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第1章
1-10.予兆
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祭りの翌朝、街を埋め尽くしていた花々は一夜にしてその姿を消していた。むせ返るほど匂っていた花の香は今はもうこの街にはない。
そんな一日の奇跡のような祭り終え、シリウスたちは次の目的地となったオーシャンへと足を向けた。
シリウスとウィズ、そしてリードとハウルを連れて一行はハルナから約五日程の道のりを歩くのだった。
通常であれば馬車を使う旅路ではあるものの、その手配はせず、四人は歩いていく方針を取った。
その願いを申し出たのは意外にもシリウスだったのである。
「良かったのか? 結構距離があるんだぞ」
「うん。でも、せっかくの旅なんだし馬車はもともと使う予定はなかったんだ」
「馬車を使わずにオーシャンへ? 二人だけでは危険ではないのか?」
「魔物避けだってできるし、のんびり行くつもりだったから無理をしなかったら問題なく辿り着けるよ」
「そうではあるが……魔物避けとて通じない魔物もいるだろう」
「隠蔽魔法とかもあるし、魔物だって見境なく襲ってくるわけでないから大丈夫だと思うけど」
「隠蔽魔法!? シリウス、その魔法を見せてもらっても?」
「え、う、うん。いいけど……」
歩きながら話していると、シリウスの魔法に興味を持ったハウルが目を輝かせながらそう言ってきた。
シリウスにとって隠蔽魔法など、対して珍しい魔法ではないため、そこまで興味を持つハウルに驚いている。
歩きながらシリウスはスッと自分の体を魔力の膜で覆うようなイメージを浮かべる。その膜を極限まで薄くイメージしていく。
そうすると、それまで感じていたシリウスの存在感が次第に薄れていくのをハウルやリードは肌で感じていた。目の前にいるのに、その存在が希薄となり、なんとなく違和感があった。
「これほどまでに……」
「そこまで驚くものでもないよ? 隠蔽魔法って基礎魔法でしょう?」
「いや、隠蔽魔法は上級魔法に値する。下級魔法では遮断魔法だ」
「遮断魔法? そんなのあったっけ?」
「何? シリウス、どんな魔法書で学んだのだ? いや、むしろ親から……」
「ハウル、それ以上はおやめ下さい」
シリウスの魔法について突っ込んで聞いていくハウルを、ウィズは冷たい視線を注いでその言葉を遮った。
両親の話が出そうになった瞬間、シリウスはスッとその表情が消えたのである。そのことに、ハウルもリードも口を噤んだ。
「僕の両親は六歳のときに亡くなりました。だから魔法は大体魔法書で学びました。両親の本なので基礎かどうかは分かりませんので、恐らく基礎だと思っていました」
「そうか。すまない、シリウス」
「いえ」
両親のことを知らないハウルたちに、シリウスは淡々とした口調で説明した。そして、魔法書についても平坦な口調だ。
普段と違うシリウスに、ハウルもリードも子どもの顔色を伺った。
シリウスは陰らせた表情を振り払い、心配そうな二人の顔を見る。
「気にしないで良いよ」
「しかし……」
「両親のこと、二人とも知らなかったことだし」
「それでも、軽率な発言だった。許してほしい」
「うん、もういいから。それよりどうだったの、僕の魔法は?」
「あぁ、やはり素晴らしい! フェンリルを圧倒したと聞いたときは、リードのことだから大袈裟なことを言ったのではないかと思っていたが、予想以上だ。これからのクラーケンの討伐も安心であるな」
「そこまででもないと思うけど」
「何を言う。クラーケンは海の魔物の中でも強敵。ランクはA。本来であればBランクの冒険者を五人ほど集めて行うものだ」
「あれ? でも元々二人だけだったよね?」
「うむ。リードは仲間を組んでないだけで実力はAランクであるからな。補助として魔法使いである私が同行しているだけに過ぎないのだ」
「へぇ。あのリードが……」
「うむ。Aランクの実力があるようには見えない脳筋だからな」
「脳筋だとは失礼だぞ、ハウル!」
「脳筋を脳筋と言って何が悪い! 事あるごとにに力技を使う者を脳筋と言っておるのだ!」
