社畜騎士と2つの国の物語

マンガン乾電池(単一)

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第二章 魔術師の悪意

第二章 二節 銃二丁 拳二撃 刀二振り

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 天気は快晴。山の向こう側から太陽が顔を出し、日光が辺りを照らし始めた街と街を繋ぐ道をとある五人組が歩いていた。
 その集団は皆一様に、これから始まる普段の勤務量を遥かに超えた仕事に対して気分を落とし、暗い顔で歩いていた。
「…なぁ、俺らってさ。いつから都市の外だけじゃなくて内部まで面倒見るようになったんだっけ?」
 その中の一人であるアルベルトが言う。それに対して、エイジが連日の仕事や仕事の打ち合わせで寝不足になっている目を擦りながら言い返す。
「知らねぇよ…。本来、10人いるはずの部隊を5人編成にされてる時点で、まともな仕事をさせてもらえないのはわかってただろ…。」
 そう言うと、その隣を歩いていたダイナが苦笑しながら言う。
「いやいや、5人編成されてる時点でおかしいから。まずまともな仕事をさせてもらえない時点でおかしいから。」
「…いや、まあ普通の扱い受けられないのは俺ら全員が問題児だからなんですけどね…。」
と、愚痴を続けていた。
 その様子を見たリリカが渋い顔をして、会話に割り込んでくる。
「そもそも、何で私たちが問題児扱いされてるんですか。ダイナやマホはともかく私…はわかりませんけど、隊長やアルベルトは違いますよね?」
「え?なんで私まで問題児なのよ?私は性格はまともよ?」
「理由わかってんじゃん。性格に問題がないなら行いだろ。」
 口を挟んだリリカの疑問に一緒に歩いていたマホという長い金髪を後ろで結えた女性が反論するが、それは即座にエイジの重ねての反論で潰されてしまう。
 エイジが反論した勢いで発言を続ける。
「ダイナは性格と行動。マホは行動。リリカは…家の出だっけ?で、アルベルトは家というより出身の問題だったけか?いや、人間関係?んで俺は…まあ、内緒にしとこう。話したくないし。」
「いや、何で他人の黒歴史は掘り返すのに自分は内緒だよ…。まあ、事情があって上に上げにくい人材ばかりてことやな。」
 そのアルベルトの発言で会話は結論付けられる。そして、それが実際にそうなのが辛い。
 そんな下らない会話は一旦区切り、話は今回の作戦の話に移る。
「で?今回の目標は目の前に見えてる洞窟の中にいるんだっけ?」
 そのダイナの質問にエイジが答える。
「そうだな。あそこは本来なら結界付近で唯一魔力が濃くて、ちょっとした魔獣が湧くだけの洞窟だったんだが。」
 魔獣は大気の魔力が濃い場所に湧く。濃ければ濃いほど強い魔獣が生まれやすいのだが、都市に張られた魔力祓いの結界の効果で洞窟内の魔力もちょっと濃いくらいのばずだったのだ。
「なのに今回はその中に強力な個体が湧いてしまったそうな。」
 そんな例外的なケースなので、都市警備部隊も焦ってしまい、魔獣の強さを見誤る事態に繋がったのかもしれない。
「うーん。そんな偶然、早々起きますかね?最近、流石に運悪すぎません?」
 そんな今回の作戦の成り行きを聞いたリリカが苦笑しながら言う。
 だがそれに対し、エイジの反応は意外に真面目なものだった。
「…いや、私の予想が正しかったらの話だが、これは…」



