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ヴィドック私立探偵事務所
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翌日、一行はセーヌ川の中州シテ島に来ていた。ノートルダム大聖堂の正面にフランス国家警察本部があり、そこから徒歩数分の目立たない建物にその探偵事務所はあった。外見的に警戒されないよう、まずアンカとユミカを先遣させ接触を試みることになった。
「こんにちは、ムッシュー・ヴィドック!突然お邪魔して申し訳ありません。私たち、ベルギーの雑誌の記者なんですが、少しお話しを聞かせていただいてもかまいませんか?」少しなまりのあるフランス語は、ベルギー人の記者という偽装にぴったりだった。
「これはこれはかわいらしいお嬢さんたち、どうぞおかけください。」ヴィドックは好色そうな笑みを浮かべ2人を値踏みするように観察した。
「では、ヴィドックさん、どうして探偵事務所を開くことになったのですか?」
「はっはっは、話せば長くなるのですが、私は小さなころから犯罪と関わってきたのです、はい、もちろん犯罪を犯す側としてです。その後、その人脈を見込まれて,警察の密偵となりました。つまり人脈で知り得た犯罪者たちを警察に売っていたわけです。これが実に効果がありまして、犯罪者の検挙数がうなぎ登り。警察の覚えめでたく、私は正式に雇われることになったのです。それはもちろん仕事に励みましたよ。犯人を検挙するなんて簡単です。犯罪者ならどうするかということが元犯罪者にはわかってしまうんですから。で、そのうち宮仕えにも飽きてきまして、いまこうして自営業となったわけです。」
「警察に売られた犯罪者の恨みは買いませんでしたか?」
「そりゃあ買いましたがね、こちらには警察との太いパイプがある、そうそう手を出す馬鹿はいないでしょう。」
「パリで起こっていることで、ベルギーの新聞に書いたら読者が喜びそうなネタはありませんか?これまで取材してきましたが、どれも新聞で読めるようなことばかりで。」
「ふむ、これは事件というわけではないのですが、警察にジャヴェールという警部がいまして、執念というか妄執の塊のようになってある男を追っているのです。その男はジャン・ヴァルジャンという名前です。小さな罪で投獄され、ガレー船送りになる前に脱獄し、名前を変えて仕事で成功したようなのですが、そのことをジャヴェールは知りません。私からすればどうでも良い問題ですが、どうもこのジャヴェールという人間は好きになれませんでな、やつの執念が成就しないよう願っておりますよ。むしろパリを取り巻く不穏な空気、革命前夜のような熱気の中で、どうせ奴は政治的に動ける人間ではなさそうなので律儀に王権の手先として動くことになるでしょうが、ふとしたはずみで革命派に殺されることにでもなれば、私の小さな胸のつかえが取れると思っています。」
「革命は避けられないと?もうすぐにでも勃発すると?」
「まあそうなるでしょうな。シャルル10世は現実が見えていない。」
「きょうはご協力ありがとうございました。これはほんのお礼です。」2人は金竜疾風特製(鋼音発案の)のど飴を渡し、丁寧に頭を下げて部屋を出た。
「革命か。警戒を怠らないようにしないと。」天寿は自戒した。
「市中でドンパチもあるのかな?」ミラピアのユニゾン。
「流れ弾に当たらないように気をつけましょう。」アンカとユミカは淡々と呟いた。
「市街戦のまっただ中にいるようでは忍び失格だ。」天寿が言った。
「ホテルのある辺り、危なそうだわ。」ミラの予測。
「この界隈はもっと危なそうね。」ピアの予知。
「市庁舎や警察のあたりは大混乱になる。」天寿は断言した。
「ホテルを引き払って、どこか安全そうな場所に隠れ家を確保しましょう。」アンカの提案は満場一致で採用された。
「この辺りが良いんじゃないか?」地図を見ていた天寿が提案した。
「シテ島からかなり離れているわね。」アンカも賛同しているようだ。
「モンパルナス、なんかミューズに愛されそうな地名だわ。」ユミカも賛成だ。
「公園や広場もあるので、いざとなれば木々に逃げ込めるわ。」ピアも同意した。
「ずいぶんお金が減ってしまいました。」財布を見てミラは心配そうだ。
「こっちに来てから薬屋やってないからな。」天寿も不安げだ。
「家も確保したし、公演で薬草を採取して薬を調合しましょう。」ピアが明るくそう言った。
5人がかりで励んだ結果、かなりの量の薬剤が揃った。
「さて、これをどう売りさばくか?」天寿が腕組みした。
「まだ訪問販売は無理そうだね。」ピアが額に人差し指を当てる。
「あ、そうだ、ヴィドックさんに薬箱をプレゼントするのは?」ユミカの提案。
「なるほど、あの人は顔が広そうだから...」アンカの期待。
「もし薬が気に入ってもらえたら、話を広めてくれるかも。」ミラの希望。
「そうと決まればご飯食べに行こう!」アンカユミカのユニゾン。
