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3 偽物聖女、承りました
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小さいけれども、長閑で豊かな王国、ノクティルア。
最近ではすっかり平和になった国だが、百年前には内乱で血で血を洗い流していたそうだし、五十年前には国土を覆いつくすほどの瘴気に襲われたことがあったという。
瘴気に覆われた土地からは、魔物が生まれる。
魔物は人間や作物を襲うので、ノクティルア王国は過去にとんでもない危機に見舞われたということだ。
その危機を見事に食い止めたのが、ノクティルア王国の前前王と聖女様、そしてその他の英雄たちで、私の曽祖父も、その名を連ねている。
絶世の美女で平民だった聖女様と、当時の王子様との悲恋話は全国民が涙し、彼らの冒険譚は書籍や絵本となって、伝説として今でも語り継がれていた……のだが。
「え? 今の時代が、ノクティルア王国、建国三百四十年、ですか?」
ルーウェン殿下から私たちの召喚についての詳細を説明されている際、聞き捨てならない言葉を耳にしてしまった。
え、待って、
つい先日、建国四百年を記念をしたばかりでは?
つまり「今」は、私の時代より六十年も昔ということになるのだろうか。
「うん、そうだよ。もしかして君は、違う時代から来たのかな?」
私と一緒に顔色を失った少年が、もうひとりいた。
私は未来から、そしてアルフェインと名乗ったその少年は、過去から召喚されたことがわかった。
ルーウェン殿下は、この国に瘴気の満ちる前兆が発見されて、得意の召喚術でその瘴気に立ち向かえる仲間を召喚したらしい。
私は、平民だと言っていたエルディアをチラリと見た。
そうか、我が家は最初から貴族だったわけじゃなくて、ここでの曽祖父の功績を認められて、爵位や領地を授かったと言っていたっけ。
いや、それよりも。
「ルーウェン殿下、大変です」
私は召喚された顔ぶれを見てあることに気づき、身体を震わせる。
「聖女様がいません」
私以外に、女の子がいないのだ。
絶対にいるべき、女の子が。
「え? 聖女様?」
「ルーウェン殿下、この国が今回の危機を脱するには、聖女様が必要なのです! 彼女がいて、初めて殿下は伝説になるんですよ! とにかくまずは、聖女様を探しましょう!」
私は、この仲間にどれだけ聖女様が欠かせない存在なのかを切々と、熱く訴える。
「聖女様は絶世の美少女、そして治癒の能力をお持ちだと言われております。ルーウェン殿下は王子なのですから、もうこの際職権乱用でもなんでもいいですから、とにかく全国から、いえ全世界から、聖女様を捜し出してください!」
直ぐに元の時代へ戻してもらう予定だったが、聖女様がいないとなれば話は変わってくる。
このままでは、歴史が変わってしまうかもしれない。
国そのものがなくなってしまえば、戻ったところで私の家族がどうなっているのか、わからない。
聖女様が見つかるまでは、不安で戻れない。
この国が瘴気に覆われ問題になったのは五十年前くらいだったと言われているから、まだ十年ほど余裕があることになる。
私の話に最初は半信半疑だったルーウェン殿下やその家臣たちだったが、私がこの国の重要な鉱山場所だったり、この国が直ぐ直面するであろう外交問題だったりを話してみれば、慌てて聖女様探しに乗り出してくれた。
「それで聖女様は、見つかりましたか!?」
「いや、まだらしい。どの街に赴いても、偽物ばかりだ」
こんな時、聖女様の外見的特徴を知らないのは痛手だった。
ああ、あのベールの下のお顔を拝見させていただいていれば、少しは違っていたのかもしれないのに……!
「しかし、リュミナの言う通りであれば、聖女様という存在は必要不可欠なのだろう? 少なくとも、存在するという体裁は保ちたいところだな」
ルーウェン殿下の呟きに、私はこくりと力強く頷く。
「聖女不在の間、誰かが代役を務めるのはどうだ?」
私たちの話を聞いていたアルフェインは、剣を振りながら会話に参加する。
「代役……それはいいかもしれないな」
「口が堅くて、絶対に自己主張しない方を選んでくださいね、ルーウェン殿下!」
本物の聖女様が現れた時、スッと身を引いてくださる方でないと困ってしまう。
私がそう進言すると、仲間たちはじっと一様に私を見た。
「リュミナがやるのはどうだ?」
「え? 私がですか?」
急な指名に、私はポカンと口を開ける。
しかし、聖女様は最後まで謎に包まれた人物だったから、世間的に顔が知られている誰かの身代わりをするよりかは、はるかに楽なのかもしれない。
「うーん……そうですね、背に腹は代えられません。わかりました、聖女様不在の間だけ、私が身代わりを務めます!」
そうしてこの私が、偽物聖女の役目を承ることになったのだった。
最近ではすっかり平和になった国だが、百年前には内乱で血で血を洗い流していたそうだし、五十年前には国土を覆いつくすほどの瘴気に襲われたことがあったという。
瘴気に覆われた土地からは、魔物が生まれる。
魔物は人間や作物を襲うので、ノクティルア王国は過去にとんでもない危機に見舞われたということだ。
その危機を見事に食い止めたのが、ノクティルア王国の前前王と聖女様、そしてその他の英雄たちで、私の曽祖父も、その名を連ねている。
絶世の美女で平民だった聖女様と、当時の王子様との悲恋話は全国民が涙し、彼らの冒険譚は書籍や絵本となって、伝説として今でも語り継がれていた……のだが。
「え? 今の時代が、ノクティルア王国、建国三百四十年、ですか?」
ルーウェン殿下から私たちの召喚についての詳細を説明されている際、聞き捨てならない言葉を耳にしてしまった。
え、待って、
つい先日、建国四百年を記念をしたばかりでは?
