2 / 5
2
しおりを挟む
心身が満たされておらず欲求不満を溜めこんだ人妻というのは、結構多い。
夫が長期不在だったり、レスだったり、不倫をしていて相手にして貰えなかったり。
俺は国立大学の獣医学部に在籍する傍ら、そんな人妻の相手をするお金稼ぎでそこそこお金を稼いでいた。
人妻というのがポイントで、独り身の女性と違い、仕事だと割り切ってくれるところがとても良い。
惚れやすい女性は別として、基本的には旦那のお金でセレブな暮らしをしている人妻からの依頼が多いため、一時の刺激として若い男を求めるだけで、離婚せずに現状の生活には満足している女性のほうが圧倒的に多かった。
だから、本気で惚れられた挙句、痴情が縺るという面倒事に発展するケースが少ない、比較的安全なお金稼ぎである。
俺はスーツ姿で高層マンションの依頼人の部屋ボタンを押す。
家を特定されたくない女性はホテルで落ち合うことも当然あるが、写真を撮られれば一発アウトなので、意外と家での行為を指定する客も少なくない。
ご近所さんの目があるために、私服はNG。
訪問販売やクリーニング、家事代行やリフォームなど、業者を装って家にお邪魔をする。
「こんにちはー、〇〇生命でーす」
「はーい、今開けまーす」
今回の依頼人は、半年前から常連客になってくれた登和子さん。
人妻と言ってもまだ二十代後半で、旦那さんの年齢も同じと聞いている。
かたやタワマンに住む若夫婦で、俺は身体を売って稼いでいる身。
数年しか歳が変わらないのにこの差か、と思いながら、開いた自動ドアに身体を滑り込ませた。
「……でさぁ、いっくら政略結婚だと言っても、もう一年も一緒に住んでるんだからさあ、もっと構ってくれてもいいと思わない? 不愛想な上に仕事仕事で帰りは遅いし、ご飯だって毎日外だし」
今日も登和子さんのイライラはピークに達していて、俺はふんふんと頷きながら時折相槌を挟みつつ親身になってその愚痴を聞いていた。
正直、別れればいいのに、と思わないでもない。
しかし、働かずして自由に出来る金が手に入る環境は、魅力的で手放せないらしい。
「そうだよね。せっかく一生懸命作った料理なんだから、やっぱり一緒に食べて欲しいよね」
「あ、作ることはないんだけどね。いつもデパ地下かデリバリー」
登和子さんのピカピカに磨き上げられた爪で判断すべきだったのに、余計なことを言ってしまった。
それでも、セレブにとって料理を作らない生活というのは恥というよりも一種のステータスになるだろう。
「はは、登和子さんらしいね。でも旦那さん、毎日外食で、いつもそんなに遅く帰宅して来るなら、身体壊さないか心配だね」
お客様によって、敬語かタメ語かは使い分ける。
登和子さんの場合はタメ語がいいと言われたので、普通に話すことにした。
今では、セックスもする友達、もしくは先輩後輩のようなノリだ。
「まあ、若いから平気でしょ。それよりあいつ、若いのに指一本触れて来ないんだよね。こんな美人の嫁ほったらかすなんて、失礼すぎると思わない?」
政略結婚とは聞いていたが、その事実には驚いた。
きっと彼女にとって、それは酷くプライドを傷つけられることなのだろうし、内心悩んでいるのだろう。
だからこそ、俺を相手に半年も経って初めて愚痴をこぼしてくれたのだ。
「こんな綺麗な人が奥さんだったら、毎日シたくなるし、自慢しまくるけどな」
「でしょう? だからどっかに欠陥があると思うのよね、うちの旦那」
登和子さんの言葉に、飾られていた二人の結婚式のツーショット写真を眺めた。
親戚を呼ばずにハワイで挙げた結婚式の写真らしい。
結婚式を渋っていた旦那さんになんとか写真だけでも撮りたいと登和子さんが説き伏せ、辛うじて撮らせたという写真。
純白のドレスを着て微笑む登和子さんの隣には、眼鏡をかけたニコリともしないスラリとした旦那さんが佇んでいる。
その話だけを聞けば登和子さんが可哀想だと思うが、旦那さんの話を聞けばまた違ったストーリーが聞けるのだろう。
まあ、どちらかと言えば底辺の生活を送って来た俺としては、正直こんなところに住む人間にも欠陥があってくれたほうが嬉しくもある。
神様は不公平だ、なんて考えずにすむから。
ただ一方で、どちらも不憫でもあった。
手を出して貰えない登和子さんも、旦那さんも。
旦那さんだってまさか、一生懸命働いて得たお金が不倫相手に流れているとは思ってもいないだろうから。
本人も不倫している人であれば罪悪感は少なくてすむのだが、登和子さんからそうした愚痴は聞いたことがない。
「けど、そんな旦那さんのお陰でこうして登和子さんに出会えたから、俺は感謝してる」
「もう、本当に口が上手いんだから」
