
『はい、頼まれました!』

 俺は再度ネックレスを【インベントリ】に入れる。ユグちゃん経由の情報を基に、【個人認証】機能を付与する。

「お姉さん、ネックレスの効果は王子と姫以外に及ばないようにしました。本人以外はこれでもう使えませんので。公爵にとっては只のオリハルコン製のネックレスです。これなら奪われる事もないでしょう。王子たちに渡す際に間違わないようにしてくださいね」

「エッ!? どうやって王子たちの情報を付与したのですか!? 【個人認証】自体レアですし、何より最初に血液による個人登録が必要なはずです」
「そういう事は秘密です。個人でしか使えなくなったので価値は一気に下がりましたが、それでも10億の価値はありますよね?」

「はい、どちらか一方でもそれ以上の価値がありますので問題ないです」
「じゃあ、この店の分をやってしまいますね」


 俺は彼女が持ってきたアクセサリーに【エアーコンディショナー】と【疲労回復】の2つを付与していった。
 【身体強化】のも欲しいと言われたが断った。

「悪いけど戦力が上がるような付与は与えない。あくまで生活が超快適になる付与だけだ。理由はその品が盗賊などの悪人に渡った時に何の苦労もなく強くなってしまうからだ」

「解りました。竜の魔石は買えば手に入りますが、あなたの付与品は今、現存するものだけなのでその価値は破格物です。国で管理するような国宝級です。それに姫もこれで安心です。ありがとうございました」

「いや、俺も魔石が丁度欲しかったんだ。お互い利があったのだから良い取引だった」
「そうですね、あ! このネックレスを付けたままでした!」

「それはお姉さんにプレゼントするよ」
「エッ!? いいのですか! うれしいです! ありがとうございます!」

 プレゼントと聞いて俺の袖を引っ張る者が居る……サリエさんだ。

「どうしました? サリエさんの分は買ってありますよ?」
「ん! あの猫ちゃんがいい!」

 そうきたか! 確かに水晶より格段に可愛くて物も良いからね。

「お姉さんすいません。それをこの娘にお願いします。替わりにお姉さんにもっと似合うものを見繕いますので」

 お姉さんは可愛いサリエさんの我儘に嫌な顔ひとつせず譲ってくれた。お姉さんにはミスリル製のペンダントがあったのでそっちの方に付与を付けてあげた。但し【身体強化】を【快眠快便】に【無病息災】を【金運上昇】に変えてある。

「すいません。少し付与を変えました。お姉さんが将来亡くなった時に、冒険者に【身体強化】が付いた品が手渡らないようにしたいのでご容赦ください。替わりに毎日ぐっすり眠れて、お通じも毎日スッキリできる便秘知らずの付与と金運が上がる付与をつけましたので」

「エッ! 私が便秘気味なのをなぜご存じなのですか?」
「エッ! 偶々ですよ? 女性の大半が便秘気味と聞いていますので」

「そうですね、3人に1人は便秘気味だそうです。私も酷い時には4日も出ない事があります。もうそうなると苦しくて何もする気にならない程なんですよ」

「そのペンダントそのものはおいくらですか?」
「62万ジェニーですが?」

「では60万ジェニーで」
「お金なんて受け取れません!」

「それは俺がお姉さんにプレゼントしたものです。お金を払ってプレゼントしたものを店に並べるような失礼な事はしないでしょう? まぁ、一度エアコン魔法を体感したら一生離せなくなるでしょうけどね」

「解ります! これは売る気なんてないですよ! こんな快適に夏を過ごせるとは思っていませんでしたから」
「温度管理には気を付けてくださいね? 生死に関わる事です。温度の上げすぎ下げ過ぎは危険ですので、できれば寝る時は後ろのスイッチで切っておいた方がいいです」

「はい、ではそうするようにしますね」
「それと、もう1つ猫ちゃんを見せてください。彼女にあげたらもう1人うるさいのがいるので」

 ソシアさん用に猫のネックレスを選んでいたら、ずっと静かに黙っていたメリルがやってきてボソッと一言。

「ねこちゃん可愛いね……」

 昨日あげた俺の即席ネックレスを触りながら言うのだ。確かに適当に作ったけどさ……なんか悔しい。
 残念ながら残っていた付与無し品にはソケットは3つ空きのある物しかなかった。金額は同じなのにだ。

「お姉さんの分と含めて200万ジェニーでお願いします」
「はい、十分です。私にまでありがとうございました。大事にしますね」

「メリル、【エアーコンディショナー】【疲労回復】【魔力循環】を付与したものだ。お前また体がだるくなっているだろ? そういう事はちゃんと言えって教えたよな? 子供が我慢するんじゃない」

「ごめんなさい。ちょっと肩のあたりがまた重いです」
「このネックレスを付けていたら少しは改善されるはずだ。自分で魔力循環できるようになるまでは寝る時も付けておくんだぞ」

「うん、ありがとうリョウマお兄ちゃん」

「あ! そういえばお名前を聞いていませんでした! リョウマ様と言われるのですね?」
「そうだったね。冒険者のリョウマです」




「リョウマさん、娘が我が儘言ってすみません。このような高価な物……」

 ナシルさんが遠慮気味にお礼を言ってきた。

「気にしなくていいですよ。欲しかった魔石が手に入って機嫌が良いからね」

「サリエさんには最初の猫ちゃんをあげます。どうぞ」
「ん! リョウマが付けて! ふふふ、可愛い! ありがとう!」

 ちょっとフェイが拗ねているな。

「フェイには俺がとっておきを作ってやるから待ってろな」
「はい兄様! ナナちゃんみたいなやつがいいです!」

「竜がいいのか?」
「違います! 竜に小鳥が乗った兄様の紋章のような可愛い奴です!」

「ああ、あれと同じようなのがいいのか?」
「はい! 同じようではなくて、あれがいいのです!」


 やたらと同じものと言ってくる。あのデザインの物が余程ほしいらしい。
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