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知らない世界で

導きの光

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キラキラ、キラキラ。

最近は私の頭だか目だかがどうかしているみたい。
自分の周りに、キラキラした光が見えるから。
当然クリスマスツリーの様に身体中にイルミネーションライトを巻き付けている訳ではない。かといって、埃に光が当たって反射している訳でもなく。
文明の利器を使って調べてみたけど、ひとまずそうした目の病気はないらしいんだよね。

うーん。

母に言ったら、「そりゃいくら可愛く産んだからと言っても、自分が光輝ひかりかがやいている、なんて過剰すぎやしませんか?」と大笑いされ。
心配性の父には、今までの過去の記憶からして言う事も出来なかった。
下手をすれば、原因がわかるまで病院のベッドにくくりつけらる生活が待っていそうでね。


で、私はどうしたかと言いますと。


そのうち治るだろうと、無視する事にしてみた。



***



私、加賀かが紗綾さあやには、そんな光よりも頭を悩ませる問題がいくつかあったりして。
一つ、次の期末試験。
二つ、次の進路指導。
三つ……ついさっき付き合いだした、彼氏とやら。

夕暮れ時の校舎の中、二人しかいない教室。
綺麗な夕焼けが空を覆い、ドラマチックに二人のシルエットを浮かび上がらせる。
……確かに、付き合いたての高校生カップルとしては、ムード満点かもしれない。
目の前の彼氏が、私へのスキンシップを増やしつつ、距離を詰めてきているのがわかった。

ただ、ね。
この彼氏、私の初彼ハツカレとなるのだが……昨日告られ、今日のお昼休みにOKしたばかりで。
つまり、付き合いたてホヤホヤどころか、カップルになって数時間しか経ってないんだよね。


……がっつきすぎやしないかな、この彼氏おとこ
これが普通なの??誰か教えてくれると嬉しいんだけど。


ひきつりそうな顔に無理やり笑顔を浮かべ、さりげなく重ねられた手をするりとかわし、近付いた顔も身体ごと距離をとる。

うーん。

高校二年生にもなって彼氏の一人もいた事ないのは勿体ない!と友達に諭され、いいじゃん!サッカー部のイケメン!OKしちゃいなよ!と背中を押され、つい私も異性と付き合うってどんな感じだろ?と思って告白を受け入れてしまったけど、どうにも早まった感が否めない。

というか、サッカー部なら何故今、ここに居るのだろう??

窓から外を見れば、基礎練はとっくに終わってパス練習に励むサッカー部員達が視界に入った。

「ねぇ、そろそろ私帰りたいんだけど……」
「送ってくよ!」
「……部活は?」
「……付き合いたて記念だから、今日は特別に休むよ」
にっこり笑う優男な彼氏は、私が微妙な表情をしているのに気付いたらしい。
「え?嬉しいでしょ?部活より優先されて、彼女って感じするっしょ?」

うーん。

私としては、部活より彼女を優先する彼氏より、自分の好きなサッカーに打ち込む姿を見せてくれる彼氏の方が好みだったりするんだけどな。
仕方なく、彼氏に聞く。

「……家の方向って、どっちだっけ?」
「駅まで徒歩。そっから電車で……」「私、自転車だから!」

やっと本心から笑顔になった気がする、ホッとした私。
決して彼氏が悪い訳ではなくて。
ただ、もう少し待っててね、と思う。急に距離を詰められると逃げたくなるという性質なのは、私もたった今知ったところだから。

もう少し、ゆっくりゆっくりと……「じゃあ、駅まで送ってよ」
がし、と腕を掴まれた。

え?駅とは逆の方向なんだけどな、私の家。
いつの間にか私が送る事になったの??
戸惑いながら、腕を軽く振ったが振り払えなかった。
……腕を離して欲しい。何だか、怖……「あら?加賀さん達、まだいたの??」

私が一瞬、彼氏に対して恐怖を感じたタイミングで、開いていた扉からひょっこりと可愛らしい声と共に可愛らしい顔が現れた。
由宇ゆうちゃん先生!」
「こーら、美作みまさか先生、でしょう?」

