ほおつきよ

兎守 優

文字の大きさ
31 / 69
三 なりふり

一行

しおりを挟む

 平日で丸一日空いている火曜日と木曜日は図書館でアルバイトをしている。日曜日もたまに入ることはあるけど、ヘルプが必要なときだけだ。夏休みに入ってもそのスタイルを崩すつもりはない。試験に向けて勉強をする時間として今以上に充てるために。

 だけど、僕は公務員という職を目指していいのか、迷いに揺れていた。勉強がしたくないわけではない。僕が働きやすいというだけで、安易に選んで良いのか、今更になって就職への悩みが頭をもたげてきてしまった。

「なぁ、真昼。今度の水曜、一斉休講じゃん。ちょっと気晴らしに付き合ってよ」
「え? なにか言った?」

 斎藤くんは一生懸命話しかけていたようだけど、ちっとも耳に入っていなかった。
「水曜さ、俺の付き添い、お願いできない?」
「どこに」

 行き先も告げないで頭を下げられても困る。彼は僕のこと、忘れてはいないだろうか。僕は音の多い場所は苦手だ。
「だっ、大丈夫! 俺も絶対大声出せない場所だから! 頼むっ」
 彼を黙らせるなんて一体どんな所なんだろう。気になって仕方ないので乗ってみることにした。

「いいよ」
「助かる~! この借りはいつか返すぜ! じゃあ、明後日の九時でっ」
 グワングワン、頭が回る。眉をしかめて顔を伏せると、彼が息を詰める気配がした。
「ごめんなさい……」

 先が思いやられる。本当に彼が声を潜めるのことなんてできるのだろうか。

 乗るんじゃなかったな。僕も調子が良くないのに、他人の心のケアに付き添ってあげるなんて。どうしようもないお人好しなんだな、僕は。騙されやすそう。
 だからあさにぃも心配なのかな。でも、夜一さんは騙すような人じゃない。あさにぃの方が不誠実だ。何か重大なことを隠しているに違いない。僕の恋路を邪魔してきたり、いきなり戸籍を変えないかと進言してきたり、変だ。

 僕、もうそんなに子どもじゃないのに。泣きついていたあの頃とはもうわけが違う。ひとり暮らしも板について、大学生活にも馴染んで、生活費をまかなうためにアルバイトもして、恋もして。なんでもできる。もう、一人の大人だってちゃんと認めてほしい。いつまでも子ども扱いのままじゃ嫌だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...