つまり「今」は、私の時代より六十年も昔ということになるのだろうか。
「うん、そうだよ。もしかして君は、違う時代から来たのかな?」
私と一緒に顔色を失った少年が、もうひとりいた。
私は未来から、そしてアルフェインと名乗ったその少年は、過去から召喚されたことがわかった。
ルーウェン殿下は、この国に瘴気の満ちる前兆が発見されて、得意の召喚術でその瘴気に立ち向かえる仲間を召喚したらしい。
私は、平民だと言っていたエルディアをチラリと見た。
そうか、我が家は最初から貴族だったわけじゃなくて、ここでの曽祖父の功績を認められて、爵位や領地を授かったと言っていたっけ。
いや、それよりも。
「ルーウェン殿下、大変です」
私は召喚された顔ぶれを見てあることに気づき、身体を震わせる。
「聖女様がいません」
私以外に、女の子がいないのだ。
絶対にいるべき、女の子が。
「え? 聖女様?」
「ルーウェン殿下、この国が今回の危機を脱するには、聖女様が必要なのです! 彼女がいて、初めて殿下は伝説になるんですよ! とにかくまずは、聖女様を探しましょう!」
私は、この仲間にどれだけ聖女様が欠かせない存在なのかを切々と、熱く訴える。
「聖女様は絶世の美少女、そして治癒の能力をお持ちだと言われております。ルーウェン殿下は王子なのですから、もうこの際職権乱用でもなんでもいいですから、とにかく全国から、いえ全世界から、聖女様を捜し出してください!」
直ぐに元の時代へ戻してもらう予定だったが、聖女様がいないとなれば話は変わってくる。
このままでは、歴史が変わってしまうかもしれない。
国そのものがなくなってしまえば、戻ったところで私の家族がどうなっているのか、わからない。
聖女様が見つかるまでは、不安で戻れない。
この国が瘴気に覆われ問題になったのは五十年前くらいだったと言われているから、まだ十年ほど余裕があることになる。
私の話に最初は半信半疑だったルーウェン殿下やその家臣たちだったが、私がこの国の重要な鉱山場所だったり、この国が直ぐ直面するであろう外交問題だったりを話してみれば、慌てて聖女様探しに乗り出してくれた。
「それで聖女様は、見つかりましたか!?」
「いや、まだらしい。どの街に赴いても、偽物ばかりだ」
こんな時、聖女様の外見的特徴を知らないのは痛手だった。
ああ、あのベールの下のお顔を拝見させていただいていれば、少しは違っていたのかもしれないのに……!
「しかし、リュミナの言う通りであれば、聖女様という存在は必要不可欠なのだろう? 少なくとも、存在するという体裁は保ちたいところだな」
ルーウェン殿下の呟きに、私はこくりと力強く頷く。
「聖女不在の間、誰かが代役を務めるのはどうだ?」
私たちの話を聞いていたアルフェインは、剣を振りながら会話に参加する。
「代役……それはいいかもしれないな」
「口が堅くて、絶対に自己主張しない方を選んでくださいね、ルーウェン殿下!」
本物の聖女様が現れた時、スッと身を引いてくださる方でないと困ってしまう。
私がそう進言すると、仲間たちはじっと一様に私を見た。
「リュミナがやるのはどうだ?」
「え? 私がですか?」
急な指名に、私はポカンと口を開ける。
しかし、聖女様は最後まで謎に包まれた人物だったから、世間的に顔が知られている誰かの身代わりをするよりかは、はるかに楽なのかもしれない。
「うーん……そうですね、背に腹は代えられません。わかりました、聖女様不在の間だけ、私が身代わりを務めます!」
そうしてこの私が、偽物聖女の役目を承ることになったのだった。
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