ふふ、と笑う彼女の手をそっと掬い上げて、その甲にキスを落とす。
言葉遣いではそうとわからないが、政略結婚というものがまだある階級なのだから、確かに彼女も上流階級に属しているのだろう。
本来なら俺と交わることのない人生を歩んできたはずだ。
「本当に口が上手いかどうか、試してみる?」
「そうね、じゃあお願いしようかしら」
俺は手を伸ばして写真立てを伏せるとそのまま彼女の上に圧し掛かるようにしてソファに押し倒し、丁寧に口淫を施してから欲求不満な身体を潤してあげた。
夫が長期不在だったり、レスだったり、不倫をしていて相手にして貰えなかったり。
俺は国立大学の獣医学部に在籍する傍ら、そんな人妻の相手をするお金稼ぎでそこそこお金を稼いでいた。
人妻というのがポイントで、独り身の女性と違い、仕事だと割り切ってくれるところがとても良い。
惚れやすい女性は別として、基本的には旦那のお金でセレブな暮らしをしている人妻からの依頼が多いため、一時の刺激として若い男を求めるだけで、離婚せずに現状の生活には満足している女性のほうが圧倒的に多かった。
だから、本気で惚れられた挙句、痴情が縺るという面倒事に発展するケースが少ない、比較的安全なお金稼ぎである。
俺はスーツ姿で高層マンションの依頼人の部屋ボタンを押す。
家を特定されたくない女性はホテルで落ち合うことも当然あるが、写真を撮られれば一発アウトなので、意外と家での行為を指定する客も少なくない。
ご近所さんの目があるために、私服はNG。
訪問販売やクリーニング、家事代行やリフォームなど、業者を装って家にお邪魔をする。
「こんにちはー、〇〇生命でーす」
「はーい、今開けまーす」
今回の依頼人は、半年前から常連客になってくれた登和子さん。
人妻と言ってもまだ二十代後半で、旦那さんの年齢も同じと聞いている。
かたやタワマンに住む若夫婦で、俺は身体を売って稼いでいる身。
数年しか歳が変わらないのにこの差か、と思いながら、開いた自動ドアに身体を滑り込ませた。
「……でさぁ、いっくら政略結婚だと言っても、もう一年も一緒に住んでるんだからさあ、もっと構ってくれてもいいと思わない? 不愛想な上に仕事仕事で帰りは遅いし、ご飯だって毎日外だし」
今日も登和子さんのイライラはピークに達していて、俺はふんふんと頷きながら時折相槌を挟みつつ親身になってその愚痴を聞いていた。
正直、別れればいいのに、と思わないでもない。
しかし、働かずして自由に出来る金が手に入る環境は、魅力的で手放せないらしい。
「そうだよね。せっかく一生懸命作った料理なんだから、やっぱり一緒に食べて欲しいよね」
「あ、作ることはないんだけどね。いつもデパ地下かデリバリー」
登和子さんのピカピカに磨き上げられた爪で判断すべきだったのに、余計なことを言ってしまった。
それでも、セレブにとって料理を作らない生活というのは恥というよりも一種のステータスになるだろう。
「はは、登和子さんらしいね。でも旦那さん、毎日外食で、いつもそんなに遅く帰宅して来るなら、身体壊さないか心配だね」
お客様によって、敬語かタメ語かは使い分ける。
登和子さんの場合はタメ語がいいと言われたので、普通に話すことにした。
今では、セックスもする友達、もしくは先輩後輩のようなノリだ。
「まあ、若いから平気でしょ。それよりあいつ、若いのに指一本触れて来ないんだよね。こんな美人の嫁ほったらかすなんて、失礼すぎると思わない?」
政略結婚とは聞いていたが、その事実には驚いた。
きっと彼女にとって、それは酷くプライドを傷つけられることなのだろうし、内心悩んでいるのだろう。
だからこそ、俺を相手に半年も経って初めて愚痴をこぼしてくれたのだ。
「こんな綺麗な人が奥さんだったら、毎日シたくなるし、自慢しまくるけどな」
「でしょう? だからどっかに欠陥があると思うのよね、うちの旦那」
登和子さんの言葉に、飾られていた二人の結婚式のツーショット写真を眺めた。
親戚を呼ばずにハワイで挙げた結婚式の写真らしい。
結婚式を渋っていた旦那さんになんとか写真だけでも撮りたいと登和子さんが説き伏せ、辛うじて撮らせたという写真。
純白のドレスを着て微笑む登和子さんの隣には、眼鏡をかけたニコリともしないスラリとした旦那さんが佇んでいる。
その話だけを聞けば登和子さんが可哀想だと思うが、旦那さんの話を聞けばまた違ったストーリーが聞けるのだろう。
まあ、どちらかと言えば底辺の生活を送って来た俺としては、正直こんなところに住む人間にも欠陥があってくれたほうが嬉しくもある。
神様は不公平だ、なんて考えずにすむから。
ただ一方で、どちらも不憫でもあった。
手を出して貰えない登和子さんも、旦那さんも。
