Magic DOLL

涼風 蒼

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第1章

1-11.ダンジョン

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 ルドルフたちを助けた場所から三十分ほど進んだ先で、シリウスたちはダンジョンの入り口を見つけた。
 鬱蒼と茂った森の中に地下室へ続く階段から無数のウルフとコボルトが出てきている。コボルト同士で何か会話しているらしく、様々な場所へと散っているのは何も無計画というわけではないらしい。
 話し合いが終わり、コボルト一匹に対しウルフが三~五匹の数で分かれていく。

「やっぱりただのコボルトではなさそうだな。Dランクたちに任せなくてよかった」

 リードの安堵した声に、ハウルは同意するように頷いた。
 知恵あるコボルトとの戦闘を経験したシリウスも、目の前の魔物たちを軽視しようとは思わなかった。例え自分たちのほうが戦力的に優っていたとしても、その知恵と数は決して侮れるほどのものではない。

「リード、どうする? フェンリルみたいに正々堂々、なんて勝負するにはこっちが不利だと思うけど」
「攻撃魔法で広範囲に威力あるやつはないか? 今まで出てきた連中や、そう遠くに行っていない魔物を一掃してぇんだが」
「あるけど、一掃は厳しいよ。それにハウルと一緒に使うにしても魔力を結構使っちゃう」
「……魔力なら私の回復ポーションエーテルがある。ある程度なら気にしなくても大丈夫だ」
「そう。それなら……ハウル。雷魔法で一番広範囲な魔法って何が使える?」
「それだと雷竜だな」
「わかった。それならハウルは雷竜をお願い。僕は……雷帝を使う」
「雷帝!? 使えるのか?」
「使えなかったら言わないよ。それに、出し惜しみしている余裕はないでしょう?」
「何でも良いから、とにかく早くやろうぜ。あいつらの群の方角にはオーシャンに向かった魔物もいるからな」
「分かった。やるよ、ハウル」
「あぁ」

 ハウルは杖に魔力を集中させる。
 そしてシリウスは己の中心から空へと魔力が広がって満ちていくイメージをした。明るい空がどんどんと曇っていき、木々の合間から差し込んでいた光が一切入らなくなる。

「雷を纏いし竜よ、天よりその雷の雨を降らせ!」
「雷帝!」

 ハウルの魔法は竜の形を取った雷が数匹現れ、ウルフとコボルトへと襲い掛かった。
 シリウスの魔法は数十本の雷の柱が地面へと降り注ぐ。
 二つの魔法により多くのウルフとコボルトが姿を消した。雷が落ちた場所は真っ黒に焦げた後が残っている。
 仲間が攻撃を受けたことで、残っているウルフやコボルトたちは一斉にシリウスとハウル目掛けて襲い掛かってきた。しかし、彼らの爪や牙が二人に届くことはなく、双剣を構えたウィズと、大剣を振り回すリードによって次々となぎ倒されていく。

「おらおらおらぁ!!」

 素早さに利があるように見えるウルフたちだが、リードたちとの力の差は歴然だった。
 指揮する素振りを見せるコボルトたちをウィズが、シリウスたちを狙ってくるウルフをリードが、そしてその他多方面に散らばっているウルフたちをシリウスとハウルが魔法で次々と攻撃していく。
 息つく間もないほどの連携は魔物の追随を許さなかった。あまり時間をかけずに終わると思われた。
 しかし、ダンジョンのボスのような存在が現れることで容易にはいかないことを思い知らされることになる。

「あれはコボルトキングだ」

 ダンジョンより出てきたのはコボルトたちより数倍大きな体躯の魔物だった。
 コボルトたちは簡易なナイフのみだったが、コボルトキングには鎧と盾と大きな剣を持っていた。そして、それまで指揮していたコボルトたちが一斉にコボルトキングの指揮のもと動き出す。

「ウィズ、雑魚を任せても良いか?」
「はい」
「よっし! そんじゃシリウス、ハウル。援護は頼んだぜ!」
「了解した」
「分かったよ」

 言うや否や、リードは大剣を振り上げて一気にコボルトキングまでの距離を縮めた。
 コボルトキングを守ろうと動くウルフやコボルトたちをシリウスとハウルの魔法で蹴散らしていく。
 コボルトキングとはリードが一対一で対峙するようで、誰一人リードとコボルトキングとの戦いに横槍を入れようとはしない。シリウスもウィズも分かっていた。
 それはフェンリル討伐時にもあった、リードのポリシーである。
 敵であろうと、魔物であろうと。強い敵だからこそ一対一で戦いたいのだ。