「基本的に力技でなんとかなってるんだから仕方ねぇだろ」
再度リードとハウルの言い合いになり、シリウスは苦笑いしながら二人から距離を取った。
ウィズへと避難したシリウスはふと空を見上げる。そこには果てしないほど青々とした空があった。
「シリウス様?」
「いや、村で見たときの空と随分違うなって思って。前は空の青さを見ても、どこか薄暗くて晴れやかな気持ちになったことがないんだ。でも、村を飛び出して、ウィズと一緒に見た空も、今のこの青空も。なんていうか、すっごく綺麗だなって思うんだ」
「誰かと一緒に見ているからかもしれませんね」
「え?」
「今は私がおります。そして、騒がしいですがリードやハウルもおります。誰かと一緒に見上げる空だからこそ、綺麗だと感じるのではないでしょうか?」
「……うん、そうだね。そうかもしれないね」
ウィズの言葉を受け、シリウスは嬉しそうに微笑んだ。
しばらく進んでいると微に鉄の臭いが鼻を擽った。その臭いに警戒心を露わにしたのはリードとハウルだ。
「先で戦ってやがるな」
「あぁ。シリウス、ウィズ。二人はここら辺で待っていてくれぬか? 助力してくる」
「なんで? 僕たちも手伝うよ」
「しかし、クラーケンの討伐の協力を頼んでいる身の上でこれ以上手助けをしてもらうわけには……」
「いいよ、別に。それにここで待っていてもつまらないし、準備運動ついでに手伝うよ」
「さっすがシリウス! ハウル、ここは頼もうぜ」
「うむ……二人が良いのであればお願いできるだろうか?」
乗り気なリードだが、ハウルは少し戸惑うような表情を浮かべている。
しかし、シリウスとウィズが快諾したことで四人は先の道で戦っているであろう場所へと足を速めた。
シリウスとハウルの肉体強化魔法によって通常よりスピードを上げた四人はあっという間に戦場へと辿り着く。
そこには一つの荷馬車と、それを守っているであろう三人の人間がいた。二人が前衛、一人が後衛のようだ。前衛の二人にはとある所に傷があるらしく戦っている地面には血の痕があった。
彼らを襲っているのは魔物のようで、武器を持ったコボルト一体と、三匹のウルフの姿がある。コボルトが司令塔のようでウルフに一言二言囁くと、ウルフたちは一斉に前衛二人へと襲いかかった。
「炎柱!」
牙と爪を剥き出し襲いかかるウルフと二人の間に、炎の柱が壁となって現れた。三人の人間が目を向けると、魔法を使ったシリウスの姿が目に映る。
しかし、息つく間もなく驚いている三人の耳に、ウルフたちの悲鳴が上がった。
咄嗟に目を向ければウルフたちを倒したリードとウィズの姿がある。
ウルフたちに奇襲したウィズたちに驚いているのはコボルトも同じらしい。しかし、すぐさま我に返ったように剣を構えて斬りかかってきた。
「風の刃でその身を刻め!」
コボルトの剣先はリードたちに届くことなく、ハウルの放った魔法がコボルトの体を刻んだ。一瞬にして絶命した姿を見て、三人の冒険者たちはヘタッとその場に座り込んでしまう。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございました。僕はこのパーティのリーダーで剣士のルドルフと申します」
「俺は戦士のゼノン。ありがとう、助かったぜ」
「私は弓士のレンカ。本当にありがとうございました。もうダメかと思っちゃいました」
「俺は狂戦士のリード」
「私は魔法使いのハウルである」
「リードとハウルって……あのBランクのですか! パーティは組まず、単独で依頼を遂行するっていう噂の!?」
お互いに自己紹介が終わると、リードとハウルの名前に三人の冒険者たちは目を輝かせていた。
特に熱心な視線を送っているのはリーダーと名乗ったルドルフだ。リードとハウルは三人の反応に嬉しそうに笑っている。
「すっげぇ! 俺たちあの二人に会ったんだ。しかも助けてもらえるなんて!」
「運が良いよね~!」
「本当にありがとうございました! それと……君たちは?」
リードたちにワイワイと騒いでいた三人だが、ルドルフは未だ名乗っていないシリウスたちへと目を向けた。
三人はシリウスより年齢は上のように見えるが、それでも子どもたちのパーティメンバーのようだ。
