フツメンを選んだ筈ですが。

イセヤ レキ

文字の大きさ
32 / 55
第二章 カップル(ABC)編

17

しおりを挟む
その座談会は、十二月の始めに開催された。
「君、君……そこの君。そう、俺に質問してくれたよね?」
「え?」
OB・OG座談会に参加した日、お手洗いから廊下に出たところで私は声を掛けられた。
振り向くと、確かに先程の座談会の質問タイムで一人ずつ指名され、自分の番になった時に質問した先輩がスマホを片手に立っていた。
「ああ、はい」
折角忙しい中私達在校生の為に時間を割いてくれたのだから、もう少し愛想よくした方がいいだろうか、と思ってお礼も伝えておく。
「今日はありがとうございました、凄く参考になりました」
「うん、結構事前の質問項目表とかも準備しなきゃいけなくって、大変だったんだよ。それよりさっきの質問についてなんだけどね、俺もまだよくわからない分野で君の質問にしっかり答えられなかったから、連絡先教えてくれる?」
「……はい?」
「きちんと会社に戻って、先輩に確認してからまた君に伝えるよ。適当なこと言って、勘違いさせたら申し訳ないし」
自分としては、そこまで真剣に知りたかったこと……というより一人一つの質問を必ずしなければならない状況だったから質問を絞り出しただけなので問題はないのだけど、どうやら相手はとても真面目な先輩で、私に真摯に向き合おうとして下さっているらしかった。
「はい、わざわざありがとうございます。えっと……」
私がスマホを取り出すと、そこに「センパイセンパイ、俺も聞きたいことあるんすけどー」とちょっとおちゃらけた感じの男性が私達に声を掛けてきた。
「え?君も?今ここで答えられるなら聞くよ、何?」
「後で彼女に教えるっていうなら、俺もそのグループに入れさせてくださいよ」
「……まぁ、いいけど」
その先輩の機嫌が急に悪くなったような気がして、不安になる。やっぱり、個人的に連絡先を聞いてまで今お勤めの会社のことを聞くなんて、物凄く手間を取らせているのではないだろうか?
「……あの、やっぱり申し訳ないので……」
私が断ろうとすると、「君はいーのいーの」と先輩が笑ってくれたので、ホッとする。
「えー、でもセンパイ、在校生から連絡先聞かれない限りは自分から声を掛けちゃダメってルールじゃないんすか?」
増田さんがそう言うので、私は「そうなんですか?」とOBのセンパイに聞いた。
「そうだよー、ホラ、在校生が行きたい先に就職してるセンパイなんて、二人っきりで会ってセクハラとかしてきても後輩が嫌とか言い辛いじゃない?だから学校が禁止してるんだよねー」
……のだが、増田さんが先に答えてくれた。
「な!せ、セクハラなんてこと俺は……!」
先輩は否定したが、私は増田さんの説明に納得する。成る程。確かにそう言われてみれば、そうかもしれない。先輩に悪気がなくても、先輩がルール違反をしてまで私に声を掛けてきたのは、自分の今までの経験上、有難いというより警戒する案件でしかなくて。
「そうでしたか、教えて下さってありがとうございました、増田さん。ルールがそうなら、やっぱり連絡先の交換は止めておきますね」
「いいえー。センパイ、俺はセンパイに聞きたいことあるんで、連絡先教えてくださーい」
「なんだよお前、人をセクハラする人間扱いしといて失礼なやつだな!……もういい」
「えー、この綺麗な女の子じゃなきゃ、連絡先教えないってことっすかー?」
「うるさいな!もう失礼する!」
結局、私達を置いてその先輩は去って行った。
「増田さん、連絡先教えて貰えませんでしたが……大丈夫ですか?」
もしかしたら、あのOBの勤め先が彼の第一志望の企業だったのかもしれない。私は可哀想になって、増田さんの顔色を窺った。
「あ、いーのいーの。心配してくれたの?優しいねぇ」
増田さんはあっけらかんとしていて、残念そうには見えなかったのでホッとする。
その時、他のOBを掴まえて話し込んでいた良ちゃんが私達の方に来てくれた。
「キララ……と、……増田がどうしてここに?」
「えー?勿論山田サンと同じく就職活動中だからだよ」
二人は知り合いだったようだ。何故か良ちゃんは呆れたように増田さんを見ている。
「今、俺凄くいい仕事したんだから。キララちゃんが変な奴に連絡先聞かれるのを阻止したんだよ!褒めて!」
「名前で呼ぶな」
「え~」
「……キララ、今の本当?」
良ちゃんが私に心配そうに聞いてきた。
「連絡先を聞かれたのは本当だけど、変な奴……というより、私が質問したOBの先輩だよ」
良ちゃんとのデートでも、私達が離れている時に限って赤の他人から連絡先を聞かれることが多く、その度良ちゃんに心配をさせてしまっているのだけど、今回は大学の関係者であって赤の他人という訳ではない。だから大丈夫、と安心させたくて笑って言ったが、良ちゃんも笑顔を浮かべているのにその表情は冷たく感じた。
「本当に大丈夫だって。俺が事前に阻止したからさ」
「ああ、それについては感謝するよ。でも、俺はキララに聞いてるんだけど」
良ちゃんがこんなに人に対して遠慮なく話しているところを見るのは初めてで、私は驚く。何だかとても仲が良さそうなのに、今まで紹介して貰ったことがないので少し凹んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...