 そんな、だらしなく結局のところ中身の無い話をしていた一同は、歩いて(走って)いるうちに目的地にたどり着いていた。
 巨大な空洞が空き、中に風が吸い込まれる音が響く薄暗い洞窟。この中に今回の目標である魔獣がいるらしい。
「おぉう…遠目に見るのと比べると大きく感じるな…。」
 その洞窟の大きさにエイジは思わず見上げてしまう。
 天井まで7mはあるであるであろうその威容は最早、洞窟というより岩盤に空いた大穴である。中は薄暗闇に覆われていて奥の方までは見えなくなっていた。
「この洞窟、もとい大穴の一番奥に大型がいるそうです。なんでも、この入り口と同じくらいの大きさだとか。」
 それぞれが洞窟を見上げていると、リリカが作戦の補足をする。
「一番奥はここよりちょっと広くなってるそうです。障害物とか無しの単純なドーム型だそうで。」
「うーん…まあ、どうせ大型なんだし障害物とか意味ないだろ。正面から殴り合う気ではあったし。」
 洞窟内部の補足を受けたアルベルトは腰のホルスターに収まっている拳銃を弄りながら言う。そして、そうした意見を聞き今回の戦い方をエイジが決定する。
 と、その前に言い忘れていたといった感じでエイジが更に補足を始める
「あ、そうそう。今回の大型の能力は鳴き声によって仲間を呼び出すものだそうだ。」
その報告を聞いたダイナは疑問を投げかける
「…それって、こう…周囲にいる魔獣呼び出す感じの?」
「そんな感じ。なんで、今回はダイナとリリカは呼び出された魔獣の殲滅に当たってください。マホとアルベルトは俺と一緒に大型と戦おうな。」
 ダイナの疑問に答えたエイジはそのまま、それぞれの役割を言い渡す。
「…ちょっと待って?何で私は大型なのよ?肩書き的に殲滅側じゃないの?」
「そっち周りたきゃ魔法らしい魔法使え魔法使い。」
 最後に、マホが何事か文句を言っていたが、全員の同じ意見に一蹴されていた。



 外からの光が届きにくく薄暗い洞窟の中、入り口付近にダイナとリリカを置いてきたエイジ一行はこの奥に存在する大きな気配を感じ取り、この後始まるであろう戦闘に向けて意識を研ぎ澄ませていた。
「寝てたりしてくれてたら楽だったのだけど、そうはいかないわよね…。」
 おもむろに、マホが口を開く。マホの言う通り寝てくれていたら一番楽なのだが、奥から伝わってくる気配からして、明らかに寝ていないし、こちらの気配に気づいて敵意を向けてきている。
「まあ、そんな都合の良い話は早々無いだろうよ。それにほら、都市警備の奴らが奮闘して片腕落としてるんだろ?なら相手も警戒心高まってるんだろうさ。」
 そんなマホのため息混じりの愚痴に対してアルベルトが苦笑しながら言う。
 そう、結局のところ今回の作戦は「ある程度弱らせたから大丈夫だろ。」と仕事を押し付けられたのが事の発端だ。
「はいはい、後始末ね。ついに隊員がやらかした分以外でもやるようになったか…。」
「ちょっ、その話はやめてほしいのだけど。」
 エイジが恨みがましい目でマホを見ながら言う。それに対してマホが本気で困ってたところでアルベルトが気付く。
「じゃれあいはそこまでにしといた方がいいかも。見えてきた。」
そう言いながらアルベルトが指差した先は、ただでさえ広い洞窟が更に開けており、辺りには大気中の濃密な魔力が燐光となり舞っている。
 そしてその中心。そこには、全長7mはあるであろう魔獣というより巨人に近い体躯をした生物が佇んでいた。
 その威容は見る者を圧倒し、挑む者を押し潰す、圧倒的な存在ー
「…おい待て。なんだこれは聞いてないぞ。」