「僕はシリウス。それでこっちがウィズ。僕たちは冒険者じゃないよ」
「それなのにあんなに強いのか……それより君たちもありがとう。おかげで命拾いしたよ」
「ううん、気にしないで。それより三人は初心者?」
「違うよ~。ランクはF。この荷馬車の護衛が完了したらDランクに昇格できるはずだったんだけど、失敗だね」
「そうだな。手助けして貰えなかったら俺たちはここで死んでたかもしれない」
そう言うと、三人の顔からサッと血の気が引いた。
先程の戦闘を見る限り、三人の実力はそこまで高くないだろう。どの程度の力があればランクが上がるのかは分からないけれど、シリウスは疑問が浮かんだ。
「今回の依頼ってそんなに難しいものなの?」
「ううん。今回の依頼で出てくる魔物はさっきのウルフか、小型のバードぐらいなの。コボルトはこんな平原では報告がなかったから出会すなんて思ってなくて……」
「そうだな。この道中での護衛ならFランクでも問題ない。もちろん、魔物討伐の戦績は必要だがな」
レンカの言葉を受け、リードもそこまで難しい依頼ではないと言う。
ウルフとバードの魔物ランクはF。コボルトはその上のDランクである。決して倒せない魔物ではないものの、集団で襲ってくるほどの知恵を持った魔物はそのランクに止まらない。
ふと書物の一節を思い出し、シリウスは考え込むように指を口に添えた。
その様子に、ウィズはシリウスが再び思考の渦へと意識を沈めたのだろうと推測する。しかし、今回はそこまで長い思考ではなかったらしい。
スッと顔を上げたシリウスは小さく言葉を吐いた。
「索敵」
その言葉で、シリウスの周りに可視化されたマップのようなものが出現した。そこに敵の目印のような赤い点が所々に映っている。
「詳細:魔物」
さらに言葉を紡ぐと、赤い点は何の敵を示しているのか文字が浮かび上がってきた。
「シリウス、これは!?」
「索敵魔法だよ。あと、簡易な鑑定にも対応しているから探すにはもってこいの魔法なんだ。それより……やっぱり」
興奮して目を輝かせるハウルからの質問に、淡々と答えたシリウスは索敵魔法によって判明した事実に怪訝そうな表情を浮かべる。
「リード。ダンジョンの情報ってギルドでは取り扱ってるの?」
「ん、あぁ。分かっている物、消滅した物などギルドで整理してるはずだぜ」
「……それじゃこの近くにダンジョンの情報は?」
「いや、この辺りにはないはずだ。比較的魔物が少なく、弱い地域だからな」
「それじゃ、さっさとギルドに報せた方がいいよ。ここからそう離れていない場所でダンジョンが発生したみたいだから」
「なに?」
シリウスの言葉を受け、リードは能天気そうな表情が一気に真剣になった。
ハウルもシリウスの魔法に目を輝かせていた顔を引っ込め真剣な視線をシリウスへと送った。
シリウスは索敵魔法で出てきたマップを広範囲に広げてみせると、その一か所へと焦点を当てる。
「索敵魔法で引っかかったんだ。大量の魔物が一か所からどんどん溢れてる。それが四方に散ってるけど、この量を考えるとダンジョンの出現って考えていいと思うよ」
「……確かに一か所から大量に魔物が出てくるのはダンジョンだろうな。シリウス、魔物の種類まで特定できるか?」
「今のところウルフが多いみたい。その次にコボルトも結構いるよ」
「分かった」
シリウスの言葉を受け、リードはハウルへと目を向ける。ハウルも予想していたのか黙って頷くと、自前の杖へと魔力を集中させた。
「かの者に我が声を届けよ」
呪文を唱え、杖を地面へと突き刺した。
その杖が震えると、声が杖から響いてくる。
『私だ』
「マスター、俺だ。リードだ」
『どうした?」
「オーシャンへと続く道から南東方面にダンジョンの発生らしい痕跡を見つけた」
『なに?』
「現時点から恐らく五キロほどの距離だ。マスター、動けるメンバーはいるか?」
『いるにはいるが……魔物種類は?』
「現状、ウルフとコボルトの群れらしい」
『ウルフとコボルトか。今ならDランクの奴らがいる対処できそうか?』
「どうかな。さっきFランクの冒険者たちを助けたが、その時はコボルトとウルフの群れだった。そして、コボルトは知恵をつけていた」
