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距離感
距離感2
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「はぁ…」
瀾は、部屋を出るとしゃがみこんだ。
胸にはズキンズキンと針が刺さるような痛みが走る。
玄関先で優しく微笑み、留奈と楽しそうに話す乙の顔が浮かぶ。
〔「また機会があったら行こうな」
「はい♪」〕
同時に先程の自分に向けられた言葉がよぎる…
〔「仮にもお前は、この家に使えているメイドだ。
仕事はきっちりしてもらわなければ困る」〕
ズキン…
まるで自分には興味がなさそうな、この家の主としての顔…。
確かに内線を切ってしまったことは悪かったが、まさか乙からだとは思わずビックリして思わず切ってしまったのだ。
出かける前に見たあの、もの哀しげな顔は留奈に向けられたものだったのかもしれない。
所詮、自分と乙は恋人でもなければなんでもない。
使用人と主…。
たかが一度や二度、親密になったからといって何かが変わることはない。
そんなあてもない不安と、いつの間にか芽生えた恋しい想いに胸の刺はチクチクと瀾に苦しみを与えていた。
もう、この想いは忘れなければいけない。
自分はただの暇つぶしに扱われていただけなのだ。
もっと早く気が付けば良かった。
突き飛ばしてしまった時の乙の冷たい目がさらに瀾の胸を握った。
同じ屋敷にいるため、それからも瀾と乙は何度かすれ違ったが、乙が瀾を気に掛けることはなく、スルリと何事もなかったかのように冷たく通り過ぎた。
仕事も終わり、何となく瀾はまだ休憩室でボーッと座っている。
そろそろナイトキャップティーの時間だ。
瀾は、つい時計を見てしまった。
昨日の今頃は…
フルフルと頭を振り頭から追い出そうとする。
「元気ないわね、何かあったの?」
「え?」
「お疲れ様」
話し掛けてきたのは、舞緋流だった。
瀾の前にホットミルクのカップが置かれる。
「なんでもないの…」
「…そう」
舞緋流はそれ以上、聞こうとはしなかった。
「…人って思うようにいかないわよね」
「え?」
ホットミルクを飲みながら不意に口にした舞緋流の言葉に、ドキッとする。
「振られちゃったの、私…」
「……。そ、そう…」
まるで自分の気持ちを見透かされたような気持ちになった。
そんな事を口にしたと言うのに、何故か舞緋流は穏やかに笑顔を作っていた。
「…クス」
「つ、辛く…ないの?どうして笑っていられるの…?」
「…解っていたからよ」
「え…?」
「私が手に負えるような人じゃなかったのよ、深すぎてね」
「深い?」
「ええ…とっても…」
フッと少し残念そうに微笑む。
「抱いてもくれなかったわ」
「そ、そう…」
しばらく沈黙が通り抜けた。
「ねぇ、慰めてくれない?」
「え?」
「私の空いた穴…ふさがらないの」
「な、慰めるって…」
クスリと笑うと、ジワジワと近づいてきた。
「簡単よ…」
舞緋流は、瀾にキスをする。
「ン!!!」
瀾はガタンと席を立ち、唇を押さえ後退った。
「クス…冗談よ、寂しそうに見えたから」
「……ッ」
「お休みなさい、瀾」
舞緋流は静かに休憩室を後にした。
瀾もメイドの宿部屋へ行くため廊下を出た。
薄明るい廊下を月明かりがさしていた。
ふと窓の外を見ると、乙が夜風にあたっている。
ナイトローブに身を包みながら、サラサラの髪の毛が風になびいている。
月光欲を楽しんでいるその姿は月の光に溶け合い、幻妖的に映った。
『乙様…』
しばらく幻妖の天使を見つめていると、何気なく乙と目が合った。
ハッとすると、瀾は走って自分の部屋に戻るのだった。
