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水神殿への帰還
8-20 幻の白い鳥
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フェイに念話で呼んだら来るように伝え、村長宅に向かった。
途中の広場に居るはずのダラスさんは見当たらず、村には人っ子一人見かけなかった。
まるで廃村だな。建物があるのに全て木窓で閉じられていて中の様子も伺えない。
人を見かけない無人の村というのは、こうも不気味なんだと初めて知った。
村長宅では、ダラスさんが1人で20羽程のサンダーバードに囲まれて奮戦中だった。
他の人はどこ行った? ダラスさんの足元には2羽サンダーバードが切り殺されていた。倒せればラッキーとか言いながら、流石Aランク冒険者。しっかり不用意に近づきすぎた奴を一刀両断にしてる。だが雷の攻撃は魔法の中でも最速、そう躱せるものでもなく結構食らっている。食らうたびに『ンギャ!』とか言って一瞬硬直し、その間に爪攻撃やクチバシでチクリと一撃をもらっているようだ。
俺は鳥たちの死角になるよう建物の裏から回り込んで、ダラスさんに建物の陰から声を掛けた。
「ダラスさん、大丈夫ですか? 他の人たちは?」
「リョウマか! 想定以上にサンダーバードが多くて早々に非難したよ! お前ももういい! 俺に構わず逃げろ! 雷耐性のアクセサリーや装備を持っていないんだろ? 危険だからもういいぞ! ンギャ! クソ痛てー!」
「ダラスさんも折角の稼ぎ時でしょうけど、残りのサンダーバード、俺が全部もらっていいですか?」
「ハァ? 俺は2羽落とせたからな。倒せるなら全部やってみろ! そんな陰にコソコソ隠れてるぐらいなのに、冗談言ってる場合じゃないぞ! いいからお前は逃げろ!」
「じゃあ、許可を得たので残りは全部もらうね。【プロテス】【シェル】【マジックシールド】【アクアラヒール】ダラスさんにもサービスしてバフ掛けてあげましたから、もうちょい稼ぎたいなら頑張ってください。でも早く狩らないと、うちの従魔が来たら全部取られちゃうかもですよ」
「なんだこれ! リョウマ、お前シールド持ちか!? ヒールまで! 悪いな、超有難い!」
俺はわざとらしく指笛を吹き、念話でフェイを呼んだ。
「ピィー!」
す~と飛んできて俺の肩に衝撃もなく着地する。
久しぶりに竜化して俺の肩に乗ったフェイは頬ずりして甘えてきた。
くっそ! 竜化したフェイはハティに負けないくらい可愛い! しかも匂いはハティより良い香りがする!
「その可愛い鳥は、確かリョウマの従魔だな。でもこんなとこに呼んだら食われるぞ! あいつら雑食だから何でも食うぞ!」
「よし、あの鳥どもを狩りつくせ!」
「ピィ~!」
ダラスさんの開いた口が塞がらない。空を見上げた形なので思いっきりアホ面になってる。
サンダーバードが雷属性で、むちゃくちゃ動きが素早い?
フェイの後を追うどころか、全てすれ違いざまに蹴りを入れられ頭蓋骨を粉砕され即死している。あの短い脚でよく蹴れるものだ。フェイは目でやっと追えるほどのスピードでサンダーバードの群れの中を飛び回っている。横を掠ったかと思ったらサンダーバードが落ちてくるのだ。21羽いたのに、わずか1分ほどで全て狩りつくした。逃げる間も与えていない。
そういえば、以前木材集めに出した時、ナビーが秒速200mで移動中とか言ってた事がある。
こいつ、どれだけのスピードが出せるんだろ? そのスピードで体当たりされたら、俺でも死にそうだ。
「ピィ~!」
全て狩りつくしたフェイは、満足げに俺の肩に戻ってきた。
こいつ、返り血すら浴びていない……あの速度の中で上手く手加減して蹴っていたのか!