『知恵ある魔物がいる可能性があるのか。厄介だな』
「あぁ。Cランクの奴らがいたほうがいいだろうな」
『Cランクの連中はすぐには無理だ』
「……そうか。なら仕方ない。俺たちが行く。マスター、オーシャンには連絡を頼めるか?」
『分かった。すまないが、頼んだぞ』
「おう!」
ギルドマスターと会話が終わり、ハウルの魔法が止まった。
杖を地面から抜き、リードとハウルはダンジョンを目指すことを決めた。
「あの、僕たちもついて行っていいですか?」
「いや、お前たちはその荷馬車をオーシャンへ届けてからにしな」
「あ……」
彼らについて行こうとするルドルフたちに、リードは依頼を終わらせるよう促した。そのことに、ルドルフたちは荷馬車へと目を向ける。
「それをちゃっちゃと届けてから、こっちを手伝ってくれや」
「……はい!」
リードの言葉を受け、ルドルフたちは目を輝かせる。そうして急ぎ足で荷馬車へと戻ると、ルドルフたちはオーシャンへと目指して出発した。
「僕たちも行こうか」
「はい」
「重ね重ねすまない、二人とも」
「まぁ、これもリードが言う旅は道連れってやつってことかな。気にしなくていいよ」
「それじゃお前たちの力もあてにしてるぜ!」
「リードはもう少し遠慮って言葉を覚えたほうがいいよ」
調子づくリードに、シリウスは呆れたようにそう言った。しかし、リードは気にした風もなく、嬉しそうに笑っている。
方針が決まり、シリウスたちはオーシャンへの道から外れた。
目指すは南東方面に見つけたダンジョン発生したらしい地点。
シリウスは駆け出すと同時に、全員へ肉体強化の魔法をかけた。それと同時に攻撃から身を守る加護の魔法もかける。
しかし、その魔法の気付いたのはウィズだけであった。お礼を言おうとするウィズだが、シリウスに無言で制止され押し黙った。
リードやハウルの実力を信じていないわけではない。しかし、シリウスは嫌な予感を感じたのだった。
そんな一日の奇跡のような祭り終え、シリウスたちは次の目的地となったオーシャンへと足を向けた。
シリウスとウィズ、そしてリードとハウルを連れて一行はハルナから約五日程の道のりを歩くのだった。
通常であれば馬車を使う旅路ではあるものの、その手配はせず、四人は歩いていく方針を取った。
その願いを申し出たのは意外にもシリウスだったのである。
「良かったのか? 結構距離があるんだぞ」
「うん。でも、せっかくの旅なんだし馬車はもともと使う予定はなかったんだ」
「馬車を使わずにオーシャンへ? 二人だけでは危険ではないのか?」
「魔物避けだってできるし、のんびり行くつもりだったから無理をしなかったら問題なく辿り着けるよ」
「そうではあるが……魔物避けとて通じない魔物もいるだろう」
「隠蔽魔法とかもあるし、魔物だって見境なく襲ってくるわけでないから大丈夫だと思うけど」
「隠蔽魔法!? シリウス、その魔法を見せてもらっても?」
「え、う、うん。いいけど……」
歩きながら話していると、シリウスの魔法に興味を持ったハウルが目を輝かせながらそう言ってきた。
シリウスにとって隠蔽魔法など、対して珍しい魔法ではないため、そこまで興味を持つハウルに驚いている。
歩きながらシリウスはスッと自分の体を魔力の膜で覆うようなイメージを浮かべる。その膜を極限まで薄くイメージしていく。
そうすると、それまで感じていたシリウスの存在感が次第に薄れていくのをハウルやリードは肌で感じていた。目の前にいるのに、その存在が希薄となり、なんとなく違和感があった。
「これほどまでに……」
「そこまで驚くものでもないよ? 隠蔽魔法って基礎魔法でしょう?」
「いや、隠蔽魔法は上級魔法に値する。下級魔法では遮断魔法だ」
「遮断魔法? そんなのあったっけ?」
「何? シリウス、どんな魔法書で学んだのだ? いや、むしろ親から……」
「ハウル、それ以上はおやめ下さい」
シリウスの魔法について突っ込んで聞いていくハウルを、ウィズは冷たい視線を注いでその言葉を遮った。
両親の話が出そうになった瞬間、シリウスはスッとその表情が消えたのである。そのことに、ハウルもリードも口を噤んだ。