https://cdn-image.alphapolis.co.jp/story_image/879606/de66b214-28bc-4bb0-a521-888510e5230c.jpg
「こんにちは、ムッシュー・ヴィドック!突然お邪魔して申し訳ありません。私たち、ベルギーの雑誌の記者なんですが、少しお話しを聞かせていただいてもかまいませんか?」少しなまりのあるフランス語は、ベルギー人の記者という偽装にぴったりだった。
「これはこれはかわいらしいお嬢さんたち、どうぞおかけください。」ヴィドックは好色そうな笑みを浮かべ2人を値踏みするように観察した。
「では、ヴィドックさん、どうして探偵事務所を開くことになったのですか?」
「はっはっは、話せば長くなるのですが、私は小さなころから犯罪と関わってきたのです、はい、もちろん犯罪を犯す側としてです。その後、その人脈を見込まれて,警察の密偵となりました。つまり人脈で知り得た犯罪者たちを警察に売っていたわけです。これが実に効果がありまして、犯罪者の検挙数がうなぎ登り。警察の覚えめでたく、私は正式に雇われることになったのです。それはもちろん仕事に励みましたよ。犯人を検挙するなんて簡単です。犯罪者ならどうするかということが元犯罪者にはわかってしまうんですから。で、そのうち宮仕えにも飽きてきまして、いまこうして自営業となったわけです。」
「警察に売られた犯罪者の恨みは買いませんでしたか?」
「そりゃあ買いましたがね、こちらには警察との太いパイプがある、そうそう手を出す馬鹿はいないでしょう。」
「パリで起こっていることで、ベルギーの新聞に書いたら読者が喜びそうなネタはありませんか?これまで取材してきましたが、どれも新聞で読めるようなことばかりで。」
「ふむ、これは事件というわけではないのですが、警察にジャヴェールという警部がいまして、執念というか妄執の塊のようになってある男を追っているのです。その男はジャン・ヴァルジャンという名前です。小さな罪で投獄され、ガレー船送りになる前に脱獄し、名前を変えて仕事で成功したようなのですが、そのことをジャヴェールは知りません。私からすればどうでも良い問題ですが、どうもこのジャヴェールという人間は好きになれませんでな、やつの執念が成就しないよう願っておりますよ。むしろパリを取り巻く不穏な空気、革命前夜のような熱気の中で、どうせ奴は政治的に動ける人間ではなさそうなので律儀に王権の手先として動くことになるでしょうが、ふとしたはずみで革命派に殺されることにでもなれば、私の小さな胸のつかえが取れると思っています。」
「革命は避けられないと?もうすぐにでも勃発すると?」
「まあそうなるでしょうな。シャルル10世は現実が見えていない。」
「きょうはご協力ありがとうございました。これはほんのお礼です。」2人は金竜疾風特製(鋼音発案の)のど飴を渡し、丁寧に頭を下げて部屋を出た。
「革命か。警戒を怠らないようにしないと。」天寿は自戒した。
「市中でドンパチもあるのかな?」ミラピアのユニゾン。
「流れ弾に当たらないように気をつけましょう。」アンカとユミカは淡々と呟いた。
「市街戦のまっただ中にいるようでは忍び失格だ。」天寿が言った。
「ホテルのある辺り、危なそうだわ。」ミラの予測。
「この界隈はもっと危なそうね。」ピアの予知。
「市庁舎や警察のあたりは大混乱になる。」天寿は断言した。
「ホテルを引き払って、どこか安全そうな場所に隠れ家を確保しましょう。」アンカの提案は満場一致で採用された。
「この辺りが良いんじゃないか?」地図を見ていた天寿が提案した。
「シテ島からかなり離れているわね。」アンカも賛同しているようだ。
「モンパルナス、なんかミューズに愛されそうな地名だわ。」ユミカも賛成だ。
「公園や広場もあるので、いざとなれば木々に逃げ込めるわ。」ピアも同意した。
「ずいぶんお金が減ってしまいました。」財布を見てミラは心配そうだ。
「こっちに来てから薬屋やってないからな。」天寿も不安げだ。
「家も確保したし、公演で薬草を採取して薬を調合しましょう。」ピアが明るくそう言った。
5人がかりで励んだ結果、かなりの量の薬剤が揃った。
「さて、これをどう売りさばくか?」天寿が腕組みした。
「まだ訪問販売は無理そうだね。」ピアが額に人差し指を当てる。
「あ、そうだ、ヴィドックさんに薬箱をプレゼントするのは?」ユミカの提案。
「なるほど、あの人は顔が広そうだから...」アンカの期待。
「もし薬が気に入ってもらえたら、話を広めてくれるかも。」ミラの希望。
「そうと決まればご飯食べに行こう!」アンカユミカのユニゾン。
https://cdn-image.alphapolis.co.jp/story_image/879606/de66b214-28bc-4bb0-a521-888510e5230c.jpg
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