フェイの奴どんどん強くなるな。
狩るのを魔法じゃなくてもいいかと聞いてくるはずだ。竜化したフェイには、魔法なんか返って面倒なだけなんだろう。
「良くやった、偉いぞ~!」
ダラスさん用に向けた演技なのだが、ペットを褒めるように首元をワシャワシャ撫でてやり労いの声を掛ける。演技なのにフェイはもうこれでもかというくらい喜んで、短い尻尾をフリフリして俺に擦り寄ってくる。
う~! こいつ可愛すぎる! もう人化させないで、ハティと一緒に俺が飼って世話してやろうかと思ってしまう。
『兄様、世話してくれるのは嬉しいですけど、御飯だけは人の状態の方がいいです!』
『黙れこの駄竜! 良い気分だったのに台無しだ! 一瞬でも可愛いなと思った俺の気持ちを返せ! 何が飯の時だけは人の姿がいいだ! 人の姿で床に皿を置いて、腕を後ろで縛って犬食いさせてやる!』
『そんなの嫌です! よくそんな酷い事を考え付きますね! 意地悪です!』
『フェイ、ダラスさんが鳥と思ってくれている間に村の外に放つぞ。転移魔法で先に部屋に行って食堂で飲み物でも頼んでずっと居たように見せかけろ』
『は~い。食べる物も頼んでいい?』
『あと30分もすれば昼食にするから、食べ物はダメだ』
『解った』
「リョウマ! なんだその鳥は! 何なんだその強さは! 目で追うのがやっとだったぞ」
「凄いでしょ? あ、行っていいぞ~またな~」
俺の声掛けと共に竜化したフェイが村の外に飛んで行く。
「どうした? どこに行ったんだ?」
「あいつ、可愛いでしょ? バナムで攫われそうになったり、皆が良く触りに来るので最近嫌がって、街や村に入りたがらないんですよ」
「ああ~、可愛いからな……女、子供がほっとかないだろうな」
「約束どおり、その2羽以外頂きますよ?」
「ああ、助かった。ありがとうな、おかげで家畜も守れたよ。あのままだったら、俺もじり貧だった。回復剤が切れたら逃げるしかなかったからな」
「結構飲んだんですか?」
「2本飲んだが、お前がヒールくれなかったら、3本目いくとこだったよ」
空の容器を2本振って渋い顔をしている。通常の奴は苦くてクソまずいからね。
「これ差し上げます。初級回復剤の5~7級品です」
俺はメリルの失敗作と言っていい物を5本あげた。
「これって、例の最近噂の美味しい回復剤ってやつか?」
「そうですが、正規品ではないですね。弟子が練習で作ったやつで、味や消費期限は同じですが、等級が劣るので正規品の竜マークをあげなかったモノです」
「そうか、でも5~7級なら雑貨屋で売っている物と大差ないぞ? 現に俺がさっき飲んだものも6級品だ。本当に貰っていいのか?」
「ええ、どうぞ使ってやってください」
「ところで、その襟元から顔を出している可愛いのは何だ?」
「ああ、忘れてました。俺の新しい従魔です。まだ生後数日なので、あまり歩けないのです。だから、こうして服の中で連れまわしてます」
「狼の赤ちゃんか。2匹もテイムするとは、リョウマは優秀なテイマーだな。色からしてホワイトウルフの子か? あれは頭も良いし、かなり強くなるから、そいつも良い従魔になりそうだな」
ダラスさんは良い人だし、今後も神殿と関わるならこの人とも縁は切れないだろうな。
よし正直に言っておくか。
「ダラスさん、内緒ですよ? この子、実はフェンリルが産んだ子です」
「はぁ? フェンリル? 神獣の子って言うのか?」
話しながらサンダーバードをインベントリに収納する。
21羽か……この数だと、魔石と肉は売れないな。この周辺の森をちょっと散策して後20羽ぐらい狩っておこうかな。魔石と肉はいつ要るか分からないしな。
「フェンリルの赤ちゃんだって知ったら、テイマーや商人なんかが狙ってきますからね。本当に内緒ですよ?」
「リョウマ、お前それどうやって手に入れた! まさかフェンリルから攫ってきたんじゃないだろうな?」
急にダラスさんが真剣な顔をして聞いてきた。あ~成程ね。
「そんな事したら、大惨事ですよ。フェンリルの母親が来て、村ごと消されちゃいます」
皆に語ったようにダラスさんにも同じように説明した。
