元公女の難儀な復讐

イセヤ レキ

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5 逃亡計画

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ロイアルバから言われた時はイマイチぴんとこなかったけれども、妻と聞いて私は思い出した。
「貴方の嫁ぎ先はエバガンテに決まりそうよ」
そうお母様から聞いていたことを。

グシャナト公国百年の歴史の中で、今までの公女達は十六になると同時に家臣へ下賜されたり、他国へ嫁いだりした。

私が十八まで嫁ぎ先が決まらないのは、より良い嫁ぎ先を吟味しているからだと家族から聞かされていたけれども、愛されていると幸せを感じたこととはまた別に、やはりどうしても若干の焦りがあったので、母から嫁ぎ先の話を聞いた時はとても嬉しかったことを覚えている。

エバガンテは、リンダンロフ帝国よりも力は劣るが、グシャナト公国と比較的友好的な関係にある共和国である。

共和国といえど、国民から選ばれた国家元首はここ四十年程変わっておらず、実質君主制のようなものだ。
エバガンテの国家元首は祖父くらいの年齢で、後宮には三十人近くの妃を抱え、そしてその倍程の人数の子供達がいた。
私が嫁ぐのは国王の孫のうちの誰かだろうと思った。

その内の誰に嫁ぐことが決まったのかお母様に聞いても、「候補が沢山いすぎて、誰だかはっきりしないのよ」と困り顔をされていたが、そう言うからには候補は何人かに絞れていたのだろう。
ただ、王位継承で揉めているらしいから、なかなか決まらなかったのかもしれない。


国を復権させるには、力がいる。
ならば、味方を増やさなければならない。

リンダンロフに連れて行かれては、味方なんて作ることが出来ないだろうし、下手をすれば復讐を果たす前に自分が殺されてもおかしくない。


──一度、エバガンテに亡命しよう。
そこから体勢を建て直して、エバガンテの後ろ盾を得て公国を取り戻すのだ。

公国を取り戻したら、エバガンテと一緒にリンダンロフを攻め落とす。
ロイアルバはリンダンロフの守護神と称されるような猛将と聞いているから、戦時になれば必ず姿を現すだろう。

この筋肉ダルマを殺すことは、私一人で挑むよりも戦争のどさくさに紛れた方が成功するだろうし、ずっと現実的に思えた。

そうと決まれば、さっさと逃げるに限る。

「後何日くらいで、切り通しに入りますか?」
ロイアルバとは口もききたくなかったが、必要な情報は仕入れておかないと逃げるべきタイミングを失う。
「そうだな、明日の昼くらいかな」
ロイアルバは私が逃げるつもりだなんて微塵も考えていないのか、普通に答えた。

グシャナト公国は昔、リンダンロフ帝国の防御の砦と言われていた。
二国を繋ぐ道は一部馬車が通ることの出来ないような切り通しの道になっている。

万が一グシャナトが突破されても、その切り通しでは軍隊が編成出来ず、馬一頭ほどしか通れない。
リンダンロフに入られる前に、その切り通しで確実に進軍してきた敵兵を潰すのだ。

因みに私自身はリンダンロフに行ったことなどなく、この話は昔ロイアルバ本人から聞いた話だ。
本人も、暇つぶしの雑談で話したことを私が覚えているとは思っていないだろう。


他に逃げ道がない為、切り通しまで行ってしまえば追手を撒くことは難しくなる。
今はまだ森の中だから、逃げるなら今日しかなかった。
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