Magic DOLL

涼風 蒼

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第1章

1-5.ケーヤク山

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 朝食を済ませ、シリウスたちはリードの先導のもとケーヤク山へとたどり着いた。
 道の途中で隠していたリードの大剣を拾い、シリウスたちは眼前に聳える山を見上げている。
 木々や草花が生い茂っているような山を連想していたシリウスだったが、その想像は儚くも砕かれた。
 まるで焼け焦げた山のように、その山は大量の灰に包まれている。辛うじてある木たちは葉など一切つけず、押してしまえば簡単に折れるのではないか、と思うほど幹が細い。
 そして、頂上に近づくほど、熱気が肌に纏わりついてくるのだった。

「ここって火山なの?」
「かざん? なんだ、それ?」
「溶岩が活発に動いている山のこと。火山だったらこの熱気や灰も理解できるんだけど。この山って噴火したこととかない?」
「ふんかってなんだ?」
「溶岩が山から出てくることだよ。高熱の塊みたいなのが流れてくるんだ。そして、その時に大量の灰も降ってくることもある。これらのことを噴火って言うんだ」
「ほぉ、シリウスは物知りだな」
「別に、書物で読んだことがあるだけだよ。それより、この山でそんなことを聞いたことはないの?」
「ないな。ギルドから聞いた時も、そんな情報は聞いてないぜ」
「ギルド、か」

 山道を上りながら、シリウスは己の知識を存分に発揮していた。しかし、彼自身もギルドについての情報は少なかった。
 冒険者ギルドは各地方の大きな都市にある。この大国を支配しているのは王族だ。王族の下に貴族があり、各地方に領地を持っている。ギルドは王族の認可のもと、監視役は貴族が行なっている。
 もともと冒険者ギルドは魔物から街を守るための自警団として設立された。しかし、時代が進むにつれ、魔物の素材を使った道具が開発されていき、その素材集めとしての役割も持ち始めたのである。いつしかギルドは街の警備から住民たちの手伝いまで、幅広い依頼を集めるほどになった。
 今回のフェンリル討伐も、近隣の村やさほど遠くないハルナからの依頼だろうことは察しが付いた。

「ねぇ、リード。冒険者ギルドのランクってどんな風になってるの?」
「そうだな~。ギルドに入れるのはちょうどシリウスの年代からだ」
「十歳からってこと?」
「あぁ。初心者で入った場合、最下級のFランクから始まる。けど、ギルドマスターの判定よっちゃ、次のEやDランクからって奴もいるぜ。F~Dまでがブロンズプレートの初心者、C~Bまでがシルバープレートの中段者、Aランクがゴールドプレートの上段者、S級以上となれば白金プラチナプレートの英雄級だな」
「S級以上ってあるの?」
「あぁ。その昔、S S級と呼ばれる奴がいたって伝えられてる。もう何百年も前の話だけどな」
「今はどのランクまでの人がいるの?」
「今はAランクまでだ。数年前まではS級クラスの奴が居たらしいが、引退したんだとよ」
「そうなんだ。それじゃBランクのリードも結構強いんだね。でも、Aランクとどう違うの?」
「あぁ、BランクからAランクに上がるには仲間パーティがいるんだ」

 仲間、という単語を聞いたシリウスは足を止めた。それび釣られてウィズとリードも足を止める。

「シリウス?」

 立ち止まったまま指を口につけたその様子から、ウィズはシリウスが思考の渦へと呑まれたのを察した。
 小さな体のシリウスをヒョイと抱え上げれば、案の定ブツブツと独り言のように情報を整理しているようだ。

「おい、大丈夫か?」
「気になさらないでください。いつもの事ですから。さ、先を急ぎましょう」
「あ、あぁ」

 戸惑うリードに、ウィズは何も説明しなかった。
 山の頂上付近へと近づいた頃、シリウスはようやく思考回路の渦から脱したようだった。

「あれ、ウィズ?」
「お疲れ様です、シリウス様」

 ハッと我に返ったシリウスはウィズに抱えられている現状に驚いた。しかし、ウィズは動じた風もなく、現実に戻ってきたシリウスに向かって微笑んだ。
 抱えていたシリウスを地面へと下す。

「情報は整理できましたか?」
「あぁ、うん。駄目だね。どうしても家にいた頃と同じように集中しちゃうみたい」
「それで良いと思いますよ。シリウス様のことは私がお守りいたします」
「ありがとう、ウィズ。リードもごめんね」
「そいつぁ別にいいけど、何があったんだ?」
「あぁ、うん。リードが言ってたBランクからAランクへと上がるのに、仲間が必要って言ってたでしょう?」
「あぁ」
「つまりリードは仲間がいないだけで、本来はAランクの冒険者と変わらない実力だってことだよね。そして、今回の依頼で僕たちを誘ったのって、もしかしてその昇級試験みたいなものなのかなって考え始めたら止まらなくなっちゃって」
「……すげぇな、シリウス! あれだけの情報でそこまで考えれるのか」

 感嘆の声をあげるリードに、シリウスは少し嬉しそうに笑った。
 誰かから褒められるということは、両親やウィズ以外にはいなかったのである。他人から褒められたことに、シリウスは胸の奥が擽ったくなった。

「まぁ、でもその予想は外れ」
「そうなの?」
「あぁ。仲間は確かにAランクへの昇級に必要だが、それは同じ冒険者ギルドメンバーでないといけないんだよ。それとも、お前たちもギルドに登録するか?」
「いや、登録する予定はないね」
「だろ? それ昇級したくてお前たちを誘ったわけじゃないし、そういう意味でこの依頼を受けたわけでもねーよ。だから気負う必要はねーからな」

 ニカッと笑う姿に、シリウスは呆然と見つめていた。
 シリウスにとってリードという人物の性格は物珍しいものだった。シリウス知っている性格は、自分をこよなく愛してくれ優しい両親と、自らが生み出し友人となったウィズしかいない。その他大勢の人間など有り体に言えば皆一緒だった。
 だからこそ、目の前の感情向きだし青年の存在は不思議な感じがするのだった。

「それじゃ僕たちはゆっくりとリードの力を見物するとしようか」
「お、おい、ちゃんと魔法で援護ぐらいはしてくれよな?」
「リードがピンチだったらね」
「なんだよ、それ。おい、ウィズも何とか言ってくれよ!」
「シリウス様の仰せのままに。むしろこのまま捨て置いてもいいのでは?」
「じょ、冗談だよな?」
「さぁ、どうかな?」

 小首を傾げながら可愛いらしさをアピールするシリウス。側から見れば、足手まといにも見えるであろう存在。
 しかし、リードは感じていた。
 小さな体から発せられる多大な力のことを。
 その小さな体の中に深い悲しみの色を潜めていることを。
 そして、シリウスは友人と言うが、従者のように彼を守るウィズがどことなく人ならざるモノであることを。
 最初こそ多大な力のため脅威となるにであればある程度の事は予想していた。しかし、話して見ればそれほど脅威となり得るとは思えなかったのだった。
 だからフェンリル討伐の同行を申し出たのだ。力を見込んでのこともあるが、何よりこの二人を放っておけない。そんな冒険者の勘とやらが告げているのだった。
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