「ほら、従魔契約すれば俺の魔力で生きられるでしょ? 死なすくらいなら助けてやってくれと、俺に母親自ら譲ってくれたんですよ。念のために言っておきますが、フェンリルは出産では増えませんからね。白王狼が神に認められて祝福を得た場合のみ進化してフェンリルに成るそうですよ」
「フェンリルの子供とか凄いな。将来間違いなく強いよな? そんな狼を制御できるのか?」
「ホワイトウルフは頭のいい個体です。赤ちゃんから育てれば、親のように慕ってくれるんじゃないですか?」
この子の場合、親の仇だと言って狙われる可能性も0じゃないけどね。
ダラスさんが村の広場にある鐘を鳴らして、避難解除を村に知らせる。
わらわらと、家の中から人が出てきて俺を見かけた村人は口々に礼を述べてくる。
この礼は今回の事ではなく、前回放出したプリンの器の事のようだ。雑貨屋をとおして殆どの者が売ったらしく、そのお金が各家を潤わせたのだ。その礼をさっきから会う者全てが言ってくるのだ。ちょっとしたヒーロー扱いだ。
子供たちが話しかけてくるのだが、そのうちの数名が同じ事を言ってきた。
「ねぇお兄ちゃん。さっきのあの白い鳥、お兄ちゃんが前に肩に乗っけて飼ってたやつだよね?」
「そうだよ、見てたのか?」
「うん。窓の隙間から覗いてたんだ! びゅんびゅ~んて凄く速くて強いね!」
「私も見た! ちっこいのに凄いの! 白くて可愛いのに、あの不細工なおっきな鳥をあっという間に倒しちゃったの!」
どうやら村長周辺の民家の者が、窓の隙間から結構覗いていたらしい。
宿屋からフェイやメリルたちも出てきたが、美女2人に顔を赤らめる野郎どもはウザかった。
フェイは自分の事を噂され、凄い凄いと言われる度に、嬉しそうに笑顔を浮かべ今にも竜化しそうな雰囲気だ。
『フェイ! もし今ここで竜化なんかしやがったら、置いて行くからな』
『解ってますよ……フェイの事、何だと思っているんですか』
『お前はやりそうだから、先に釘を刺しているんだよ』
「お! 兄ちゃん久しぶりだな!」
「ああ、雑貨屋のおじさん! お久しぶりです」
「お前のプリンの容器で、大分儲けさせてもらったよ! ありがとな!」
「いえいえ、儲かるかどうかは商人の腕次第ですよ」
「ああ~あの時買ってくれたのは、その娘の装備だったのか」
「え? ああ、そうですそうです。このローブと剣とワンピースは未だに使ってますよ。靴は交換しましたけどね。目立たないようにするために、このローブは特に大活躍です」
「お前がいくら女顔だからと言っても、女物の下着を履くわけないか、あはは」
「やっぱりあの時疑ってたんですか? そんな訳ないでしょ!」
「ところで兄ちゃん、例のあの回復剤は今持ってるか?」
「ええ、ありますが、俺は販売していません。そこの親子が扱っていますので、交渉してみたらどうです?」
「ん? この綺麗な姉さんとだけ専属販売しているのか? やっぱ美人は得だね~」
「誤解ですよ。その親子は俺の弟子です。仲買人ではなく、製造元の方ですよ。失礼な事言って機嫌損ねたら売ってくれなくなりますよ?」
「あぅ、それはすまなんだ! てっきり美人なのを良いことに、兄ちゃんを誑し込んで、専属販売させているのかと思っちまったよ」
「あの、リョウマ君? サクエラさん以外に売っても良いのですか?」
「サクエラさんと専売契約してるわけじゃないですし、彼はハーレンが拠点ですので、ハーレン以外でならナシルさんが売りたい人を選んで価格も交渉するのです。ぼったくるような値段は許しませんが、常識の範囲内でナシルさんが好きな売値を付けて良いですよ」
「何か、これだけはという基準は無いのでしょうか?」
「高すぎるのは勿論ダメですが、実はあまり安く売るのもダメなんですよ」
「どうしてでしょう? 冒険者や町の人も安く手に入るようになるなら良いのでは?」
「おじさん、どうして安く売るのがダメなのか説明してあげて」
「そうだな、安くなると確かに街の者や冒険者は有り難いよな。命に係わるような品だし、安いにこしたことは無い。だがあまり安いと、薬草を採取して食ってるこの村の者や、神殿で回復して寄付を得ている者、回復剤を錬成して作ってる薬師たちが食えなくなって困るんだよ」
「成程~、納得です。安ければいいって事でもないのですね」