旦那さんだってまさか、一生懸命働いて得たお金が不倫相手に流れているとは思ってもいないだろうから。
本人も不倫している人であれば罪悪感は少なくてすむのだが、登和子さんからそうした愚痴は聞いたことがない。
「けど、そんな旦那さんのお陰でこうして登和子さんに出会えたから、俺は感謝してる」
「もう、本当に口が上手いんだから」
ふふ、と笑う彼女の手をそっと掬い上げて、その甲にキスを落とす。
言葉遣いではそうとわからないが、政略結婚というものがまだある階級なのだから、確かに彼女も上流階級に属しているのだろう。
本来なら俺と交わることのない人生を歩んできたはずだ。
「本当に口が上手いかどうか、試してみる?」
「そうね、じゃあお願いしようかしら」
俺は手を伸ばして写真立てを伏せるとそのまま彼女の上に圧し掛かるようにしてソファに押し倒し、丁寧に口淫を施してから欲求不満な身体を潤してあげた。
105
あなたにおすすめの小説
溺愛じゃおさまらない
すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。
どろどろに愛されているけれど―――。
〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳
〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳
振り向いてよ、僕のきら星
街田あんぐる
BL
大学4年間拗らせたイケメン攻め×恋愛に自信がない素朴受け
「そんな男やめときなよ」
「……ねえ、僕にしなよ」
そんな言葉を飲み込んで過ごした、大学4年間。
理系で文学好きな早暉(さき)くんは、大学の書評サークルに入会した。そこで、小動物を思わせる笑顔のかわいい衣真(いま)くんと出会う。
距離を縮めていく二人。でも衣真くんはころころ彼氏が変わって、そのたびに恋愛のトラウマを深めていく。
早暉くんはそれでも諦めきれなくて……。
星のように綺麗な男の子に恋をしてからふたりで一緒に生きていくまでの、優しいお話です。
表紙イラストは梅干弁当さん(https://x.com/umeboshibento)に依頼しました。
愛を探しているんだ
飛鷹
BL
熱心に口説かれて付き合い始めた筈なのに。
たまたま見た雑誌で、アイツが来年の夏に結婚する事を知ってしまう。
次の愛を探さなきゃなぁ……と思いつつ、別れのメッセージをアイツに送ったのだけど………。
両思いのはずが微妙にすれ違って、そして仲直りするまでのお話です。
2022年2月22日の猫の日に因んで書いてみました。
ある国の皇太子と侯爵家令息の秘め事
虎ノ威きよひ
BL
皇太子×侯爵家令息。
幼い頃、仲良く遊び友情を確かめ合った二人。
成長して貴族の子女が通う学園で再会し、体の関係を持つようになった。
そんな二人のある日の秘め事。
前後編、4000字ほどで完結。
Rシーンは後編。
【短編】抱けない騎士と抱かれたい男娼
cyan
BL
戦地で奮闘する騎士のキースは疲れ果てていた。仲間に連れられて行った戦場の娼館で男娼であるテオに優しい言葉をかけられて好きになってしまったが、テオの特別になりたいと思えば思うほどテオのことを抱けなくなる。
純愛とちょっとのユーモアでほのぼのと読んでほしい。
【完結】誰そ彼(黄昏)に濡れる
エウラ
BL
死にかけたときに見た綺麗な瞳に恋をした。
雨に煙る黄昏時。藍色と橙色の黄昏時の色の・・・・・・。
唐突に異世界転移した俺は、助けて保護してくれた人に恩返しをしたくて頑張って鍛えて、結果、それなりに強くなった・・・はず。
さあ、これから恩返しをするぞ・・・?
R18には*付きます。
不定期更新。長くはならない、はず。
タイトルちょっと変えました。
誰(たれ)そ彼(かれ)に→誰そ彼(黄昏)
※ちょっとですがワイバーン飛来の理由を付け足しました。気になっていた方は再読して下さい。(2023.4.4)
ナイショな家庭訪問
石月煤子
BL
■美形先生×平凡パパ■
「いい加減、おわかりになりませんか、進藤さん」
「俺、中卒なんで、キビとかカテとか、わかんないです」
「貴方が好きです」
■イケメンわんこ先生×ツンデレ美人パパ■
「前のお宅でもこんな粗相を?」
「まさか。そんなわけありませんって。知永さんだから……です」
◆我が子の担任×シングルファーザー/すけべmain◆
表紙イラストは[ジュエルセイバーFREE]様のフリーコンテンツを利用しています
http://www.jewel-s.jp/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる