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心身が満たされておらず欲求不満を溜めこんだ人妻というのは、結構多い。
夫が長期不在だったり、レスだったり、不倫をしていて相手にして貰えなかったり。
俺は国立大学の獣医学部に在籍する傍ら、そんな人妻の相手をするお金稼ぎでそこそこお金を稼いでいた。
人妻というのがポイントで、独り身の女性と違い、仕事だと割り切ってくれるところがとても良い。
惚れやすい女性は別として、基本的には旦那のお金でセレブな暮らしをしている人妻からの依頼が多いため、一時の刺激として若い男を求めるだけで、離婚せずに現状の生活には満足している女性のほうが圧倒的に多かった。
だから、本気で惚れられた挙句、痴情が縺るという面倒事に発展するケースが少ない、比較的安全なお金稼ぎである。
俺はスーツ姿で高層マンションの依頼人の部屋ボタンを押す。
家を特定されたくない女性はホテルで落ち合うことも当然あるが、写真を撮られれば一発アウトなので、意外と家での行為を指定する客も少なくない。
ご近所さんの目があるために、私服はNG。
訪問販売やクリーニング、家事代行やリフォームなど、業者を装って家にお邪魔をする。
「こんにちはー、〇〇生命でーす」
「はーい、今開けまーす」
今回の依頼人は、半年前から常連客になってくれた登和子さん。
人妻と言ってもまだ二十代後半で、旦那さんの年齢も同じと聞いている。
かたやタワマンに住む若夫婦で、俺は身体を売って稼いでいる身。
数年しか歳が変わらないのにこの差か、と思いながら、開いた自動ドアに身体を滑り込ませた。
「……でさぁ、いっくら政略結婚だと言っても、もう一年も一緒に住んでるんだからさあ、もっと構ってくれてもいいと思わない? 不愛想な上に仕事仕事で帰りは遅いし、ご飯だって毎日外だし」
今日も登和子さんのイライラはピークに達していて、俺はふんふんと頷きながら時折相槌を挟みつつ親身になってその愚痴を聞いていた。
正直、別れればいいのに、と思わないでもない。
しかし、働かずして自由に出来る金が手に入る環境は、魅力的で手放せないらしい。
「そうだよね。せっかく一生懸命作った料理なんだから、やっぱり一緒に食べて欲しいよね」
「あ、作ることはないんだけどね。いつもデパ地下かデリバリー」
登和子さんのピカピカに磨き上げられた爪で判断すべきだったのに、余計なことを言ってしまった。
それでも、セレブにとって料理を作らない生活というのは恥というよりも一種のステータスになるだろう。
「はは、登和子さんらしいね。でも旦那さん、毎日外食で、いつもそんなに遅く帰宅して来るなら、身体壊さないか心配だね」
お客様によって、敬語かタメ語かは使い分ける。
登和子さんの場合はタメ語がいいと言われたので、普通に話すことにした。
今では、セックスもする友達、もしくは先輩後輩のようなノリだ。
「まあ、若いから平気でしょ。それよりあいつ、若いのに指一本触れて来ないんだよね。こんな美人の嫁ほったらかすなんて、失礼すぎると思わない?」
政略結婚とは聞いていたが、その事実には驚いた。
きっと彼女にとって、それは酷くプライドを傷つけられることなのだろうし、内心悩んでいるのだろう。
だからこそ、俺を相手に半年も経って初めて愚痴をこぼしてくれたのだ。
「こんな綺麗な人が奥さんだったら、毎日シたくなるし、自慢しまくるけどな」
「でしょう? だからどっかに欠陥があると思うのよね、うちの旦那」
登和子さんの言葉に、飾られていた二人の結婚式のツーショット写真を眺めた。
親戚を呼ばずにハワイで挙げた結婚式の写真らしい。
結婚式を渋っていた旦那さんになんとか写真だけでも撮りたいと登和子さんが説き伏せ、辛うじて撮らせたという写真。
純白のドレスを着て微笑む登和子さんの隣には、眼鏡をかけたニコリともしないスラリとした旦那さんが佇んでいる。
その話だけを聞けば登和子さんが可哀想だと思うが、旦那さんの話を聞けばまた違ったストーリーが聞けるのだろう。
まあ、どちらかと言えば底辺の生活を送って来た俺としては、正直こんなところに住む人間にも欠陥があってくれたほうが嬉しくもある。
神様は不公平だ、なんて考えずにすむから。
ただ一方で、どちらも不憫でもあった。
手を出して貰えない登和子さんも、旦那さんも。
旦那さんだってまさか、一生懸命働いて得たお金が不倫相手に流れているとは思ってもいないだろうから。
本人も不倫している人であれば罪悪感は少なくてすむのだが、登和子さんからそうした愚痴は聞いたことがない。
「けど、そんな旦那さんのお陰でこうして登和子さんに出会えたから、俺は感謝してる」
「もう、本当に口が上手いんだから」
ふふ、と笑う彼女の手をそっと掬い上げて、その甲にキスを落とす。
言葉遣いではそうとわからないが、政略結婚というものがまだある階級なのだから、確かに彼女も上流階級に属しているのだろう。
本来なら俺と交わることのない人生を歩んできたはずだ。
「本当に口が上手いかどうか、試してみる?」
「そうね、じゃあお願いしようかしら」