「そういう事。その時々に相場ってものがあるので、常に相場に目を向けて取り過ぎたり損をしないようにするのも、大事な事だよ。戦争時や魔獣が多く出た時なんかは回復剤の値は跳ね上がるからね。それとおじさん、回復剤をおじさんの雑貨屋にも流してあげるけど、この親子が俺の弟子とか、作製できる事も外部には秘密だよ。情報を聞き出そうと性質の悪い貴族や錬成師、商人なんかがわんさかやってくるからね。俺なら大抵の奴なら返り討ちにできるけど、この親子はまだそれほど強くないから」
「ああ、分かってるって。だが、ここに立ち寄る時は頼むな」
ナシルさんはサクエラさんに売った値段と同じ値で販売するようだ。もう少し高くても良いくらいなのだが、バナムまでの移送費分だとその値にしてあげたようだ。
「今の価格で良かったでしょうか?」
「そうだね。単価であと1000ジェニー高くても良かったかな。今、竜印のこの回復剤は徐々に知名度を上げてるんだよ。美味しくて長持ちって事でね。稼いでる冒険者は多少高くてもこっちを買うそうだよ。ハーレンでは初級の10級品のものは1本今2万ジェニー前後だそうだ」
「そんなにしているのですか?」
「あくまで末端価格だからね。販売元は1万5千ジェニー前後でいいんだよ」
今回ナシルさんは@14000で50本販売した。70万ジェニーの収入だ。
「お兄ちゃん……70万だよ!」
「そうだな。でも、正当な儲けだぞ。俺たちが居たから安全に採取できたけど、本来いつ何に襲われるか分からないんだ。常に危険がある仕事だからな」
ナシル親子は高収入を得てほくほく顔だ。
メリルに貸した100万ジェニーを返そうとしてきたが、もう少し安定してからでいいと受け取らなかった。
彼女たちにあげた装備品の数々の金額を考えれば、100万とか本当は別に返さなくていいのだけど、貸し借りのけじめはしっかりしとかないと関係がこじれる原因になりかねないので、気を付けるようナビーに忠告されている。
村人は白い鳥の話でその日は大騒ぎだった。
『幻の白い鳥』伝説の爆誕だ。
途中の広場に居るはずのダラスさんは見当たらず、村には人っ子一人見かけなかった。
まるで廃村だな。建物があるのに全て木窓で閉じられていて中の様子も伺えない。
人を見かけない無人の村というのは、こうも不気味なんだと初めて知った。
村長宅では、ダラスさんが1人で20羽程のサンダーバードに囲まれて奮戦中だった。
他の人はどこ行った? ダラスさんの足元には2羽サンダーバードが切り殺されていた。倒せればラッキーとか言いながら、流石Aランク冒険者。しっかり不用意に近づきすぎた奴を一刀両断にしてる。だが雷の攻撃は魔法の中でも最速、そう躱せるものでもなく結構食らっている。食らうたびに『ンギャ!』とか言って一瞬硬直し、その間に爪攻撃やクチバシでチクリと一撃をもらっているようだ。
俺は鳥たちの死角になるよう建物の裏から回り込んで、ダラスさんに建物の陰から声を掛けた。
「ダラスさん、大丈夫ですか? 他の人たちは?」
「リョウマか! 想定以上にサンダーバードが多くて早々に非難したよ! お前ももういい! 俺に構わず逃げろ! 雷耐性のアクセサリーや装備を持っていないんだろ? 危険だからもういいぞ! ンギャ! クソ痛てー!」
「ダラスさんも折角の稼ぎ時でしょうけど、残りのサンダーバード、俺が全部もらっていいですか?」
「ハァ? 俺は2羽落とせたからな。倒せるなら全部やってみろ! そんな陰にコソコソ隠れてるぐらいなのに、冗談言ってる場合じゃないぞ! いいからお前は逃げろ!」
「じゃあ、許可を得たので残りは全部もらうね。【プロテス】【シェル】【マジックシールド】【アクアラヒール】ダラスさんにもサービスしてバフ掛けてあげましたから、もうちょい稼ぎたいなら頑張ってください。でも早く狩らないと、うちの従魔が来たら全部取られちゃうかもですよ」
「なんだこれ! リョウマ、お前シールド持ちか!? ヒールまで! 悪いな、超有難い!」
俺はわざとらしく指笛を吹き、念話でフェイを呼んだ。
「ピィー!」
す~と飛んできて俺の肩に衝撃もなく着地する。
久しぶりに竜化して俺の肩に乗ったフェイは頬ずりして甘えてきた。
くっそ! 竜化したフェイはハティに負けないくらい可愛い! しかも匂いはハティより良い香りがする!
