ほおつきよ

兎守 優

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五 四六時中

幾度

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 車のエンジン音が遠くで聞こえる。僕は微睡みにとろけていく。優しい温もりが僕をなでている。もう怖くはなかった。
 責めるようなセミの大合唱も。たたき起こしてくる目の覚めるような騒音も。鼓膜に響いてくる、触れられる度に跳ねる心音も。
 永遠に覚めない方が幸せなのかもしれない。ずっと夢を見ていられたなら。
 でも、幻想に浮かぶ夜一さんは僕が作り出した幻影にすぎない。僕が会いたいのは僕の目に映る現実の感触を帯びた彼だ。
 妄想の域から抜け出して、壊れるぐらい抑制の利かない鼓動に胸が苦しくなる、そんな生々しい触れ合いを僕はもう求めずにはいられない。

 ドアはいつの間にか閉まったようだ。車が走っていく感覚がある。すすり泣く声も聞こえてきた。
 僕は身を預けながら、重たいまぶたを開こうともせず、大好きな彼の体温を感じている。
「神田」
「なんだよ」
「ありがとう」
「いきなり。どういう風の吹き回し?」
「真昼を連れて逝かないでくれて」
 夜一さんはクツクツ笑っている。
「俺が死に急いでるようにでも見えたのか?」
「夜一さんならっ……ひっ、く。やりかねないじゃないですかぁ……」
 これは夕空ゆらの音のような気がする。
「心中以上に見たいものができたから」
 髪を選り分けてあらわになった耳に彼はそっと触れてくる。まだドキドキは止まらない。だけど、触れられる心地よさも感じていた。
「あっ、でも、ひまと俺を引き離そうもんなら、道連れを考え直してもいいかなー。駆け落ちもアリだし。温泉に誘ってそのままふらっと攫っていくのもいいなぁ」
「もうやめてください! 夜一さんの好きにどうぞ」
「お、俺も真昼にきちんと謝ったら今度こそあきらめるから……!」
 二人を手玉に取るなんて、やっぱり夜一さんは強い。でもそれ以上に脆くて危うい。だから僕に、叶うなら少しだけ、彼の痛みを分けてほしい。
「はいはーい。藤岡くん、ちゃんと運転に集中して」
 この四人が居合わせるなんてどんな運命の導きなんだろう。苦しみだけで僕たちは繋がっているわけではなさそうだ。傷つけ合って、愛し合って、僕たちは懸命に命を燃やしている。
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