たまにはこんなファンタジー

肯定ペンギン

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魚心あれば親心

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 辺境の森の奥深く、新米冒険者たちが集う小さな街エルムに、最近妙な噂が広まっていた。『新緑の若葉』と称される駆け出しの冒険者パーティーが、なぜか連戦連勝を重ねているというのだ。彼らのリーダーである少年、カイトは、まだ年若いながらも、その剣筋には時折、常人離れした鋭さが宿る。

 そのカイトのパーティーが、ゴブリン退治の依頼を受けた日。森の奥で奇妙な現象が起きていた。本来なら一筋縄ではいかないはずのゴブリンたちが、まるで何かに怯えるかのように、次々と地面に伏していく。カイトは首を傾げながらも、与えられた好機を逃さず、瞬く間にゴブリンたちを掃討した。

 森の木々の影から、その様子をじっと見つめる二つの人影があった。一人はしなやかな体躯の女性、もう一人はがっしりとした体格の男性だ。彼らこそ、かつて『双璧の流星』と謳われた元超一流冒険者、リュディアとガレス。そして、彼らがひそかに見守る少年こそ、愛する一人息子、カイトだった。

「あら、ガレス。またちょっとやりすぎじゃない?」

 リュディアがくすりと笑う。

「さっきのゴブリン、完全に戦意喪失してたわよ。カイトも不思議そうにしてたじゃない」
「いや、まさか。ただの威嚇だ、威嚇。それに、あの程度のゴブリンに苦戦してるようじゃ、先が思いやられるからな」

 ガレスはぶっきらぼうに答えるが、その目には息子への深い愛情が滲んでいた。

 カイトが冒険者になりたいと言い出した時、二人は猛反対した。危険な仕事だと身をもって知っていたからだ。しかし、彼の固い決意に最終的には折れるしかなかった。せめてもの親心として二人は街のはずれに隠れ住み、息子が冒険に出るたびに、人知れずその後を追うようになったのだ。

 ある時は、魔獣の群れに襲われそうになったカイトの目の前で突如として天候が荒れ狂い、魔獣たちが退散していった。リュディアの風魔法が絶妙なタイミングで嵐を呼び込んだ結果だった。またある時は、毒沼に足を取られそうになったカイトを見えない糸が引き上げるように救った。ガレスの『剛力』のスキルが離れた場所から物体を動かしたのだ。

 カイトは何度も、「何か変だ」と感じていた。窮地に陥るたびに、まるで都合の良い奇跡が起こるかのように助けられる。しかし、その原因が親であるとは夢にも思わない。彼は、自分たちが幸運なパーティーなのだと信じ込んでいた。

 その日、カイトたちはギルドからの緊急依頼で、危険なダンジョンの調査に向かうことになった。最近、そのダンジョンから強力な魔物が現れるようになり、街に被害が出始めていたのだ。依頼を受けたカイトの顔は、かつてないほど引き締まっていた。

「ガレス、今回は流石に手出し無用よ」

 リュディアが真剣な顔で言った。

「あそこは私たちが現役だった頃でも、厄介な場所だったわ。カイト自身の力で乗り越えさせないと」
「……わかっている」

 ガレスは重々しく頷いた。だが、その瞳の奥には不安と葛藤が渦巻いている。

 ダンジョンの深部でカイトたちはとうとう、今回の異変の原因となっていた魔物と遭遇した。それは見る者を凍てつかせるような巨大な氷の魔物だった。カイトの放つ剣撃は厚い氷の装甲に阻まれ、ほとんどダメージを与えられない。パーティーの仲間たちも次々とその冷気によって動きを封じられていく。

「くそっ……!」

 カイトは歯を食いしばった。絶体絶命のピンチ。その時、彼の脳裏に、かつて父が語っていた言葉が蘇った。

「本当に強い奴はな、自分の弱さを知っている。そして、仲間を信じる心を持っているんだ」

 カイトは、凍り付く体で仲間たちを見た。誰もが彼と同じように恐怖と戦っていた。彼は震える声で叫んだ。

「みんな! 俺に合わせろ! 一斉攻撃だ!」

 リュディアとガレスは、ダンジョンの入り口から、魔力の残滓を頼りに息子の戦いを見守っていた。ガレスは今にも飛び出していきそうなのをリュディアが必死に止めている。

「見て、ガレス! カイトは私たちに頼らず、自分の力で考えているわ!」

 カイトの指揮のもと、仲間たちは残された力を振り絞り、最後の攻撃を放った。そしてカイト自身もまた、持てる力のすべてを込めた一撃を放つ。その瞬間、彼の剣に、かつてリュディアとガレスが冒険者だった頃に放っていた、微かな光が宿った。それは親譲りの才能の片鱗だった。

 激しい光と共に氷の魔物は砕け散った。カイトは地面に膝をつき、荒い息を吐きながらも、勝利の喜びに打ち震えていた。仲間たちと顔を見合わせ満面の笑みを浮かべる。

 ダンジョンの入り口でリュディアとガレスは、そっと互いの手を取り合った。その手は冷たい汗で湿っていたが、同時に温かい安堵に包まれていた。

「……成長したな、カイト」

 ガレスが、静かに呟いた。

「ええ、本当に……」

 リュディアの目尻には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 二人は、そのまま音もなくダンジョンを後にする。カイトが自らの足で冒険の道を歩み始めたことを、そっと見守りながら。


 しかし、夫婦の過保護ぶりは、そう簡単に終わるものではなかった。翌日、カイトのパーティーが新たな依頼を受けようとギルドに向かう途中、街の広場に大量の焼き立てパンが山積みになっているのを発見する。『新米冒険者応援セール!』と書かれた張り紙の奥でリュディアがギルドマスターに熱心に話しかけている姿があった。

「あら、カイト。このパン、無料で配ってるらしいわよ。いっぱい食べて、今日も頑張るのよ!」

 リュディアは涼しい顔で声をかけるが、その視線はカイトの持つ地図に釘付けだ。

 ガレスはというと、街の鍛冶屋でカイトの折れた剣の代わりにと、最新鋭の素材で作られた『素性の知れない』剣を、とんでもない破格で仕入れようと交渉していた。

「これは、あくまで鍛冶屋の親父が気分で安くしてくれただけだ。決して特別なものじゃないぞ」

 息子がどんなに成長しようとも親の心配は尽きない。元超一流冒険者の過保護な両親は、今日も息子の背中をそっと押し、そして、影からそっと(かなりガッツリと)手助けを続けるのだった。
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