「その可愛い鳥は、確かリョウマの従魔だな。でもこんなとこに呼んだら食われるぞ! あいつら雑食だから何でも食うぞ!」
「よし、あの鳥どもを狩りつくせ!」
「ピィ~!」
ダラスさんの開いた口が塞がらない。空を見上げた形なので思いっきりアホ面になってる。
サンダーバードが雷属性で、むちゃくちゃ動きが素早い?
フェイの後を追うどころか、全てすれ違いざまに蹴りを入れられ頭蓋骨を粉砕され即死している。あの短い脚でよく蹴れるものだ。フェイは目でやっと追えるほどのスピードでサンダーバードの群れの中を飛び回っている。横を掠ったかと思ったらサンダーバードが落ちてくるのだ。21羽いたのに、わずか1分ほどで全て狩りつくした。逃げる間も与えていない。
そういえば、以前木材集めに出した時、ナビーが秒速200mで移動中とか言ってた事がある。
こいつ、どれだけのスピードが出せるんだろ? そのスピードで体当たりされたら、俺でも死にそうだ。
「ピィ~!」
全て狩りつくしたフェイは、満足げに俺の肩に戻ってきた。
こいつ、返り血すら浴びていない……あの速度の中で上手く手加減して蹴っていたのか!
フェイの奴どんどん強くなるな。
狩るのを魔法じゃなくてもいいかと聞いてくるはずだ。竜化したフェイには、魔法なんか返って面倒なだけなんだろう。
「良くやった、偉いぞ~!」
ダラスさん用に向けた演技なのだが、ペットを褒めるように首元をワシャワシャ撫でてやり労いの声を掛ける。演技なのにフェイはもうこれでもかというくらい喜んで、短い尻尾をフリフリして俺に擦り寄ってくる。
う~! こいつ可愛すぎる! もう人化させないで、ハティと一緒に俺が飼って世話してやろうかと思ってしまう。
『兄様、世話してくれるのは嬉しいですけど、御飯だけは人の状態の方がいいです!』
『黙れこの駄竜! 良い気分だったのに台無しだ! 一瞬でも可愛いなと思った俺の気持ちを返せ! 何が飯の時だけは人の姿がいいだ! 人の姿で床に皿を置いて、腕を後ろで縛って犬食いさせてやる!』
『そんなの嫌です! よくそんな酷い事を考え付きますね! 意地悪です!』
『フェイ、ダラスさんが鳥と思ってくれている間に村の外に放つぞ。転移魔法で先に部屋に行って食堂で飲み物でも頼んでずっと居たように見せかけろ』
『は~い。食べる物も頼んでいい?』
『あと30分もすれば昼食にするから、食べ物はダメだ』
『解った』
「リョウマ! なんだその鳥は! 何なんだその強さは! 目で追うのがやっとだったぞ」
「凄いでしょ? あ、行っていいぞ~またな~」
俺の声掛けと共に竜化したフェイが村の外に飛んで行く。
「どうした? どこに行ったんだ?」
「あいつ、可愛いでしょ? バナムで攫われそうになったり、皆が良く触りに来るので最近嫌がって、街や村に入りたがらないんですよ」
「ああ~、可愛いからな……女、子供がほっとかないだろうな」
「約束どおり、その2羽以外頂きますよ?」
「ああ、助かった。ありがとうな、おかげで家畜も守れたよ。あのままだったら、俺もじり貧だった。回復剤が切れたら逃げるしかなかったからな」
「結構飲んだんですか?」
「2本飲んだが、お前がヒールくれなかったら、3本目いくとこだったよ」
空の容器を2本振って渋い顔をしている。通常の奴は苦くてクソまずいからね。
「これ差し上げます。初級回復剤の5~7級品です」
俺はメリルの失敗作と言っていい物を5本あげた。
「これって、例の最近噂の美味しい回復剤ってやつか?」
「そうですが、正規品ではないですね。弟子が練習で作ったやつで、味や消費期限は同じですが、等級が劣るので正規品の竜マークをあげなかったモノです」
「そうか、でも5~7級なら雑貨屋で売っている物と大差ないぞ? 現に俺がさっき飲んだものも6級品だ。本当に貰っていいのか?」
「ええ、どうぞ使ってやってください」
「ところで、その襟元から顔を出している可愛いのは何だ?」
「ああ、忘れてました。俺の新しい従魔です。まだ生後数日なので、あまり歩けないのです。だから、こうして服の中で連れまわしてます」
「狼の赤ちゃんか。2匹もテイムするとは、リョウマは優秀なテイマーだな。色からしてホワイトウルフの子か? あれは頭も良いし、かなり強くなるから、そいつも良い従魔になりそうだな」
ダラスさんは良い人だし、今後も神殿と関わるならこの人とも縁は切れないだろうな。
よし正直に言っておくか。
「ダラスさん、内緒ですよ? この子、実はフェンリルが産んだ子です」
