アリスと女王

ちな

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真実は、なに?

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カタリと控えめな音を立て、ダクトの扉を押し開けた蓮は、先に降り立ちました。
続いて凛も狭いダクトから抜け出しました。
「わっ…!」
「おっと」
狭い空間を這いつくばって進んでいた凛は、思うように足が言うことを聞きません。よろけてしまった体を蓮が支えてくれ、凛は少女らしく頬を染めるのでした。
ふふ、と笑われたことに恥ずかしくなって俯くと、蓮が米神にキスをしました。
「いいね、とっても。まるで少女みたいなのに、とってもあまい匂いがする」
初めての恋をもどかしく、大事に育てている少女の足の間は、ぐっしょりと濡れそぼっています。そのギャップが蓮には堪りませんでした。
「さあ。行こう。ここは城の地下一階部分なんだ」
通りで扉を抜けてもお日様の光が入らないと思いました。相変わらず四方を金属で固められた四角い空間です。広さはそこそこあって、なんの用途かもわかりません。蓮は凛の手を引いて、今度は金属壁の隙間に身を滑らせました。
「増築部分なんだけど、途中で中止になったんだ」
「…へぇ」
凛はそれを返すのがやっとです。なんのために増築なんかするのかなど、恐ろしくて聞けなかったと言ったほうが正しいのかもしれません。
そうして改めて思うのです。
蓮が、味方をしてくれてよかった、と。
自分ひとりで迷子になったままだと思うと、凛の背中に冷たい汗が流れるようでした。あのまま森の中で餌として一生を過ごすことになるのか、それともあの傭兵に見つかって檻に閉じ込められるのか。どっちにしても明るい未来ではありません。金属の僅かな隙間に身を滑り込ませ、背中を擦って歩く狭い空間に、凛は蓮の手を探して握りました。首の角度を変えるのもやっとな空間で、蓮はそれでも凛を振り返ります。握られた手の温かさと柔らかさに、こころを擽られたような気分でした。

やや暫く歩くと、今度は少し上り坂のような気がして来ました。最も景色は鼻の先に立つ金属だけなので、どこをどう言う風に進んでいるのかは凛には分かりません。やがて悲鳴のような、金属を擦り合わせたような音が聞こえ始め、凛はここでも"普通"を求めてはいけないのだと再確認しました。
ダクトよりも広い空間に到達すると、貼り合わせた金属板の隙間から中の様子が見えました。
「…蓮」
震えた声で蓮の名を呼ぶと、繋いだままの手をぎゅっと握り返してくれました。
「間違っても、見つからないようにね」
蓮はそれだけ言うと、短く息を吐き出しました。
中は、ざっとテニスコート4つ分ほどの広い空間です。しかしその広さを感じさせないほど、所狭しと様々な機械が並び、何かを製造しているようでした。もちろん中には──
「ぁめでっ…やっ…も…!」
「がえじで…おうじに…がえじで…」
無機質な机に四肢を拘束された女性たちの姿。涙も声も枯れ果てて、顔中なにかの液体塗れになっています。それは涙か、それとも別のものか…。凛には判別が付きませんでした。
様々な機械が並び、それは一台ずつ乱雑に並んだ女性たちに繋がれていました。大きな水色のタンクの中には液体が入っており、タンクの中には攪拌するようなもの、それから外側には別の機械がいくつも接続されており、一番端にはベルトコンベアのようなものが伸びています。コンベアの上には白っぽい錠剤のようなものが次々に送られてきていました。
「…"アリスの蜜"を濃縮して、錠剤にするんだ。彼らのおやつみたいなものだよ」
「…」
なんというおぞましい施設でしょう。凛はもう言葉を発することができませんでした。
「…森には、」
ようやく発した声は、可哀想なほど掠れていました。
飢えた動物たちがたくさんいました。アリスの蜜など何十年も口にしていないと、蓮からも聞きました。今にも倒れそうになっていた大蛇、息絶えそうな子ザル、狂ったように啜った蝶たち。凛はてっきり"アリス"という存在自体が何十年も現れていないのだとばかり思っていたのです。
実際は、檻に閉じ込められた、おそらく"アリス"と呼ばれる女性が数十人、ここにも数十人が拘束され、足の間や伸び切った乳首にそれぞれ機械が取り付けられています。
──アリスは見つかった?
蓮の言葉が蘇りました。傭兵のような人たちとの会話です。背中にぞわりと悪寒が走りました。
もしかして、蓮も、アリスを…
「凛」
凛の顔がみるみる青褪めていき、蓮は慌てたように小さな声で凛を呼びました。そうして狭い空間で指を伸ばし、温度が感じられない凛の頬に触れました。
「正直に言うよ。確かに僕はアリスの捕獲に加担していた。でも、今は違う」
今にも泣き出しそうになっている凛の唇に触れ、ふっと笑って見せました。
「なにがあっても、僕が凛を助けてあげる」
凛は、蓮のことばを信用するより他ありませんでした。
少し渋い顔をした凛に、蓮は眉を下げました。
「そうだよね…あんまり信用ないかな。でも、これだけは信じて。僕は、凛を愛しているよ」
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