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革命とアイドル
しおりを挟む「クソッ!クソッ、クソッ、クソったれめ!」
ジャベールは自室で吠えまくっていた。
「許せん!許せん、許せん,許せんぞぉおっ!!この俺にあんな恥をかかせおって!あのあと新聞報道で、同乗していたパリ市警の警部が武器を奪われた上に裸で拘束されて路上に転がっていた、と書かれてしまった。警察署では始末書を取られ、降格まで検討されている。クソッ!クソッ、クソッ!絶対に捕まえて刑務所送りにしてやる。何なら抵抗したのでやむを得ずということで撃ち殺してやっても良い。クソッ、だが指が折れて銃が撃てない。部下にやらせるか?いや、いまは謹慎中なので部下も使えない。くそっ!悪夢から覚めるまで寝てろだと?もがいてやるよ。必ず尻尾を掴んでやる。そういえばあいつら、若い娘を2人さらっていったな。売春宿にでも売り飛ばすつもりか?よし、ならば、本当はあまり気が進まないが、ヴィドックを使うか。コツコツ貯めた給料の大半が消えてしまうだろうが、あいつらを捕まえて刑務所にぶち込むためなら仕方がない。ヴィドックに売春宿関係を調べさせよう。」
「おや、珍しいですな、ジャベールの旦那、お怪我はもう良いんで?」ヴィドックは薄ら笑いを浮かべた。
「くっ、余計なお世話だ。そんなことより、気は進まないがおまえに依頼だ。」
「毎度ありがとうございます。どんなご依頼でしょう?」
「あの駅馬車強盗事件の犯人、娘を2人連れ去った。なぜか被害届は出ていないが、どうせ売春宿へでも売り払ったのだろう。パリ中の娼館を探って新人娼婦を洗い出せ。」
「はあ、良いですけど、かなり金がかかりますよ。」
「なぜだ?おまえの人脈ならすぐだろう?」
「いや、娼館へは客じゃないと入れないんですよ。パリ中の娼館に客として入るのは、さすがに絶倫の私でも無理ですね。ジャベールさんもいっしょにやりますか?でも1日2回が限度です、私。もうそんなに若くないもんで。」ヴィドックはあえて下卑た笑顔を作った。
「くっ、ならばもう頼まん!」ジャベールは踵を返そうとした。
「お帰りですか?では初回手数料をお願いします。こちらも商売でして。」
モンパルナスのビストロ「ラ・ロンド」に一行は集まっていた。
「あの茶番強盗のとき面バレしてないよな?」天寿は思い出して少し不安になった。
「大丈夫だと思うよ。強盗役はみんな変装していたし。」ミラは楽天的だ。
「被害者役の私たちも地味に変装してたよ。」アンカが微笑む。
「カラコンとウィッグ、ウィッグはダークブロンド。」ユメカが補う。
店のドアの遠方からかすかな銃声が聞こえた。それも一発ではなく。明らかに戦闘音だ。店の客たちは色めきだってドアの外を見渡した。ピアが望遠鏡で状況を確認する。
「市街戦が行われているよ。路上にバリケードが作られている。」
「ついに始まったか。」望遠鏡を受け取った天寿も確認した。
「まあここまでは戦闘が広がってこないでしょう。」ピアが判断する。
「あ、君たちはこないだの »le dragon d'or du vent fort »じゃないか!」
声をかけてきたのはヴィクトル・ユーゴーだった。彼はまるで憧れのスターのようにたくさんの若者に取り囲まれていた。
「とうとう始まったよ、革命が!」彼は興奮していた。
「幾多の血が流れ、幾多の命が失われるだろう。しかし、それは自由という果実に近づくために捧げられる尊い犠牲だ。1人の犠牲が5人の新たな同士の覚醒を促す。行け、若者たちよ。国民軍のラファイエット将軍のもとにはせ参じ、銃を取れ!」
「うわ、あの人扇動してる。」ミラが顔をしかめた。
「いるわよね~、文化人に,そういう人。」ピアが固まった半笑いを浮かべている。
「この革命の後にまた陳腐な日常が始まるのに。」アンカは辛辣だ。
「私たちで死人や怪我人を減らせないかしら?」ユメカが無理難題を考え始める。
「おまえら、危ない橋を渡るなよ!」天寿は不安だ。
「要は国軍の兵士が戦闘を放棄すれば良いのね。」ミラが何か考えついた。
「そうね、どうせ革命は成立するんだし。」ピアは未来が見えるようだ。
「ちょっと行ってみようか?」とミラ。
「あれ、やっちゃおう!」とピア。
「はーい、ちょっと待ってね!」
「この喧嘩、うちらが預かるよ。」
「どうせ革命は成功して国王は退位するんだから、」
「無理して戦わないでお家に帰りなさい!」双子のユニゾンは今日も冴えている。
「われわれ栄光ある国王の兵士!」
「有象無象の暴徒に負けるはずがない!」
「異形の女ども、怪我をする前に消えろ!」
「なんなら怪我をさせてやろうか?ならば状況が理解できるだろう!」
国軍の士気は思ったより高かった。
「メドモワゼル、危険だ!」
「下がってください!」
「必ず革命は成功させます!」
「だからあなたたちは安全なところへ逃げて!」
革命軍は2人を気遣ってくれる。
「仕方がないわね。」
「できるだけたくさん巻き込むわよ。」
2人は必殺技のタイミングを計った。
「アンジェリック・ユニゾン・クレッセンド!」
一面がモルガナイトの色に染まり、すべての戦意、すべての敵意が消えた。穏やかで心地よい調べが流れる。ユニゾン、そう双子は2つの身体で1つの声を発する。それと同じように、ここに集うすべての兵士が敵味方関係なく1つの声で願った。平和、誰も殺し合いをしない世界。
「静かになったな。」モンパルナスから観測していた天寿が言った。
「終わったのかしら?」アンカが望遠鏡を手に取る。
「なんかピンク色の光が見えたわよ。」ユメカがすべてを理解したように言った。
「これで平和になるかしら?」アンカが少し不安そうに言った。
「長い目で見ればな。まだくすぶってる火はあるだろうが。」天寿はとりあえず安堵した。
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