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しおりを挟むファイリングを終えて、ノートとペンを片手に先輩が待つテーブルへ向かうと、さっき話をしたA級冒険者のグループに加えてロッテとセルジまでいた。
「ロッテにセルジまで?」
……いや、ロッテはさっきから組合内にいたけど……セルジはいなかった! 確かにセルジは、フィリップから私の面倒を見るようにと言われているからか、日中はよく組合一階の飲食スペースに顔を出しているのは見かけていた。
でも今日はいなかったはず!
「セルジ、どうしてここに?」
「冒険者組合に教会から仕事の依頼が入ったって聞いたんで」
ちらっとこちらに視線を向けてくるセルジ。彼の少ない動作から、なんとなく私を案じているような気がしてならない。知らないところで私のことを心配してくれてるような気がする。
この間会ったばかりなのに、離れている間も何かと気遣ってくれるセルジ。常識のない私に必要な知識を教えてくれるようとする先輩。彼女以上にもっと接点がないのに私を守り、必要とあらば導いてくれようとする冒険者の皆様。人付き合いに慣れない私と共同生活をしてくれるロッテ。
……私は本当に恵まれている。
「『アンデッド』について勉強って聞いたけど、ホント?」
ロッテが確認を求めてきた!
「う、うん!」
この年齢でアンデッドを知らないって、やっぱりおかしいのかな? 珍しくロッテが真面目に考え込んでる。お菓子を食べながら。
「聖教師様に話を聞いたことないんだっけ?」
「うん」
「もーもー! あたしに聞いてくれれば良いのに! お教えしましょう! 『アンデッド』って言うのはね……」
ロッテの説明によると――『アンデッド』というのは、生命活動が終了しているのに、生体反応を示す存在のことらしい。蘇る死体に類する者、幽体に類する者など様々な種類がいるそうだ。
「どんな立派な貴族のお屋敷も、ゴーストの一体や二体はいるもんなんだけど、お嬢さ――マイラは気づかなかった?」
「うん、全然」
アンデッドは聖女にしか倒すことができない。
マリアは過去にアンデッドを倒したことがある。ファイネンの屋敷で、どこにでもいると噂のアンデッドを見たことはない……。
「気分のいいもんじゃないから、気づかないならそれに越したことはないと思うよ!」
「うん……ありがと」
「そいつのその説明で大体合ってますけど、正確には正体不明なんすよ」
セルジの補足説明によると――『アンデッド』は正体不明で倒し方が分かっていない。唯一、魔法属性『奇跡』と分類される聖女の秘術以外には。聖女の秘術は意図的に隠されているわけではない。本人たちにも説明のしようがなく、口頭で伝承できるものではないと言われている。
聖女が対処できないアンデッドについては、『封印』という処置が施される。封印の術が使えるのは、魔法の光属性を扱える者に限られる。魔法が使えるか、どの属性が使えるか、それは生まれついての適正でほぼ決まる。適性がなくても努力によって手に入れることはできるけど、とても効率が悪く苦痛を伴うのだそうだ。
そういった事情もあって、光属性が扱える魔法使いは必然的に教会に召し上げられ、職を与えられることになるらしい。
ここまで聞いて血の気が引いた。
教会はそんな倒し方も分からない敵を倒すために、冒険者に討伐依頼を出してきたの? 受託しない方が良かったんじゃ?!
「なんかおかしなこと考えてない?」
先輩鋭い。
「気にすんなってお嬢ちゃん。俺たちは慣れてるし全部分かってる。承知の上で自分でそれを選んで受けた。それだけの話だ」
A級冒険者の彼は気にするなと言って笑うけど……。そういう裏事情ってどうやったら効率的に手に入れることができるようになるかな? 受付って本来、そういう知識が必要なんじゃない?!
「しかも、封印は経年劣化でいずれは解けちまう。聖女に頼りたくなるのも分かるんだけどねぇ」
色っぽい冒険者のお姉さんは、肘を付きながら甘酸っぱい飲料水を一気に喉に流し込んだ。鬱憤が溜まっているのかと思ってたけど、茶髪青年によると、いつものことらしい。彼女はお酒が好きで、高収入の仕事を受諾できると、祝い酒と称し昼から飲み明かす趣味があるのだそうだ。
「聖女も万能じゃないってのに、ねぇ?」
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