青く澄み渡っている雲一つない空の下に住んでいるボクたちの何もないような日々

阪上克利

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国語の教科書

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 子供ができて今更ながら気づいたことがある。

 子供ができて……と書いたが正確には子供が小学校に上がって気づいたことだ。
 とにかく面白いぐらいにうちの息子はボクに似ている。
 勉強が嫌いなところや、嫌なことを後回しにすること……忘れ物が多いことや、次の日に準備ができないことなど。
 数えればきりがない。

 正直な話。
 ボクは息子のことをできが良いとは思ったことがない。
 いや、だってボクの息子なんだから。
 できなんか良いわけがないのだ。

 まあ、でもそのできが良くない息子がやたらかわいい。
 できが良くないと言うところは少しでも治してほしいのだけど、それでも、そういうところも含めて息子は可愛いのだ。

 最近はボクに似て丸っこい体型になりつつあり、動作も緩慢である。
 走ることはたぶん苦手。
 たまに一緒に走ったりするとすぐに『もう疲れた』とか言う始末。
 でも運動神経はいいから、バットをもたせると野球などやったこともないのにボールを当てることができる。
 まあ、それなりに才能はあるのかもしれない。
 そんなところまで一緒だ。

 ただ違うところもある。

 親子とは言え別人格なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだけど……

 そんな息子を見ていて……
 ボクは今更自分のことに気づいたのだ。

 ある日のこと。
 ボクは息子の学校の宿題を見ていた。
 これも学校から帰宅してすぐにやればいいものを、すぐにやらないものだから夕方の遅い時間になっていた。
 息子はぶつぶつ言いながら宿題にとりかかっている。
 相変わらず仕方のないやつだ……。
『早くやらないからだよ』
『だって……』
『まあ、いいからやっちゃえよ』
『うん。あとは教科書の音読だけだよ』
『お。分かった。じゃあ聞くわ』
 息子が読んだのは『スイミー』という話だった。
 ボク自身、小学2年で学んだ物語で、小さな小魚たちが知恵を絞って大きな魚から身を守っていく話だ。
『スイミーか……懐かしいな』
『お父さんの時もあったの?』
『あったよ……』
 息子の音読を聞きながら……ボクは学生時代、国語の教科書だけは、もらったその日にすべて目を通していたことを思い出したのだ。
『お父さんは国語の教科書だけはもらったその日に読んでたよ』
『え、すごい』
 息子は感嘆の声を上げてくれたが別にすごくはない。
 元々、ボクは本を読むことが好きだったから、『スイミー』をはじめとする物語がたくさん載っている国語の教科書が好きだっただけなのだ。

 昔の自分と比べると……息子は絶対的に読書量が足りていない。
 でもそれは息子のせいだけではないのだ。

 ボクの時代は本か漫画しか娯楽がなかった。
 テレビはあったが子供向けのアニメを今ほどは見れなかった。
 だから本を読んでそこから感動を得る楽しみしかなかったのである。だからこそ読解力も身についたし、48歳になった今でも活字から感動を得ることができている。

 ところが今ではどうだろう。

 スマートフォンやタブレットの普及に伴って誰でもインターネットから動画が楽しめる。
 余った時間を楽しむコンテンツが山のように存在するのだ。
 だから今の子供はあまり本を読まないようにボクには見える。
 そう思うのはボクだけで、実は気のせいならいいのだけど……。

 便利になるということは、大事な何かを捨てることだ……という言葉が頭をよぎる。

 ボクも歳のせいで時代についていけなくなっているのかもしれない。
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