「…なんか叫び声みたいなの聞こえてきましたねー。」
 というのは洞窟の入り口で待つリリカのセリフだ。魔獣が来るまでは暇ということでだらけきった声になっている。
「そうだなー。なら、そろそろ暇潰し要員が来るかなー。」
 それはダイナも同様である。洞窟の入り口で待っているだけなど実際暇なので仕方ない。
「そんな暇潰ししたくないですよ。疲れるだけじゃないですか。殴るのも蹴るのも銃撃つのも疲れます。隊長の命令だからやってるだけです。」
 暇だとしても、リリカからしたらこれが一番平和で良いのだろう。ダイナのだらけきった返答に対して、唐突に真顔で答え始める。
 それを聞いたダイナは苦笑しながら会話を続ける。
「お前と知り合ってから大分経ったからわかったけどさ、お前口調とか見た目が性格と見事に合ってないよな。」
「…まあ、そうですね。しっかりとしているとはよく言われますが、実際のところは私だって普通の女の子ですから。」
 リリカが目の前に広がる平原の奥の方を眺めながら続ける。
「口調も見た目も名残です。そして隊長は特別枠です。本来なら誰かの下につくのだって嫌ですから。」
 リリカの視線に気づいたのかダイナも奥を眺めながら言う。
「…何があったかは知らないけどさ。そんなことは置いておいて、どうやらお前の希望通りにはならんらしいな。」
 —二人が眺めていた平原の奥には数体の魔獣、そして更にその後ろに魔獣が何体も走ってきているのが見えている。
「誰だって過去にいくらかの闇を抱えてるものですよ。あなただって過去に隊長と何かあったんじゃないですか?」
 少しだけだが、リリカの過去について興味を示すような目線を向けてきたダイナにリリカは質問で返す。
「そもそも、あんなに有能な人がこんな片田舎で小さい隊の隊長として働いてるのがおかしいんです。本来ならもっと上の位にいてもいい。まあ、この隊の隊員全てに言えることですが。」
 辺りの空気が熱を帯びていくような威圧感を覚える。ダイナが戦闘態勢に入り、リリカがどこからか銃を構える。
「エイジが言っていたことが当たりなら、お前もいつか理由がわかるよ。だからとりあえず目の前の問題を片付けよう。そんで、時がきたらリリカにも全て教える。お前には知る権利がある。」
 過去にあったことを思い出すかのように、目を細めたダイナは目の前にいる魔獣に視点を合わせる。そして、目を見開いた。
「魔獣は大型が息絶えるまで永続的に呼び出されるそうだ。いいじゃねぇか!そっちが飽きるまで、全力の殴り合いといこうぜ、なあオイ!」
 テンションが急激に上がったダイナと、それを見てため息をつくリリカ。そしてこちら目掛けて飛びつく魔獣。
ーダイナ、リリカ両名接敵。ダイナの大声を合図に戦いの火蓋が切って落とされた。