俺は手を伸ばして写真立てを伏せるとそのまま彼女の上に圧し掛かるようにしてソファに押し倒し、丁寧に口淫を施してから欲求不満な身体を潤してあげた。
夫が長期不在だったり、レスだったり、不倫をしていて相手にして貰えなかったり。
俺は国立大学の獣医学部に在籍する傍ら、そんな人妻の相手をするお金稼ぎでそこそこお金を稼いでいた。
人妻というのがポイントで、独り身の女性と違い、仕事だと割り切ってくれるところがとても良い。
惚れやすい女性は別として、基本的には旦那のお金でセレブな暮らしをしている人妻からの依頼が多いため、一時の刺激として若い男を求めるだけで、離婚せずに現状の生活には満足している女性のほうが圧倒的に多かった。
だから、本気で惚れられた挙句、痴情が縺るという面倒事に発展するケースが少ない、比較的安全なお金稼ぎである。
俺はスーツ姿で高層マンションの依頼人の部屋ボタンを押す。
家を特定されたくない女性はホテルで落ち合うことも当然あるが、写真を撮られれば一発アウトなので、意外と家での行為を指定する客も少なくない。
ご近所さんの目があるために、私服はNG。
訪問販売やクリーニング、家事代行やリフォームなど、業者を装って家にお邪魔をする。
「こんにちはー、〇〇生命でーす」
「はーい、今開けまーす」
今回の依頼人は、半年前から常連客になってくれた登和子さん。
人妻と言ってもまだ二十代後半で、旦那さんの年齢も同じと聞いている。
かたやタワマンに住む若夫婦で、俺は身体を売って稼いでいる身。
数年しか歳が変わらないのにこの差か、と思いながら、開いた自動ドアに身体を滑り込ませた。
「……でさぁ、いっくら政略結婚だと言っても、もう一年も一緒に住んでるんだからさあ、もっと構ってくれてもいいと思わない? 不愛想な上に仕事仕事で帰りは遅いし、ご飯だって毎日外だし」
今日も登和子さんのイライラはピークに達していて、俺はふんふんと頷きながら時折相槌を挟みつつ親身になってその愚痴を聞いていた。
正直、別れればいいのに、と思わないでもない。
しかし、働かずして自由に出来る金が手に入る環境は、魅力的で手放せないらしい。
「そうだよね。せっかく一生懸命作った料理なんだから、やっぱり一緒に食べて欲しいよね」
「あ、作ることはないんだけどね。いつもデパ地下かデリバリー」
登和子さんのピカピカに磨き上げられた爪で判断すべきだったのに、余計なことを言ってしまった。
それでも、セレブにとって料理を作らない生活というのは恥というよりも一種のステータスになるだろう。
「はは、登和子さんらしいね。でも旦那さん、毎日外食で、いつもそんなに遅く帰宅して来るなら、身体壊さないか心配だね」
お客様によって、敬語かタメ語かは使い分ける。
登和子さんの場合はタメ語がいいと言われたので、普通に話すことにした。
今では、セックスもする友達、もしくは先輩後輩のようなノリだ。
「まあ、若いから平気でしょ。それよりあいつ、若いのに指一本触れて来ないんだよね。こんな美人の嫁ほったらかすなんて、失礼すぎると思わない?」
政略結婚とは聞いていたが、その事実には驚いた。
きっと彼女にとって、それは酷くプライドを傷つけられることなのだろうし、内心悩んでいるのだろう。
だからこそ、俺を相手に半年も経って初めて愚痴をこぼしてくれたのだ。
「こんな綺麗な人が奥さんだったら、毎日シたくなるし、自慢しまくるけどな」
「でしょう? だからどっかに欠陥があると思うのよね、うちの旦那」
登和子さんの言葉に、飾られていた二人の結婚式のツーショット写真を眺めた。
親戚を呼ばずにハワイで挙げた結婚式の写真らしい。
結婚式を渋っていた旦那さんになんとか写真だけでも撮りたいと登和子さんが説き伏せ、辛うじて撮らせたという写真。
純白のドレスを着て微笑む登和子さんの隣には、眼鏡をかけたニコリともしないスラリとした旦那さんが佇んでいる。
その話だけを聞けば登和子さんが可哀想だと思うが、旦那さんの話を聞けばまた違ったストーリーが聞けるのだろう。
まあ、どちらかと言えば底辺の生活を送って来た俺としては、正直こんなところに住む人間にも欠陥があってくれたほうが嬉しくもある。
神様は不公平だ、なんて考えずにすむから。
ただ一方で、どちらも不憫でもあった。
手を出して貰えない登和子さんも、旦那さんも。
旦那さんだってまさか、一生懸命働いて得たお金が不倫相手に流れているとは思ってもいないだろうから。
本人も不倫している人であれば罪悪感は少なくてすむのだが、登和子さんからそうした愚痴は聞いたことがない。
「けど、そんな旦那さんのお陰でこうして登和子さんに出会えたから、俺は感謝してる」
「もう、本当に口が上手いんだから」
ふふ、と笑う彼女の手をそっと掬い上げて、その甲にキスを落とす。
言葉遣いではそうとわからないが、政略結婚というものがまだある階級なのだから、確かに彼女も上流階級に属しているのだろう。
本来なら俺と交わることのない人生を歩んできたはずだ。
「本当に口が上手いかどうか、試してみる?」
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