満月の夜には魚は釣れない

阪上克利

文字の大きさ
7 / 28
じっと待っているだけでは魚は釣れない

いつの間にか…

しおりを挟む
喫茶店はすぐに見つかった。
ちょっとお洒落なカフェという感じだが、一人で入るならちょっと敬遠してしまうが、女性と二人で入るならそんなに嫌でもない。考えてみれば一人でいるということは可能性というものを自分で少なくする行為なのかもしれないな…と靖男は思った。
『そういえば…保高さんって休日はぼーーっとしてるんでしたっけ?』
そう改めてもう一度聞かれると違う答えを言わなくてはいけないような気になってしまう。
『まあ…ぼーーーっとしてるだけでなく、寝てたりもしますけどね。』
『それ一緒じゃないですかー。』
笑いながら里奈は言った。
何を考えているんだろう、と靖男は思い里奈を見た。

里奈の顔は、どきっとするぐらいキラキラとまぶしい笑顔だった。

無言を決め込もうとしていた割りに、靖男は饒舌になっているような気がした。どうして話すのが苦手な自分がこんなにも話せるのかが不思議だった。
『そういえば映画って何時からなんですか?』
『15時30分からですね。』
時計の針はまだ12時を指したばかりだった。
『食事でも食べましょうか?』
『そうですね。』

食事を頼んだ後、里奈は『忘れないうちに…』と言って前売り券を靖男に渡した。
里奈の持っていた前売り券の映画は『ユー・ガット・メール』というものだった。
前売り券を受け取った靖男は『あれ?』とつぶやいた。

『どうかしました??』
『いや…この女優さん…。』

靖男は映画にでていた外人女優の別の映画を克利と見たことがあったのだ。
そのときは克利も靖男もジャッキー・チェンの『ラッシュアワー』を見るつもりだったのだが、あいにく券が売り切れでその映画にしたのだった。
確か、恋愛物の映画だったような気がする…。

『『めぐり合えたら』じゃなかったですか?いい映画ですよね。』
『男二人で見るもんじゃないですよ。しかも周りはカップルばかりだったし。』
『でもそれで覚えてたんですよね。メグ・ライアンのこと。』
『そうですね。こっちの人も一緒ですね。』
『トム・ハンクスですよ。』
『すごいですね。よく知ってますね。ボクなんか外人はみんな同じ顔に見えちまうのに…。』
『そんなことないじゃないですか。保高さん、ちゃんとメグ・ライアン覚えてたし。』
『あ、そうか…。』

昼食はパスタにした。
喫茶店のパスタらしく、あまり量も多くない。
『保高さん。』
パスタを食べながら、里奈はちょっといたずらっぽく笑いながら言った。
『ランチ、ここに入らなかったらどこに行くつもりでした?』
『お昼ですか?うーん…。』
たまたま成り行きでお洒落な店に入ることができたが、もしこういう成り行きではなくて、『お昼どこに入ろうか…』という話になっていたら靖男はなんと答えただろうか…。
ぱっと思いつくのは吉野家か…。
『吉野家でしょ?』
靖男が答える前に楽しそうに里奈は言った。
『え?!なんで分かった・・・んですか?』
『わかりますよ~。女の第6感ってやつです。』

第6感…。
靖男は一瞬、克利の言葉を思い出した。

『もしも、もしもだよ。保高くんがデートするならどこに飯に行く?』

そう聞かれてすぐさま『吉野家』か『COCO壱』と答えた記憶がある。
もしかしたら里奈は克利から何か聞いているのかもしれない。

『男の人って吉野家好きですよね。』
『そうですね。安くて美味いのが魅力です。』
すると里奈は小声で言った。
『実は…わたしも好きなんです。吉野家。』
『え?そうなんですか?』
『はい。安くて美味しいし…。でも今日はここで良かったです。』

吉野家が良かったならそう言ってくれればいいのに…。
正直な話…お昼ご飯にパスタはボリュームがなさ過ぎて食べた気がしないのだ。

『せっかく男の人とデートしてるんだからお洒落なところのほうがいいですからね~。』

里奈は吉野家がいいと言っているが…彼女はこのカフェが誰より似合っていると靖男は思った。
『お昼はいつも何食べるんですか?』
『ボクはカレーが多いですね。』
『カレーかあ。いいなあ…。あたしのお昼はなんと吉野家が多いんです。』
『え??』
『ビックリしました?』
『ええ、そりゃあ…だって…。』
まさか女性が仕事中とは言え吉野家でランチしているとは…ちょっと想像がつきがたい。

『うそじゃないですよ。うちのお店の横・・・吉野家あるじゃないですか。仕事柄ゆっくりご飯というわけにもいかないから多いんですよ。吉野家で食べること。』
『ああ、そっか。』

意外な感じだった。
食後のコーヒーを飲みながら、靖男は里奈を少し観察してみた。
そういえば…
今までまともに目さえあわせたことがないような気がする。

里奈は美人ではないが、透き通るような白い肌とパッチリとした大きな瞳が印象的な顔をしていた。
てゆうか、そんなことは釣具屋でみたときから分かっていたはずなのだが、意識してみたのはこれが初めてだった。

『あんまりまじまじと見ないで下さいよ。顔がでかいのがばれちゃうじゃない。』
『な!!そ・・・そんなことは・・・。』

靖男は真っ赤になって何か言ったが、もう何言ってるか自分でも分からなくなってしまっていた。

『冗談ですよ。保高さんってホントに真面目な人なんですね。』
『え?あ、まあ、うん、なんだな。それだけが売りです。』
『そんなことないですよ。』
『そうですか?』
『そうです。自信もって大丈夫です。』
『はあ。』

里奈は靖男のどっちつかずの反応にはとくになにも触れずに時計をみて言った。

『そろそろ時間ですね。行きましょう。』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...