「そんなもんか、コボルトキング!」

 雄叫びと共に振るう大剣はまるでその重さを感じさせないほど自由に動いていく。しかし、コボルトキングの武器とぶつかり合うたび、カンカンと金属音が鳴った。
 リード攻撃の隙を、ウルフが一匹突進をしかけた。しかし、リードにぶつかる寸前で見えない壁に弾かれる。
 シリウスの防御魔法でウルフを弾いたらしく、それに気づいたリードはシリウスへと大声でお礼を言った。
 それに答える暇もなく、シリウスは自分たちへ襲いかかってくるコボルトへ、炎の球を放つ。
 そんな一進一退の攻撃が続き、夕刻へと差し掛かる頃、ダンジョンのボスたるコボルトキングを倒したのだった。
 ダンジョンのボスを倒したことで、入り口が一瞬心綺楼のように揺らぐ。そうして、その入り口が完全に閉じるとそこには宝珠のような物体が落ちていた。

「これは……宝石だ」

 その宝珠を持ち上げたハウルはそう言った。しかし、通常採取される宝石は岩石の中にあり、完全な球体の宝石は見たことがない。
 そのことに、シリウスとハウルは興味津々にその宝珠を観察した。しかし、どこまで観察してもその宝珠から感じる魔力は、どう考えても宝石なのであった。

「宝珠の形を元からしている物なぞ、初めて目にしたぞ」
「僕も。それにこの魔力量といい、普通よりかなり強い宝石だね」
「あぁ。この一個でどれだけの宝石の代わりとなるか」
「そんなすげーのが出てきたのか?」
「脳筋には分からん」
「あぁ!?」
「そんなことで一々喧嘩しないでよ。ひとまず、その宝石はギルドで回収するんでしょう? それならもう少しゆっくり休ませてよ」

 ハウルとリード喧嘩を察したシリウスはそう言った。先程の戦いで、さすがのシリウスも体力的に余裕がなくなっている。ひとまずハウルから回復ポーションエーテルをひと瓶開けた。
 魔力を回復させるポーションは体力を回復させるポーションと違い、透き通った白色をしている。体力を回復させるポーションは緑色をしているが、どちらともそこまで不味い味ではない。しかし、美味しいと思うほどの味ではないため、あまりがぶ飲みしたい代物ではなかった。
 魔力や体力はポーションで回復できるが、気力ばかりはそうも言えない。
 シリウスは体の怠さを感じていた。しかし、それはリードもハウルも同じらしく、四人は暫しの休息へと入った。
 休息している間、シリウスは先程のダンジョンとコボルトキング、そして宝珠について考えていた。
 ダンジョンの出現は決して珍しいことではない。年に数回出現するものの、その多くは冒険者ギルドによって攻略されている。ダンジョンによっては攻略しても残っているものや、ボスクラスの魔物を倒すと消失するダンジョンもある。
 しかし、なぜ、いつ、どのようにしてダンジョンが出現するのかは解明されていない。ダンジョンとは、自然現象の一つとして考えられているのだった。
 そしてダンジョン攻略した後、何かしらのアイテムを得ることができる。なぜそのような仕組みが出来ているのか。
 とても自然の現象として片付けるには不自然な点が多いのである。そこでシリウスはいくつかの仮定を浮かべてみる。
 一つ目、人知を超えた存在。それこそ、神と呼ばれたり精霊と呼ばれる存在が実在し、彼らによって作られている。
 二つ目、魔法使いの中でも魔王と呼ばれる伝説級の存在によって作られている。
 三つ目、自然現象という名のルールがあって作られている。
 しかし、いくら仮定を考えたところで、いまいちしっくりこないらしく、シリウスは軽く頭を振った。
「どうしたのだ、シリウス?」
「ううん、何でもないよ」
 シリウスの様子を気にかけ、ハウルは声をかける。しかし、シリウスは素っ気ない返事をした。
 思考の渦に呑まれているうちは、極端に反応が薄くなるのだ。
 シリウスは今回経験したダンジョン攻略を思い返すも、これといって手に入った情報はなく、そこで思考は止まった。
 ダンジョン攻略によって出てきた宝珠を調べれば何かの手掛かりになるかもしれないが、一見したところ通常の宝石と変わらないのだった。単純に、通常の宝石より魔力を多く持っているだけに過ぎないため、そこまで興味が湧かなかったのである。
 そのため、シリウスは宝珠については指して興味を持たなかった。

「十分に休めたし、そろそろ出発する?」
「そうだな。クラーケンのこともあるし、そろそろ出発したほうが良さそうだ」
「もう少し休みたいが……やむを得まい」

 あまり進展しない思考お止め、シリウスは立ち上がった。それにつられるように、ウィズ、リードとハウルも立ち上がる。休息には短すぎるほどだが、四人とも動けるほどには回復した。
 荷物を整理したあと、シリウスたちは後回しとなったオーシャンへと出発した。
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