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4 そして十年後
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時は流れ、それから十年。
「聖女様、ありがとうございました」
「聖女様、この御恩は忘れません!」
偽物聖女である私を称賛する声を聞きながら、私はゆったりと馬車の中から手を振った。
その瞬間街道はわああああ、という歓声に包まれ、私はいたたまれなさに、馬車の中のカーテンを閉める。
「聖女様は結局……どこにいらっしゃったのかしら……」
ベールを脱ぎ捨て、ふかふかな馬車の中でごろりと寝転んだ。
「リュミナ、行儀が悪いぞ。今は憧れの聖女様だろ」
「瘴気を払い続けて、流石に疲れたの。お願い見逃して、アルフェイン」
私がそのまま瞳を閉じると、アルフェインは自分のコートを脱いで、私の身体に掛けてくれた。
本人は自分のことを野蛮だと言うけれども、そんなことはない。
彼がとても優しい人であることを、私はこの十年で、いや一年経たずとも、嫌というほど知ってしまった。
私の閉じた瞼の裏側で、老齢になったアルフェインの笑顔を映し出す。
「おかしいなあ。アルフェインが聖女様の隣で幸せそうに微笑んでいるところを、確かに私はこの目で見たのに」
「そうか」
十歳で召喚された私たちは、今や二十歳になっていた。
ルーウェン殿下は召喚術に長けているけど、瘴気や魔物相手の実戦では本当に役立たずだ。
私は聖女様のような治癒能力はないけど、瘴気を清浄する能力を持っていた。
平和な時代に生まれたから、まさか自分にそんな力があるとは思ってなかったけど。
ルーウェン殿下に召喚されたのは、どうやら間違いではなかったらしい。
アルフェインは内乱の時期に毎日剣を振るっていただけあって、魔物の討伐に長けていた。
エルディア……曽祖父は実家である商家の力を使って、私たちの旅が常に快適であるようにしてくれたし、ほかの仲間たちもそれぞれの適正を生かして全員で力を合わせ、この国の危機を乗り越えた。
なのに、本物の聖女様は不在のまま。
絶世の美少女で治癒能力を持った平民の少女は現れないまま、いるのは偽物聖女の私だけだ。
「ところで、リュミナ。エルディアとはその、どうなってるんだ?」
「どうって?」
「告白したのか?」
「……は?」
とんでもないことを聞かれて、私は目をぱちりと開け、むくりと起き上がった。
「いや、なんでそんな誤解を?」
曽祖父であるエルディアは、このあとセレスフォードという領土と爵位を譲り受け、曾祖母と運命の出会いをするはずである。
少し気弱だけれども、穏やかで人の好い曽祖父。
私が生まれる前に死んでしまったけれども、本当に大好きで、今の時代では兄のように慕っている。
「リュミナは、エルディアにだけ、わかりやすく甘えるだろう?」
「話してなかったっけ?」
「何を?」
「エルディアは、私の曽祖父なの」
「えっ?」
「大好きだけど、兄みたいな感じだよ」
「……そうだったのか」
私がそう言うと、アルフェインはホッと息を吐く。
「ねえ、アルフェイン。ルーウェン殿下から、召喚術で元の時代に戻るかどうかって話、聞かれた?」
「ああ」
「アルフェインは、どうするの?」
「リュミナは、どうするんだ?」
私たちは、じっと見つめ合う。
「戻ったって、十歳の私がニ十歳になって戻ったら、両親は驚愕するしね。かと言って、十年後に送ってもらったとしても、十年行方不明になっていた貴族令嬢なんて、嫁の貰い手はいないだろうし」
家族に十年もの間心配をかけた上、そのあとずっと迷惑を掛け続けるなんて、耐えられない。
「そうか。俺はもっと簡単だ。内乱時代に戻ったって、俺には何もない。今の時代のほうがずっと平和でいいしな」
「じゃあ、アルフェインは戻らない?」
「ああ、戻らない」
