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第二章 カップル(ABC)編
17
その座談会は、十二月の始めに開催された。
「君、君……そこの君。そう、俺に質問してくれたよね?」
「え?」
OB・OG座談会に参加した日、お手洗いから廊下に出たところで私は声を掛けられた。
振り向くと、確かに先程の座談会の質問タイムで一人ずつ指名され、自分の番になった時に質問した先輩がスマホを片手に立っていた。
「ああ、はい」
折角忙しい中私達在校生の為に時間を割いてくれたのだから、もう少し愛想よくした方がいいだろうか、と思ってお礼も伝えておく。
「今日はありがとうございました、凄く参考になりました」
「うん、結構事前の質問項目表とかも準備しなきゃいけなくって、大変だったんだよ。それよりさっきの質問についてなんだけどね、俺もまだよくわからない分野で君の質問にしっかり答えられなかったから、連絡先教えてくれる?」
「……はい?」
「きちんと会社に戻って、先輩に確認してからまた君に伝えるよ。適当なこと言って、勘違いさせたら申し訳ないし」
自分としては、そこまで真剣に知りたかったこと……というより一人一つの質問を必ずしなければならない状況だったから質問を絞り出しただけなので問題はないのだけど、どうやら相手はとても真面目な先輩で、私に真摯に向き合おうとして下さっているらしかった。
「はい、わざわざありがとうございます。えっと……」
私がスマホを取り出すと、そこに「センパイセンパイ、俺も聞きたいことあるんすけどー」とちょっとおちゃらけた感じの男性が私達に声を掛けてきた。
「え?君も?今ここで答えられるなら聞くよ、何?」
「後で彼女に教えるっていうなら、俺もそのグループに入れさせてくださいよ」
「……まぁ、いいけど」
その先輩の機嫌が急に悪くなったような気がして、不安になる。やっぱり、個人的に連絡先を聞いてまで今お勤めの会社のことを聞くなんて、物凄く手間を取らせているのではないだろうか?
「……あの、やっぱり申し訳ないので……」
私が断ろうとすると、「君はいーのいーの」と先輩が笑ってくれたので、ホッとする。
「えー、でもセンパイ、在校生から連絡先聞かれない限りは自分から声を掛けちゃダメってルールじゃないんすか?」
増田さんがそう言うので、私は「そうなんですか?」とOBのセンパイに聞いた。
「そうだよー、ホラ、在校生が行きたい先に就職してるセンパイなんて、二人っきりで会ってセクハラとかしてきても後輩が嫌とか言い辛いじゃない?だから学校が禁止してるんだよねー」
……のだが、増田さんが先に答えてくれた。
「な!せ、セクハラなんてこと俺は……!」
先輩は否定したが、私は増田さんの説明に納得する。成る程。確かにそう言われてみれば、そうかもしれない。先輩に悪気がなくても、先輩がルール違反をしてまで私に声を掛けてきたのは、自分の今までの経験上、有難いというより警戒する案件でしかなくて。
「そうでしたか、教えて下さってありがとうございました、増田さん。ルールがそうなら、やっぱり連絡先の交換は止めておきますね」
「いいえー。センパイ、俺はセンパイに聞きたいことあるんで、連絡先教えてくださーい」
「なんだよお前、人をセクハラする人間扱いしといて失礼なやつだな!……もういい」
「えー、この綺麗な女の子じゃなきゃ、連絡先教えないってことっすかー?」
「うるさいな!もう失礼する!」
結局、私達を置いてその先輩は去って行った。
「増田さん、連絡先教えて貰えませんでしたが……大丈夫ですか?」
もしかしたら、あのOBの勤め先が彼の第一志望の企業だったのかもしれない。私は可哀想になって、増田さんの顔色を窺った。
「あ、いーのいーの。心配してくれたの?優しいねぇ」
増田さんはあっけらかんとしていて、残念そうには見えなかったのでホッとする。
その時、他のOBを掴まえて話し込んでいた良ちゃんが私達の方に来てくれた。
「キララ……と、……増田がどうしてここに?」
「えー?勿論山田サンと同じく就職活動中だからだよ」
二人は知り合いだったようだ。何故か良ちゃんは呆れたように増田さんを見ている。
「今、俺凄くいい仕事したんだから。キララちゃんが変な奴に連絡先聞かれるのを阻止したんだよ!褒めて!」
「名前で呼ぶな」
「え~」
「……キララ、今の本当?」
良ちゃんが私に心配そうに聞いてきた。
「連絡先を聞かれたのは本当だけど、変な奴……というより、私が質問したOBの先輩だよ」
良ちゃんとのデートでも、私達が離れている時に限って赤の他人から連絡先を聞かれることが多く、その度良ちゃんに心配をさせてしまっているのだけど、今回は大学の関係者であって赤の他人という訳ではない。だから大丈夫、と安心させたくて笑って言ったが、良ちゃんも笑顔を浮かべているのにその表情は冷たく感じた。
「本当に大丈夫だって。俺が事前に阻止したからさ」
「ああ、それについては感謝するよ。でも、俺はキララに聞いてるんだけど」
