Magic DOLL

涼風 蒼

文字の大きさ
7 / 14
第1章

1-6.フェンリル討伐

しおりを挟む
 ケーヤク山の頂上へと辿り着いたシリウスたちは早速フェンリルと対面していた。
 大人五人ほど背に乗っても余力がありそうなほど大きな体に、牙を剥き出した隙間から小さな火が飛び出している。
 大きな四肢の爪は鋭く、人間など簡単に殺してしまえそうだ。

「これがフェンリル。本で読んだ時は想像しかできなかったけど、これは圧巻だね~」
「悠長だなぁ。まぁ、これぐらいでビビるような奴を選んだつもりはないが……のんびりしすぎじゃねーか?」
「そうでもありませんよ。何せ攻撃の主体はあなたなのですから」
「そうだよね。僕たちはゆっくり観察しながら援護はしてあげるから安心してよ」
「……あぁ。分かったよ。任せたぞ!」
「……」

 シリウスたちはリードから離れた場所に座り込んで、様子を伺っていた。
 まるで戦うつもりなどない様子に、リードはフェンリルを牽制しながら声を張り上げていた。
 戦いながらの行動に、リード強さがにじみ出ている。

「やっぱり強いね」
「はい。確か、フェンリルの魔物ランクはBランクですよね」
「うん。まぁ、これも魔物に関しての書物に載ってたぐらいしか知らないけど」
「それを相手にしながこちらへ声をかけてくるとは」
「まぁ、それで油断するような奴ならそもそもフェンリルに出会った瞬間負けてるだろうけど……念には念を、てね」

 地面に魔法陣を描いたシリウスは指でそれを押した。

「フィールド結界」

 小さく唱えると、その陣はフェンリルや周辺まで囲うほど大きく広がった。そして駄目押しとばかりにフェンリルへと人差し指を向けて狙いを定めた。

「影縫い」

 フェンリルへと唱えた魔法は、その魔物の影が一瞬鈍く光る。
 フィールド結界は対象物を結界の外に逃がさないための魔法。そして影縫いも、同様一定の距離から離れられなくする魔法である。
 これは万が一に、リードがフェンリルを逃してしまう場合の保険だった。

「あとは……」
「まだお手をお貸しになるようでしたら私が行ってきましょうか?」
「ん? 別にまだいいよ。万が一、ウィズに何かあったほうが嫌だから」
「仰せのままに。指示があればいつでも戦えますゆえ」
「うん。リードがやられちゃったときはお願いするよ」
「かしこまりました」

 二人の会話は物騒ではあるものの、それはフェンリルを逃すつもりがないことを示していた。

「俺は負けねーよ!」
「うわ、地獄耳」

 二人の声が聞こえたのか、リードは声を張り上げた。そんなリードに、シリウスは苦笑しながら言う。
 フェンリル爪や牙を大剣で弾いていくリードの姿は一端の冒険者に見える。青年ではあるもののがっしりとした体格のおかげか、大剣を振り回す様子は凄く軽そうに見えた。しかし、それなりの重さがあるのを、シリウスはフェンリルと打つかる音を聞いただけで気づいている。

「随分と体力があるみたいだね」
「はい、かれこれ二十分ほどでしょうか」
「うん」

 フェンリルとの一進一退の攻撃が続き、二十分ほどの時間が経っていた。
 一人と一匹のどちらとも息を荒げた様子はない。しかし、早々に片付かないことに苛立ちを感じているのはフェンリルのようだった。
 一声冷えたかと思うと、温存していたであろう炎を口から吹き出した。それを大剣で防ぐリードは退く、ということをあまりしなかった。
 炎や魔法など、剣で受けるより躱したほうが遥かに有利だろう。しかし、リードは信念かのようにフェンリルの攻撃をその大剣で受けていたのだ。

「いつまで続けるの?」
「そう言うならちったぁ手伝ってくれ!」
「まだ余裕そうなのに?」
「そうか? でも、あと一歩の決定打がない。懐にもそうそう潜り込ませてくれないしな!」
「そう。なら、仕方ないか」

 戦いに飽きたのか、シリウスはスクッと立ち上がった。そうして攻撃を続けるフェンリルへと一歩、二歩と近づいていく。近づいてくるシリウスに気づき、フェンリルはシリウスへと標的を変えたらしい。
 炎を吹き出すことを止め、大口を開けてシリウスへと飛びかかってくる。

氷の槍アイススピアー

 二本の指を立て、それを迫り来るフェンリルの口へと向けた。瞬間的作られた巨大な氷の槍はフェンリルの口内を貫いた。
 突如の反撃に面食らったフェンリルは鳴き声を上げながらシリウスへと距離を取った。しかし、その隙を逃さず、リードは大剣を振り上げてフェンリルの首へと振り下ろしていた。
 一瞬の刹那、フェンリルの生命活動は停止した。

「お疲れ様、リード」
「おう、シリウスもありがとうな。足止めの他にこんな魔法が使えたんだな!」

 フェンリルを倒したリードはシリウスのもとへと駆けてくる。お互いに労い、リードはスッと手を上げた。
 そのことにシリウスは小首を傾げた。

「なんだ、ハイタッチを知らないのか?」
「ハイタッチ?」
「手を出してみな」
「?」

 リードの言われるまま、シリウスも軽く手をあげた。その小さな手に手加減を加えながらもパンッといい音と立てて手を叩く。

「勝利を祝ってハイタッチ。冒険者同士ならよくするもんだ」
「……」

 シリウスは叩かれた掌がジンジンと痺れるのを感じた。そんな感じも初めて経験だった。

「シリウス様、大丈夫ですか?」

 ジッと手を見つめたままのシリウスを心配し、ウィズは駆け寄ってくる。そんな彼にヒラヒラ手を振りながらシリウスは頷いた。
 近寄ってきたウィズに、シリウスはリードの真似をして手を軽く持ち上げた。
 その動作に、先程のやり取りを見ていたウィズはシリウスが叩きやすいように屈んで手を上げる。そして、先程と同じように、シリウスはウィズ手へとハイタッチをした。

「んじゃ、ウィズ。俺とも!」
「遠慮しておきます」
「なっ! そんなツレないこと言うなよ!」

 リードも両手を上げて待ち構えていたが、ウィズはサラッと断った。その事にギャアギャアと騒ぐが、乗り気でないうウィズに口を尖らせながらも諦めたようだ。
 リードはフェンリルの討伐部位を持ち帰るため、そして死体を処理する作業へと移った。
 シリウスはメモ帳を取り出し、フェンリルの特徴をその紙へと書き出していく。ウィズはシリウスに言われ、リードの手伝いをしている。
 それぞれが動く中、フェンリル討伐は終了したのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

処理中です...