 まさに巨人と呼ぶべき人型の巨躯。その身を包む強靭な肉体。
 ーそして、健在な両腕。
「片腕は落としたはずだろうが。どうなってやがる。」
 とは、この巨人を見たときに思わず発したアルベルトの言葉だ。
 その動揺はもっともだ。報告によれば魔獣は片腕を既に失っているはずなのだから。
 だが、そんなことにかまけている余裕はない。
 ドームのようになっている洞窟の奥地。その中心で背を向けていた巨人はこちらの気配に気づいたのかぐるりと首を巡らせ、こちらを視界に捉える。
 やがて巨人はフーッ、フーッと息を荒げ始める。
「…やるしかないだろ。こんくらいの不測の事態は予想してた。その時のためのこのメンバーだ。」
 そう言うとエイジは腰にさしていた二振りの刀を構える。
 巨人の目にもそれが映る。すると、その行為が興奮していた巨人を更に刺激したのか、腕を目の前に交差させ
ー雄叫びを、上げた。
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオアア!!!!』
 まさに大咆哮。上げられた雄叫びは空気を震えさせ、洞窟が崩れるのではないかという勢いで響き渡る。
 それが戦闘の合図だった。巨人は一気に振り返りこちらに拳を放つ。
 図体が弩級なら拳も弩級だ。これにはたまらずエイジもマホも左右に回避行動をとる。だが、それに対しアルベルトは避ける素振りもなく、ただ立ち止まっていた。
「はあ、結局こうなるのか。」
 巨人の触れるもの全てを破壊せんとする拳が迫る。
「この手の敵と戦うのはいつぶりだっけか?」
 もはや避けることは間に合わないであろうところまで拳が来ている。
「ああそうだ。厄介な召喚士が面倒くさい術式組み上げてたときだ。」
 避けることが出来ないなら迎撃あるのみ。アルベルトは腰の二丁のリボルバー式大型拳銃を抜き放ち一瞬で撃つ。撃つ。撃つ。
「いつだって厄介だよ。この手の敵は。」
 瞬間、拳銃が抜き放たれた時には既に両手の銃で6発の弾丸が放たれていた。               
 放たれた弾丸は巨人の腕に風穴を開け、吹き飛ばす。そのあまりの威力に巨人は思わず唸り声をあげる。
『ヴオ!?』
「なら火力でブチ抜くしかねえじゃねえか!」
 腕と共に後ろによろめく巨人はそれでも敵を視界に捉えようと即座に前を向いた。だがその時にはもう遅い。
 巨人の図体。その中腹まで跳躍したマホは何やら燐光を纏っている拳を撃つ。
「リスクのある行動は避けろといったじゃない、アルベルト!」
 そして次の瞬間には巨人の脳内は無理解に包まれた。
 ただの女性のただの拳の1発。ただそれだけだったはずなのだ。ならなぜ自らの巨体は壁に叩きつけられているのか。視界の先には拳を振り抜いた女性がいる。本当にただの拳の1発を受けただけなのか。
「いいじゃねえか。今もこうして無傷で立ってるんだから。結果が良ければいいんだよ。」
 マホの説教を軽く流しながら銃を構えるアルベルト。驚異の弾丸、その2発目が放たれる。
「うーん、やっぱそれなりに距離あると連射は難しいな。狙いが定まらん。」
 壁に寄り掛かったまま立てずにいた巨人は2発目を眉間に食らうことになる。正確に眉間を捉える弾丸。それはそのまま巨人の分厚い皮膚を貫き体内にまでめり込ませる。
『ヴッ、オ、オアアアア!!!』
 だがこれまでの攻防、最後に眉間を捉えた弾丸ですら、巨人には致命傷にならなかったようだ。
「あ、なるほどね。君なんか成長でもしたのかい。」
 その一連の戦いを眺めていたエイジは一連の謎が解けたかのように呟く。
「二人とも、ちょっと聞いてくれ。そいつ多分だけど人為的に強化されてる。」
 アルベルトがその言葉に目を細める。
「…どういうことだよ?人為的ってのは一体誰が…」
「一連の事件の犯人でしょう?こんなことするの、それくらいしかいないじゃない。」
 アルベルトの言葉を遮るように、マホも遅れて答えに辿り着く。そして、どうやらその推測は正しいらしい。
 正面、立ち上がり始めた巨人。その傷は段々と癒え始めていた。
 その様子をエイジは指差しながら言う
「ほら、見ての通り。基本スペックをいじられて、治癒能力をいじられて、そんでもって多分だけど体内にとある術式のトリガーがあって。」
「あ、なるほどね。だから他の魔獣を呼べて、明らかに自分達を消すために強化されてると。」
 そうやって答え合わせをしていくうちに、巨人は完全に体制を整え、傷が完全に治った状態でこちらを睨みつけ、息を荒くしている。
「ただ…眉間にかまされてコレかよ。あー骨が折れる。」
 そして、自分は未だ健在だと言わんばかりに巨人が叫ぶ。
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオアアア!!!!』
 さすがに化け物にも学習能力はある。巨人は標的をアルベルトとマホの2人から切り替え、戦いを傍観していたエイジに定める。
 だが、それも予想通りか。はたまた何の問題もないと判断したか。エイジは落ち着き払った様子で腰に刺していた刀を抜刀する。
 巨人が次に放ったのは蹴り。拳と同様、圧倒的な威力を誇る攻撃だ。
「で、耐久力も上がってて倒しきるのは至難の技と。」
 驚異が目の前に迫っても現状確認はやめない。思考など、行動と共にすればいい。
 結果、巨人の蹴りは空を切ることになる。正確には蹴りはエイジを捉えていたのだが、エイジと接触する瞬間、エイジは刀を巨人の足に刺し跳躍した。
 そのまま跳躍したエイジは巨人の体を駆け上がりながら、足から肩までを蹂躙する。そして再度跳躍。顔の真上まで跳ね上がったエイジはそのまま放たれた矢のように巨人の目を切り裂く。
 巨人が顔面から血を吹き出させながら苦悶の声を上げる
 巨人は突如として現れた痛みに暴れ出す。
「危ないぞー、そんなに暴れまわった…ら!」
 だが、その手も封じる。
 放たれた斬撃は次に腕を捉え、そのまま切り落とす。更なる痛みに巨人の絶叫が辺りに響き渡った。
「さて、ここまでやっても再生するなら…」
 言いかけたところで結果が出てしまった。
 残念ながら、まだ再生する。無数の切り傷はたちまちに癒え、切り裂かれた眼球は正常な働きを取り戻す。
「…ダメね。やれないことはないけど削りきるなら損害も考慮しないと。」
 数度の攻防を経て、火力不足とマホが判断する。
「魔力の消費とか度外視でいくなら私だけで倒せるのだけど。どうするの、隊長?」
 その発言を受け、エイジが少し悩んだ後、答えを出す。
「いや、この次に地下の方も残ってるから温存で頼む。」
 そう言うエイジに今度はアルベルトが少し思案げにした後、質問をする。
「…おい、アレ使うんか?」
「ご名答。私が殺るから、2人は…2分ほど時間稼ぎしてほしい。」
 その質問を肯定したエイジは、おもむろに持っていた刀を鞘に収め、2人の後方まで下がっていく。
「さて、考察パートは終わりだ。一気に決着までいくとしよう。」



