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五 四六時中
苦行
しおりを挟む程よく揺れる電車はゆりかごのようだった。掛けられた彼のジャケットから、心躍るような仄かな匂いが鼻腔をくすぐる。ほおには彼の体温。時折、あやされるようになでられる彼の手つきの優しさ。
幸せに包まれてこのまま溶けていけたらよかったのに。
「ねぇ、夜一さん」
幸福な温度に浸りながら、僕は現実の感触を確かめる。
「なーに?」
彼の声色は優しくて甘ったるい。ここが二人だけの世界だったら、きっともっと甘えられたのに、と惜しく思う。
「僕、幸せです」
夜一さんと一緒に居られてこの上なく満たされている。ズタズタになっても彼が側に居てくれるだけで、傷が癒えていくような気がする。たぶん、気のせいではないだろう。
スリ……。彼のほおが僕の髪を行き来する。そうして髪にキスを落として彼は答える。
「俺も。やっと解放されて自由になれた気分」
「僕も……自由になりたい」
うらやましくて彼の服の裾を掴む。僕の肩に彼の腕が回された。
「俺が自由にしてあげるよ」
そう囁かれた甘言。グズクズに溶かされて酔いしれそうになる。二人で絡み合って深い沼に墜ちていくような背徳感に襲われる。
「車で来ればよかったな」と肩に回された手が背中を伝って腰まで下りていく。
「よ、いちさんっ」
僕の制止の声にも動きを止めず、さわさわしてくる。
「車ん中でできたのに」
ズクン。僕の体はそれだけで悦んでしまう。ここがどこかなんて、分かりきっているのに。
「シたくてたまんない……」
絡みつくようなセクシーな声。肩口に掛けていたジャケットがパサリと股に落ちた。
「夜一さん……?」
目を開けて見上げるともうすでに彼は、射抜くように舐めるようにその瞳で僕を捕らえていた。
グッと引き寄せられ、より一層密着が高まる。ふくらみをなでられ、息が上がった。
「夜一さんっ、!」
性急な手つきでまさぐられ、どんどん呼吸が乱れていく。彼の肩口に顔を埋めて唇をきつく結ぶ。鼻息が荒くなっていく。
「ン、ふ、んっ……」
ベルトの留め具を外され、前を寛げられる。ぐっしょりと下着が張りついてぬるぬるして気持ち悪い。
「ひま、向こうに寄りかかれる?」
チュッと髪にキスされる。それだけでもグズクズになってしまって、言われた通りにもたれた。
ジャケットの中で下着から僕の自身を取り出し、彼はクチャクチャしごく。冷たい外気を腿に感じた瞬間に、重みと生暖かい感触がグンと押し寄せてきた。
「ンッ! んん……ぁ」
膝枕の格好で潜り込んだ彼が僕の自身を飲み込んでいる。頭が真っ白になって、腰が揺れて、小刻みな震えが止まらない。
「ぁ……あッ、」
こんなこと、こんな場所で、イケナイなんて分かってるのに。背徳感が僕をより一層攻め立ててくる。
温かくて分厚いザラザラした舌でねっとり舐め回され、のどを鳴らされると耐えきれなくなって放ってしまった。
口内から解放された自身はドクドクしていた。余韻に浸って気だるげに脱力していると彼が衣類を元通りにして起き上がってくる。
「トイレで吐き出してきて」そう言うとすると、彼はのどをゴクゴク鳴らして飲み干してしまっていた。
「飲んだら……っ」
「自由にしてあげるって言ったでしょ?」
顔を逸らして壁に押し付けた僕を追って、彼はうなじに口付けをねじ込んでくる。
「夜一さん……」
もうどうにでもなりたかった。彼と一つに溶けて、つらいことも苦しいことも痛みも悲しみも、全部このまま忘れてしまいたかった。
「もうすぐ着くよ」
まるでこの耐えがたい苦難の旅路の終わりみたいに僕には甘美に響いた。
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