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食欲をそそる、とても良い匂いが鼻を擽る。

「ん……」

女はその香りに幸せを感じて笑みを浮かべ、寝返りを打った。

(……あら?)

温かい毛布が、肩までしっかり掛かっている感触。それが女を覚醒させる。

(……え?ここは何処……!?)
「気付いたか」

声を掛けられ、女はパチっと目を開けた。

(ひっ……!!)

部屋の隅で、オークはその巨体を押し込めるようにして椅子に座り、ベッドを占領する女を見ていた。

(わ、私、このオークに……!!)
オークの群れに連れ込まれてしまったのだと、女は絶望の表情を浮かべる。

「頼むから、今度は気絶しないでくれ」

しかし、目の前のオークは困り果てた表情をしながら、顔を覆った。
顔を覆う姿があまりにも凶悪なオークの様子と掛け離れているように見え、
「え、と、はい」
つい、女は素で返事をする。

「お前の住処を知らないから、俺の家に連れてきただけだ。俺だって、問題は抱えたくない。起きたならさっさと出てってくれ」
「あ、はい。ありがとうございました、お邪魔しました……」

女はハテナマークを頭の上に三つ程浮かべながら、それでもこの好機を逃すものかとそそくさとベッドから降りようとした。

板張りの床に足を下ろすと、自分の足に、何かの葉っぱが巻かれていることに気付く。
それは、止血と消毒、そして治癒の効果が期待出来る、大層貴重な葉であった。

(……手当を、してくれたのかしら……)

余りにもオークらしくない行動とやり取りに、女は動きを止めてフと顔を上げる。
女を見ていたらしいオークは、慌てて顔を隠した。

何故顔を隠すのだろう、と女は考えて……そうか、自分が一度オークを見て気絶したからか、と理解する。
つまり、目の前のオークは女を怖がらせないように、気を遣ってくれているのだ。


よくよく考えてみれば、オークは男に襲われていた自分を助け、気絶した自分を置いていくことも出来たのにこうして安全な場所に運んでくれて、足の手当までした上にひとつしかないベッドに寝かせ、いつ目を覚ますかわからない自分が起きるまで辛抱強く待っていてくれたのだ。

「……あの」
「何だ」
「助けて頂き、ありがとうございました」
女は、ペコリと深く頭を下げる。
「……いや、気にしないで良い。家まで……」
家までの道のりはわかるか、とオークが聞こうとした時だった。

ぐうう、と女の腹が鳴った。
そして女は顔を真っ赤にさせ、オークはパチパチと瞬きをした。
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