「チッ!こうやって耐久戦になると相手のタフさと火力が目立つなオイ!」
 銃声と拳打の音と獣の咆哮が響きわたり、その中に男の怒号が混じる。
 戦況は耐久と火力がある分、巨人が有利だ。しかし、要所ではしっかりとアルベルトとマホが押している。
「おい、エイジィ!そっちは終わらねえのか…よっ!」
 攻撃がてら後ろで立ち止まり、瞑目しているエイジに質問を投げかける。
「あと…10秒。マホは準備頼む。」
 その報告を受け、前衛で巨人と派手な殴り合いを演じていたマホが下がり、アルベルトが前に出る。
「よしよし、これで俺も最後の仕事だな。じゃあ最後にこれでも食らえや。」
 アルベルトが一気に巨人の顔前に跳躍し、もう何度目かもわからない早撃ちを披露する。
 一体、あの一瞬で何発の弾を撃っているのか。その威力に巨人の顔が派手に吹っ飛ぶ。
「隙は作ったぞ。じゃ、退避しまーす。」
 そう言ったアルベルトは着地後、エイジの横を通り過ぎ、退避していく。



 こいつらは一体なんなのか。
 人間ではあり得ないほどの強さを持ち、自分の巨体を軽々と吹き飛ばす。
 こちらが何度立ち上がろうともその都度、こちらに致命傷を負わせてくる。
 だが、そんなことを続けていればいつかは限界がくる。
 ならば、こちらは限界がくるまで立ち上がり続ければいい。そう、今回も同じように。

 そう心に余裕を持ち立ち上がった巨人のそれは一瞬で消し飛ぶこととなった。
 膨れ上がる二つの気配。そして一つの魔力。今までとは比にならない圧倒的存在感に脳が全力で警鐘を鳴らす。
 恐らく、この存在の前に防御は意味を為さない。ならばと、巨人は目の前にいる、その存在感を放つ男を叩き潰さんと動き出す。
 だが、その試みは失敗することとなった。
「ー動くな」
 全身が底冷えするような声が、自らの足元から発せられる。
 そこでは、もう一つの膨れ上がった魔力の正体。1人の女が自分の足を掴んでいた。
 そして受けたのは、今日一番の驚愕だ。自分は足を掴まれているだけ。そう、掴まれているだけなのだ。
 なのだが…全身がピクリとも動かなくなっていた。
 そして、生まれた隙に男が一本のナイフを持ち、近づいてく