「僕の両親は六歳のときに亡くなりました。だから魔法は大体魔法書で学びました。両親の本なので基礎かどうかは分かりませんので、恐らく基礎だと思っていました」
「そうか。すまない、シリウス」
「いえ」
両親のことを知らないハウルたちに、シリウスは淡々とした口調で説明した。そして、魔法書についても平坦な口調だ。
普段と違うシリウスに、ハウルもリードも子どもの顔色を伺った。
シリウスは陰らせた表情を振り払い、心配そうな二人の顔を見る。
「気にしないで良いよ」
「しかし……」
「両親のこと、二人とも知らなかったことだし」
「それでも、軽率な発言だった。許してほしい」
「うん、もういいから。それよりどうだったの、僕の魔法は?」
「あぁ、やはり素晴らしい! フェンリルを圧倒したと聞いたときは、リードのことだから大袈裟なことを言ったのではないかと思っていたが、予想以上だ。これからのクラーケンの討伐も安心であるな」
「そこまででもないと思うけど」
「何を言う。クラーケンは海の魔物の中でも強敵。ランクはA。本来であればBランクの冒険者を五人ほど集めて行うものだ」
「あれ? でも元々二人だけだったよね?」
「うむ。リードは仲間を組んでないだけで実力はAランクであるからな。補助として魔法使いである私が同行しているだけに過ぎないのだ」
「へぇ。あのリードが……」
「うむ。Aランクの実力があるようには見えない脳筋だからな」
「脳筋だとは失礼だぞ、ハウル!」
「脳筋を脳筋と言って何が悪い! 事あるごとにに力技を使う者を脳筋と言っておるのだ!」
「基本的に力技でなんとかなってるんだから仕方ねぇだろ」
再度リードとハウルの言い合いになり、シリウスは苦笑いしながら二人から距離を取った。
ウィズへと避難したシリウスはふと空を見上げる。そこには果てしないほど青々とした空があった。
「シリウス様?」
「いや、村で見たときの空と随分違うなって思って。前は空の青さを見ても、どこか薄暗くて晴れやかな気持ちになったことがないんだ。でも、村を飛び出して、ウィズと一緒に見た空も、今のこの青空も。なんていうか、すっごく綺麗だなって思うんだ」
「誰かと一緒に見ているからかもしれませんね」
「え?」
「今は私がおります。そして、騒がしいですがリードやハウルもおります。誰かと一緒に見上げる空だからこそ、綺麗だと感じるのではないでしょうか?」
「……うん、そうだね。そうかもしれないね」
ウィズの言葉を受け、シリウスは嬉しそうに微笑んだ。
しばらく進んでいると微に鉄の臭いが鼻を擽った。その臭いに警戒心を露わにしたのはリードとハウルだ。
「先で戦ってやがるな」
「あぁ。シリウス、ウィズ。二人はここら辺で待っていてくれぬか? 助力してくる」
「なんで? 僕たちも手伝うよ」
「しかし、クラーケンの討伐の協力を頼んでいる身の上でこれ以上手助けをしてもらうわけには……」
「いいよ、別に。それにここで待っていてもつまらないし、準備運動ついでに手伝うよ」
「さっすがシリウス! ハウル、ここは頼もうぜ」
「うむ……二人が良いのであればお願いできるだろうか?」
乗り気なリードだが、ハウルは少し戸惑うような表情を浮かべている。
しかし、シリウスとウィズが快諾したことで四人は先の道で戦っているであろう場所へと足を速めた。
シリウスとハウルの肉体強化魔法によって通常よりスピードを上げた四人はあっという間に戦場へと辿り着く。
そこには一つの荷馬車と、それを守っているであろう三人の人間がいた。二人が前衛、一人が後衛のようだ。前衛の二人にはとある所に傷があるらしく戦っている地面には血の痕があった。
彼らを襲っているのは魔物のようで、武器を持ったコボルト一体と、三匹のウルフの姿がある。コボルトが司令塔のようでウルフに一言二言囁くと、ウルフたちは一斉に前衛二人へと襲いかかった。
「炎柱!」
牙と爪を剥き出し襲いかかるウルフと二人の間に、炎の柱が壁となって現れた。三人の人間が目を向けると、魔法を使ったシリウスの姿が目に映る。
しかし、息つく間もなく驚いている三人の耳に、ウルフたちの悲鳴が上がった。
咄嗟に目を向ければウルフたちを倒したリードとウィズの姿がある。