そう言い切って、アルフェインは距離を詰めると、ぎゅっと私を抱き締めた。
「聖女様、ありがとうございました」
「聖女様、この御恩は忘れません!」
偽物聖女である私を称賛する声を聞きながら、私はゆったりと馬車の中から手を振った。
その瞬間街道はわああああ、という歓声に包まれ、私はいたたまれなさに、馬車の中のカーテンを閉める。
「聖女様は結局……どこにいらっしゃったのかしら……」
ベールを脱ぎ捨て、ふかふかな馬車の中でごろりと寝転んだ。
「リュミナ、行儀が悪いぞ。今は憧れの聖女様だろ」
「瘴気を払い続けて、流石に疲れたの。お願い見逃して、アルフェイン」
私がそのまま瞳を閉じると、アルフェインは自分のコートを脱いで、私の身体に掛けてくれた。
本人は自分のことを野蛮だと言うけれども、そんなことはない。
彼がとても優しい人であることを、私はこの十年で、いや一年経たずとも、嫌というほど知ってしまった。
私の閉じた瞼の裏側で、老齢になったアルフェインの笑顔を映し出す。
「おかしいなあ。アルフェインが聖女様の隣で幸せそうに微笑んでいるところを、確かに私はこの目で見たのに」
「そうか」
十歳で召喚された私たちは、今や二十歳になっていた。
ルーウェン殿下は召喚術に長けているけど、瘴気や魔物相手の実戦では本当に役立たずだ。
私は聖女様のような治癒能力はないけど、瘴気を清浄する能力を持っていた。
平和な時代に生まれたから、まさか自分にそんな力があるとは思ってなかったけど。
ルーウェン殿下に召喚されたのは、どうやら間違いではなかったらしい。
アルフェインは内乱の時期に毎日剣を振るっていただけあって、魔物の討伐に長けていた。
エルディア……曽祖父は実家である商家の力を使って、私たちの旅が常に快適であるようにしてくれたし、ほかの仲間たちもそれぞれの適正を生かして全員で力を合わせ、この国の危機を乗り越えた。
なのに、本物の聖女様は不在のまま。
絶世の美少女で治癒能力を持った平民の少女は現れないまま、いるのは偽物聖女の私だけだ。
「ところで、リュミナ。エルディアとはその、どうなってるんだ?」
「どうって?」
「告白したのか?」
「……は?」
とんでもないことを聞かれて、私は目をぱちりと開け、むくりと起き上がった。
「いや、なんでそんな誤解を?」
曽祖父であるエルディアは、このあとセレスフォードという領土と爵位を譲り受け、曾祖母と運命の出会いをするはずである。
少し気弱だけれども、穏やかで人の好い曽祖父。
私が生まれる前に死んでしまったけれども、本当に大好きで、今の時代では兄のように慕っている。
「リュミナは、エルディアにだけ、わかりやすく甘えるだろう?」
「話してなかったっけ?」
「何を?」
「エルディアは、私の曽祖父なの」
「えっ?」
「大好きだけど、兄みたいな感じだよ」
「……そうだったのか」
私がそう言うと、アルフェインはホッと息を吐く。
「ねえ、アルフェイン。ルーウェン殿下から、召喚術で元の時代に戻るかどうかって話、聞かれた?」
「ああ」
「アルフェインは、どうするの?」
「リュミナは、どうするんだ?」
私たちは、じっと見つめ合う。
「戻ったって、十歳の私がニ十歳になって戻ったら、両親は驚愕するしね。かと言って、十年後に送ってもらったとしても、十年行方不明になっていた貴族令嬢なんて、嫁の貰い手はいないだろうし」
家族に十年もの間心配をかけた上、そのあとずっと迷惑を掛け続けるなんて、耐えられない。
「そうか。俺はもっと簡単だ。内乱時代に戻ったって、俺には何もない。今の時代のほうがずっと平和でいいしな」
「じゃあ、アルフェインは戻らない?」
「ああ、戻らない」
そう言い切って、アルフェインは距離を詰めると、ぎゅっと私を抱き締めた。
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