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五 四六時中
八倒
しおりを挟む走った。とにかく全速力で。全ての痛みを振り切るように。
疲れ果てて公園のベンチに座り込んだ。
うるさい。黙って。もう静かにしてよ!
「もう楽にさせて……」
「あー、ひまじゃん。みいーっけ」
のどが塞がって激しく嘔吐く。駆け寄ってきた彼が僕の背中をなでてくれる。
のどの奥にしこりのような塊がある感覚を覚えて、のどが締まる苦しみを味わった。痛みを絞り出すように首筋を掴んでグリグリ押す。
石が転げ回るようにのどを突き刺して暴れる。血が出るわけでもないのに、痛くてどうにかなりそうだった。
「ひま、水で洗おっか」
彼に支えられながら公園の水道まで歩いていく。ところどころ擦りむいたり切れていたりするところに水がかかると染みて、涙が出てきた。
顔を洗うために両手で溜めた水がジンジンしてきて、涙も痛みも弾き飛ばすようにバシャバシャかけた。
シャツでゴシゴシ拭ったら、「もうっ!」と夜一さんに注意された。
「家に帰ったんじゃ……」
落ち着きを取り戻した僕は帰宅したはずの彼にたずねる。
「ほら、よくあるじゃん。仕事行ってる振りして、実はネカフェで過ごして家族の前ではサラリーマンを演じてるとか、さ。だから散歩しとこって思って」
「お仕事……閑散期なんですか?」
「辞めちった」
驚いて見上げると彼はイタズラっぽい笑みを浮かべて嬉々としていた。
「退職祝いに、一緒に来てくれる?」
「ど、どこに行くんですか?」
透かさず、たずねてしまう。
「ひまといきたいところがあるんだ。よりを戻した記念に。どう?」
痣になってしまった腕を取って、甲に唇をつける。なんでそんなに口説く必要があるのだろうか。そもそも、そんな場合なのだろうか。それでも、
「いいですよ」
どこでも。彼となら。いけそうな気がした。
夜一さんが買ってきた切符を押しつけられるがままに改札に通して、先に入って待っていた彼にスッと回収されてしまった。
「俺が預かるからひまは安心して寝てていいよ!」
子どもみたいにニカッと笑った彼は、少し幼く見えた。
二人席が向かい合う列車はガランガランだった。今日が平日の月曜日というせいもあるのかもしれない。夏休みだからか、子連れの乗客もチラホラ見受けられたが、多くはなかった。
電車がカタンカタン、揺れる音と足音が響く車内。夜一さんは僕を窓側に座らせて、壁にもたれようとする僕の体を引いて、自分の方に寄りかからせた。
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