乙は少し目を細め、その様子を目で追ったが、また静寂の中、
風と月光欲を楽しんだ。
「………」
瀾は、部屋を出るとしゃがみこんだ。
胸にはズキンズキンと針が刺さるような痛みが走る。
玄関先で優しく微笑み、留奈と楽しそうに話す乙の顔が浮かぶ。
〔「また機会があったら行こうな」
「はい♪」〕
同時に先程の自分に向けられた言葉がよぎる…
〔「仮にもお前は、この家に使えているメイドだ。
仕事はきっちりしてもらわなければ困る」〕
ズキン…
まるで自分には興味がなさそうな、この家の主としての顔…。
確かに内線を切ってしまったことは悪かったが、まさか乙からだとは思わずビックリして思わず切ってしまったのだ。
出かける前に見たあの、もの哀しげな顔は留奈に向けられたものだったのかもしれない。
所詮、自分と乙は恋人でもなければなんでもない。
使用人と主…。
たかが一度や二度、親密になったからといって何かが変わることはない。
そんなあてもない不安と、いつの間にか芽生えた恋しい想いに胸の刺はチクチクと瀾に苦しみを与えていた。
もう、この想いは忘れなければいけない。
自分はただの暇つぶしに扱われていただけなのだ。
もっと早く気が付けば良かった。
突き飛ばしてしまった時の乙の冷たい目がさらに瀾の胸を握った。
同じ屋敷にいるため、それからも瀾と乙は何度かすれ違ったが、乙が瀾を気に掛けることはなく、スルリと何事もなかったかのように冷たく通り過ぎた。
仕事も終わり、何となく瀾はまだ休憩室でボーッと座っている。
そろそろナイトキャップティーの時間だ。
瀾は、つい時計を見てしまった。
昨日の今頃は…
フルフルと頭を振り頭から追い出そうとする。
「元気ないわね、何かあったの?」
「え?」
「お疲れ様」
話し掛けてきたのは、舞緋流だった。
瀾の前にホットミルクのカップが置かれる。
「なんでもないの…」
「…そう」
舞緋流はそれ以上、聞こうとはしなかった。
「…人って思うようにいかないわよね」
「え?」
ホットミルクを飲みながら不意に口にした舞緋流の言葉に、ドキッとする。
「振られちゃったの、私…」
「……。そ、そう…」
まるで自分の気持ちを見透かされたような気持ちになった。
そんな事を口にしたと言うのに、何故か舞緋流は穏やかに笑顔を作っていた。
「…クス」
「つ、辛く…ないの?どうして笑っていられるの…?」
「…解っていたからよ」
「え…?」
「私が手に負えるような人じゃなかったのよ、深すぎてね」
「深い?」
「ええ…とっても…」
フッと少し残念そうに微笑む。
「抱いてもくれなかったわ」
「そ、そう…」
しばらく沈黙が通り抜けた。
「ねぇ、慰めてくれない?」
「え?」
「私の空いた穴…ふさがらないの」
「な、慰めるって…」
クスリと笑うと、ジワジワと近づいてきた。
「簡単よ…」
舞緋流は、瀾にキスをする。
「ン!!!」
瀾はガタンと席を立ち、唇を押さえ後退った。
「クス…冗談よ、寂しそうに見えたから」
「……ッ」
「お休みなさい、瀾」
舞緋流は静かに休憩室を後にした。
瀾もメイドの宿部屋へ行くため廊下を出た。
薄明るい廊下を月明かりがさしていた。
ふと窓の外を見ると、乙が夜風にあたっている。
ナイトローブに身を包みながら、サラサラの髪の毛が風になびいている。
月光欲を楽しんでいるその姿は月の光に溶け合い、幻妖的に映った。
『乙様…』
しばらく幻妖の天使を見つめていると、何気なく乙と目が合った。
ハッとすると、瀾は走って自分の部屋に戻るのだった。
乙は少し目を細め、その様子を目で追ったが、また静寂の中、
風と月光欲を楽しんだ。
「………」
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