満月の夜には魚は釣れない

阪上克利

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満月の夜には魚は釣れない

やせ型で肌が白くて、ひょろっとしてるもやしみたいな人

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『誰かいい人いないの?』
 昨晩の話。
 夕飯を食べながら母親が言った。
 30歳を過ぎればそんなことを言われるのも分からないでもない。

 両親は昔から伊豆の人間なので、少し昔の風習みたいなものをしつこく守っているところがある。
 適齢期になれば結婚するのが当たり前という考え方は最近の都会の人間ならまずしない。
 一人でいるのも人生の一つの形であるという考え方は世の中では浸透しつつあるが、こんな新しい考え方は田舎の人間には通用しないのだ。

 考えてみれば、夏祭りは盛大に行われ、祭りのために仕事を中途で投げ出すような土地柄である。
 昔の風習が色濃く残っているのである。

 『付き合ってる人はいるけど……』
 里奈は靖男のぼんやりとした顔を思い浮かべながら言った。

 付き合い始めて2年。
 口が重い彼はデートの時もあまり話さない。
 それに奥手なのか……手もつないだことはない。
 でもそれは彼の優しさであり気遣いであり誠意だと里奈は思っている。

 もしかしたら、ただ単にそんな度胸がないだけなのかもしれないが……

 この歳になると恋愛は遊びではなくなる。
 というか……この歳になってはじめてはっきりわかったのだが恋愛は遊びではない。というのもデートの先には結婚が待っている。よく結婚を『ゴールインした』などという言い方で表現することがあるが、それは恋人同士の付き合いを経て結婚まで到達したという意味だろう。
 もしゴールしないつもりで恋人を続けるのであれば……それは不誠実というものだ。

 『へええ。どんな人??』
 母親は左手に茶碗を持ったまま身を乗り出してきて言った。
 東京で結婚した弟によく似た顔がそこにある。
 いや……
 正確には弟が母親に似たのだが……

 『うーーん……どんな人って言えばいいのかな?』
 『えー?何それ。外見よ外見。』

 母親はなんだか嬉しそうだ。
 父親は静かに晩酌している。
 娘が彼氏の話をすることを嫌がるような父親ではない。
 ただ単にテレビでやっている野球の試合が気になるのだろう。
 今年はジャイアンツの調子がいいので父親はご機嫌だ。

 『外見ね……』

 うーーん……
 外見と言われても困る。
 里奈は靖男の顔を思い出す。
 なんだろ……
 のっぺりしている……か?
 そんなにイケメンでないのは確かだ。
 無口だけど、たまに面白いことを言う。
 たぶん、学力とかではなく頭は悪くないと思う。

 『ジェームス・ディーン……』
 『え?!』
 『……には似てないよ』
 『いや、そういうギャグは、お母さんは嫌いです』
 『外見はまあやせ型で肌が白くて、ひょろっとしてるもやしみたいな人』
 『だから……』
 『いや、本当に』
 『本当に?』
 里奈は首を縦に振って頷いた。

 『なんであんた……そんなもやしみたいな男好きになったの?』
 なんでって言われても困る。
 靖男の良さは外見ではない。
 無口だけど優しいし……女の子の扱いには慣れてないかもしれないけど、一生懸命に里奈のことを考えてくれるのだ。だから里奈も靖男に合わせてあげたいと思ってしまう。

 『男は外見じゃないよ。ねえ、お父さん』
 父親に話を振ると『ああ、そうだな』とこちらも見ずに返事をする。
 どうせ坂本の打席が気になるのだろう。
 オレンジ色のユニフォームの背番号6番が右打席に入る。

 水泳部だった里奈は、スポーツならなんでも好きで、一通りはこなしている。

 野球もその一つで、高校時代には遊びで野球部の練習に付き合ったことがあるから、野球のルールは理解している。今でも野球は好きだ。
 横浜スタジアムにもたまに見に行ったりする。
 ただ……ジャイアンツファンの父親には申し訳ないが里奈はベイスターズが好きだ。青いユニフォームはかっこいいし、横浜の人はベイスターズを愛している。
 聞いたところによると、関東一都六県で『好きな球団はどこか?』というアンケートをとったところ、神奈川以外の場所ではジャイアンツが1位だったそうだ。唯一、神奈川県だけが地元の球団『横浜DeNAベイスターズ』を応援しており、神奈川県だけは好きな球団1位はベイスターズだったのだ。
 そんな話に感動して、里奈はベイスターズのファンになった。

 ちなみに父親には秘密である。
 彼氏ができたことよりもこっちの方を秘密にしておかないと大変なことになりそうだ。
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