Magic DOLL

涼風 蒼

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第1章

1-2.ブロガン

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 故郷の村から飛び出し、二人が目指したのは村から一番近い町ブロガンだった。家から持ち出した物は余りにも少なく、ブロガンで旅に必要な物を揃える予定なのである。
 ブロガンは活気があるとは言いがたい片田舎ではあるが閉鎖的な村比べればどこも賑やかな町並みに見えてしまう。
 故郷より少し増えた人口に店数。なにより魔法使いという存在自体が希な存在だった。行き交う人々に様々な視線を浴びつつもシリウスは店屋巡りを続けた。
 
「とりあえず、一番必要な地図は手に入れたね」
「はい。世界地図とまでいきませんが、この地図だけで、この大陸の半分ほど見てとれるかと」
「うん、中々いい買い物だったよ」
「左様でございますか。それは良うございました」
「僕たちの理想郷も見つかるといいね」
「はい」
 
 地図を手に入れ、シリウスたちは次の出発の準備へと取りかかった。もっとも、シリウスは希代たっての魔法使い。それほど必要な物はなかった。
 彼らの旅の資金はシリウスの両親が残した遺産と、シリウス自身が持っていた宝石によって賄われていた。
 
「宝石をお持ちだったのですね」
「あぁ。村にいたとき立ち入り禁止の鉱山で見つけたんだ。すでに宝石を取りつくしたって言われてたけど、結構残っていたよ。いや……あれは残っているんじゃなくて……」
「シリウス様?」
 
 何か引っかかることがあるらしく、シリウスはブツブツと考え込んでいた。そんなシリウスに声をかけたウィズだったが、彼に声が届いていないと判断すると口を閉ざした。
 シリウスをベンチに座らせ、ウィズは周囲の気配を探った。
 地図を買った店を出た辺りから、ウィズは沢山の視線が向けられていることに気づいていた。
 最初は奇っ怪な旅人を気にしているのだと考えたが、どうやらそうではないらしい。
 圧し殺そうとする気配の中に微かに漂う殺気。おそらく宝石や多額の資金を狙ってのことだろう。
 
(さて、どうしたものか。シリウス様を一人にするわけにもいきませんが、このような下賤な輩を見せるわけにもいきませんね)
 
 チラリと盗み見すれば、シリウスはいまだ考え込んでいる様子だった。ウィズはシリウスの思考を妨げないように気配だけを探っていく。
 人混みの中に感じる殺気は三人。いずれも辛うじて感じ取れる程度の殺気だ。それなりの腕を持っているのだろう。
 
(下手に刺激するよりは機会を待ったほうが良さそうですね。シリウス様がどのように動かれるか。仕掛けてくる側もそこをついてくるでしょう)
 
そう考え、ウィズは何事もないかのように空を見上げた。清々しいほどの青さに目を見張る。
 ウィズにとってはこの世界に触れる全てのものが初めての体験だ。ウィズに流れるシリウスの情報をもとにある程度の知識は入っている。けれど、百聞は一見にしかず。知っているのと感じたことは別物だった。
 
「どうしたの、ウィズ? もう行こうよ」
「はい」
 
 いつの間にか思考の渦から脱出したシリウスは何事もなかったように腰を上げていた。
 人形ウィズに向かって手を伸ばす小さな主シリウス
 その手を握り返し、ウィズもベンチから立ち上がった。
 
「さて、いきなり黙り混んじゃってごめんね。ちょっと宝石で気になっちゃって。それより……村の外だっていっても物騒だね、この町」
「おや、お気づきになられていたのですか」
「当たり前だよ。これでもずっと疎まれ続けてきたからね。他人の気配には敏感なんだ」
 
 シリウスの言葉に少し驚くシリウス。しかし、二人は平静に歩き始めた。自分たちを狙う相手がさほどの強敵ではないと判断したらしい。
 
「よろしいのですか。下手に放っておくと、どこまで付きまとってくるか分かりません」
「いいよ。気になるのは一人だけで、残り二人はあの村の魔法使いたちだったから」
「そこまでお気付きになられたのですね」
「うん、まぁね。感じたことのある魔力だったから。でも一人は分からない。魔力を持ってないみたいだから普通の人間なんだろうけど、微かに感じ取れるこの気配……もしかしてわざとかもね」
「わざとこちらに気配をもらしていると?」
「だって、これほどおかしな気配だよ。わざとじゃなきゃ単なる馬鹿だし」
「そうですね。しかし、わざわざ気配をもらすことに、どんな利点があるのでしょうか」
「単に力量を計っている、とも考えられるけど、どうだろうね。まぁ、害が出ないなら放っておくさ。あまりしつこいなら魔法を使えばいい。相手を撒く魔法なんて知ってるし」
「さすがでございます。しかし、その際には私をお使いください。あの程度の輩なら、貴方様のお手を煩わせる必要はございません」
「分かった。じゃあ頼むね、ウィズ」
「はい、仰せのままに」
 
 一礼したウィズの姿が一瞬消えてしまった。けれど、その姿は再びシリウスの隣に戻ってきた。わずか数秒で、ウィズはシリウスをつけてきた敵を一掃したのだった。
 
「ふむ、気になってた奴も一緒に消しちゃったの?」
「いえ、彼は私が追い付く前に引き下がりました」
「でも性別までは判断できたんだ?」
「はい。人間にしては惜しい人材かと思います」
「そっか」
 
 ウィズの報告を、シリウスは特に気にした風もなく話を流した。敵に興味があったのは複数のうち一人だけだった。けれど、それもウィズはきちんと戻ってきたことのほうが大切だった。
 見張りもなくなり、すっきりした足取りでシリウスたちは次の街へを目指した。
 
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