「はぁ? フェンリル? 神獣の子って言うのか?」
話しながらサンダーバードをインベントリに収納する。
21羽か……この数だと、魔石と肉は売れないな。この周辺の森をちょっと散策して後20羽ぐらい狩っておこうかな。魔石と肉はいつ要るか分からないしな。
「フェンリルの赤ちゃんだって知ったら、テイマーや商人なんかが狙ってきますからね。本当に内緒ですよ?」
「リョウマ、お前それどうやって手に入れた! まさかフェンリルから攫ってきたんじゃないだろうな?」
急にダラスさんが真剣な顔をして聞いてきた。あ~成程ね。
「そんな事したら、大惨事ですよ。フェンリルの母親が来て、村ごと消されちゃいます」
皆に語ったようにダラスさんにも同じように説明した。
「ほら、従魔契約すれば俺の魔力で生きられるでしょ? 死なすくらいなら助けてやってくれと、俺に母親自ら譲ってくれたんですよ。念のために言っておきますが、フェンリルは出産では増えませんからね。白王狼が神に認められて祝福を得た場合のみ進化してフェンリルに成るそうですよ」
「フェンリルの子供とか凄いな。将来間違いなく強いよな? そんな狼を制御できるのか?」
「ホワイトウルフは頭のいい個体です。赤ちゃんから育てれば、親のように慕ってくれるんじゃないですか?」
この子の場合、親の仇だと言って狙われる可能性も0じゃないけどね。
ダラスさんが村の広場にある鐘を鳴らして、避難解除を村に知らせる。
わらわらと、家の中から人が出てきて俺を見かけた村人は口々に礼を述べてくる。
この礼は今回の事ではなく、前回放出したプリンの器の事のようだ。雑貨屋をとおして殆どの者が売ったらしく、そのお金が各家を潤わせたのだ。その礼をさっきから会う者全てが言ってくるのだ。ちょっとしたヒーロー扱いだ。
子供たちが話しかけてくるのだが、そのうちの数名が同じ事を言ってきた。
「ねぇお兄ちゃん。さっきのあの白い鳥、お兄ちゃんが前に肩に乗っけて飼ってたやつだよね?」
「そうだよ、見てたのか?」
「うん。窓の隙間から覗いてたんだ! びゅんびゅ~んて凄く速くて強いね!」
「私も見た! ちっこいのに凄いの! 白くて可愛いのに、あの不細工なおっきな鳥をあっという間に倒しちゃったの!」
どうやら村長周辺の民家の者が、窓の隙間から結構覗いていたらしい。
宿屋からフェイやメリルたちも出てきたが、美女2人に顔を赤らめる野郎どもはウザかった。
フェイは自分の事を噂され、凄い凄いと言われる度に、嬉しそうに笑顔を浮かべ今にも竜化しそうな雰囲気だ。
『フェイ! もし今ここで竜化なんかしやがったら、置いて行くからな』
『解ってますよ……フェイの事、何だと思っているんですか』
『お前はやりそうだから、先に釘を刺しているんだよ』
「お! 兄ちゃん久しぶりだな!」
「ああ、雑貨屋のおじさん! お久しぶりです」
「お前のプリンの容器で、大分儲けさせてもらったよ! ありがとな!」
「いえいえ、儲かるかどうかは商人の腕次第ですよ」
「ああ~あの時買ってくれたのは、その娘の装備だったのか」
「え? ああ、そうですそうです。このローブと剣とワンピースは未だに使ってますよ。靴は交換しましたけどね。目立たないようにするために、このローブは特に大活躍です」
「お前がいくら女顔だからと言っても、女物の下着を履くわけないか、あはは」
「やっぱりあの時疑ってたんですか? そんな訳ないでしょ!」
「ところで兄ちゃん、例のあの回復剤は今持ってるか?」
「ええ、ありますが、俺は販売していません。そこの親子が扱っていますので、交渉してみたらどうです?」
「ん? この綺麗な姉さんとだけ専属販売しているのか? やっぱ美人は得だね~」
「誤解ですよ。その親子は俺の弟子です。仲買人ではなく、製造元の方ですよ。失礼な事言って機嫌損ねたら売ってくれなくなりますよ?」
「あぅ、それはすまなんだ! てっきり美人なのを良いことに、兄ちゃんを誑し込んで、専属販売させているのかと思っちまったよ」
「あの、リョウマ君? サクエラさん以外に売っても良いのですか?」
「サクエラさんと専売契約してるわけじゃないですし、彼はハーレンが拠点ですので、ハーレン以外でならナシルさんが売りたい人を選んで価格も交渉するのです。ぼったくるような値段は許しませんが、常識の範囲内でナシルさんが好きな売値を付けて良いですよ」
「何か、これだけはという基準は無いのでしょうか?」
「高すぎるのは勿論ダメですが、実はあまり安く売るのもダメなんですよ」