小柄な英語の担当教師は、むぅ、とした顔をしながら教室に入ってくる。
穏やかだけど、意思の強そうな瞳をしているこの先生は、若いし私より背が低いせいもあって、生徒からみても可愛らしく、一部の男子生徒から絶大な人気があった。私も大好きな先生。

そんな美作先生の後ろから、のそ、と大きな影が現れる。
「……小森、サッカー部の神田が探してたぞ?」
そう彼氏に声を掛けてきたのは確か、私と同じクラスの同級生だ。道着を着ていたから、柔道か空手部なんだとわかった。スポーツ刈りの頭が強面の顔に似合っている。

「やべっ!……んだよー、今日病欠って伝えてくれって言っといたのになぁ~」
彼氏は慌てて鞄を掴み、私を置いてドアの方へと向かう。
「んじゃ紗綾!また明日!!」
あっという間に去っていく背中を見送りながら、私は脱力した。

由宇ちゃん先生が、「……大丈夫だった?」と不安げに話し掛けてくる。
曖昧な聞き方。
「邪魔しちゃった?」という風にも、「何か変な事されてない?」という風にも受け取れる。
「美作先生、ありがとうございました。大丈夫です」
私が感謝を込めてにっこり笑えば、先生はホッとした様な表情で、ふにゃ、と笑う。
「良かったぁ……教えてくれてありがとうね、近江おうみ君」

由宇ちゃん先生は、長身のクラスメイトに振り向いて御礼を言う。
近江おうみと呼ばれた体格の良い彼は、何も持たずにペコリと頭を下げて教室から出て行った。



***



キラキラ、キラキラ。

夜になると、私はより光輝く。
……というか、この光、日を追う毎に何だか量が増えている気がする。
一週間前頃から現れた光は、触れられないし、漂う事もない。
本当に、これは何だろう??他人には見えないし、困る事はないけど原因がわからないから不安になる。

そんな不安を振り払う様に、ベッドに潜り込んで目を閉じた。

『──冗談じゃないわ』
……ん?
誰かの声が聞こえた気がして、キョロキョロと小さな部屋を見回す。
……隣で妹が動画でも見てるのかな?

壁が薄いから、お互い電話している時とかは何となくわかってしまう。
そう言えば連絡先を交換した初彼の小森君からもラインが来てたな、と思い出してスマホのロックを外した。

未読、39件。
うち、クラスラインが10件、友人とのラインが3件、小森君からの連絡が26件。

……何だろう、大変失礼な気がするんだけど、気分が重い。
彼氏からの連絡って、もっとウキウキして待ったりワクワクして読んだりするものだと思っていたけど、私にはまだわからなかった。

読むの、明日にしようかな。
けど、それじゃ失礼だよね。

ベッドに仰向けに寝て、閉じた瞼の上に腕を乗せ、考える。

──嫌だな。
『──嫌よ』
──身から出た錆だけど。
『──何で、私があんな奴の相手なんか』
──付き合うの、早まったかな。
『──出て行って!しばらく一人にさせてよっ!!』
──ああ、逃げ出したい。
『──ああ、逃げ出したい』
──なんで、私なんだろ。
『──なんで、私なのよ』



キラキラ、キラキラ。
キラキラ、キラキラ。

……え?
慌てて目を開けた。

「何これ……!?」
私は、光に包まれていて……眩しすぎて、目を開けられない程だ。
何??これは何!?

『──そうよ、誰か……身代わりを差し出せば』
「お母さんっ!お母さんっっ!!」


キラキラ、キラキラ。
キラキラ、キラキラ。
キラキラ、キラキラ。


光の中で、目を閉じたまま必死に腕を伸ばす。
眩しい。何にも触れない。
何これ!?どうしたら良いの!?

私が泣きそうになった時、急に光は消えて、逆に真っ暗になった。
「……?」
何だったんだろう、今の……??
そろ、と目を開けてみる。


「……どこ?ここ……」


そこは、私の部屋ではない、誰かの部屋の中だった。
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