龍討伐から帰還したら、三年前に将来を約束した彼女が人妻になっていたので

イセヤ レキ

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4 驚くべき文化の違い

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地元を離れて三カ月、旅に出たのは正解だった。
龍討伐が目的の旅とは違い、とても気楽で気ままで、楽しいだけの旅路だ。

最初は毎日リアナを思い出しては辛かったものの、そんな時は必ずアリスターが色々話しかけてくれたり気分転換に連れ回してくれたりして、彼女を思い出す時間は必然的に、強制的に減らされた。
毎日彼女に捧げていた祈りの時間も、アリスターの故郷の話を聞く時間になった。

やはり知らない土地は刺激があって、気の紛れることが多かった。
新しい目的ができるだけで、楽しみが増えた。

山賊や魔物と遭遇するなどの危険もあったが、危ない目に遭うたび、彼女との夢見た未来は過去の記憶の引き出しへとしまわれて、アリスターとの今の時間を大切に思うようになった。

鞄の奥深くにしまっていた彼女のお守りがなくなったことに気づいた時、ほんの少しの喪失感はあるものの、むしろこれで良かったと、手放せずにいた最後の未練を断ち切る時だとすら思えた。


――ただ最近になって、別の問題が持ち上がった。

「ちょ、ちょっとアリスター……!」
「どうした、ルーマン」

それはこっちの台詞だと思う。
どうしたものかと内心慌てる僕の顔に、アリスターはその端正な顔を再び寄せた。


アリスターの国に入ってからというもの、彼の距離感がどうにもおかしい。

歩く時は手を引かれ、腰を引かれ、抱き寄せられ。
寝る時は同じベッドで抱き締められて眠りにつく。

少し近すぎないかと注意してみれば、アリスターは目を瞬いて通りの男性二人を示しながら言った。

「郷に入っては郷に従えと言うだろう」
「う、うん……?」

確かに、アリスターの国では男性同士の距離感が近いようだ。
アリスターの示す先では、男性同士でも手を繋いだり抱き合ったりしていた。
キスをしている人たちまでいて、心から驚いた。

「この国では同性でも結婚が許されるからな」
「えっ?」

まさかそんな文化の違いがあるとは思わず、驚きに目を見張る。

僕は学がない。
アカデミーで自国の歴史や世界史など一通りのことは学べたけれども、普通の貴族の知っていそうな他国の文化の知識などはさっぱり持ち合わせていなかった。

「だから、俺から絶対に離れるなよ? お前がひとりでいたら、直ぐに声を掛けられるからな」

アリスターの念押しにうんうんと頷いて理解を示したその日、一緒に食事をしていたアリスターが席を外した隙に、男性二人組から本当に声を掛けられて驚いた。


「ルーマン。これ、虫よけに持っていてくれ」
「ええと、ありがとう。けど、虫よけって?」

次の日、失くしてしまったお守りの代わりにとネックレスをプレゼントされた。
アリスターの国でネックレスは本来、特定の相手がいる人だけ身に付けるものらしい。

「これで、お前に下心を持っている奴らを少しでも牽制できる」
「うん? うん……まぁ、僕は話し掛けられても平気だけど」

普通に断ればいいだけの話だ。
しかしどうやらアリスターは過保護のようで、慣れない国とその文化に戸惑う僕を守らねばという使命感に燃えているようだ。

「俺は平気じゃない」
「そっか。じゃあ、ありがたく使わせてもらうね」

とても綺麗な細工で美しいその装飾品を僕は一目で気に入ったので受け取ることにしたのだけど、気づけばアリスターも僕とお揃いのネックレスをしていて、他人が見たら僕たちが恋人同士に見えるのではないかと危惧する。
アリスターまでネックレスをする必要はないのでは。

「ねぇアリスター、このままだと恋人ができなくなっちゃうよ」

アリスターの心配をしてそう言ったのだけど、彼は僕の話だと勘違いをしたようだ。

「ん? なんだルーマン、新しい恋をしたくなったのか?」
「僕の話じゃなくて、アリスターの話だよ」
「ああ、俺の話か。なら全く問題ない」

どことなくアリスターががっかりしたように見えて、僕は申し訳なく思った。
もしかしたら、僕が新しい恋をするほど元気になったのかと期待させてしまったのかもしれない。

僕はもう平気だよと、アリスターに話すことにした。
あれだけショックを受けたはずなのに、なぜか僕は「消失感」はあっても「失恋」をした感覚がないのだ。

「あのね、アリスター」
「うん?」
「最近気づいたんだけど、もしかしたら僕は彼女に恋をしていたわけじゃなくて、家族が欲しかったのかもしれない」
「どういう意味だ?」

真剣に尋ねてくるアリスターに、この旅の最中見つめ直した自己分析の結果をぽつりぽつりと語った。

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