フツメンを選んだ筈ですが。

イセヤ レキ

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第一章 出会い(囲い込み)編

(1)

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戸枝キララは、マンモス校だったにも関わらず、知らない学生はいない程の有名人だった。
とにかく高校生とは思えない程、スタイルが良くて綺麗で、全校生徒のマドンナ的存在。
勿論俺も、知っていた。
また彼女は、どんなイケメンから告られようが、OKしないことでも有名で、かといって美人を鼻にかける事もなく、気さくな人柄で大勢の学生を虜にしていた。
ただ、彼女の存在を知った時はたいした興味は湧かなかった。百人中九十九人が美人だと感じることが出来る容姿は人として恵まれているとは思うが、今の時代、美人なんてその辺にゴロゴロしている。特に、日本から一歩出ればそれこそ山のようにいるのだ。
立場柄、俺は昔から特にそうした美人に囲まれることが多かった。だから、同い年の美人なんてたかが知れていると思ったし、大人のお付き合いをしょっちゅうけしかけられる身としては、同級生の言う「美人なクラスメイト」には乳臭ささえ感じていた。
彼女をはっきりと意識し出したのは、高校の敷地内に入り込んだ野良猫が子猫を生んだところからだろうか。
クラスでまとめた先生への提出用のプリントを持ち、俺が学校の二階の廊下を歩いていると、換気するために開放された窓から女子生徒の黄色い声が耳に入って来た。
「可愛い~~!」
何事かと思い、立ち止まって視線を下ろすと、そこには三人の女子生徒と二人の男子生徒がしゃがんで植木の方を覗き込んでいる。
すると、俺の耳にもミィ、ミィ、と小さな鳴き声が続けて入って来た。
少し離れたところで母猫が毛を逆立て一生懸命威嚇していたが、しゃがみ込んだそいつらは気付いているのかいないのか、母猫にはお構いなしで馬鹿な女子生徒達は手を伸ばし、あろうことかその子猫達を抱っこした。
きゃあきゃあ言いながら、その場にいた男子生徒に見せびらかすようにして子猫を見せる。
「ねえ見てみて、凄いちっちゃい!」
「やばい、私にも抱っこさせて~♪」
「なんだお前ら、猫好きなの?」
あーあ、触ってどうすんだよお前ら。
俺が冷めた目で自称猫好き達を眺め、その場を去ろうとするとそこにキララが友人達と通りかかった。
「あ、戸枝さん見てよ、可愛いでしょ、子猫~~!」
可愛い、と言って欲しいのは子猫じゃなくて、子猫を可愛がっている私、なんだろうなと思いながら、俺はキララも子猫を抱っこするのだろうかと別の意味で興味が湧いてもう一度足を止め、二階から成り行きを見守る。
するとキララは、「その子猫……どうしたの?」と手を伸ばさずにその女子生徒に聞いた。
「え?えーと、ここに紛れ込んだ猫が生んだみたいよ?」
女子生徒の返事にキララはきょろきょろと周りを見渡し、少し離れたところでウロウロし、子猫に近付けないで困っている母猫の存在を確認したようだ。
「じゃあ野良猫だよね?……抱っこしたら、母猫が育児放棄するかもしれないから、触らない方がいいと思うんだけど」
「えっ……?」
「抱っこするなら、その子猫を家に迎え入れる覚悟で触らないと……」
「し、知らないよそんなことっ」
「戸枝さん、適当なこと言って困らせないでよ~」
さっきまで可愛い可愛いと子猫を触っていた奴らは、自分の足元へぽいっとその子猫を放るように手放し、「やだー」と言いながら走って逃げて行った。その後を男子生徒も慌てて「おい、お前ら待てよ」と追いかけていく。
残されたキララとその友人達は、「この子猫どうする?」と困惑していた。昼休憩も終わり、そろそろ授業が始まる時間だ。俺もさっさとプリントを提出して教室に戻らなければならなかったが、どうしてか足が進まなかった。
「んー、一先ず用務員さんとかに相談してみるよ!悪いんだけど、先に教室に行って先生に事情だけ話してくれるかなぁ?」
キララは少し悩んで、周りの友達にそう言った。
「わかったー」
「キララ一人じゃ、子猫見張れないよね?……じゃあ、私も残るよ」
「私も」
結局キララと他の二人がその場に残り、残りの何人かは次の授業の教室へと向かって行った。確実に遅刻するとわかっていて子猫を助ける為に動くのだから、子猫に触らなくてもさっきの無責任な女子生徒達より、よっぽど猫好きに見える。
「キララ、用務員さんにはなんて言えば良いの?」
「野良猫を保護したいから、段ボールとか籠とかあったら貸して欲しいって言おうと思ってたの」
「オーケー、それ伝えてくるよ」
「じゃあ、私達はここで子猫見張ってる?」
「うーん、一旦ここから離れて、母猫が子猫をどうするか見ようか。どっちみち、母猫は避妊手術受けてないから一時でも保護して貰わないと……」
「じゃあ、動物愛護団体とかに電話すればいいのかな?」
「えっとね、愛護団体って猫を保護して欲しいって頼めばやってくれる訳じゃなくって……捕獲も世話も譲渡先探しも全部自分でやるつもりなら、喜んで捕獲器を貸してくれたり飼育のアドバイスをしたりはしてくれるんだけど……」
「えー!めっちゃ大変じゃん!!」
「うん……そうなんだよね……」
キララはそんな事情を知っているからこそ、気持ち的にはその子猫に関わりたくなくても、心情的に見放すことが出来ずにいるようだった。
キララが自分の家に連れて行くのかと思えば、「うちはマリ……母親が酷い猫アレルギーだから、家では保護できないんだ」と困っているようだった。一先ず用務員さんに相談してみよう、と話す彼女達の傍から俺は一旦離れ、スマホをポケットから取り出す。チャイムが鳴り、廊下には人気がなくなった。
「……はい、榎本です。良様、如何なされましたか?」
「ちょっと連絡して貰いたい先があるんだけど」
俺は、伝手を使って学校近くの愛護団体やボランティアに連絡を取らせ、俺の小遣いの中からその団体に十分な額の寄付金を出すことを条件に、この野良猫の親子は引き取って貰うことにした。
「……あ!母猫が子猫に近づいて、臭いを嗅いでる……!」
結局その母猫が子猫の育児を放棄しなかったことを、キララが何より喜んでいたことが、印象的だった。


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