ウルフたちに奇襲したウィズたちに驚いているのはコボルトも同じらしい。しかし、すぐさま我に返ったように剣を構えて斬りかかってきた。
「風の刃でその身を刻め!」
コボルトの剣先はリードたちに届くことなく、ハウルの放った魔法がコボルトの体を刻んだ。一瞬にして絶命した姿を見て、三人の冒険者たちはヘタッとその場に座り込んでしまう。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございました。僕はこのパーティのリーダーで剣士のルドルフと申します」
「俺は戦士のゼノン。ありがとう、助かったぜ」
「私は弓士のレンカ。本当にありがとうございました。もうダメかと思っちゃいました」
「俺は狂戦士のリード」
「私は魔法使いのハウルである」
「リードとハウルって……あのBランクのですか! パーティは組まず、単独で依頼を遂行するっていう噂の!?」
お互いに自己紹介が終わると、リードとハウルの名前に三人の冒険者たちは目を輝かせていた。
特に熱心な視線を送っているのはリーダーと名乗ったルドルフだ。リードとハウルは三人の反応に嬉しそうに笑っている。
「すっげぇ! 俺たちあの二人に会ったんだ。しかも助けてもらえるなんて!」
「運が良いよね~!」
「本当にありがとうございました! それと……君たちは?」
リードたちにワイワイと騒いでいた三人だが、ルドルフは未だ名乗っていないシリウスたちへと目を向けた。
三人はシリウスより年齢は上のように見えるが、それでも子どもたちのパーティメンバーのようだ。
「僕はシリウス。それでこっちがウィズ。僕たちは冒険者じゃないよ」
「それなのにあんなに強いのか……それより君たちもありがとう。おかげで命拾いしたよ」
「ううん、気にしないで。それより三人は初心者?」
「違うよ~。ランクはF。この荷馬車の護衛が完了したらDランクに昇格できるはずだったんだけど、失敗だね」
「そうだな。手助けして貰えなかったら俺たちはここで死んでたかもしれない」
そう言うと、三人の顔からサッと血の気が引いた。
先程の戦闘を見る限り、三人の実力はそこまで高くないだろう。どの程度の力があればランクが上がるのかは分からないけれど、シリウスは疑問が浮かんだ。
「今回の依頼ってそんなに難しいものなの?」
「ううん。今回の依頼で出てくる魔物はさっきのウルフか、小型のバードぐらいなの。コボルトはこんな平原では報告がなかったから出会すなんて思ってなくて……」
「そうだな。この道中での護衛ならFランクでも問題ない。もちろん、魔物討伐の戦績は必要だがな」
レンカの言葉を受け、リードもそこまで難しい依頼ではないと言う。
ウルフとバードの魔物ランクはF。コボルトはその上のDランクである。決して倒せない魔物ではないものの、集団で襲ってくるほどの知恵を持った魔物はそのランクに止まらない。
ふと書物の一節を思い出し、シリウスは考え込むように指を口に添えた。
その様子に、ウィズはシリウスが再び思考の渦へと意識を沈めたのだろうと推測する。しかし、今回はそこまで長い思考ではなかったらしい。
スッと顔を上げたシリウスは小さく言葉を吐いた。
「索敵」
その言葉で、シリウスの周りに可視化されたマップのようなものが出現した。そこに敵の目印のような赤い点が所々に映っている。
「詳細:魔物」
さらに言葉を紡ぐと、赤い点は何の敵を示しているのか文字が浮かび上がってきた。
「シリウス、これは!?」
「索敵魔法だよ。あと、簡易な鑑定にも対応しているから探すにはもってこいの魔法なんだ。それより……やっぱり」
興奮して目を輝かせるハウルからの質問に、淡々と答えたシリウスは索敵魔法によって判明した事実に怪訝そうな表情を浮かべる。
「リード。ダンジョンの情報ってギルドでは取り扱ってるの?」
「ん、あぁ。分かっている物、消滅した物などギルドで整理してるはずだぜ」
「……それじゃこの近くにダンジョンの情報は?」
「いや、この辺りにはないはずだ。比較的魔物が少なく、弱い地域だからな」
「それじゃ、さっさとギルドに報せた方がいいよ。ここからそう離れていない場所でダンジョンが発生したみたいだから」
