龍討伐から帰還したら、三年前に将来を約束した彼女が人妻になっていたので

イセヤ レキ

文字の大きさ
5 / 8

5 驚くべき親友の提案

しおりを挟む
僕はアカデミーで彼女に出会った。
同郷という話で僕たちの仲は一気に縮まり、孤児だという話をしても変わらず接してくれる彼女に好意を抱いていたのは間違いない。
ただ、彼女にわかりやすくベッドに誘われても、早く彼女を抱きたい、触れたいなどの感情は持ち合わせていなかった。
思えば彼女に対して、恋焦がれるような気持ちとか、独占欲とか、嫉妬とか、いわゆる恋慕の中で抱えるはずの感情はなかったのだ。
彼女の傍は居心地が好くて、大事で、大切に、幸せにしたかった。

彼女と家族になれたなら、それはどれだけ幸せな暮らしなのだろうと思っていた。
家族とは、僕が知らない温かな世界だ。
街角で、公園で、お祭りで、孤児院の仲間と手を繋ぎながら、そんな「家族」を見かけるたびに羨ましくて仕方がなかった。

僕は家族が欲しかった。
小さな頃から喉から手が出るほど欲しかったけど、簡単には手に入らないものだった。
孤児院では、男の子が欲しいと養子を探す夫婦に僕は女の子のように映ったそうだし、女の子が欲しいと養子を探す夫婦は僕が男だと知ってがっかりするのが常だった。

僕が大きくなったら、好きな子と結婚して、家族になるんだ。
それが、僕の人生の目標だったのかもしれない。
僕がショックだったことは、彼女が僕を選んでくれなかったことだったのかもしれない。
僕が両親から捨てられてしまったように、彼女も僕を捨てたことが、辛かった。

「そっか、なるほど。家族ね」
「うん。これじゃあ、彼女に愛想をつかれてしまっても仕方がないかなって思うんだ」
「うーん、じゃあなるか、俺と。家族に」
「……え?」

アリスターの唐突な申し出に、僕は目を見開く。

「俺がお前を好きなら、問題ないだろ? お前が俺を嫌いなら、仕方がないけど」
「ええと、アリスターのことは大好きだけど、男だし……」
「この国では、男同士でも結婚できるんだって」
「それは、そうかもしれないけど。子どもは欲しくないの?」
「言ったろ、この国は同性婚が普通だから、養子も当たり前だ」
「そ、そうなんだ……」

僕を慰めるために食い下がろうとするアリスターに、思わずふふ、と笑ってしまう。
きっとまた、思いつきで話しているに違いない。
いつも突拍子もないことを言い出すけれど、それがアリスターの面白いところでもある。

「でももしアリスターにとって本当に好きな人ができた時、僕と別れるよね?」

それは、耐えられないかもしれない。
僕はせっかくできた家族を、失いたくはない。

「俺はお前と別れる気なんてない。それに、他に好きな人ができたらって仮定は俺に限った話じゃないだろ?」
「それは、そうかもしれないけど……!」

確かに、アリスターの言う通りだった。
もしリアナと結婚していたとしても、彼女が心変わりをしない、などという保証はどこにもない。

「俺はお前が好きで、お前も俺を好き。相思相愛ならいいじゃないか。あの女はよくて、なんで俺は駄目なんだ」

いつも頼りになるアリスターが子どものようにむくれる姿なんて、初めて見た。
僕は笑って返事をする。

「いくら僕たちが相思相愛だったとしても、家族は急すぎない?」
「俺としては全然急じゃないけど。ならまずは、恋人から試してみるのはどうだ?」
「恋人?」

アリスターにサラリと提案され、僕は首を傾げる。

それは、今の関係と、何か変わるのだろうか。
できたら、アリスターの国でまで、気まずい思いはしたくないんだけど。

「俺と試しに付き合ってみて、違うと思ったらそう言ってくれればいいから」

そんな軽い感じでいいのだろうか。

うーん、と考える僕に、アリスターは畳み掛ける。

「お前は彼女に恋をしていなくても、一緒に幸せになりたくて家族になろうと決めたんだろう? だったら俺も、お前を幸せにしたい、家族になりたいと思ったっていいだろ?」
「それは……確かに」

親友だったアリスターが恋人になったところを想像してみた。

友人と恋人との違いは、性的な意味合いを含むかどうかだろう。
けれども考えてみたら、男同士で性行為は出来ないはずだ。
だったら、今と大差ないのでは。

違うと思ったら違うと言えばいいらしいし、選ばれたことのない僕とは違って、僕と別れてもアリスターが相手に困ることはないだろうから、たいした問題ではないはずだ。

「うん、わかったよ」
「……はは、うわ、すげー嬉しい。これから恋人としてよろしくな、ルーマン」

本当に愛しい相手を見るかのように微笑まれて、僕の鼓動はドキリと鳴った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「レジ袋はご利用になりますか?」

すずかけあおい
BL
仕事帰りに寄る、いつものコンビニで五十嵐 歩(いがらし あゆむ)はイヤホンをつけたまま会計をしてしまい、「――――?」なにかを聞かれたけれどきちんと聞き取れず。 「レジ袋はご利用になりますか?」だと思い、「はい」と答えたら、実際はそれは可愛い女性店員からの告白。 でも、ネームプレートを見たら『横山 天志(よこやま たかし)』…店員は男性でした。 天志は歩に「俺だけのネコになってください」と言って…。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

【BL】SNSで出会ったイケメンに捕まるまで

久遠院 純
BL
タイトル通りの内容です。 自称平凡モブ顔の主人公が、イケメンに捕まるまでのお話。 他サイトでも公開しています。

陥落 ー おじさま達に病愛されて ー

ななな
BL
 眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。  国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。  そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

処理中です...