良ちゃんがこんなに人に対して遠慮なく話しているところを見るのは初めてで、私は驚く。何だかとても仲が良さそうなのに、今まで紹介して貰ったことがないので少し凹んだ。
「君、君……そこの君。そう、俺に質問してくれたよね?」
「え?」
OB・OG座談会に参加した日、お手洗いから廊下に出たところで私は声を掛けられた。
振り向くと、確かに先程の座談会の質問タイムで一人ずつ指名され、自分の番になった時に質問した先輩がスマホを片手に立っていた。
「ああ、はい」
折角忙しい中私達在校生の為に時間を割いてくれたのだから、もう少し愛想よくした方がいいだろうか、と思ってお礼も伝えておく。
「今日はありがとうございました、凄く参考になりました」
「うん、結構事前の質問項目表とかも準備しなきゃいけなくって、大変だったんだよ。それよりさっきの質問についてなんだけどね、俺もまだよくわからない分野で君の質問にしっかり答えられなかったから、連絡先教えてくれる?」
「……はい?」
「きちんと会社に戻って、先輩に確認してからまた君に伝えるよ。適当なこと言って、勘違いさせたら申し訳ないし」
自分としては、そこまで真剣に知りたかったこと……というより一人一つの質問を必ずしなければならない状況だったから質問を絞り出しただけなので問題はないのだけど、どうやら相手はとても真面目な先輩で、私に真摯に向き合おうとして下さっているらしかった。
「はい、わざわざありがとうございます。えっと……」
私がスマホを取り出すと、そこに「センパイセンパイ、俺も聞きたいことあるんすけどー」とちょっとおちゃらけた感じの男性が私達に声を掛けてきた。
「え?君も?今ここで答えられるなら聞くよ、何?」
「後で彼女に教えるっていうなら、俺もそのグループに入れさせてくださいよ」
「……まぁ、いいけど」
その先輩の機嫌が急に悪くなったような気がして、不安になる。やっぱり、個人的に連絡先を聞いてまで今お勤めの会社のことを聞くなんて、物凄く手間を取らせているのではないだろうか?
「……あの、やっぱり申し訳ないので……」
私が断ろうとすると、「君はいーのいーの」と先輩が笑ってくれたので、ホッとする。
「えー、でもセンパイ、在校生から連絡先聞かれない限りは自分から声を掛けちゃダメってルールじゃないんすか?」
増田さんがそう言うので、私は「そうなんですか?」とOBのセンパイに聞いた。
「そうだよー、ホラ、在校生が行きたい先に就職してるセンパイなんて、二人っきりで会ってセクハラとかしてきても後輩が嫌とか言い辛いじゃない?だから学校が禁止してるんだよねー」
……のだが、増田さんが先に答えてくれた。
「な!せ、セクハラなんてこと俺は……!」
先輩は否定したが、私は増田さんの説明に納得する。成る程。確かにそう言われてみれば、そうかもしれない。先輩に悪気がなくても、先輩がルール違反をしてまで私に声を掛けてきたのは、自分の今までの経験上、有難いというより警戒する案件でしかなくて。
「そうでしたか、教えて下さってありがとうございました、増田さん。ルールがそうなら、やっぱり連絡先の交換は止めておきますね」
「いいえー。センパイ、俺はセンパイに聞きたいことあるんで、連絡先教えてくださーい」
「なんだよお前、人をセクハラする人間扱いしといて失礼なやつだな!……もういい」
「えー、この綺麗な女の子じゃなきゃ、連絡先教えないってことっすかー?」
「うるさいな!もう失礼する!」
結局、私達を置いてその先輩は去って行った。
「増田さん、連絡先教えて貰えませんでしたが……大丈夫ですか?」
もしかしたら、あのOBの勤め先が彼の第一志望の企業だったのかもしれない。私は可哀想になって、増田さんの顔色を窺った。
「あ、いーのいーの。心配してくれたの?優しいねぇ」
増田さんはあっけらかんとしていて、残念そうには見えなかったのでホッとする。
その時、他のOBを掴まえて話し込んでいた良ちゃんが私達の方に来てくれた。
「キララ……と、……増田がどうしてここに?」
「えー?勿論山田サンと同じく就職活動中だからだよ」
二人は知り合いだったようだ。何故か良ちゃんは呆れたように増田さんを見ている。
「今、俺凄くいい仕事したんだから。キララちゃんが変な奴に連絡先聞かれるのを阻止したんだよ!褒めて!」
「名前で呼ぶな」
「え~」
「……キララ、今の本当?」
良ちゃんが私に心配そうに聞いてきた。
「連絡先を聞かれたのは本当だけど、変な奴……というより、私が質問したOBの先輩だよ」
良ちゃんとのデートでも、私達が離れている時に限って赤の他人から連絡先を聞かれることが多く、その度良ちゃんに心配をさせてしまっているのだけど、今回は大学の関係者であって赤の他人という訳ではない。だから大丈夫、と安心させたくて笑って言ったが、良ちゃんも笑顔を浮かべているのにその表情は冷たく感じた。
「本当に大丈夫だって。俺が事前に阻止したからさ」
「ああ、それについては感謝するよ。でも、俺はキララに聞いてるんだけど」
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