「なに?」
シリウスの言葉を受け、リードは能天気そうな表情が一気に真剣になった。
ハウルもシリウスの魔法に目を輝かせていた顔を引っ込め真剣な視線をシリウスへと送った。
シリウスは索敵魔法で出てきたマップを広範囲に広げてみせると、その一か所へと焦点を当てる。
「索敵魔法で引っかかったんだ。大量の魔物が一か所からどんどん溢れてる。それが四方に散ってるけど、この量を考えるとダンジョンの出現って考えていいと思うよ」
「……確かに一か所から大量に魔物が出てくるのはダンジョンだろうな。シリウス、魔物の種類まで特定できるか?」
「今のところウルフが多いみたい。その次にコボルトも結構いるよ」
「分かった」
シリウスの言葉を受け、リードはハウルへと目を向ける。ハウルも予想していたのか黙って頷くと、自前の杖へと魔力を集中させた。
「かの者に我が声を届けよ」
呪文を唱え、杖を地面へと突き刺した。
その杖が震えると、声が杖から響いてくる。
『私だ』
「マスター、俺だ。リードだ」
『どうした?」
「オーシャンへと続く道から南東方面にダンジョンの発生らしい痕跡を見つけた」
『なに?』
「現時点から恐らく五キロほどの距離だ。マスター、動けるメンバーはいるか?」
『いるにはいるが……魔物種類は?』
「現状、ウルフとコボルトの群れらしい」
『ウルフとコボルトか。今ならDランクの奴らがいる対処できそうか?』
「どうかな。さっきFランクの冒険者たちを助けたが、その時はコボルトとウルフの群れだった。そして、コボルトは知恵をつけていた」
『知恵ある魔物がいる可能性があるのか。厄介だな』
「あぁ。Cランクの奴らがいたほうがいいだろうな」
『Cランクの連中はすぐには無理だ』
「……そうか。なら仕方ない。俺たちが行く。マスター、オーシャンには連絡を頼めるか?」
『分かった。すまないが、頼んだぞ』
「おう!」
ギルドマスターと会話が終わり、ハウルの魔法が止まった。
杖を地面から抜き、リードとハウルはダンジョンを目指すことを決めた。
「あの、僕たちもついて行っていいですか?」
「いや、お前たちはその荷馬車をオーシャンへ届けてからにしな」
「あ……」
彼らについて行こうとするルドルフたちに、リードは依頼を終わらせるよう促した。そのことに、ルドルフたちは荷馬車へと目を向ける。
「それをちゃっちゃと届けてから、こっちを手伝ってくれや」
「……はい!」
リードの言葉を受け、ルドルフたちは目を輝かせる。そうして急ぎ足で荷馬車へと戻ると、ルドルフたちはオーシャンへと目指して出発した。
「僕たちも行こうか」
「はい」
「重ね重ねすまない、二人とも」
「まぁ、これもリードが言う旅は道連れってやつってことかな。気にしなくていいよ」
「それじゃお前たちの力もあてにしてるぜ!」
「リードはもう少し遠慮って言葉を覚えたほうがいいよ」
調子づくリードに、シリウスは呆れたようにそう言った。しかし、リードは気にした風もなく、嬉しそうに笑っている。
方針が決まり、シリウスたちはオーシャンへの道から外れた。
目指すは南東方面に見つけたダンジョン発生したらしい地点。
シリウスは駆け出すと同時に、全員へ肉体強化の魔法をかけた。それと同時に攻撃から身を守る加護の魔法もかける。
しかし、その魔法の気付いたのはウィズだけであった。お礼を言おうとするウィズだが、シリウスに無言で制止され押し黙った。
リードやハウルの実力を信じていないわけではない。しかし、シリウスは嫌な予感を感じたのだった。
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夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
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-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
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