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一 盲目
四枚め
しおりを挟む僕の意識は呼び出し音で覚醒した。いつもなら絶対にしないが、飛び起きて、トトトと駆け下りてバタンっとドアを開けた。
ドアの開閉音が重なった。隣の人も出てきてしまったようだった。
「はーい?」
いや、僕の家に用があるんだってば。すっとぼけた人だなとぼんやりしていると配達員さんの声が飛び込んできた。
「えっと、山崎真昼さんでよろしいですか?」
「え? あっ、はい」
サインをして部屋に搬入してもらう間、気が気じゃなかった。開いたドアからぐるりとこちらを見回してきた人物に見覚えがあったからだ。
「山崎真昼くんって言うんだ。おれは斎藤ユラ。夕焼けの夕に、空で、夕空。お隣さんだったんだ!」
僕は急いでドアを閉めるつもりだったけど、銃声が降ってきて耳を塞いで身を屈めた。
「斎藤、さん? 僕、大きい音は苦手なので、関わらないでください」
川辺での対面の時のように、手を差し伸べてくる彼にくるりと背を向けて部屋に引っ込んだ。
変な奴に目、付けられたなぁ。彼は何だかしつこそうな感じがした。まるで人類皆友だち、話せば分かるみたいな楽観主義者に近い匂いがぷんぷんしていた。
今日はとても楽しみにしていたのに。この防音マットレス。もう一枚調達できたら、寝床の壁に固定しようと思わざるを得なかった。
「あの! あっ、あの……」
なんだろう。何か用なのかな。気を遣って、声を小さくして言い直したみたいだけど。玄関の前で叫ばれても迷惑なので、仕方なくドアを開けた。
「はい?」
「今度、ひまわり畑に行くんです! すごく頼りになるお兄さんがいるので、お弁当作ってきてくれるみたいで、お詫びにと思って」
僕にとって、とっても頼りになるお兄さんのような存在は、あさにぃを置いて他にいない。人の基準で測ったものさしなんて役に立たないけど、僕は惹かれてしまった。
「いい、ですよ。でも、悪いので僕が作ります」
ひまわり畑という言葉に。一度包まれてみたかったのだ。真っ昼間が暖かく輝かしく優しい世界であるという気分に。
鼓膜を絶えず刺激し、心まで入り込んで破壊しようとしてくる、「昼間」への偏見を和らげるためにも。僕はひまわり畑に大きな期待を寄せた。
あっちのお詫びだというのに、やかましい彼のために、わざわざこちらが弁当を作るなんてバカげている。
その上、大の男二人だけでひまわり畑なんて、絵面がしみったれやしないか。
でも、お兄さんが来るって言ってたような。斎藤夕空とかいう青年の兄だろうか。また新しい人がぞろぞろ増えると、僕の不安度も上がって、余計過敏になってしまうかもしれない。
返事しちゃったからもう引き返せない。万全に準備すれば大丈夫……! 何度も言い聞かせて、どんな時も乗り切ってきたじゃないか。想定し尽くして対策すれば怖くないはずだ。
自分で自分を奮い立たせて、迫る約束の明日のために、弁当の仕込みを始めた。
鼻唄を鳴らしている自分に気づいて、思いの外楽しみにしているんだなと驚いた。
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