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24 滅多に怒らない人
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「いえ、これは」
「ロイアルバ様! よくお戻りになられました!」
どん、と私を押しのけて、先程の令嬢がロイアルバの前に躍り出る。
ロイアルバは咄嗟に左手を伸ばして私の腕を掴んでくれて、私は令嬢がこの場で斬られないように、必死で倒れ込むのを堪えた。
「……誰だ、お前は」
背筋がぞっとするほどの低い声が上から振って来て、思わず身を固くする。
基本的にロイアルバはどんな時でも笑顔で、めったに怒らないが怒ると怖いことは彼の部下たちから散々聞かされていた。
「彼女は」
「父から聞いていませんか? 私がロイアルバ様の正式な婚約者であり、将来の伴侶です」
令嬢をフォローしようと口を開いたが、本人によって遮られてしまう。
せっかく人が守ろうとしているのに、ロイアルバの地雷を踏みまくる令嬢。
その父親が生きているといいな、と思いながら遠い目になる。
私が言うのもなんだが、ロイアルバは私を害する者を許さない。
私は侍女たちと一緒に、ロイアルバから少し離れた。
「ああ、エフィナの処遇がどうのと、先程ばかげた書類を見せた者がお前の父親か?」
「え?」
「書類を切ろうとして、誤ってお前の父親の左手も斬ってしまったが……利き手じゃなくて良かったな」
「な、なにを……、そんな、野蛮な、きゃあ!」
ロイアルバはその令嬢の美しい髪をぐっと握るとそのまま引き倒し、ザン、と剣をはらって令嬢の髪の長さを変えた。
「きゃああああ!」
「おっと、すまない。身の程を弁えない敗戦国の女が私のなすことに口を挟もうとするから、つい腹が立ってな。余計なことを考えないように頭を斬ろうとしたが、手が滑って髪を切ってしまった」
「ロイアルバ様、そろそろその辺で」
ざんばらに髪を短くされた令嬢が真っ青になり腰を抜かしたところで、私はそっとロイアルバの腕に触れる。
「この女に泣かされたんじゃないのか?」
「それは違います」
「そうか、ならここまでにしよう」
ロイアルバは女の存在を忘れたかのようにニコニコと笑顔を浮かべ、私を子供のように抱き上げた。
「疲れただろう、早く部屋で休むといい。エフィナの好みで纏めるように指示しておいたのだが、気になるところはないか?」
呆然とする令嬢を置いて、私に宛がわれたらしい部屋の中に入り、パタンと扉を閉める。
「……ロイアルバ」
「ん?」
令嬢が占拠していたふかふかのソファーにそっと私を座らせると、ロイアルバは優しい笑みを浮かべて首を傾げた。
この微笑みを見られる女は私だけなのだと、半年以上に及ぶ付き合いの中で嫌でも気付いた。
「私の家族を……歴代君主の、先祖の墓所に埋葬していただき、ありがとうございました」
私がゆっくりと頭を下げると、ロイアルバはその上から私の身体を抱き締めた。
「……ああ」
私が泣いていた理由に、ロイアルバは気づいたのだろう。
どんなに悪行を重ねていたとしても、死者に鞭打つようなことは、しないでいてくれた。
それはきっと、ロイアルバがそういう心根の優しい人だからというわけでなくて、ただ私のためだけにそうしてくれたのだと、わかってしまう。
枯れたはずの涙がまた滲み出て、ロイアルバの肩を濡らした。
「ロイアルバ様! よくお戻りになられました!」
どん、と私を押しのけて、先程の令嬢がロイアルバの前に躍り出る。
ロイアルバは咄嗟に左手を伸ばして私の腕を掴んでくれて、私は令嬢がこの場で斬られないように、必死で倒れ込むのを堪えた。
「……誰だ、お前は」
背筋がぞっとするほどの低い声が上から振って来て、思わず身を固くする。
基本的にロイアルバはどんな時でも笑顔で、めったに怒らないが怒ると怖いことは彼の部下たちから散々聞かされていた。
「彼女は」
「父から聞いていませんか? 私がロイアルバ様の正式な婚約者であり、将来の伴侶です」
令嬢をフォローしようと口を開いたが、本人によって遮られてしまう。
せっかく人が守ろうとしているのに、ロイアルバの地雷を踏みまくる令嬢。
その父親が生きているといいな、と思いながら遠い目になる。
私が言うのもなんだが、ロイアルバは私を害する者を許さない。
私は侍女たちと一緒に、ロイアルバから少し離れた。
「ああ、エフィナの処遇がどうのと、先程ばかげた書類を見せた者がお前の父親か?」
「え?」
「書類を切ろうとして、誤ってお前の父親の左手も斬ってしまったが……利き手じゃなくて良かったな」
「な、なにを……、そんな、野蛮な、きゃあ!」
ロイアルバはその令嬢の美しい髪をぐっと握るとそのまま引き倒し、ザン、と剣をはらって令嬢の髪の長さを変えた。
「きゃああああ!」
「おっと、すまない。身の程を弁えない敗戦国の女が私のなすことに口を挟もうとするから、つい腹が立ってな。余計なことを考えないように頭を斬ろうとしたが、手が滑って髪を切ってしまった」
「ロイアルバ様、そろそろその辺で」
ざんばらに髪を短くされた令嬢が真っ青になり腰を抜かしたところで、私はそっとロイアルバの腕に触れる。
「この女に泣かされたんじゃないのか?」
「それは違います」
「そうか、ならここまでにしよう」
ロイアルバは女の存在を忘れたかのようにニコニコと笑顔を浮かべ、私を子供のように抱き上げた。
「疲れただろう、早く部屋で休むといい。エフィナの好みで纏めるように指示しておいたのだが、気になるところはないか?」
呆然とする令嬢を置いて、私に宛がわれたらしい部屋の中に入り、パタンと扉を閉める。
「……ロイアルバ」
「ん?」
令嬢が占拠していたふかふかのソファーにそっと私を座らせると、ロイアルバは優しい笑みを浮かべて首を傾げた。
この微笑みを見られる女は私だけなのだと、半年以上に及ぶ付き合いの中で嫌でも気付いた。
「私の家族を……歴代君主の、先祖の墓所に埋葬していただき、ありがとうございました」
私がゆっくりと頭を下げると、ロイアルバはその上から私の身体を抱き締めた。
「……ああ」
私が泣いていた理由に、ロイアルバは気づいたのだろう。
どんなに悪行を重ねていたとしても、死者に鞭打つようなことは、しないでいてくれた。
それはきっと、ロイアルバがそういう心根の優しい人だからというわけでなくて、ただ私のためだけにそうしてくれたのだと、わかってしまう。
枯れたはずの涙がまた滲み出て、ロイアルバの肩を濡らした。
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