陰キャデビューの南出先輩

イセヤ レキ

文字の大きさ
1 / 11

1

しおりを挟む
「お久しぶりです、南出先輩」
「え?」

 俺は、目の前の陽キャ寄りのキラキライケメンに微笑まれて、首を傾げた。
 誰だ?
 こんな知り合い、いたか?


 しかし、南出翼みなみでつばさ……それが俺の名前であることは確かだ。
 そして、この苗字はそこまで一般的ではない。


 今は全ての関係を絶った大学時代の友人を思い浮かべるが、やはり思い当たる人物はいなかった。

 大学時代の友人は確かに陽キャだらけだったが、バカ騒ぎが大好きなチャラいやつらばかりだ。

 こんなにいかにも仕事できます、女に困っていません、頭も良いですって雰囲気からはかけ離れている。


 次に地元の高校時代の友人を思い浮かべようとした俺の思考を遮るように、キラキライケメンは早くも答えを教えてくれた。

「忘れてしまいましたか?僕です、如月知久きさらぎともひさです」
「如月……」

 俺の頭に、大学時代の映画サークルで一緒だったひとりの後輩がポンと思い浮かんだ。
 因みに待ち合わせ相手でもある。

「え?マジで?本当に、如月……?」

 俺はつい、目を見開いてまじまじと目の前の人物を見上げる。


 真っ黒だった髪は綺麗な茶色に染められ、当時はなんのスタイリング剤も使っていなかったであろうその髪は、ところどころ嫌味なく跳ねていた。

「はい、恐らくその如月です」

 瞳を隠していた長い前髪はさっぱりと切られ、当時は見えなかった切れ長の瞳と目元の黒子が露になっている。

 綺麗な鼻筋に整った顔立ちをしていそうだとは思っていたが、まさかこんなに化けるとは思わなかった。


「随分とまあ……変わったな」

呆けながらも辛うじてそう言えば、如月は薄い唇を軽く持ち上げてくすくすと笑う。

その笑い方には見覚えがあり、本当に本人なのだと理解した。

切れ長の目が細められて、男相手に少しドキリとする。

そうか、この笑い方をしていた時にはこんな表情をしていたのかと、如月の素顔を初めて知った。


「ははは、南出先輩の好みから離れましたか?」

好みってなんだ?と思いながらも、俺は首を横に振る。


「いや、すげーカッコよくなったよ」
「そう言っていただけるなら、イメチェンして良かったです。しかし、南出先輩も……随分と、変わりましたね」
「ああ、俺もイメチェンしたんだ」

如月に突っ込まれて、俺はニヤリと笑った。


社会人二年目、一年目で真っ黒に染めた髪は、とうに地毛のままだ。

コンタクトをやめて真面目そうな黒縁の眼鏡をかけ、毎日無難なスーツを着て満員電車に揺られている。

煙草も酒もやめて、夜遊びもせずに真っ直ぐに帰宅。

どこかに寄りたくなってもバーには行かず、少しお高い個人の喫茶店で一杯のコーヒーを楽しむ程度だ。


「遠目では本当にわかりませんでしたよ」
「そうだろ」


如月に言われて、ホッとした。

わかるような変化だったら、逆に困る。
縁を切りたいやつらがいるからな。


そう。

俺は如月とは逆に、社会人になって、陰キャデビューを果たしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

いくら気に入っているとしても、人はモノに恋心を抱かない

もにゃじろう
BL
一度オナホ認定されてしまった俺が、恋人に昇進できる可能性はあるか、その答えはノーだ。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

処理中です...