 ー理解が遅かった。目で捉えられる状況だけでは追いつかなかった。
 男はいつの間にか自分の体躯を通過し、その後ろには両断された自らの足だけが残っていた。



 …これを使おうとする度に、あの時のことを思い出す。
 あの時のアイツの顔と生まれた疑問だけが脳裏にこびりついている。
 ーいつまでも、あの後悔が付き纏う。
 …アイツは死んだんだ。俺は生き残ったんだ。もう…俺に関わりは、ないはずなんだ。



「うるせえよ。割り切ったことだし、もう死ぬのはやめたんだ。」
 脳裏に過った、とある後悔と共に目の前の巨足を切り払う。
 そこからは一瞬だ。その勢いのまま、壁を駆け上がり巨人の顔に突撃する。



 目の前に、あの男が現れる。目で追いきれないスピードで、男は目の前に現れた。
 ダメだ、勝てるはずがない。威力、速さが段違いに高い。自分の巨体では捉えられるはずがない。
 これは…自分を生み出した主には謝らなければいけないようだ。目的を達することは出来なさそうだ。

 男の姿が掻き消えた。
 最後に、自分の首を両断する寸前。男が何かを呟いた。
「■■・限定解放」



 過度の威力に耐えかね、ボロボロになったナイフを振り抜く。
 斬撃は綺麗に巨人の首を通過し両断する。それと共に限界を迎えたナイフも砕け散った。
 巨躯が崩れ落ち、そのまま起き上がろうとする様子はない。どうやら、完全に死んだようだ。
「うしっ。いっちょ上がりっと。」
「…相変わらず、何なのよそれ。」
 巨人が倒され歩み寄ってきたマホに、質問を投げかけられる。
 毎度これを見るたびに聞かれることなので勘弁してほしいのだが…
「あー、理論上不可能なことを俺の能力で理論捻じ曲げまくって実現させたトンデモ技?」
 まあ、説明しても理解されないだろうし、これしか説明のしようがないのだ。
 ないのだが、案の定マホは疑惑の目を向けてくる。
 しばらくの沈黙の後、マホが口を開いた
「…はあ、わかったわよ。よくわからないけど威力が上がる単純に強い大技。それで納得するわよ。」
 どうやら、渋々と言った感じだが納得してくれたようだ。
「おお、そう言ってもらえると助かる。てことで、コイツも倒したんだしアルベルトも退散したから帰ろうぜ?」



「悪い。ちょいと手間取って遅くなった。」
「本当に遅いな?またなんぞ調べ回ってたのか。」
 洞窟の入り口まで戻ってきた3人。
 そこでは、魔獣の死体の山の上にダイナが座り込み、洞窟の壁にリリカが機関銃を抱えたまま座り込んでいた。
 どうやら、巨人との戦闘を経ても時間はそこまで経っていなかったようだ。
「まだ昼くらいかな?今日中…今日の夜だな。地下の方行けるか、お前ら?」
 これなら今日中に溜め込んだ仕事を片付けられそうだ。コイツらが駄々をこねても無理矢理連れて行こう。
「いいだろう。面倒くさいことは先に片付ける。そんで通常勤務に戻って終わりだ。」
「あれ?珍しく乗り気だな、ダイナ?」
 エイジの提案を何の抵抗もなく受け入れるダイナをアルベルトが茶化す。
 それに対し、ダイナが風景を眺めこちらを見ないまま返す。
「なに、ちょっと気になることがあるだけだ。」
「…。」
 そう、ダイナの言う通り今回の事件は引っかかることが多すぎる。
 それに、このまま予想通りに事が進んだ場合は…

 後悔も、因縁にも決着が着けられそうだ。
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