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「お母様、私は首都の第一アカデミーではなく、お祖父様達の住まわれている都市にある第二アカデミーに通いたいのですがっ!!」



断罪を逃れる悪役令嬢がよくする手は、アカデミー内での接触を避けるということだ。

しかし私は、もっと物理的に離れられる方法を選んだ。

即ち、同じアカデミーには通わないという選択だ。



母は、私が「怖い夢を見た」ことを知っている。

「ええ、リリールーがそう望むなら、そうしましょう」

母は少し寂しそうに微笑んだが、私の希望は全面的に叶えてくれた。そして父は、無表情で頷いた。

「アルリカが良いというなら、私が承認しない理由はない」

父を攻略したければ、母を落とすに限る。

私達兄妹における、常識だ。



斯くして私は、安心安全なアカデミー生活を幼馴染と共に満喫することになった……のだが。





「リリールー様も、もうご覧になりましたか?」

「綺麗な青紫色の瞳ですこと」



アカデミーに入学した初日、貴族から注目を浴びたのは一人の男爵家の令息だった。

何と彼は、王家と同じ青紫色の瞳をしていたのである。



男女問わず、勇気ある学生が彼に果敢にも話し掛けていた。

「ねぇ、あなたのその目の色……変わってるよね」

暗に、王族と何か関係あるのかと問い掛けるが、本人は何も語らず意味深に笑うだけ。



ただ、笑っただけで周りの女性はきゃああ、とまるで彼をアイドルであるかのように扱った。

流行病で倒れる前の自分を見ているようで、私はいたたまれない。

「……ジエム、どう思う?」

「ん?何が?」

第二アカデミーに通う中では一番家門の位が高いジエムが、貴族オーラを全く出さずに首を傾げた。



「ほら、あの人よ」

「うん」

「あの人が、隠し子なのかしら?」

私はジエムの耳にぽそぽそと耳打ちしながら、自分も首を傾げた。



何故なら、隠し子と恋に落ちる筈であろう悪役令嬢である私が、全くときめかないからである。

「リリールーはどう思うの?」

「うーん……」



容姿は悪くない。けれども正直、確かに青紫に見えなくもないが、王子殿下の瞳に比べると、何かが違う気がした。

全体的に薄いし、青味が強い。



「……よくわからないのだけど、何か、違う気が致しますわ」

「……そうなの?」

「ええ」



隠し子かどうかはまだわからないが、もし作者様が彼と私をくっつけるつもりなのであれば、人選ミスだったかもしれないと私は思った。

そしてそんな私には、その隠し子候補よりもずっと気になる人がいた。


「それより、そんなに鍛えてジエムは一体何がしたいんですの?」

「父や……ブラッド様、みたいになりたいなと思って」

「まぁ、騎士団に?」

「うん」



ひょろりとしていた本ばかり読んでいたジエムは、気付けばアカデミー一の剣の使い手になっていた。

ずっと昔から一緒に育った幼馴染だと言うのに、日々逞しくなる肉体にときめき、私にだけ普通に話すという特別感もあって、何故か彼が気になって仕方ない。



アカデミーに入って知ったが、ジエムは普段寡黙な人だった。自分がファザコンの自覚はないが、母にだけやたら甘い父と、私にだけ素を見せるジエムが重なり、どうしても意識してしまう。



彼の隠された目を見ることはないというのに、私を見る視線は優しさや慈しみに溢れている気がして、胸を締め付けた。





「ブラッド様みたいに強くなりたい。リリールーを守る為にもね」

私が昔から「怖い夢」に恐怖していることを知っている幼馴染は、そんなことをサラッと言ってしまう。

「……ありがとう、ジエム」

私は恥ずかしくて、ぷいと横を向き、顔が赤くなるのを気付かれないように、両手で押さえた。
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