「どうしてでしょう? 冒険者や町の人も安く手に入るようになるなら良いのでは?」
「おじさん、どうして安く売るのがダメなのか説明してあげて」
「そうだな、安くなると確かに街の者や冒険者は有り難いよな。命に係わるような品だし、安いにこしたことは無い。だがあまり安いと、薬草を採取して食ってるこの村の者や、神殿で回復して寄付を得ている者、回復剤を錬成して作ってる薬師たちが食えなくなって困るんだよ」
「成程~、納得です。安ければいいって事でもないのですね」
「そういう事。その時々に相場ってものがあるので、常に相場に目を向けて取り過ぎたり損をしないようにするのも、大事な事だよ。戦争時や魔獣が多く出た時なんかは回復剤の値は跳ね上がるからね。それとおじさん、回復剤をおじさんの雑貨屋にも流してあげるけど、この親子が俺の弟子とか、作製できる事も外部には秘密だよ。情報を聞き出そうと性質の悪い貴族や錬成師、商人なんかがわんさかやってくるからね。俺なら大抵の奴なら返り討ちにできるけど、この親子はまだそれほど強くないから」
「ああ、分かってるって。だが、ここに立ち寄る時は頼むな」
ナシルさんはサクエラさんに売った値段と同じ値で販売するようだ。もう少し高くても良いくらいなのだが、バナムまでの移送費分だとその値にしてあげたようだ。
「今の価格で良かったでしょうか?」
「そうだね。単価であと1000ジェニー高くても良かったかな。今、竜印のこの回復剤は徐々に知名度を上げてるんだよ。美味しくて長持ちって事でね。稼いでる冒険者は多少高くてもこっちを買うそうだよ。ハーレンでは初級の10級品のものは1本今2万ジェニー前後だそうだ」
「そんなにしているのですか?」
「あくまで末端価格だからね。販売元は1万5千ジェニー前後でいいんだよ」
今回ナシルさんは@14000で50本販売した。70万ジェニーの収入だ。
「お兄ちゃん……70万だよ!」
「そうだな。でも、正当な儲けだぞ。俺たちが居たから安全に採取できたけど、本来いつ何に襲われるか分からないんだ。常に危険がある仕事だからな」
ナシル親子は高収入を得てほくほく顔だ。
メリルに貸した100万ジェニーを返そうとしてきたが、もう少し安定してからでいいと受け取らなかった。
彼女たちにあげた装備品の数々の金額を考えれば、100万とか本当は別に返さなくていいのだけど、貸し借りのけじめはしっかりしとかないと関係がこじれる原因になりかねないので、気を付けるようナビーに忠告されている。
村人は白い鳥の話でその日は大騒ぎだった。
『幻の白い鳥』伝説の爆誕だ。
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パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
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そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
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貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
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父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
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異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
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クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
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現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
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